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鶴の恩返し  作者: 雪桃
春から梅雨
14/62

13

新キャラ登場

 それから数日後。新学期が始まり、玄関口ではクラス替えの貼り紙のために人だかりができていた。


「おはよう美智」

「おはよう! 今年も同じクラスだよ。よろしく遥」


 遥が来る頃には人が多くて中々見づらかったが、先に着いていた美智が下駄箱まで案内してくれた。少し面倒だがこちらの方が効率(こうりつ)がいい。


「あんまり変わらないね」

「二年と三年は志望校別だからね。八割方一緒だよ」


 教室も席も位置が変わっただけ。担任も持ち上がり。周りを見ても一言は話したことのある顔見知りばかり。ただ一つ。


「古谷君って誰だろう」

「転校生らしいよ」

「この年に?」


 遥の学年は三クラス総勢百二十人いる。もちろん全員の顔と名前をはっきり覚えているわけではないが、空いている隣の席は首を傾げながら覗き込む。


(受験の年なのに珍しいな)


 そこから配布物が多かったり作業したり始業式大掃除と大忙しで、結局まともなホームルームができるようになったのは正午近くになってからだった。


「大半はわかっているだろうが転校生が来た。残り一年、高三は何かと忙しくなるがまあ仲良くしてくれ」


 担任が促して転校生を連れてくる。入ってきた人物を見て全員愕然(がくぜん)とした。

 不良だった。大事なことだからもう一度言う。不良だった。

 遥の通う高校は東大生や偏差値の高い学生を多く輩出してきたエリート校である。言い方を換えればガリ勉で真面目な人がほとんどだ。

 その中で金に染めた髪を()かしもせず、伸びたままにし、制服も着崩れている。目つきは悪く、眉根は寄っていて視線だけで身を竦ませる程の目力がある。


「あー。古谷、自己紹介」

「……古谷(ふるや)雅人(まさと)。よろしく」


 面倒くさそうに名前だけ告げると古谷は黙ってしまった。


「あ、えっと……古谷の席はそこな。空いてるとこ」


 担任が指す先に無言で向かう。その際遥と目が合ったが挨拶もせずにそのまま席に着く。

 少々気まずい雰囲気になりながらも担任がこれからの授業や提出物を伝え、その日はお開きになった。


「新学期早々嫌な日だったー」


 帰りの電車は()(かく)的空いていた。遥はため息を吐いて愚痴(ぐち)(こぼ)す美智に苦笑する。


「あんな不良がいたら集中できないよ」

「まあまあ。何もしなければいい話じゃない」

「うー。気をつけてね遥。隣なんて何されるかわかんないんだから」


(何かって……美智ってば大袈裟なんだから)


 美智に別れを告げて家路を行く。玄関扉を開けリビングに入ると相変わらず円と颯馬は早く家に帰ってきていた。だが遥はある違和感に気づく。


「あれ、羽南さんは?」

「しゅーかつしにいった」

「大学のレポートもあるんだって」


 一度家に帰って昼食の準備をしてからまた面接へと向かっていったらしい。弁護士は難易度が高いから大変そうだ。かくいう遥もまた(せっ)()詰まっているが。


「羽南さん帰るの何時くらいだって?」

「五時には帰るって言ってたよ」

「そう」


 遥は一度部屋に戻って部屋着に着替える。昼食を終えた二人の食器を片づけてから冷蔵庫を(のぞ)く。スマホもついでに開きながら。


「……これならできるかな」




 結局予定を大幅に過ぎ、羽南の帰りは七時近くになってしまった。遥達には遅くなるから出前を取ってくれと言ってあるから無事だが当の本人は満身(まんしん)(そう)()だ。


(この先やっていけるか自信ない。なんでお姉ちゃんはあんなへらっと……違うあれは人外だ)


 軽く羽奏を(けな)しながらも家に着く。すると中からいい匂いが。


(ん?)


 薄暗い廊下を通り抜け、リビングに続く扉を開ける。


「はなさんだ!」

「おかえり!」


 駆け寄ってきた円と颯馬の頭を撫でながら周りを見渡す。


「何食べてるのお姉ちゃん」


 羽南に背を向けてテーブルに着いている羽奏が顔を少しだけ向ける。箸で掴んでいるものは少し黒く、焦げている──揚げ物?


「ごめんなさい羽南さん。食材をダメにしてしまって」


 隣にいた遥が本当に申し訳なさそうに何度も頭を下げてくる。よく見たら焦げずにできているものもある。皿の上にあったのは唐揚げだった。


「遥ちゃんが作ったの?」

「はい。生焼けは絶対ダメだと思って火を通し続けたら焦げました。弟達には焦げてないものを極力あげたんですけどもったいなくて」


 羽奏は食えればいいと酒のつまみに食べていたらしい。それこそ虫でも食べるような人だからちょっと黒ずんでいても余裕なのだろう。


「でも何で急に。私出前でいいよって言ったんだけど」


 遥が石のように固まった。その後身を小さくしながら答えた。


「あ、あの、羽南さんお疲れでしょうし。私も学校で疲れた時に家で手料理があると嬉しかったから。結果これですけど」


 偉そうにしておきながら結局失敗している自分を振り返って赤面する。前を見ると羽南が両手で顔を覆っていた。心なしか耳が赤い気がする。


「……うちの妹が可愛すぎる」

「へ?」


 呆然としている遥を力いっぱい抱きしめて頬ずりする。


「天使! 女神! こういう妹が欲しかった! 美少女万歳!」

「え? え?」


 戸惑う遥に羽南が暴走している様子に座っていた颯斗が止めようとしたが。


「ほっとけ。少し経てば収まる」


 羽奏に引き止められた。その通り、羽南の(もだ)えぶりは十分も経たずに終わったが、遥の方は今まで経験したことのない可愛がられぶりに弟に介抱(かいほう)されるはめになった。




 翌朝。


「今日はちゃんと夕飯作るから。ううん、ご()(そう)だから!」

「ごちそう!」


 ちびっ子二人がはしゃいでいる中で羽奏が無の表情を向けていた。


「あの調子じゃすぐ倒れ……いや大丈夫か」

「その確信ってどこから来るんですか」


 昨日散々もみくちゃにされた遥は朝から(しょう)(すい)しきったような疲れ切ったような表情を浮かべている。


「長女があれなら羽南は大丈夫だろう」

「そんな無茶苦茶な……あれ、なんかしっくりくる」


 羽奏に洗脳されかけた颯介。家を出る時間になってもまだ遥は()(こう)していた。

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