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異世界、通訳、女の子。  作者: 薄紅時雨
1章 通訳者
8/17

中級クエストとは

カレアが親に会いに行くため、家が無い俺はこのみの家に泊まることとなった。


「立派な一軒家だな。」

「どうぞ、上がってください。」


このみの家は、大きくて頑丈そうな見た目だった。

元の世界のコンクリート製に近い建物である。


中に入っていくとテーブルと椅子があり、どうやら食事はここでするようだ。

俺は椅子に座り、このみは隣のキッチンへ行った。


「このみの保護者はいないのか?」

「私の保護者達は、勇者になった後ポラリスから引っ越しました。なので、今は一人暮らしです。」


一人暮らしをするには、あまりに大きすぎる建物だ。

大きすぎて、逆に寂しさなどは感じないのだろうか。


「こんな大きな家、一人で全部使いこなせるのか?」

「魔法のトレーニングをする部屋、装備保管庫、書類保管庫・・・ この大きさでも、ちゃんと考えて使わないと足りないくらいです。」


そういうこと全部、このみが一人でやっているんだな。

高校生で転移した俺には、全く想像がつかないものだ。

そういえば、この世界の学校はどんなものなのだろうか?


「このみは、学校には行っていたのか?」

「えーっと・・・ 正直、あまり行っていませんでした。勇者を目指す私には、学校の勉強はあまり意味がありません。それに、友達もあまりいませんでしたし・・・。」


この世界では、敷かれたレールをただ歩けばいいわけではないらしい。

話しているうちにキッチンからいい匂いがしてきたので、このみはキッチンで何かを作っているのだろう。


「ふむふむ。このみはキッチンで何を作ってるんだ?」

「麻婆茄子です。あ、この料理は半蔵さんのお口に合わないかも・・・ どうしましょう・・・。」

「元の世界でも似た料理があった。だから多分大丈夫だ。」


肉の種類は沢山ありそうなものだが、この世界には茄子があるのか?

そもそも、何故このみは麻婆茄子をチョイスしたんだ・・・?


しばらく話しているうちに、料理が完成した。


「えーっと・・・ 麻婆茄子と、白米と、これは・・・ キノコのスープか?」

「はい!その通りです!麻婆茄子は、カレアが大好きなので、半蔵さんにも慣れてほしかったのです。」


なるほどな・・・

料理の匂いは、元の世界と大分似ている。


「いただきます。」


俺がそう言っている間に、このみはもう食べ始めていた。

まず、麻婆茄子を口にしてみる。


茄子は茄子の味ではないのだが・・・ 瓜系に近い植物なのだろう。美味しい。

そして、辛い!

赤唐辛子ではない、ちょっと変わった辛さ・・・!


「ごほっ、ごほっ!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ。ちょっと辛くてむせてしまった。」

「すいません!今度から辛さは抑えます!すいません!」


この世界の人間は、辛いものが大好きなんだろうか?

いや、違うだろう。これは間違いなく・・・


「これは、カレアのための味付けだろ?あいつ、辛い物好きそうだしな。」

「はい。カレアは辛い物が大好きなんです。今回は、割と辛さは抑えたつもりだったんですが・・・。」


悪魔みたいな味覚をしてるんだな、カレアは。


白米は、割りと元の世界のお米に近かった。

スープの方は、飲んでみてもあまりよく分からない。

まあ、美味しかったのだが。


「ごちそうさま。このみ、料理上手だな。いいお嫁さんになれるんじゃないか?」

「え、あ、ありがとうございますっ!一休みしたら、シャワーを浴びて、早めに寝てくださいね。」


俺はソファーの上で一休みした後、シャワーを浴びることにした。

分からないことがあるかもしれないから、このみはシャワールームの外で待機してくれるとのこと。


シャワー室にて。

シャワーが出そうなホースはあるのだが、どうやって水を出すのかさっぱり分からない。


「このみー!水はどうやって出すんだー!?」

「シャワー、オープンって叫んでください!あ、あとー!」


早くシャワーを浴びたい。

夏とはいえ、裸は寒いぞ。


「シャワー、オープン!」

「あ、半蔵さん待ってください!それだと冷たいですよー!」


あああああ!冷たああああああい!


「止まれ、止まれ、水止まれ!」

「シャワー、モードホット!」


このみがそう叫ぶと、お湯が出るようになった。

俺が後ろを振り返ると・・・


「きゃっ、嫌ぁぁぁっ!」


このみの裸を見てしまった。

ムッチリしていて、とてもエロい体つきをしていた気がする。


俺がシャワーを浴び終わった後、このみもシャワーを浴び、そのまま寝室へと向かう。



「このベッドで寝てください。」


俺はベッドに入り、布団を被る。

このみのいい匂いが、布団に染み付いている。

興奮よりは、安心感を感じる匂いだ。


「このみはどこで寝るんだ?」

「となりにベッドがあるので、私はそこで寝ます。」

「ああ、わかった。」

「半蔵さん、おやすみなさい。」

「おやすみ、このみ。」




―――――夜、布団の中にて



うとうとはできるのだが、しっかり寝付けない。

そして、何か温かさを感じる。

夜だというのに・・・


もぞもぞ。


「こ、このみ!?」


「え、えーっと。一人で寝るのが寂しくなってしまいました・・・、」


気付かないうちに、このみは俺と同じベッドで寝ていた。

何が起きているのかは良く分からないが、このみが寂しくなる気持ちはよく分かる。


「一人が寂しく感じるのはな、誰かのぬくもりを覚えたからなんだってさ。」


このみをちょっとからかってみる。

案の定、このみはものすごく照れているように感じる。


「半蔵さんのそばにいると、とても安心します。」

「ああ、それは良かった。」


「あの・・・ 半蔵さんとなら、私、夜の・・・ あの、私は魔王軍じゃないので・・・。」


こういうとき、どうするべきなんだろうか。

素直に行っても問題はないはずなのだが、カレアのことがどうしても気にかかってしまう。


「そんなのいつでもいいだろ。今日は疲れたから寝るぞ。」

「半蔵さん、ひどいです!」


もういいや、このみのことはほっといて寝よう。





―――――俺の寝室にて



ここは・・・ 俺の寝室か。

なんだか、ずいぶんと懐かしく感じてしまう。何故だろう?

寝るにはまだ早いし、小説の続きでも書こう。


「ハンゾウ。」


誰だ・・・?

恐る恐る後ろを振り返ってみる。


黒い影。


「ハンゾウ、アタシネ。」

「お前は・・・」


どこかで聞いたことある声・・・?


「アナタノコト、タベチャイタイ。」

「ちょっと待った!俺は美味しくないぞ!」


こいつは、化け物だ。

黒い化け物・・・。


「オイシイワヨ。アナタノ・・・」

「やめろ!来るな!来るな!」


そのまま俺は押し倒された。


「ホラ、コンナニイッパイ・・・」


「やめなさい!」


ん?




―――――このみの寝室



はっ!



「気持ち悪いですよ!半蔵さん!」


目が覚めたら、俺はこのみに抱き着いていた。

何やってんだ、俺・・・。


「ああ、おはよう、このみ。いつ起きたんだ?」

「今ですよ!何ですか、急に抱き着いてきて!」


このみ、昨日の夜は何だったんだよ!

まあ・・・ 女の子ってそういうところあるし、仕方ないのかもしれない。


「また前の世界の夢を見てたんだ。カレアの声をした、黒い影が俺を押し倒してきて・・・」

「カレアは大丈夫ですよ!心配しすぎですって。」


本当に大丈夫なわけはない。

でも、今はそういうことにしておかなければならないのだろう。

幸せな日々を続けるためには。




―――――防具屋



「5万シオンまでなら、あたしがおごるからね。」

「カレア、本当に助かる。」


今日はこれから、ギルドでクエストを受けに行く。

俺は部屋着のままこの世界に転移して、それから一度も着替えていなかった。

ついに、かっこいい装備を付けることができるのだ。


「性能は、何を重視するべきなんだ?」

「半蔵さんが、何をしたいかによります。潜伏系なら、動きやすい装備がおすすめです。」


なるほど・・・。


忍者の服を探してみたが、ここにはない。

初心者にはセット装備がおすすめらしいので、それを買うことにした。


「魔王体験セット、4万8千シオン・・・ これでもいいか?」


黒と赤を基調にした、魔王を彷彿とさせる服装。

子供たちには大人気の商品らしい。


「闇属性のスキルの能力が上がるみたいですね。『闇の纏い気』と相性がいいんじゃないでしょうか?」

「あたしはこれを買うよ。アークメイジローブ、16万シオン。」

『はぁ・・・。』


俺とこのみが、同時にため息をついた。


最終的に、俺は魔王体験セットを買い、カレアは見習いメイジローブを買った。

カレアの服のコレクションが、また一つ無駄に増えることとなりました。




――――――ポラリス ギルド本部



「随分と文明が進んでいるな・・・」


クエストは、ギルド本部にあるタッチパネルを操作するだけで、受諾することができる。


「半蔵がいた世界には、こういうの無かったの?」

「たくさんあったぞ。この世界では、タッチパネルとかは魔法で動いてるんだよな?」

「その通りです。この世界の神様と、その仲間が管理しています。」


魔法があれば、大変なシステム構築やプログラミングをしなくても、こんなのが簡単に作れてしまうのだろう。

大変なことも多いが、便利な世界だと感じる。


「この、魔王軍との取引の通訳募集、ってのはどう?半蔵にぴったりだと思うよ。」

「魔王軍って、大丈夫なのか・・・?」

「スライムだって毛玉だって、魔王軍の一部です。このクエストも、どうせ魔王軍の下っ端と関わるだけですよ。」


いざとなったら、カレアやこのみが守ってくれるだろう。

とにかく、俺には何かしらのクエストをこなしてお金を得る必要がある。

いつまでも、カレアやこのみにおごってもらうわけにはいかないからな。


「今回の報酬は、中級クエストなだけあって、15万シオンだ。三人で分けるから、一人5万でいいな?」

「通訳は半蔵の仕事なんだし、半蔵が15万全部貰っていいんじゃない?」

「そうですよ!私たちは、あくまで付き添いです。」


多分、俺がお金を持ちたいってことは、二人もよく分かっているのだろう。

お言葉に甘えて、15万の報酬は俺が全部貰うことに決めた。




――――――マイラス シェイドの武器取引屋



マイラスは、この世界で最も荒れている街と言われている。

道はゴミだらけ、路地裏に行けば子供がたくさん住んでいる。

そして、ここはそんなマイラスの武器取引屋だ。


店長と思わしき人物は、茶色いフードを被っていて顔がよく見えない。

背はかなり低いが、見た目だけでは男女の区別が全くつかない。


「シェイドの武器取引屋へようこそ。君が通訳担当のハンゾウくんだね?」


中性的な声と話し方。多分、女性だろう。

この人は間違いない。

ものすごく強くて、ものすごく怖い奴だ。


「魔王軍の方は、5分ほど遅刻する予定です。その辺の椅子に座って待っていてください。」


カレアとこのみも同伴しているが、二人も相当ビビっている様子だ。

約束していた魔王軍の方と思わしき人物が到着すると、店長のシェイドさんは店の奥から戻ってきた。


「どうも、遅れてすまなかった。魔王軍のアンデッド系モンスターの一人だ。名前は秘密。」


来るや否や、早速魔王軍語で話してくる。


「遅れてすまなかった、と言っています。彼は魔王軍のアンデッド系モンスター。名前は秘密だそうです。」


俺がポラリス語で通訳する。

通訳って、こんな感じでいいのだろうか?

経験が無いので、さっぱり分からない。


「これが約束の品、デュランダルです。マスターチケットとの取引で間違いないですね?」


アンデッドのモンスターさんには、ポラリス語は通じていないらしい。

なので俺が、魔王軍語に通訳する。


「こちらが、約束していた品のデュランダルだそうです。マスターチケットとの取引でよろしいでしょうか?」


「半蔵、ごめん。外の様子を見てくる。」

「私はここに残ります。」


いきなりどうしたのだろうか。

なんだか、とても悪い予感がする。

でも、これは所詮中級クエスト。

カレアは、街で起こった喧嘩でも見に行ったのだろう。


「ああ。これがマスターチケットだ。これで取引成立だな。これでやっと、完全無敵の剣デュランダルが手に入るぜ。」




ガシャン!


交渉が成立した途端に、店の扉が閉まった。


「悪いが、デュランダルは渡さん。野郎ども、こいつらを抹殺しろ!」



はぁぁぁぁああ!?

こんなの、勇者がやるようなクエストじゃないか。


カレアは今頃、外の敵と戦っているのだろう。

ここは、俺とこのみでなんとかしなければいけない。



「ふざけるな!デュランダルは俺の物だ!スティル、デュランダル!」


アンデッドがそう叫ぶと、彼は店長からデュランダルを奪った。

魔王軍にも、スキルの代わりになるような何かがあるのだろう。


「デュランダルを奪ったところで無駄ですよ。あなたには使いこなせない。」


「半蔵さん!アンデッドからデュランダルを渡してもらってください!」

「分かった!」


「アンデッドさん、俺たちなら勝てます!そのデュランダルを俺に渡してくれれば、勝算はあります!」

「そこの可愛い女の子の目を見れば分かるよ。ほら、デュランダルだ。こいつらをぶっ潰してくれ!」


デュランダルは重たくて、俺が戦闘に使えるものではない。

一体、何をするつもりなのだろうか・・・?


「もう終わりだ!アンデッドも冒険者も!ドラゴニックスピア!」

「インフィニティブレット、モードショット!」

「ライトニングブラスト!」


「アイスウォール、アドベント(発錆)ラスティング(付与)!半蔵さん、デュランダルを氷に!」

「分かった!デュランダル!全て消し飛ばしてしまえ!」



岩を両断しても折れることのない、最強の耐久力を持つ剣、デュランダル。

交渉にきたアンデッドがこう言っていた。「完全無敵の剣」と。

このみとカレアは、当然その事を知っていたのだろう。

もし、デュランダルが「完全無敵の剣」だとして、それが錆びることになったらどうなるだろう。

当然、デュランダルはそれを拒むはずだ。


そして、その拒絶はエネルギーになり、触れたら錆びる氷の壁にめり込んでいくデュランダルは、膨大はエネルギーを放出することとなる。



爆音が鳴り響くと同時に、爆風によって全員が吹き飛ばされる。

爆音の中、かすかに聞こえた。

カレアの、「オーラバスター、モードリリース」。



「痛ってぇ・・・ えっと、状況は・・・」


カレアの剣技によって武器取引屋の扉は壊されており、俺はこのみによって外に運ばれていたようだ。

店は全焼、デュランダルとマスターチケットのみが綺麗に残っていた。


「ごめん、あいつら逃がしちゃったよ。」


店の人は全員逃亡したらしく、残ったのはただの焼け焦げた臭いだけだった。

アンデッドのモンスターも、知らないうちに逃亡している。


クエストを報告した後、「デュランダル」は危険物としてギルド本部が厳重に保管することになった。

そして、報酬なのだが・・・。



「マスターチケット!2枚目貰っちゃったよ!やったー!」

「それは半蔵さんのですよ。」

「俺は15万シオンで十分だ。マスターチケットは、カレアが大事に使ってくれ。」


通訳は完全に俺の活躍だったが、戦闘に関しては、カレアが一番活躍した。

カレアが、外で待ち構えていた暗殺者を全員倒してくれたおかげで、俺たちは全員生き残ることができたのだ。


俺の初めてのクエストは、無事成功に終わった。



どう考えても、「中級クエスト」ではなかったのだが。

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