俺がギルマスだ
シャキーン!ジュバッ!
俺たちは今、水晶の光が綺麗な洞窟の中を歩いている。
どうやら、これがワイキンがいるドラキュリアに行くための近道らしい。
そこそこ強力なモンスターが出てくるのだが、カレアはそれらを一瞬で倒してしまう。
「カレア、随分と攻撃が強いな。防御面は大丈夫なのか?」
「剣士は防御スキルを取る余裕なんてないよ。いざとなったら逃げればいいんだし。」
確かに、今回の戦いは防御より素早さが大事である。
カレアの職業名は何だっけ。そうだ、アークメイジだ。
「カレア、魔法は覚えなくていいのか?」
「レベル500になった頃には、立派なアークメイジになってるはずだよ。」
「剣士が魔法スキルを取っても意味ないでしょ。いい加減諦めなさい。」
カレアは諦めが悪い性格らしい。
それにしても、随分とアークメイジに一途なんだな。
誰かに憧れていたりするんだろうか。
「カレアは相当アークメイジが好きなんだな。誰かに憧れてるのか?」
「お母さんがアークメイジだからね。お父さんはフェンサーなんだけど。」
「半蔵さん、カレアの両親は勇者なんですよ。」
母に憧れて、かぁ・・・。
親が勇者だったら、そりゃ憧れるよなぁ・・・。
「勇者って、だれでもなれるものなのか?」
「そんな訳ないじゃん。小さい頃からちゃんと人生の計画を立てて、苦労を重ねてやっと勇者になれるんだよ。」
「レベル500自体はそんなに難しいものではありません。でも大事なのはスキルです。強いスキルを習得可能にしたかったら、その分厳しいトレーニングをしなければいけません。」
へぇ・・・。
二人がこんなに頑張っていることを知ると、転移者の俺は何だか申し訳なくなってくる。
いつかは絶対魔王を倒してやる。
そういえば、魔王を倒したら元の世界に戻れたりとか・・・ それはないか。
「まさか勇者の家系だなんてな。二人はどこで知り合ったんだ?」
「あたしがまだ4歳の頃かな?このみが毛玉を追い回してるところに、あたしが魔法を撃ちこんだの。」
「カレアが勝手に狩りの邪魔をしてきたんです。カレアの魔法は当たらなかったんですけどね。」
「それで大喧嘩して、それから仲良くなって、一緒のギルドに入ったの。マジックナイツ3世!」
4歳って幼児・・・ ではない、元の世界の8歳くらいだろう。それでも十分幼いのだが。
8歳の頃から職業を持ってるって、元の世界では考えられないな・・・。
「ギルドってそんな簡単に作れるものなのか?」
「たった10000シオン払うだけ。林檎500個分の値段。」
この世界の林檎がどんなものなのか知らないが、500個って相当な金額だな。
「子供がよくそんな金持ってたな。」
「あたしは勇者の家系だよ?両親はお金だけ渡して、すぐ狩りに行っちゃうの。」
「カレア、よく寂しいって泣いてたわね。」
今のこのみの発言で空気が変わる。
「このみ!このみはなんでそんなに強いの!?独りぼっちでも泣かないで、いつも一生懸命頑張って!」
独りぼっち・・・?
まさか、このみもワイキンと同じように・・・。
「半蔵さん、私は3歳半に親元を離れました。保護者はいたのですが、実の親ではありません。」
「ここの人間は親から魂を受け継ぐんだよな?それでもそういう親がいるのか?」
「詳しい事は秘密ですが、私は普通の人間ではありません。でも、心は人間です。だから・・・」
このみが泣き出してしまった。
このみにはものすごく深い事情があるのだろう。
それにしても小学2年生の歳から親元を離れるなんて、あまりにも悲しすぎる。
「だから・・・ぐすっ。ギルドマスターは生まれてすぐにイグニスに捨てられてるって聞いて・・・ううっ、彼なら分かってくれるかなって・・・。」
もういい、もういいんだ。
そうか。彼なら、ワイキンなら確かに分かってくれるかもしれなかった。
いや、分からないわけがない。
このみは泣きながらも歩きを止めなかった。
「洞窟はここで終わり。もうすぐドラキュリアに着くよ。どうする?もう少し待つ?」
「ああ、もう少し待とう。このみ、この戦いは俺とカレアがなんとかする。」
俺がそう言うと、このみは泣き止んだ。
「ありがとうございます。今回の件、半蔵さんにはとても感謝しています。」
「ん?俺はあまり活躍してないぞ。」
「いいえ、そうじゃないんです。半蔵さんが、踏み切ってくれたから。戦うって覚悟を決めてくれたから、私たちも戦おうと思えたのです。」
「あたしも、すごく感謝してるんだからね。」
「私は、いままで逃げてばかりでした。でも、今は違います。どんな恐怖にも動じない、心強い半蔵さんがいます。」
「ちょっと無謀なところあるけどね。」
「危なっかしい人ですけど、何もかもちゃんと真っ直ぐ取り組んでくれる。そんな半蔵さんがとても頼りになります。」
俺は元の世界で、無謀なことをして追い詰められた挙句死んでしまった。
でも、時にはその無謀さが大切なのかもしれない。
「行きましょう、カレア、そして半蔵さん!」
―――――作戦開始地点
「このみがミラーリングを使った後、あたしはヘイストってスキルを使うよ。スキルの効果であたしと半蔵は足が速くなるけど、あまり無理はしないで体力を温存すること。でもちゃんとあたしを見失わないでね。」
「ああ、分かった。」
俺は学校で、よく遅刻をしていた。
全力で走って、それでも間に合わなかった。
俺は、走ることには自信があるのだ。
もちろん、体力の温存も。
「このみ、無茶はするなよ。」
「そちらこそ、無茶しないでくださいね。」
右手でおいでおいでの仕草をして、職業証をそのまま右のてのひらに乗せる。
こういうときは、かっこつけて失敗するより安定感だ。
「俺のレベルは今30だ。50まで上がりそうか?」
「問題ありません。マスターが従えているモンスターの話も、私はよく知っています。」
「じゃあ、闇を纏い気を習得するぞ。30ポイントを払う。よし。」
俺は闇の纏い気を習得した。
特に何も演出も無かったが、なんとなく強くなった気がする。
「いま使っちゃだめだよ?」
「ああ、分かってる。習得の方法だけでも知っておこうと思ってな。」
「もしレベル50に到達しなかったら、闇魔法のポイズンを覚えてください。そちらは必要ポイント10です。」
「でも、魔法は詠唱があるんだよな?」
「レベルの問題は大丈夫だと思うけど、魔法は詠唱があるからあんまり使わないほうがいいよ。」
「分かった。このみも覚悟ができてるみたいだし、始めようか。」
俺は、この戦いに・・・ 勝つ!
「職業カードを私に貸してください。」
「ああ、どうぞ。」
手と手が若干触れ合うと、二人の間に緊張が走る。
「ミラーリング、イグニッシュマスター!」
「じゃ、行くよ。ヘイスト!カルミネイティドソード!」
「このみ、俺はこのみを信じてるからな!」
「はい!」
「半蔵、こっち!」
―――――洗脳されたモンスターとの遭遇
「カレア速すぎる。見失うかと思ったぞ。」
「『カルミネイティドソード』を使うと、あたしの足がものすごく速くなるの。今は『ヘイスト』も使ってるから、なおさら。」
回避が得意になるなんて、カレアらしい必殺技だ。
「敵はどこだ?」
「もう気付かれてるよ。あと5秒で来る。」
5、4、3、2、1・・・
「オーラバスター、モードリリース!全員ぶっ倒れろぉ!」
カレアの剣を纏っていた光が解き放たれ、轟音と共に眩しい光が剣の方向を覆う。
一瞬で敵達は焼き焦がされ、残ったのは灰と異臭だけだった。
カレアは銀髪を風になびかせ、優雅な顔で灰を眺めている。
「これがカレアの必殺技か・・・。俺のレベルは・・・ 53だ!」
「よかった。狩猟系の『ポイズンボム』を習得してね。」
職業証を操作して、ポイズンボムを習得する。
「スキルを使うときは、スキル名を叫ぶんだよな?スキル名の後にも何か言ったほうがいいか?」
「今回の半蔵は、スキル名だけ叫べば大丈夫だよ。あたしのオーラバスターだと、例えば・・・」
カレアによると、スキルを使うときにオプションを選べるらしい。
「オーラバスター」は、「カルミネイティドソード」使用中に「オーラバスター、モードリリース」と叫ぶことによって、カルミネイティドソードを解除しながら、オプション無しよりはるかに強力な攻撃を行える。
このみの「ミラーリング」は特殊で、オプション無しでは使うことができない。
「ミラーリング」の場合、オプションの言葉は必要コスト100未満のスキル名を選ぶこととなる。
ちなみに、俺の今のスキルでは「闇の纏い気」だけ、オプションが追加可能だ。
解除したいときに、「闇の纏い気、クローズ」と叫べばいい。
効果付与を解除するには「クローズ」、とりあえずこれだけ分かればいいそうだ。
ちなみに、言語スキルに関しては習得するだけで恒常的に発動するため、特に考えなくてもいいとのこと。
「5分の約束だからね。さっきは急ぎすぎたし、歩いて戻ろう。カルミネイティドソードも解除されてるしね。」
「このみは大丈夫なのか?」
「約束は約束。このみを信じてるんでしょ?」
信じてはいるが、あまり待たせたくはなかった。
でも、時間をきっちり守るあたり、カレアはグループでの戦闘に結構慣れているようだ。
なぜ、ソロギルドなんかに入っていたのだろうか。
「そろそろ着くよ。ヘイスト、クローズ!ヘイスト!」
カレアは、ヘイストを一旦消してから、もう一回かけなおした。
「ヘイストは上書きできないのか?」
「効果付与系は、全部重ね掛けができるの。でも、重ね掛けは本来想定されていないから、重ねると身体にものすごく負担がかかるんだよ。」
なるほど、スキルで身体の限界を突破できるのか。
不死身の人ならいくらでも重ね掛けができるわけだな。
転移の時の「不死身プラン」の使い道がようやく分かった。
このみが使っている「ミラーリング」とか、重ね掛けしたら最強ではないだろうか。
「ワイキンの奴、カンカンに怒ってるだろうから覚悟して。」
どうやら、拠点はこの洞窟の中にあるらしい。
「ぶ、部外者がようやく来たぞ!全員、戦闘準備しろ!」
「ワイキンさん、話だけでも聞いていきませんか?」
ワイキンらしき人は、声はドスが効いてて低かったが、何故か涙声に聞こえた。
俺の予想してた通りに動いてくれているようだ。
このみのおかげで話は聞いてくれるらしいので、うまくワイキンを挑発することにした。
ここは、魔王軍語で話そう。
幸い、ギルドメンバーにあまり戦う気はないらしい。
「初めまして、ハンゾウと申します。職業はシャドウ。このみさんの仲間です。」
ギルドメンバーは全員、ポカーンとしている。
だが、ワイキンだけは違う。
「お前、魔王軍の者か!何のつもりだ!」
イグニス語で返された。ここからはイグニス語で話すことにする。
「このみさんをこのギルドから解放しにきました。」
「ほう・・・。残念だが、このみは俺の物だ。そうだな、見せしめだ。このみ、ちっと体を貸せ。」
堪えろ、堪えろ俺・・・!
でも、あまり余裕はないようだ。ここは急ごう。
「俺とカレアで、介錯の門に挑みたい。いや、挑ませろ!」
ワイキンがこのみの胸を嫌らしく触る。
このみは慣れているようだが、何か特別な理由で嫌がっているようにも見える。
とにかく、これ以上見てられない・・・!
「これはお前らみたいな雑魚相手に使うものじゃねぇんだ!ギルメン共、こいつらを殺しちまえ!」
「俺は昨日の夜!このみとヤった!」
・・・。
当然嘘なのだが、ワイキンはもう怒りを抑えきれていない。
怒りが爆発したワイキンに向けて、このみは不敵な笑みを見せる。
やるじゃねぇか、このみ!
「もう言うことはない。楽には殺さないぞ!介錯の門、オープン!」
楽に殺されたら逆に困る。
ここまでくれば、あとはこのみに任せるだけだ。
「ワイキン!このみに甘えられるのは今だけだぞ!俺たちが門を突破する前に、思う存分オギャっているがいい!」
これからが本当の勝負だ。
逃げ回ることだけに集中しろ、俺!
「半蔵、敵はあたしを狙ってる。もうすぐ来るよ!」
「闇の纏い気!よし、逃げるぞ!」
俺の周りを黒い邪気が包む。
俺自身は、視界を遮られたり不快感を感じたりはしない。
多分カレアも大丈夫だろう。
「おらっ、ポイズンボム!」
「半蔵、間合いをもう少し開けて!」
「奴らは俺を楽には殺さない!この間合いでいける!」
「そうだね!任せたよ、半蔵!」
走れ俺、走れ!
息が切れても走り続けた。
モンスターの動きも大分鈍くなっている。
「半蔵、離れて!」
「分かった!ポイズンボム!」
衰弱しきった黒い怪物達に向けて、カレアは渾身の一撃を放つ。
「マスタースラッシュ、アドベントホーリー!」
カレアがそう叫ぶと、眩しい光を含んだ波動に敵たちは飲み込まれていく。
聖なる光によって浄化された闇系モンスター達は、すべて蒸発して天に還ってしまった。
「半蔵、急ぐよ!」
「はぁ、はぁ、ああ!」
やっと、このみの所へ行ける。
やっと、このみに会える!
洞窟に入ると、聞こえてくるのは嗚咽だった。
このみじゃない。これは間違いなく・・・
「ワイキンさん、もう大丈夫ですよ。辛かったね、よしよし。」
想像以上に母性が強かった。
このみはきっといいお母さんになれるだろう。
「うわあぁぁぁぁん、俺は、もう終わりだぁぁぁ!」
「ワイキンさん、今日は飲みにでも行きましょうよ!」
「そうだそうだ!無能警察なんて追ってこない追ってこない!宴だ宴!」
そろそろ10分だな・・・
このみに副作用が出ないか心配だ。
「えっと、その・・・ 私は・・・ 魔力飲料は飲めませんが、私も行きます!」
流石だ、このみ。
「半蔵、もうこのみのミラーリングは切れてるよ。ちゃんと話せてる?」
「ああ、バッチリだ。ちょっと今後が不安だから、もう少し見させてくれ。」
「このみ、俺と二人きりで飲みにいかねぇか。」
「ちょっと、俺たち置き去りって、それはないだろ!」
「マスター、しっかりしろよ。」
とどめに、取り巻きの女達が、ワイキンに対して冷たい視線を浴びせかける。
「やっぱり皆で行くぞ!このみはもう、ギルドを抜けてくれて構わねぇ。マスタードミネイト、クローズ!」
ワイキンが呆けている。
「あれ?おめぇら俺を殺さねぇのか?」
「なーにバカ言ってんだよ!俺たちは仲間だろ?」
「明日からやり直すんだろ?マスター、しっかりしろよ!」
このみは飲み会にはいかずに、そのままギルドを抜けて帰ってきた。
結局のところ、ワイキンは寂しいだけだったのだ。
寂しいから、仲間が欲しかった。
裏切られたくなかったから、支配した。
ワイキンに魔王軍語が通じたのは、親に会いたかったからだと思っている。
本当の意味で、この問題を解決できたのだ。
「あの、半蔵さん・・・」
「どうした?このみ。」
「あの・・・ ありがとうございました!」
この調子だと、俺はこのみと結婚することになるかもしれない。
いや、その前にカレアが抱えてそうな悩みを解決しなければな。
それに、この世界には他にも沢山の美女がいる。
―――――ポラリス ギルド本部
「マジックナイツ3世は、解散するよ。」
「このみとの思い出のギルドじゃなかったのか?」
「そういう理由でソロギルドやってた訳じゃないよ。それに、あたしが目指してるのは魔法騎士じゃないし。」
「アークメイジね。カレアなら、きっとなれるとおもう。」
どういう理由でソロギルドをしていたのだろうか・・・。
それにしても、このみも成長したな。
「このみ、いつも『やめなさい』ってあたしに言ってたのに、急にどうしたの?」
「だって今日のカレア、とても勇敢だったもの。」
「ああ、ありがとうね。このみもプリーストになれるよ、きっと。」
「うん。」
ギルドマスターは、俺がすることになった。
カレアがそういう風に、しつこく言ってきたから。
きっと、カレアのギルドに関する問題にも、いつか立ち向かう日が来るだろう。
カレアが俺に1万シオンの紙幣を渡してくれたので、俺は2階へ行きギルドを作った。
「ギルド名、『レックレス』。無謀という意味だ。」
「半蔵さんらしい名前ですね。」
「良い名前だね。加入の申請したいから、受付いこうよ。」
カレアが書類を書いている時だった。
「あっ、カレア!今治すね。ライトヒール、アドベントホーリー!」
カレアの右手から腕にかけて、黒くなっていたのだ。
何かに侵食されるかのように。
「ライトヒールって光の治癒だよな?さらに聖属性を付与しても意味あるのか?」
「ライトヒールは軽い治癒って意味です。この症状は聖属性がないと治療できません。」
ああ、ライトヒールのライトって、光じゃなくて軽いなのか。
要は初級治癒スキルな訳だ。
「なおったわよ、カレア。」
「ありがとう、このみ!」
「あの黒いの、何なんだ?俺の邪気を浴びたせいか?」
「多分、ワイキンの邪気だと思う・・・。」
こいつ、嘘をついているな。
絶対、何か複雑な事情がある。
「ごめん、今日は親のところに帰るね。このみをよろしく。」
カレア、本当に大丈夫なんだろうか。
「今日はどこで寝ようか。どこか安全なところ・・・」
「私の家に来ませんか?私の家はポラリスにあります。」
そう言われ、俺はこのみの家に行くことにした。
「カレアのあれ、何なんだ?」
「強くなった証ですよ。」
カレアも、そう。
このみと同じで、普通の人間ではなかったのである。




