クソギルド
このみが所属するギルド、ブラックバットは、いわゆるクソギルドである。
そしてその闇はとても深く、それはこのみの今までの辛い人生に関わってくる、大きな問題なのであった・・・。
―――――俺が職業登録を終えた後の話。
「俺が入るのはやめておいたほうがいい・・・ か。このみのギルドはどれくらいの強さなんだ?」
「ギルドマスターの男は、11歳半にしてレベル500代。他のメンバーはレベル200超えがほとんどで、300超えもいます。」
「11歳半!?そんな子供がギルドマスターやってるのか。俺は17歳なんだが。」
言ってから思い出した。元の世界とは1年の長さが違うのだ。
具体的な年齢を出されると、違和感しかなくて驚いてしまう。
「17歳の割には、ずいぶんと子供っぽい見た目だね。」
「元の世界で17歳ですよね?見た目と言動からして、ここだと8歳くらいだと思います。」
まあ、17歳になったばかりだし、8歳で間違いないだろう。
「じゃあ、8歳ってことで。カレアとこのみは?」
「どっちも8歳。一応、このみのほうが年上だけどね。」
「ほとんど同じ歳ですよ。」
同年代で良かった。
年上と接したことってそんなに無いし。
「それで・・・ マスターがレベル500超えか。レベル500って、どんなスキルを習得してるんだ?」
「レベル500なのに、習得に450ポイントも必要な『介錯の門』を習得しています。」
聞き流していたが、そういえば職業登録担当がこんなことを言っていた。
一度覚えたスキルは忘れることができない、と。
スキルポイントも戻ってこないらしい。
「一度覚えたスキルは忘れることができないんだよな。ギルマスは、強いスキルを使わずに450ポイントも稼いだのか?」
「そういうことです。彼は、スキル以外で戦う事ができる方なので。」
スキル以外で戦う・・・?
この世界はスキルありきじゃなかったのか?
「なあ半蔵、お前も転移者なんだから、異能力の1つや2つは持ってるよね?」
「異能力?例えばどんな・・・」
俺の産まれた世界にはそんなものは無かった。
いや、俺の世界では普通だったことが、こっちでは異能力扱いだったりとか・・・?
「ギルドマスターは、生き物を洗脳する能力を持っています。」
「まさか、詐欺師系のギルドじゃないよな?」
「そういう洗脳ではありません。洗脳は異能力並みの強さです。ちなみに、洗脳できるのは魔王軍の生き物だけです。イダルを洗脳することはできません。」
イダルというのは、この世界にいる「人間にものすごく似た生き物」を表す単語だ。
多分、転移者と区別するためにこの単語があるのだろう。
「なるほど・・・ それで、450ポイントも必要なスキルは何ができるんだ?」
「使用者が今まで殺した生き物を、ゾンビ状態で蘇生させることができます。大量に。」
それは強すぎる。450ポイント必要でも全くおかしくない。
そういえば、最初に会ったあの転移者は魔王軍の手下だった。
そのギルドマスターも、もしかしたら・・・
「半蔵、あいつは多分魔王軍のスパイだよ。」
「魔王軍のことは話さないで!」
このみは、ギルドの事情にあまり深く突っ込んでほしくなかったのだろう。
でも、仲間としてこれは解決しておきたい。
「いや、俺も大体察してた・・・。スパイを取り締まる機関はないのか?」
「スパイではありません。ギルドマスターは、かなり特殊な家系の方でして・・・」
これ以上の話はここではできないと言われ、俺は街に近い洞窟の中まで連れていかれた。
―――――そして、俺は今洞窟の中。
洞窟の中なのに、随分と明るい。
光る毛玉のようなモンスターのおかげだろう。
そしてこのモンスター、相当戦闘が嫌いらしい。
向こうから襲ってこないどころか、こちらから攻撃すると全力で逃げていくのだ。
「なるほど、魔王軍の家系なのか。魔王軍の家系で、人間の見た目をしているのは珍しいのか?」
「魔王軍は、親二人の遺伝子を引き継いで繁殖する特殊な生き物です。ギルドマスターである『ワイキン』の親はアンデッド系モンスターですが、突然変異によってイダルの子供が産まれてしまいました。」
ギルドマスターこと、「ワイキン」はこの世界の人間である「イダル」の遺伝子を持っているが、親は全く違う怪物の遺伝子を持っていた、ということになる。
もしかしたら、彼は里子なのかもしれない。
それ以前に、「遺伝子を引き継いで繁殖する」というのを特殊扱いしていることが気になるのだが。
「俺は親二人の遺伝子を引き継いで産まれてきたんだが、2人は違うのか?」
「私たちイダルは、生命樹から生まれてきます。」
話を聞くと、イダルは「生命樹」の前で二人が愛を誓約することによって、二人の「魂」を引き継いだ子供を作ることができるらしい。
産まなくていい、というのは非常に便利だ。
男女差に関する概念も、ここではだいぶ異なるのだろう。
「生命樹以外では子供は生まれないのか?」
「そういうのは魔王軍がすることだ。夜にするらしいよ。」
「もう、カレアやめなさい!」
まじめな話をしてるんだけどな・・・
このみは、そういう話が苦手なのだろうか。
「イダルにはそういう器官が無いんだな?」
「その『名残り』はあるけどね。それは快楽を得るために使うものなの。」
「もうこういう話は終わり!半蔵さんもやめてください!」
この世界の人間の間では、そういうことは子作りと無関係らしい。
このみがそういうことを恥ずかしがる理由も分かる。
にしても、カレアは平気で話してるな・・・。
多分、このみは何かあったのだろう。
「ギルマスのワイキンみたいな、魔王軍が拾った里子ってのは結構いるのか?」
半蔵は、未だに突然変異の存在を信じずに、ワイキンが里子だと思い込んでいた。
「いませんよ。そもそも、ワイキンは里子ではありません。ワイキンは産まれてすぐに捨てられました。」
ええ・・・?
完全に里子だと思ったのだが、違うのか・・・?
「半蔵、転移者なら知ってるよね?転移者じゃなくて、転生者のこと。ワイキンは特殊な転生者なの。」
そういえば、俺が死んだときの女神が何か言っていた気がする。
転移だけじゃなくて、転生する人もいるとか・・・。
「ワイキンは前世の記憶まで引き継いでいるのか?それは強すぎるだろ・・・。」
「記憶は引き継いでいません。前世の方が、何かの条件を転生後に託したんだと思います。」
たしかに、転生って普通は記憶は引き継がないよな。
異世界転生小説に毒されすぎだ、俺。
「つまり、ワイキンの前世の人は、死後の転生に特殊な産まれ方と洗脳術を託した。そして、前世の記憶が無いワイキンは最悪の被害者だと。」
魔王軍に捨てられたのなら、手下のモンスターを従えているのではなく、本当に洗脳しているのだろう。
そして、洗脳しては倒しを繰り返し、レベル500に到達したのだろう。
「その通りです。しかも魔王の血筋を受け継いでいるらしくて、『介錯の門』を前提スキルなしで習得しています。」
「前提スキルが必要なのか?」
そういえば、スキルの習得方法を全く知らなかった。
早めに聞いておくべきことだろう。
「はい。介錯の門はネクロマンサーを極めた者だけが習得できるスキルです。450ポイントあっても、才能が無ければ習得できません。」
「なるほど・・・ そもそも、スキルってどうやって習得するんだ?」
「職業証から習得することができます。でも、スキルはあくまで自分の持っている能力を底上げするだけのものです。例えば、治療が得意な方は治癒スキルが習得可能欄にあります。」
習得可能欄というものを探すために、俺は職業証を取り出す。
よく触ってみると、スマートフォンみたいな操作方法でスキルの表示をスライドできることが分かった。
なるほど、習得済みスキルの右に習得可能スキルがあるんだな。
習得可能スキルはカテゴリー別に分類されている。
習得可能なカテゴリと、そのカテゴリの中から習得できる数が表示されている。
そういえば、俺の職業は「シャドウ」だった。
とりあえずそれっぽい「潜伏系」スキルを選んでみる。
スマホと同じように、タップすることでスキルを表示させたり閉じたりできる。
やっぱり、皆考え付く先は一緒なんだなぁ・・・
潜伏系、習得可能3個・・・
「ほう、潜伏系か。シャドウだもんね。」
「スキルは人に見られないように操作したほうがいいですよ・・・?」
「いや、別に2人には見られても構わない。」
俺の発言にカレアは驚き、このみは呆れている。
「気配遮断」は必要ポイントが5。
「ブラックアウト」は15。
「闇の纏い気」は30。
「気配遮断って便利そうだな。レベル5になったら取ってみるか。」
「あたしは気配察知を習得してるから、気配遮断してもあたしには見えるね。」
「まずは戦闘系から取ったほうがいいと思いますよ・・・?」
「潜伏系は微妙かもな。」
潜伏系はやめよう。
どうせ強い人は皆、気配察知を持っているんだろう。
「スキルで能力を底上げして、さらに極めればいいんですよ!」
「あたしは気配察知のトレーニングしてるけどね。」
なるほど、大体仕組みは分かった。
スキルはあくまで能力を底上げする便利システムであって、元々の能力をないがしろにするものではない。
言語スキルだって、勉強して努力で手に入れる人もいるのだろう。
しかし、戦闘に関してはスキルに頼らざるを得ない。
「戦闘系スキルは何がオススメだ?」
「カレアはアークメイジを夢見てたの。でも、魔法が苦手で、結局得意な剣術を極めることになったんです。」
「このみはプリーストを夢見ていた。でも、クイックスペリングを習得したせいで、攻撃魔法が得意になってしまった。」
へぇ・・・。
あまり深く考えなくてもやっていけるらしい。
とりあえず、俺は忍者を目指してるんだし、まずは投擲系でも習得しておこう。
皆こんな感じなのだとしたら、450ポイントも必要な「介錯の門」なんて、訳ありの人しか習得できないだろう。
「介錯の門を習得しているのは、この世界でワイキンだけか?」
「いいえ、もう一人います。多分、ワイキンは彼を目指したのでしょう。」
「もう一人のほうは、転移者?転生者?」
「私たちと同じ、イオツです。分類としては転生に入りますが・・・。」
やっぱり天才ってどこの世界にもいるんだなぁ・・・ と思っていたら、現実は汚かった。
「彼の両親は魔王軍の領地で戦う、いわゆる勇者です。当然金持ちなので、親は子供に最強装備を与えました。」
「レベルが低くても強い装備を付けられるのか?」
「当たり前じゃん。無理に高レベルの装備を付けると、悪い奴にはぎとられるけどね。」
ちょっとネトゲの設定に毒されすぎていた。
そりゃあそうだよな。元の世界でも少年兵とかあったし。
はぎとるってのは、最初に遭った魔王軍の手下の人間とかの仕業なのだろう。
「で、強い装備でレベルを上げまくって・・・ っていうか、敵を倒せばレベルが上がる、で合ってるよな?」
「合ってるよ。レベル0から1は、ここにいる毛玉を120匹倒せば上がる。1から2は200匹。」
「私たちも小さい頃狩りましたね、この毛玉。」
こんな逃げ回る毛玉を120匹も倒して、ようやくレベル0から1?
いや、ネトゲと違ってこれは人生の一部だ。
そう考えると、これでもヌルいほうな気がする。
「ワイキンはレベル500超えだよな。そういう奴って、何を狩ればレベルが上がるんだ?」
「500以降は勇者の強さです。多分、魔王軍の領地に行ってドラゴン系のモンスターの討伐ですね。彼は弱いモンスターしか倒していないのですが。」
「ドラゴンだろうと、洗脳すれば余裕なんじゃないのか?」
「いえ、彼は同時に1体しか洗脳できないので、群れを成すドラゴンは倒せないはずです。」
そもそも、洗脳したところで結局は装備頼りなはずだ。
それに、いくら装備が強くても、攻撃スキルが無ければ強いモンスターは倒せないだろう。うーん・・・
「ギルドの仲間に手伝ってもらったんじゃないの?あ、ギルド内は近くにいる人だと獲得経験値共有だからね。」
「共有?2人なら半分ずつってこと?」
「いや、分配はされないよ。10人で10匹倒せば、10人全員に10匹分の経験値が入るの。」
「だからソロギルドやめなさいって言ってるのに・・・」
なるほど、独りぼっちは生きられない世界なんだな。
つまり、カレアは相当な数のモンスターを狩っているということか。
実際の強さはレベル300、いや400相当はあるのかもしれない。
うーん・・・
このみのギルドのメンバーは強くてもせいぜいレベル300程度だし、何か裏がありそうなものだが・・・。
あっ。
「洗脳したモンスターが倒した経験値は、どこに行くんだ?」
「洗脳されたモンスターと洗脳した人が貰えるらしいですよ。洗脳能力は主にそれの活用がメインです。」
同時に1体しか洗脳できないとしても、相当な経験値を稼ぐことができそうだ。
「つまりは。1体のモンスターを洗脳し続け、そいつに延々とモンスターを狩らせる。そして洗脳されたモンスターは経験値を得て成長し、さらに強いモンスターを狩り続ける。」
「そういうことです。」
「すげー!それなら経験値ゲットし放題じゃん!」
カレアは知らなかったようだが、このみは分かっているらしい。
このみは何もかも分かっている。その上で無理だと判断したのだ。
これは地道に解決するしかなさそうだ。
「ギルドって色々な地域から集まって作るんだよな。言語はポラリス語を使うのか?」
「えっと・・・その・・・。」
このみは、急に何かを思い出したように顔を青ざめた。
「その話はだめ!だめだめ!ギルドの話はもう終わり!」
カレアが話を止めようとするが、このみが覚悟を決めた表情をする。
「全ての言語を話せる半蔵さんには、教えます。」
・・・やっぱり何かあるんだな。




