暗闇の女神
真っ暗でよく見えないな・・・
あ、光だ。あっちに行けば何か・・・
「ようこそ、死後の世界へ・・・。」
えーっと・・・
何だっけ、撮影から逃げてる途中に崖から落ちた?
いや違う、もっと恥ずかしい理由で落ちた気が・・・ 思い出したくない。
「私は転落死の女神です。あなたは死んでしまいました。」
これって俺がさんざん嫌ってた異世界転生のアレですかね・・・?
これは・・・ そうだ、病院で昏睡している俺が見ている夢とかなんだ、多分。
異世界転生なんて都合の良い話はない。異世界転生を使って自殺を勧めた俺が言うのもなんだけど。
というか、ここで死んだら野望が台無しだ。
現実で異世界キラーとしてもてはやされ、人気ラノベ作家になるのだ。
大体、こんな暗い場所から転生するはずがないし、女神を名乗っている人も全身真っ黒のホラー映画に出てきそうな奴だ。
もしかして、これは悪夢なんじゃないのか。
手術の痛みのせいだろうか。麻酔してても影響あるって噂を聞いたことがあるし。
「あなたは異世界転移って知っていますか?」
甲高い、いわゆるロリ声でそう聞かれる。そのせいで余計不気味に感じてしまう。
背はかなり小さい。130cmくらいだろうか?
ここは暗いし、この女は服も髪も真っ黒でよく分からない。
とりあえず、異世界に対する率直な思いをぶつけよう。
「はい。異世界に飛んで、チート能力でハーレムを築くんですよね。」
「チート能力なら、転移プランCをおすすめします。」
「Cって何ですか。AからGまであるんですか?」
異世界転生執筆に熱中しすぎたのだろうか・・・。
それにしても、ここは夢のはずなのに、妙に現実感があるな・・・。
「AからDまであります。その前に、異世界転移についての説明からします。」
「ちょっとまった、僕が転移するんですか?」
「はい。すいません、伝えるのが下手で。」
確かにこの人はコミュニケーションが下手だけど、謝られると申し訳なくなる。
ちょっと落ち着こう。
「あなたはこれから異世界に転移してもらいます。転生でもよいのですが、まだ若いので転移させることにしました。」
「なるほど。質問なのですが、なぜ僕が異世界に行く必要があるのですか?」
「生き物はなんだって生まれ変わります。あなたも例外ではありません。」
幼い声と話している内容が全く合っていない。
この状況があまりに奇妙すぎるせいで、これが俺の夢なんじゃないかという考えが再び戻ってくる。
「僕のいた世界は人間だけで70億います。生きている人間がですよ。何億個も異世界が存在するんですか?」
とりあえず、異世界の存在を否定し続ける。
「異世界は無数に存在します。無限大の概念は分かりますか?」
「はい、なんとなく・・・。異世界に行くのは分かりました。で、どうすればいいんですか?」
話が全く進まないのも退屈なので、自分から話を進める。
「無限大」の理解について「なんとなく」と答えたのは、学校で習った数学の無限大の概念が難しかったからである。
「まず、転移プランの説明からします。転移後の世界でも生きられるように、少しだけあなたを強くします。転移プランはAからDまであり・・・」
まずそれを説明されても訳が分からんのだが。
マニュアル覚えたてのバイトみたいだ。
「Aは7種の言語完全理解。Bは100スキルポイント贈呈。Cは不死身。Dは特典なしです。」
「はい質問、スキルポイントって何ですか。スキルを覚えると何ができますか。」
「あなたが転移する異世界では、職業とスキルという概念があります。スキルは、簡単にいえば異能力です。スキルポイントを使って、スキルを習得することができます。」
「100ポイントってどれくらい強いですか?」
「職業レベル1につき1ポイント貰えます。レベル1から100まで上げるのは大体17175時間かかります。」
「大体17175時間って、大体17000時間ってことですよね。」
いきなりキリの悪い数字を出されて、戸惑ってしまう。
「すいません。あなたが転移する先は、一日が25時間です。そして、1年は687日。25に687をかけると17175になります。」
時間の概念からして違う訳だな。
でも1日25時間で一安心。24時間と1時間しか違わない・・・ いや待て。
「なるほど。あの、異世界の1日はこっちの何倍の時間の流れですか?」
異世界の25時間と現実の24時間が同じかもしれない。こいつのことだから。
「日本語という言語に慣れていないので、説明が下手でした。元の世界の1時間と転移後の1時間は同じです。つまり、1日の長さは現実の24時間より転移後のほうが1時間長くなります。睡眠リズムには気を付けてください。」
はあ、複雑だなぁ。
それにしても、言語の問題。
そういえばプランでそんな感じのものがあったような・・・
「転移する先の言語は、現実と違うんですね?」
「はい、魔王軍が使用する言語を含めて7種類あります。」
魔王軍・・・?
覚えることが多すぎる。
異世界行くのって、もっとパパっと終わるものじゃなかったのか・・・?
「魔王軍ってなんですか?」
「魔王が率いる軍隊のことです。」
「魔王ってなんですか?」
「魔王は魔王です。魔王と人間の力のバランスを保つために、あなたを転移させるのです。」
「バランスを保つだけなら、別に魔王を倒す必要はないんですね?」
「はい。魔王軍の動きによっては倒す必要があるかもしれませんが・・・。」
まあ、その辺は勇者とかがなんとかしてくれるだろう。
あくまで俺は均衡を保つための人間だ。
「分かりました。プランの話になりますが、言語を取得できるプランがありましたよね?」
「はい。Aプランが7種の言語、Bが100スキルポイント、Cが不死身、Dは何も無しです。」
「言語を取得できるスキルはありますか?あったとしたら何ポイントかかりますか?」
「あります。完全取得スキルは1言語につきに80ポイントです。」
「共通語はありますか?」
「1種類だけあります。」
共通語を習得して、あと20ポイントの余裕があるわけだな・・・
いや、そもそも会話ができないと習得できるかどうかすら怪しい。
「あの・・・ 次の方の時間が押しているので、質問は次で終わりにします。」
「Cプランの不死身って具体的にどうなりますか?」
「痛みなどの苦痛はありますが、怪我がすぐ治ります。死んでも生き返ります。」
痛みあるのかよ!拷問受けた時点で終わりじゃねぇか!
「質問は終わりですね?どのプランにしますか?」
「Aの7種類の言語でお願いします。」
「分かりました。では転移させます。」
暗闇の中、たくさんの光の粒が俺を包む。
光が周りを映し出し、たくさんの箱や書類が見えるようになる。
この現実感は、夢ではない。
俺はこれから、異世界に行くのだ。
7種類の言語をマスターしている天才として。




