ドラゴンのボス
「おお、刹那じゃないか。いらっしゃい。こんな雨の中、よく来たね。」
ここは、セプテスとキリスの間にある山の頂上。
そこには、風月という名の仙人が住んでいる。
クロウソルジャーのバカラが俺に使ったスキルの真相を探るために、大雨の中わざわざここまでやってきたのだ。
刹那の師匠の風火、その風火の父が風月という仙人である。
高い身体能力を持つ転移者の刹那に、生きる術からスキルの詳しい知識まで教えてくれた刹那の師匠、風火。
真っ白な髭を伸ばした仙人、風月はその風火の父なのだから、知識量は半端ではないはずだ。
「今日は、『ソウルリンク』というスキルの詳細を聞きに来ました。風月さんはご存知ですか?」
「こりゃまた、奇怪なスキルが出てきたのう。悪徳ギルドのマスターが持っているようなスキルじゃぞ?」
「僕もギルドマスターですけどね。悪徳ギルドではありませんよ。クロウソルジャーの一人がそのスキルを使ってきたので、その詳細を聞きたいのです。」
風月さんは予想していた通り、いや、それ以上に様々なスキルについて詳しかった。
どうやら、バカラはソウルリンクを使用する際、インスティルというオプションを付与していたらしい。
強制的に強いイメージを植え付けることで、強化、あるいは妨害をすることが目的らしい。
そして、インスティルというスキルは存在しないこと。
このみやカレアが普段オプションとして使用している、「ホーリー」もスキル単体としては存在しない。
そのような、オプションでのみ使えるもののことを、属性と呼ぶらしい。
インスティルも、属性の一つなのである。
「もしお主が勇者になるのなら、インスティルが解除されてからのほうが安全じゃぞ。」
「解除はどのように行うのですか?」
「インスティルは永久持続のうえ、治癒スキル程度では治すことができない厄介なものなのじゃよ。」
永久持続。当然、重ね掛けも可能なのだろう。
だとしたら、麗しき女勇者ランディが既に深く洗脳されていても、何ら不思議ではない。
「ソウルリンクで植え付けを行われたのなら、仲間とソウルリンクをするのが一番手っ取り早いかのう。」
丁度、俺はカレアにソウルリンクを行う予定だった。
「僕のソウルリンクを、カレアに使う予定だったんですよ。治療はそれで問題ないですか?」
「植え付けの解除は、それで問題ないのじゃが・・・ カレア、お主はドラゴンとサキュバスの魂を持っているじゃろ?」
当然、風月にはそのことは教えていない。
どうやら、仙人には魂のことなど、最初からお見通しのようだ。
「ドラゴンはそんなに影響ないよ。サキュバスのほうの影響が不安なんだよねー。」
「もし僕がサキュバスに影響されたら、男性の夢魔であるインキュバスに近くなって女性を誘惑する。合ってますか?」
もしそんなことがあったら、ギルドメンバーの今後が不安だ。
「サキュバスとインキュバスは、全く別じゃよ。」
「男性を誘惑するか、女性を誘惑するか、ですよね。」
サキュバスなどの夢魔に関する話は、カレアやこのみから沢山教えてもらった。
でも、風月はもっと根源にせまるような情報を持っているのである。
「アニムス、つまり男心を誘惑するか、アニマ、女心を誘惑するかの違いじゃ。」
心理学に関する話で、多少耳にしたことがある単語ではあるが、詳しいことは知らない。
「つまり、相手が女だろうと、サキュバスは男心に対して誘惑することができる、ということですか?」
「その通りじゃ。」
なるほど、それでこのみと刹那も誘惑されていたわけだな。
サキュバスは男性を対象としている、という風にカレアとこのみは言っていたので、それは厳密には違うと言うことになる。
「このみ、お前はカレアに男心をくすぐられてるよな?」
「そんなわけないじゃないですか!何を言ってるんですか!」
「あたしたちはそういうこと、結構気にしてんの。分かってよね半蔵。」
幼馴染だからなのか、女同士だからなのか、それ以外の理由なのかは分からない。
でも、これはからかってはいけないデリケートな問題なのだろう。
優しい女だからといって、いつも調子に乗っていたことを、俺は反省する。
「すまなかった。真面目な話の続きをしたい。」
「自分から振っといてそれ?半蔵、本当に分かってるの?」
「カレア、もういいよ。」
今回こそからかいであったが、いずれは真面目に話さなければいけない問題でもある。
とりあえず、今は情報が欲しい。
「サキュバスの魂と契約する人なんて、滅多にいないからのう・・・ 正常な関係が続いてるだけでもすごいことなのじゃよ。」
フォローしてくれた上に、褒めてくれた。
カレアの怒りは収まったので、再び真面目な話に戻る。
「もし半蔵がカレアに影響されれば、半蔵はサキュバスの特性を持つことになるのじゃ。男心をくすぐる存在にね。」
「幸いにも、現在のギルドメンバーは僕以外全員女性ですね。今のところは問題ないってことでしょうか。」
「半蔵、あたしの性欲に耐えられると思う?」
「話を聞く限り、無理だろうな。ソウルリンクは、専用の場所を用意して行うことを考えてる。」
「植え付けの治療はできますけど、昨日言っていた攻撃方法は無理みたいですね。」
「どうせ慣れが来るだろう。それまで毎晩ソウルリンクを行い、耐える予定だ。」
「あたしは構わないけど、このみはそれでいいの?」
「私にも毎晩してくださいね、ソウルリンク。」
そりゃあ、そうだよな。
このみは一応、俺に精神的に依存していることになっている。
その精神の根源に関わる部分で、毎晩カレアと繋がるのだ。
このみも、当然放ってはおけないだろう。
「ソウルリンクは、相手が目で見えない場所にいても行うことができるのじゃ。五感が完全に遮断された空間から、ソウルリンクを行えるといいのう。」
「僕に任せて。」
結局、これから毎晩、カレアとこのみにソウルリンクを行うことに決めた。
これ以上は特に聞くこともなかったので、止まない雨の中、俺たちはギルドの拠点に戻ることにした。
―――――ギルド「レックレス」の拠点
「はぁーっ!汗が止まんないねぇ!」
「そろそろ限界なんだが。襲ってもいいか?カレア。」
本番の前のトレーニングとして、今晩はカレアと二人でお風呂だ。
体を洗うのは、魔法によって数秒で終わる。
問題は、その後の湯船である。
カレアはものすごい汗をかき、その汗は男心を誘惑して絶対に離さないのだ。
「今なら誰もいないし、あたしは別にいいよ。」
「そうか。じゃあ、失礼するぞ。」
俺の手がカレアの肌に触れた瞬間、俺の体に静電気のようなものが走る。
「いででっ!ああっ、何やってんだ俺!」
「失格だね、半蔵。悪い子なんだから。あたしが慰めてあげる。」
カレアの手が俺の肌に触れた瞬間、カレアの体に静電気のようなものが走る。
「痛ぁっ!ああ、あたし、あたしっ・・・!」
「失格だな、カレア。」
このみにかけられた魔法によって、お互いに手を出すことはできないようになっている。
違反を行おうとしたときに流れる衝撃と痛みで、正気に戻ることができるのだ。
「でも、やっぱり我慢できないよ、あたし。ほら、いいでしょ?」
バチッ、バチバチッ。
俺に抱き着くカレアには、ものすごい電気が流れているはずだ。
「おいおい、離せ!カレア、死ぬぞ!」
カレアは、そのまま気絶してしまった。
湯船からすぐに引っ張り出されたカレアは、このみに手当されて回復した。
―――――儀式の会場
「半蔵、5点。カレア、0点。まだまだ修行が足りないですよ。」
「儀式自体は隔離して行うから、問題ないだろう。」
「貞操は守れても、精神が持たないってことだよ、半蔵。」
「まあ、私は試験官だから関係ないんですけどね。カレア、唇貸して。」
このみの手がカレアの頬に触れた瞬間、このみの体に静電気のようなものが走る。
「このみ、15点。」
「痛ったた・・・ 刹那、何もこんなに強い電気流すことないでしょ!?」
「このみの魔法が緩すぎるだけ。僕は監督だから自由だよ。胸、触らせて。」
刹那の手がカレアの胸に触れた瞬間、刹那の体に静電気のようなものが走る。
「刹那、5点。監督がそんなことしちゃダメじゃないか。」
「ぐっ、僕としたことが・・・!」
「とりあえず、今夜は儀式は無しです。毎日カレアを風呂に入れて、特訓ですからね。」
「こりゃ先が長そうだな・・・。」
昼間は旅に出て、夕方はカレアとお風呂に入る。
俺たちは徐々に耐性が付いていき、やがては儀式を行えるようにもなった。
「半蔵、100点。カレア、100点。そろそろ、儀式に挑んでも問題ないですね。」
「ここまでで50日か。本当に長かったな。」
「これからは儀式に耐えるんだよ、半蔵。」
まだまだ先は長そうだ。
刹那が用意した二つの部屋に、俺とカレアがそれぞれ入る。
五感が全て隔離されたこの部屋で、俺とカレアは魂をリンクさせる。
刹那からの通信で、開始のサインが届く。
俺とカレアは、ついに儀式に挑む。
「ソウルリンク!」
時計の針の音と薄暗い灯りしかないこの部屋に、カレアの姿が映し出される。
「成功したみたいだね、半蔵。」
「ああ。毎日の特訓のおかげか、結構平気なもんだな。」
胸が高鳴るだけで、特に強い違和感はない。
「口ではそう言ってても、実際は結構辛いでしょ?」
「ああ。何なんだろうな、この胸の高鳴りは。」
ものすごくゾクゾクする。何が強い力を感じるが、訓練の時に耐えていた感情とは異なるものだ。
「その胸の高鳴りをちゃんと認識して、それに耐えられるようになったら、訓練終了だよ。」
「認識?どういうことだ?」
目の前に映し出されたカレアは、俺の隙を奪い・・・
「カレア・・・。」
「半蔵、失格だね。」
俺は、失格となった。
「カレアは何も問題ないのにね。半蔵さんはまだまだ訓練が必要ですよ。」
「意味が分からないのだが。どうすれば合格になるんだ?」
何が間違っていたのか、さっぱり分からなかった。
むしろ、俺にキスをしてきたカレアのほうが失格なのではないか、と思ってしまう。
「サキュバスは女性の夢魔で、受動的に誘惑するの。半蔵はそれをしてたから、失格ってわけ。」
「はあ・・・。」
理解できないのか、理解したくないのかすら分からない。
でも、儀式中の俺は何かがおかしいということには、俺も気づいていた。
そして、試験官であるこのみが、何かを待ちわびた表情を浮かべている。
「さあ、次は私の番ですよ。」
「ああ、分かった。」
これは約束なのだ。
カレアだけでなく、このみとも繋がらなければいけない。
そのうち必要無くなることだと思っているが、今はどうしても必要なのだ。
「ソウルリンク!」
時計の針の音と薄暗い灯りしかないこの部屋で、俺はこのみの魂を感じる。
これは・・・ 何だろう。
あきらかに、人間が感じる五感とは異なる。
もっと、何かを超越したような・・・。
もうすぐ、このみとの儀式が終わってしまう。
そう考えると、とても悲しく思えてしまうのだ。
―――――儀式が終わり
「私、とても幸せです・・・!」
このみが、とても満足した顔でそう言ってくる。
「ああ、それは良かった。にしても、このみはすごい魂を持っているんだな。まるで神様みたいだ。」
「神様なんかじゃありませんけどね。ちょっと特殊な家系で生まれたんです。」
詳しいことは探らなかったが、このみの魂はとても心地がいい。
日々の厳しい訓練で疲れた心を、一瞬で癒してくれる。
毎晩の儀式において、このみは天使のような存在なのであった。
それからも儀式を行い続け、俺たちは順調に成長を重ねていくのであった。
―――――バスティア 訓練場
「半蔵の植え付けも無事解除されたことだし、あたしたちもいよいよ勇者の仲間入りだね。」
「ああ。遠距離射撃が無事成功したら、15日後のドラゴンのボス討伐で活躍できるからな。」
ここは、和風な街バスティアにある、和風な訓練場。
バスティアには強い狩人がたくさん住んでおり、戦の練習も盛んなのである。
「あの案山子は雷弱点。耐久力は、僕一人で倒すのに5分かかる程度。」
「5分以内に案山子のコアを破壊すれば、合格になるんだな。じゃあ始めるか!」
「あたしは、もう準備できてる。」
「ソウルリンク!」
カレアの魂が、俺の奥深くに入ってくる。
激しい胸の高鳴り。
でも、その気持ちの整理には、もう完全に慣れていた。
「スロウイング、モードオート、ダブルディファイン、ディレクション、ヴィジブル、コールマクロ、サンダー!」
俺がそう叫ぶと、俺の頭上から1本の剣が飛んで行く。
案山子に剣が突き刺さると、案山子は大きなダメージを受ける。
「スロウイング、ダブルモード、リピート20、オート、ダブルディファイン、ディレクション、ヴィジブル、コールマクロ、サンダー!」
俺がそう叫ぶと、俺の頭上から20本の剣が飛んで行く。
案山子に全ての剣が突き刺さると、案山子のコアは見事に破壊された。
「強いです、半蔵さん、カレア、刹那!これならきっと、大活躍できますよ!」
「ああ。これは大活躍間違いなしだな。」
まず、カレアのマジックバッグに、刹那が作った強力な武器を大量にしまっておく。
俺はその武器を呼び出し、それを発射することによって攻撃を行うことができる。
カレアは魔法と剣技の訓練があるため、このような攻撃を練習している暇はない。
俺はひたすらこの技の訓練をし続け、スキルの命令を叫ばなくても発動できるくらいには成長することができた。
カレアと刹那による情報収集と計算で、出現モンスターの弱点、数の分布まで配慮した武器配分を行っている。
これによって、絶え間なく敵の弱点を突く攻撃を続けることができるようになっているのだ。
当日まで訓練を重ね、やがてボス討伐の日は訪れた。
―――――魔王軍の領域 龍の谷 広間
ボス討伐隊は、全部で274人。
最高指揮官を務めるのは、最王手の勇者ギルドのマスターである、アレキスという名の若い男。
そして、274人の勇者達は21のグループに分けられ、俺たち4人もグループの1つに入った。
「私は、このグループの指揮官のランディだ。よろしく頼む。」
赤い鎧と、大きな盾。結ばれた金色の髪をなびかせる彼女は、一言で表すと「麗しき女勇者」であった。
よりによって、この女が俺たちのグループのマスターなのである。
クロウソルジャーのバカラに洗脳されているであろう、危険人物。
植え付けが解除されていなかったら、今頃俺は発狂していただろう。
「ギルド『レックレス』のマスター、ハンゾウです。4人という少ない人数ながら、推奨レベル900のモンスターを討伐可能なギルドです。よろしくお願いします。」
「4人でその強さなら、相当な戦力になるだろう。私たちのグループは、21個のグループの中で最強なのだ。一番レアなアイテムは、私たちに分配されることになるだろう。」
一番レアなアイテムといえば、もちろんアレだ。
「マスターチケット、ドロップするといいですね。」
「ああ。ドラゴンのボスの心臓にあるコアを破壊すれば、入手することができる。その前に倒すことがないようにな。」
ボスモンスターには、硬い球であるコアが存在する。
心臓のコアを破壊すれば、マスターチケットがドロップする。
尻尾や脚などのコアは、討伐していれば自然と破壊される。
だが、ドラゴンのボスは、心臓が破壊された時点で倒されたこととなり、ドラゴンの肉体は消滅してしまう。
心臓のコアを破壊するためには、ドラゴンが消滅するよりも早く、コアを破壊するだけの火力が必要になるのだ。
俺たちのグループは、とどめの攻撃を担当している。
そして、マスターであるランディは、心臓のコアの破壊役に俺を選んだ。
遠距離からの連続した強力な攻撃ができれば、コアを破壊することができると読んだのだろう。
当然成し遂げるつもりであるが、心配なのはその後だ。
俺たちのグループがマスターチケットを手に入れたとして、それはどうなるのか。
通常なら、売却してその利益をグループ内で分配することになる。
マスターチケットの売却時には、ほぼ毎回、マスターチケットを奪おうとする魔王軍の盗賊集団に襲われるといわれている。
俺たちのグループなら、襲ってきた集団を撃退できるほどの強さはあるのだ。
だが、そこにもしクロウソルジャーのバカラが絡んできた場合、どうなるのか全く予想がつかない。
ランディは洗脳されているはずだ。
俺たちは、チケット売却に関して、バカラが必ず何かしら関わってくると予想している。
「お前ら!倒した後のことは考える必要はない!今何をするべきか!それを考え、行動するだけだ!準備はいいな!作戦通り、討伐開始だ!」
最高指揮官の掛け声と共に、ドラゴンのボスの討伐が始まるのであった。
作者、0点。




