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異世界、通訳、女の子。  作者: 薄紅時雨
2章 勇者デビュー
13/17

効率厨

―――――キリス 山の中


「おいおい、洞窟の前になんか立ってるぞ。何だあいつは。」


レベル上げ場所である亡霊の洞窟の入り口に立っているのは、カラスと人間が融合したような漆黒の男。

彼が放つ闇のオーラのせいで、姿がぼやけてはっきりと見えない。

一つ確実に分かることは、明らかに強そうな刀を1本持っていること。


「あれは魔王軍の闇系モンスターのクロウソルジャー。僕ですら倒せないくらい強い敵。」


刹那が言うには、あれは洞窟の門番をしている闇の守護兵らしい。

刹那ですら、タイマンで倒せない敵。

スキル外の驚異的な身体能力、そして400を超えるレベルと強いスキルを持っていても無理だというのだ。

正面突破は、まず無理と考えていいだろう。


「え?じゃあ洞窟でレベル上げできないの?せっかくここまできたのに!」

「カレア、パーティーでのボス戦の経験はあるか?」

「たくさんあるよ。このみのレベルに追いつくために、いつもパーティーに入れてもらってたから。」


カレアは、サキュバスの特性上、仲間を増やすことは避けなければいけなかった。

だから、一時的な付き合いだけでここまでやってきたのだろう。


「半蔵さん、戦うのはいくらなんでも無茶です!私のレベル上げは他の場所にしましょう。」

「他ってどこだよ。まさか魔王軍の領域じゃないよな?」

「それは・・・。」


このみは、危機に陥ると無理をしがちな性格だ。

依存されている身として、甘やかしてばかりではいられない。


「カレアなら、この場所からあの守護兵まで何秒で着く?」

「2秒くらいかな。」


「このみは?」

「私だと・・・ えっと、5秒はかかると思います。」


「刹那は?」

「0.3秒。」


俺は、奴と3メートル離れて対話するつもりだ。

もし奴が剣を振ったら、俺が切られるまで0.3秒もかからないだろう。

何も考えずに俺が前に出るのは、あまりにも無謀すぎる。


「半蔵さん、何をするんですか・・・?」

「俺が魔王軍の言葉を話して、奴を説得する。このみに聞きたいんだが、刹那は奴の攻撃を避けられると思うか?」


「それは刹那さんの気持ち次第です。刹那さん、避けられますか?」

「避けられる。」


刹那の成長を信じるべきだろう。

俺は、刹那を信じている。


「最後に聞くぞ。刹那、おとりになってくれるか?」


いくらギルドマスターだからといって、この発言はとても失礼だろう。

でも、刹那は論理的な思考をするのだ。

俺の話したことを、そのままの意味で受け止めてくれる。


刹那が考えることは、おとりになるかならないか。

つまり、イエスかノーである。

俺が刹那をどう扱っているか、なんて考えは先行しないはずだ。


「僕がおとりになる。どうすればいい?」

「そこで待機して、奴が攻撃してきたら避けてくれればいい。」


このみが一瞬怒りそうになるが、すぐに冷静を取り戻す。


「半蔵さん・・・。いえ、なんでもありません。刹那さん、今から言うことをよく聞いてください。」

「なに?」


「刹那さんは独りきりではありません。辛い時は、私が話を聞きます。だから安心してください。・・・それだけです。」

「わかった。」


これで全員、準備完了のようだ。

ここからは、俺の強さを発揮する番だ。


「では始めるぞ。闇の纏い気、アドベント闇の纏い気!」


俺の周りを2重の黒い邪気が包む。

同時に、ギルドメンバー全員も黒い邪気に包まれた。


「なにこれ!?半蔵、なにをしたの?」

「闇の纏い気に、闇の纏い気を付与したんだ。闇の纏い気に付与された効果は、ギルドメンバー全員に効果がある。」


「信じられません・・・。闇の纏い気をオプションで付与してしまうなんて・・・!」


俺は、まずクローズの命令で付与効果(アドベント)の闇の纏い気を解除する。

「闇の纏い気、クローズ!」


そして、本来の闇の纏い気の効果だけを、インヴェイルドの命令で解除せずに無効化だけする。

「闇の纏い気、インヴェイルド(無効)!」


本来の闇の纏い気を解除していないので、ギルドメンバーの闇の纏い気だけが残る。


「このみとカレアも解除してくれ。刹那にだけ効果を残したい。」


「よく分からないけど、解除するよ。闇の纏い気、クローズ!」

「すごすぎて言葉を失ってしまいます。闇の纏い気、クローズ!」


これで、闇の纏い気を使っているのは刹那だけになった。

闇属性モンスターは、闇の纏い気を使っている人を優先的に狙う。

つまり、闇の守護兵であるクロウソルジャーは、俺ではなく刹那を狙うようになる。

作戦の通り、刹那がおとりになれるのだ。


「じゃあ、奴と交渉してくる。」

「いってらっしゃい。100万ヘラまでなら払えるからね。」


俺は、闇を纏ったカラス男に近づく。

高鳴る鼓動を抑え、ギルドマスターとしての威厳を保つ。


「はじめまして、半蔵と申します。この洞窟の中で狩りをしたいのですが、どうすれば許可が下りるでしょうか。」


魔王軍の礼儀なんて、どんなものなのか俺は知らない。

知らないなら、最初から要点だけを伝えたほうがいいだろう。


「許可は下りない。俺には、死ぬまでここを守り続けるという使命がある。」


どうやら、話には応じてくれるらしい。

あと必要なのは・・・


「100万ヘラでどうでしょう?」

「駄目だ。俺が賄賂なんかに屈すると思うな。」


100万で済むならそれに越したことは無いのだが、駄目ならしょうがない。


「なら、マスターチケット1枚でどうでしょうか。」

「マスターチケット?そんなものお前が持っているわけないだろう。」


どうやら、マスターチケットなら良いらしい。

さすがの闇の守護兵でも、50億ヘラの価値のマスターチケットの誘惑には勝てないようだ。


「少々お待ちを。今持ってきますので。」


そう言って、俺はカレアの方に向きなおる。


「カレアー!マスターチケット1枚払ってもいいかー?」

「いいよー!今渡すねー!」


カレアはマジックバッグから取り出した金色のカードを、俺に渡す。

正真正銘、本物のマスターチケットである。

俺たちが中級クエストをこなしたときに手に入れたものだ。


「お待たせしました、マスターチケットです。これで狩りをさせていただけますか?」

「まさか本当に持っているとはな。ありがたく頂く。」


俺はマスターチケットを渡したが、守護兵は洞窟の入り口から離れようとしない。


「狩りをさせてもらえますか?」

「やっぱり駄目だ。」


ここまでは予想の範囲内だ。

問題はここからである。

俺がどれだけこの世界の経済を理解しているか。

そして、魔王軍の人間関係をどれだけ理解しているかが問われてくる。


「マスターチケット、いつ売りに行くんですか?」

「売るつもりは無い。」


「なら、誰かにあげるのですか?」

「ああ、そうだ。」


「どんな人にあげるのですか?」

「麗しき女勇者だ。マスターチケット1枚あれば、少なくとも一夜は過ごせるだろう。」


こいつは魔王軍のくせに、人間の女に劣情を抱いているようだ。

だが、そこは突破口ではない。

大事なのは、いかに彼を怒らせずに済ませるかだ。


「その方と結ばれるといいですね。すいません、少しお時間をいただきます。」

「俺はここを離れないぞ。2枚目のマスターチケットでも持ってきてくれるのか?」


俺は、再びカレアの方に向きなおる。


「カレアー!ちょっと来てくれー!」

「なにー?もう何も渡さないよー?」


俺が呼ぶと、カレアはちゃんと来てくれた。

もう物を渡す必要は無くなった。

必要なのは「衝動」だけだ。


「カレア、3秒だけでいいから空を飛んでくれないか?」

「どんな作戦なの?別にいいけど、ちゃんと気持ち抑えてね、半蔵。」


カレアは俺の言う通り、3秒だけ空を飛んでくれた。

カレアは数字に素直なのだ。


でも、それより大事なのはカレアの美しい翅である。

蝙蝠のようなカレアの翅はとてつもない色気を発しており、一種のフェティシズムを感じる。

ああ、もう一度見たい。

一度ではなく、何度でも・・・


「おい、嬢ちゃん。結構良い身体してんな。チケット返すから、今夜どうだ?」


カレアは俺の物だ、と言いかけて俺は正気に戻る。

幸いなことに、カレアに彼の言葉は通じていない。


「麗しき女勇者のことはいいんですか?チケット本当に返しちゃっていいんですか?」

「うるせえな野郎、斬るぞ。」


「斬りたければ斬ってくれてかまいませんよ。」


俺が挑発すると、カラスは羽を広げ、一瞬でその場から消えた。

後ろから聞こえるのは、剣戟と木が倒れる音。

俺はカレアの手を握り、刹那の方へ飛んでくれと頼む。


「そんなことしたら、半蔵の腕がちぎれるよ。向こう行くならあたしに抱き着いて。」

「ああ、分かった。」


俺は言われるがままカレアに正面から抱き着く。

するとカレアは、刹那の方へものすごい速度で飛び跳ねる。


強すぎる風圧によって、魔法剣士の服で固定されたカレアの胸が揺れる。

胸も素晴らしいが、カレアの香りが凄くいい。

このまま天国へ登ってしまいそうな気分だ。


カレアがこのみの方へ飛んだ瞬間、俺は正気に戻る。

どうやら、俺の衝動はそろそろ限界のようだ。


「このチビ!邪気のスキルを解除しやがれ!さもなければ殺すぞ!」

「麗しき女勇者とヤりたくてしょうがないんだろ!さっさと行ってこい雄カラス!」


刹那の回避もそろそろ限界に達している。

でも、おとり作戦はもうすぐ終わるはずだ。


「ああ野郎、その通りだ。俺はもう限界だ。さらば!」


そう言って、守護兵はカラスの翅を広げて消えてしまった。

カレアによって奴の性欲を掻き立て、その後カレアと引き離す。

これで、奴に残るのは行き場のない性欲だけとなる。


「闇の纏い気、クローズ!これでやっと作戦は終わりだ。」


「お疲れ様、半蔵。」

「色々危なっかしかったですけど、成功したので許します。」


これで、やっと亡霊の洞窟に入ることができる。

あとは、早くカレアの侵食と衝動を抑えるだけだ。


「カレアを小部屋で休憩させるよ。急いで。」

「ああ!闇の纏い気、アドベントライト(光付与)!」


刹那が先導して、俺たちは洞窟の中を駆ける。


俺の闇の纏い気のオプション「ライト」が真っ暗な洞窟の中を照らす。

膨大な数のアンデッド系モンスターは、前衛のカレアと刹那がなぎ倒していく。


「この崖の下が狩場!僕が天井に部屋を作る!」


見下ろした感じ、20mはあるだろうか。

下にいるのは、増えすぎて満員電車の中のようになったモンスターの群れ。

ここに来るまでとは明らかに数が桁違いだ。

わずか1分で部屋と戦闘スペースを作り上げた刹那は、皆を大部屋に誘導する。


「本来存在しない地形を作ると、モンスターはそれを破壊しにくる。半蔵、モンスターの退治をお願い。」

「分かった!闇の纏い気、クローズ!闇の纏い気、ダブルアドベント、ホーリー、パラライズ!」


俺の周りを白と黒の邪気が纏う。

天井から吊り下げられた戦闘スペースに俺は飛び降り、敵と間合いを取りながら戦闘を開始する。

俺の邪気にモンスターが触れると、小さなプラズマが弾けて光る。


光のダメージと麻痺によって一旦は地面に落ちるが、魔法系モンスターから受けた回復魔法ですぐに回復してしまう。


「ソードレイン、アドベントアシッド(酸性付与)!」


強い酸が塗られた剣が20本ほど降り注ぐ。

飛んでいるモンスターは落ち、地面に居るモンスター達は大混乱に陥る。

モンスター達が混乱している隙に、俺は作戦を確認する。


「カレア!30分で交代でいいか?」

「ダメ!1時間は必要!」


「分かった!刹那、カレアに魔法の杖を作ってやれ!おもちゃを渡す約束だったからな!」

「あたしが杖使う訳ないでしょー!?」


「お前はアークメイジを目指してるんだろ!魔法の杖でとことん遊びつくせ!」

「そういえばそうだった!刹那の作った魔法の杖、ものすごく楽しそう!」


「ああ!刹那ありがとうな!カレアは1時間遊びつくしてきてくれ!」

「分かった!」


このみ、刹那、カレアは部屋で待機。

俺は、1時間狩り続ける。


「ソードレイン、アドベントアシッド(酸性付与)!流石に慣れてきたぞ。もう叫ぶ必要はなさそうだ。」


ネトゲだと、1時間の狩りなんてあっという間だ。

でも、これは紛れもない現実。


ボタンを押すだけではない。

全身を動かして敵と距離を保ち、精神を集中させてスキルを何度も使わなければいけない。


この世界の勇者というのは、ものすごい奴しかいない。

それを実際の狩りで思い知らされることになった。


「1時間経ったよ!ありがとう、すっきりした!交代するね!」

「ああ、任せた!」


高台からの一方的な攻撃なだけあって、さすがのカレアも余裕そうだ。

今度は、俺が発散する番だ。


「刹那、俺専用の部屋を1つ作ってくれないか。カレアからもらったものを発散したい。」

「分かった。おもちゃはいる?」


「魔法の壺を作ってくれ!そうだな・・・ 5個だ、5個作ってくれ!」

「分かった。」


刹那が作った密室に入った俺は、作ってくれた魔法の壺を眺める。

この部屋は、防音対策がばっちりらしい。大声で歌っても、向こうには聞こえないのだ。

それなのに、酸素は無くならないような設計となっている。

酸素は洞窟の上、つまり山の空気から供給しているらしい。

これをわずか1分で作るのだから、刹那の変化術はとんでもなく凄い能力であることが分かる。


音は遮ることができても、それ以外の異能力は遮ることができない。

この部屋は、おそらくカレアの部屋と近い場所にあるのだろう。


俺の頭の中はカレアのことで埋め尽くされ、俺は半分狂ってしまう。

刹那は、わざとここに作ったのだろうか。

俺に耐性をつけさせる、という意味なのだろうけど、さすがにこれはやばい。


すぐに魔法の壺を5つ全部壊してしまった俺は、通信機で刹那を呼ぶ。


『魔法の壺、あと10個作ってくれ。お願い、早急にだ。』

『30秒で出来るから、こっち来て。』


「ドア、オープン、ターゲットヴィジブル!」


大部屋では、このみと刹那が何かを話していた。

魔法の壺はすでに完成していたので、壺の入った箱を持ち、部屋に戻ろうとする。


「半蔵さん、しっかり休んでくださいね・・・?」

「ああ、カレアは2時間狩ってくれるんだろ?あと1時間半もあるし問題ない。」


それだけ言って、俺は部屋に戻る。

部屋に戻るとすぐに、頭の中がカレアに埋め尽くされてしまう。

でも、制御の仕方も徐々に覚えてきていたようで、先ほどのように狂ったりはしなかった。


2時間の休憩を終えた俺は、カレアと交代する。

2時間の狩りで、カレアはものすごい汗をかいている。

そして、両腕の見える部分は全て侵食されている。


「このみ、あと何レベル?」

「7レベル上がったから、あと1レベルよ!半蔵さんの狩りの途中にヘヴィヒールを覚えられそう!」


「半蔵、あと1レベルだ!任せたよー!」

「任せとけー!」



この日から、俺たちは効率の良いレベル上げを行うようになった。

亡霊の洞窟で3日狩りをし、1日休憩をはさむ。

気が付いたころには、俺たちは魔法軍の領域で狩りをできるくらいに強くなっていた。


もうすぐ、俺たちは勇者になるのだ。

そして、いつかは魔王を倒す。

全ては、ギルドメンバー達の幸せの為に。

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