オプション活用
―――――セプテスの旅館
今日、刹那は俺のギルド「レックレス」に加入した。
明日の作戦会議をした後に、昨日と同じセプテスの旅館で泊まることになった。
「カレアの部屋、俺の部屋、そしてこのみと刹那の二人部屋の3つを借りるぞ。このみ、刹那をよろしくな。」
「はい。任せてください。」
刹那の俺に向ける悔しそうな表情と、このみの不安そうな表情。
そして、カレアのポーカーフェイス。
「それじゃ、今日は解散だ。」
銭湯に入った後、俺は布団に入った。
一人で寝るのは、何日ぶりだろうか・・・。
このみ、うまくやっていけているだろうか。
――――獣の森
ここは、暗い森の中。
木に囲まれた中に円状の草むらがあり、俺と刹那がその中心に立っている。
「来るぞ!」
俺たちに向かって、大量の血飢獣が襲ってくる。
刹那はそれに怯えることなく、スキルで獣たちを一掃する。
「刹那!一匹残ってるぞ!」
「下がって、半蔵。」
「刹那、お前・・・?」
狂暴な獣は、刹那に噛みつこうとする。
やめろ、やめろ・・・!
「刹那、今助け・・・!」
強く噛みつく獣。飛び散る刹那の血。
間に合わなかった。
「こうしないと、生きてる心地がしないから。」
「違う!そんなこと・・・!」
―――――寝室にて
「違う・・・ そんなこと・・・ 二度と起こってはいけない・・・。」
目が覚めたら、朝だった。
窓から陽が射している。
あれが夢で本当に良かった。
刹那のことは、このみがなんとかしてくれているだろう。
旅館の入り口付近に行くと、三人は既にそこにいた。
「おはよう。カレア、このみ、刹那。」
「おはようございます。」
「おはよー。」
「おはよう。」
今日はこれから、山登りをするのである。
絶好のレベル上げスポットである「血飢獣の森」があるここセプテスは、海に面している。
そして、海の反対側には、大きな山があるのだ。
このみのレベル上げのために行く「亡霊の洞窟」は、キリスという地域にある。
そこは、その山を越えた先にあるらしい。
「キリスまでの転送料って、いくらするんだ?」
「800万シオンだよ。さすがにあたしじゃ無理。」
林檎が一個20シオン。
ポラリスからセプテスへの転移が、25万シオン。
800万というのは、ものすごい金額だ。
それもそうだ。
キリスは、エルドラド・イオツの家系が住んでいる街。
安易に立ち入ることのできる場所ではないのだろう。
山を越えるのは危険ではあるが、このギルドなら問題はないだろう。
「半蔵。これ、約束の物。」
「おお、ありがとう。軽くて扱いやすい良い剣だな。」
俺は昨日、剣技「スラッシュ」、氷魔法「アイスレイン」、そして剣技「ソードレイン」を習得した。
レベル上げをする前に剣の扱いに慣れておくため、扱いやすい剣の製作を刹那に頼んでいたのだ。
刹那のスキル「マスターディフォーメイト」は物体を変形させるスキル。
「ディフォーメイト」というスキルの上位版なのだが、刹那自身の能力も相まって、武器の一つくらいは簡単に作ることができる。
刹那が使っていた剣を降らすスキルは、そのスキルで作った剣を、他のスキルで加速させて落下させていたものである。
「それじゃ、出発するか。」
山のふもとには、そこまで強いモンスターはいない。
俺は、鳥や獣のモンスター相手に剣を振るっていた。
「ソードレイン、アドベントアシッド!行くぞ、スラッシュ!」
酸性の液が付着した剣を降らし、剣が当たった敵を弱らせる。
その後、初級剣技でとどめを刺す。
刹那から貰った剣は軽いだけでなく、強かった。
とどめを刺されたモンスターは、消滅して天に還る。
服に着いた返り血が新鮮なうちに倒しきれるので、モンスターの返り血ごと消滅してくれる。
「半蔵、なかなかやるじゃん。」
「お楽しみはこれからだ。 そろそろモンスターが居なくなってきたし、発動する。」
俺がそう言うと、四人の間に期待と緊張が走る。
俺は、昨日考えた長い必殺技を、一字一句間違えずに叫ぶ。
「闇の纏い気、アドベント闇の纏い気、クアドラプルアドベント、ポイズン、パラライズ、アシッド、ホーリー!」
・・・。
何も起こらない。
沈黙を破ったのは、このみの一言だ。
「オプションの理屈は間違えていませんが、難しすぎます。まずは簡単なものから練習したほうがいいです。」
「そうだな・・・。闇の纏い気、ダブルアドベント、パラライズ、ホーリー!」
俺の周りを白と黒の邪気が纏う。
成功したのだ。
「まずは簡単なのからでいいじゃん。半蔵、今のままでも十分立派だよ。」
「そうだよな。まずは努力してトレーニングするところからだったな。」
カレアもこのみも刹那も、最初から強かったわけじゃない。
ものすごい努力を重ねて、今の強さを手に入れたのだ。
努力無しで、人が強くなれることは無い。
俺たちは登山を再開し、まずは山頂を目指した。
長い、長い道のり。
途中に出てくる強いモンスターは、前衛のカレアと刹那が一瞬でやっつけてしまう。
「もうすぐ頂上だよ。半蔵のスキルのおかげで、かなり戦いやすかった。ありがとね。」
「ギルドマスターなのに、些細なことしかできなくてすまない。」
「そういう些細なことの積み重ねが、大事なんですよ。」
このみが言ったのは、フォローではなく事実である。
何事も、些細なことの積み重ねによって大きくなっていくのだ。
俺は少し、初心に帰れた気がする。
「良い眺めだね!こっちがキリスで、あっちがセプテス。あの和風の街は、バスティア。」
この世界の街を、高い所から眺めるのは初めてだ。
俺たちがいた、人工的な建物が多かったセプテス。
上から見ると、建物達の綺麗な色が素敵で、とても人間味を感じる。
そして、これから行くキリス。
白や青、緑などの色の建物が多く、どこか神聖的な雰囲気を感じる。
そしてバスティアという所は、江戸時代の街を見下ろすかのような見た目だった。
「山頂には、仙人が住む家があるんだよ。行ってみない?」
「僕も行きたい。」
カレアの提案に乗り、俺たちはその仙人に会いに行く。
ぽつりと立った木造の家の中に住んでいたのは、白髪と白い髭のお爺さんだった。
「ほう、刹那じゃないか。いらっしゃい。お友達を連れてきたんだね。」
「刹那さんと、知り合いなんですか?」
「刹那は、わしの孫みたいなものじゃ。わしは風月。ここに住んでいる仙人じゃ。」
風月さんは、刹那の保護者だったのだろうか。
たしかにこの人なら、刹那をここまで強く成長させることができそうだ。
「風月さんは、刹那さんの保護者なんですか?」
「いや、わしは刹那のお爺さんじゃよ。刹那の保護者は、わしの娘の風火じゃ。」
風火さん。子供を拾って保護してくれた人。
なんて優しいお姉さんなのだろう。
きっと、素敵な方と結婚しているに違いない。
「師匠の風火は、僕のことを拾って、刹那って名前を付けてくれた。」
「刹那はハンドルネームだろ?元の世界で名前が無かったわけじゃないよな?」
「元の世界では、アイリス・ハンハネイって名前だった。でも、ハンドルネームの付け方が分からなかった。」
ハンハネイ。変わった名前だ。
そりゃあ、転移者なのだから当然だろう。
俺の本名「相内太陽」だって、ここでは相当変わった名前のはずだ。
「師匠の風火さんは、今はどうしてるんだ?」
「ポラリスのギルド本部で働いてる、ティタンと結婚した。風火はそれでポラリスに引っ越した。」
ティタンは、俺が職業登録をする時に担当だった男だ。
あんないい男と結婚できるなんて、風火は幸せだろう。
風火はポラリスに引っ越したが、刹那はポラリスに行かなかった。
多分、セプテスで獣を狩りたかったからだろう。
でも、それももうすぐ終わるはずだ。
「あたしたち、そろそろ行かなきゃ。」
「山のてっぺんは、モンスターの群れがいることが多いのじゃ。気を付けるのじゃぞ。」
「分かりました。風月さん、ありがとうございました。」
「ありがとうございましたー!」
「お爺さん、またね。」
三人が挨拶した後、俺も挨拶をする。
「ありがとうございました。また機会があれば、よろしくお願いします。」
風月は仙人を名乗っているが、接してみると普通のお爺さんだった。
勇者になる道を選ばずに、山の中でひっそりと暮らしたかった、といったところか。
カレアが持ってきたパンを食べ終わった後、下山を開始した。
特にモンスターの気配はない。
少し歩いていると、カレアが何かを察知する。
「来るよ、モンスターの大群。」
「ああ。カレアは前衛、刹那は中衛、俺とこのみは後衛だ。まずは全体強化系スキルを使う!」
「あたしはヘイストしかないよ。」
「僕はマスターヘイストを持ってるから、ヘイストはいらない。」
「くぁーっ!やっぱりアサシンは格が違うね!」
このみはミラーリングを持っているので、俺は職業証をこのみに渡す。
「闇の纏い気、ダブルアドベント、パラライズ、ホーリー!」
「マスターヘイスト!ブラックアウト!」
「ミラーリング、闇の纏い気!半蔵さんのスキル、使わせていただきます。闇の纏い気、アドベントホーリー!」
これから、狂暴なモンスターの群れとの闘いが始まる。
後衛の仕事は、前衛、中衛を支援すること。
俺とこのみは、それに専念するだけだ。
「カルミネイティドソード!行くよ!ソードトルネード!」
カレアが剣技による竜巻で敵の足止めをし、その後竜巻に巻き込まれた敵を追いかけ、追い打ちをかけにいく。
そして、カレアが仕留めきれない敵を、刹那が剣を降らして倒す。
「刹那!一匹残ってるぞ!」
「下がって、半蔵。」
「刹那、やめろ!」
狂暴な獣は、刹那に噛みつこうとする。
「刹那に手を出すんじゃねぇ!スラッシュ!」
咄嗟に飛び出した俺は、二足歩行の獣に剣を振るう。
だがその威力は弱く、すぐに反撃を喰らってしまう。
「半蔵さん!?」
ゴリラのようなモンスターの引っ掻きで、俺は胸のあたりに傷を負ってしまった。
カレアに買ってもらった魔王を模した服が強かったので、死には程遠い傷であるのだが。
でも、こんなに痛い。動けない。
刹那は、こんな痛みをいつも感じて生きてきていたのだ。
ゴリラのモンスターは、刹那の短剣の一撃によってすぐに倒された。
「僕が半蔵を避難させる。背中に掴まって。」
「この戦いが終わったら、刹那に話がある。とりあえず、今はこの状況を何とかしなければ。」
「ここはあたし一人で十分!このみは半蔵の治療をお願い!」
「カレア、無理はしないでね!」
山頂付近へ戻ってきた俺と刹那、そしてこのみ。
早速、このみの治療が始まる。
「この程度の傷なら、私でも治せます!ライトヒール!ライトヒール!ライトヒール!」
このみの治癒魔法のおかげで、俺の傷は治った。
「半蔵。どうしてこんなことしたの?」
「それはこっちのセリフだ。刹那、もう傷を負うのはやめてくれ・・・!」
俺は、刹那を抱きしめる。
優しく、温かく。
このみは複雑な表情をしているが、今は刹那に愛情を注ぐ。
「刹那。お前はもう、一人じゃないんだ・・・!」
「うん。ぐすっ。」
刹那は、涙を流す。
「俺たちがいるんだ。だから、刹那は自分を大事にしてくれ。」
「ううっ・・・ 分かった。」
俺の気持ちを、抱きしめ方だけで一生懸命伝える。
刹那は、それを正直に受け取ってくれた。
そう。こうやって、少しずつ積み重ねていけばいい。
少しずつ、少しずつ。
「全部片付いたよ!半蔵は無事?」
カレアが帰ってきた。
俺が刹那に抱き着いていることに対して、カレアは何も表に出さない。
俺は刹那を離し、立ち上がる。
「こっちは大丈夫だ。カレアは無事みたいだな。よかった。」
怪我は無いし、侵食も起こっていない。
「カレア、すごい汗。ちゃんと拭きなさいよ?」
「拭いても拭いても、きりがないんだっての。」
カレアが汗をかき始めると、俺たちの心に歪みが生じる。
急いで、キリスへ向かわなければ。
――――キリスの旅館
幸い、モンスターの群れには襲われずに着くことができた。
それもそうだ。
このみは俺とドッキングし、ハイジャンプからのグライディングで一気に下山する。
カレアと刹那は、元々足が速い。
下山はすぐだったのだ。
キリスに着いた頃には、空は暗くなる直前になっていた。
俺たちはすぐに旅館へ向かい、今日は早く寝ることに決めた。
「このみと刹那で一部屋。俺とカレアで一部屋だ。」
「半蔵、あたしに襲われないようにね?」
「カレア、大丈夫なの!?」
「俺がなんとかするから、大丈夫だ。」
そう言って、今日は解散。
温泉に入った後に、寝室へ行った。
―――――キリスの旅館 寝室
カレアは今、ものすごい魅力を放っている。
少しでも気を抜くと、俺はカレアに吸い込まれそうになる。
「カレア、侵食は大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ。半蔵はここにいて大丈夫なの?」
「カレアと一緒に寝るんだぞ。この部屋でな。」
「半蔵は、寝込みをあたしに襲われないようにしないとね。あたしは気配察知があるから半蔵に襲われることは無いんだけど。」
「俺も気配察知を習得するぞ。カレアに襲われないようにするためにな。」
俺は、他の男とは違う。学校の友達の野郎共とは、違うのだ。
俺は、大丈夫なのだ。
問題は、カレアが正気を失わないかどうか。
もしそうなった場合は、賭けに出るしかない。
「あたし、そろそろ限界かも・・・。」
「そうか。布団に入って休もう。」
カレアが言っているのは、そういう意味じゃない。
それは分かっているが、カレアの発言からして、これはもう賭けるしかないのだ。
「おやすみ、カレア。」
「おやすみ、半蔵・・・。」
気配察知スキルを習得したおかげで、カレアの行動は大体分かる。
今、カレアが俺の体の上に来ようとしている。
さあ、「発散」の始まりだ。
「半蔵・・・ あたし、もう我慢できない・・・。」
「じゃあ、これで我慢しろ。」
俺は、逆にカレアを押し倒し、強引にキスをする。
強く、激しく。
「んんっ、半蔵。だめ、だったね。」
俺の理性はまだ持つだろう。
カレアにかかっている、何かしらの呪い。
そんなものに負けて、何がギルドマスターか。
「あと30分な。キスだけだぞ。」
「半蔵、ありがとう・・・。」
女の子ってのは、男とは少し違うのだ。
受け身な性質故、キスだけでも十分に発散することができる。
カレアが乙女心の持ち主で良かった。
俺が主導権を握ることによって、カレアの発散をより推進させることできる。
「これで30分だ。どうだカレア、正気に戻ったか?」
「は、半蔵・・・。ご、ごめん・・・!」
カレアは顔を真っ赤にして、謝り続ける。
どうやら、発散には成功したらしい。
後は、俺の分をどうにかするだけだ。
「寝る前にトイレに行ってくる。カレアはもう寝てて構わないからな。」
「ありがとう、半蔵・・・。」
俺が戻ったころには、疲れたカレアは眠っていた。
そして俺も、眠りにつく。
明日は、どうやって二人に報告しようか。
そんなことを考えているうちに・・・。
―――――暗い森の中
ここは、暗い森の中。
木に囲まれた中に円状の草むらがあり、俺はその中心に立っている。
「さあ、来い!カレア!」
「タイヨウ・・・」
俺の本名は、相内太陽。だが、今の俺は半蔵だ。
「俺は太陽じゃない!半蔵だ!」
「タイヨウハ、モトメテイル・・・」
「半蔵だ。幸せを求めている!」
「シアワセヲ、モトメテイル・・・?」
「ああ、抱き着いてもらって構わない。俺の温かさを感じるんだ、カレア!」
「タイヨウ・・・ じゃない、半蔵。えっと、あたしは何を・・・?」
「カレア、無事か。正気に戻ったようだな。」
「ここは・・・ 半蔵の夢の中?」
「そうだ。カレア、昨日は一人で獣の群れを掃除してくれただろ。何匹倒したんだ?」
「半蔵が怪我してから、167匹。」
「そうか。お前は、正真正銘カレアなんだな。」
「そうなのかな・・・?」
今、俺が抱きしめているのは、カレアなのか、夢の中のカレアなのか。
そんなことは別にいいのだ。
ここは夢の中だ。
夢の中というのは、本能を抑えにくいという性質がある。
故に・・・。
「カレア、キスの続き、してもいいか?」
「しましょ。」
優しく、温かく。
続けているうちに、俺の体中にものすごい電流が走る。
俺の中に、カレアが入ってきて・・・!
―――――真っ白。
これが、愛・・・。
そうだ、これが愛だ。
―――――寝室にて
「はっ!」
まだ早朝だ。カレアはぐっすり寝ている。
俺は、トイレへ向かった。
これは、少しまずい。
でも、仕方のないことなのである。




