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異世界、通訳、女の子。  作者: 薄紅時雨
1章 通訳者
10/17

ソロレベリング

―――――セプテス旅館 寝室



「おはよう、このみ。」

「おはようございます、半蔵さん。」


深夜の間に酷い悪夢に起こされた俺。

幸いこのみは気付いていなく、あれからぐっすり眠ることができた。

窓から射してくる日差しが気持ちいい。すっきりとした目覚めだ。

今日がもし休日であるなら、この世界を色々見て回りたいものだ。


「なあ。カレアとこのみって毎日活動してるのか?休日はないのか?」

「ありますよ。決まった日というのはありませんが、今日か明日は休みの予定です。」


人間、誰でもオフの日は必要だろう。

俺たちは朝の支度を済ませた後、旅館を出た。

セプテスの街を見て回っていると、人工的な建物が並ぶ中で、一つの真っ黒な家を見つける。


「半蔵、戦い方とかまだ分からないしょ?この家に住んでる知り合いがそういうの詳しいから、行こう!」

「こんな怪しい建物に住んでる奴・・・ 大丈夫なのか?」


人工的な街並みとはいえ、見渡すと比較的明るい色の建物が多い。

そんな中で、この真っ黒で窓もない家はとても目立っていた。


「悪い子じゃないので、大丈夫ですよ。でも、静かに入ってくださいね。」


このみの言い方からして、この家に住んでいるのは子供か女の子なのだろう。


「刹那ー!カレアだよ。入ってもいい?」

「どうぞ。」


返事をしたのは、冷静さと幼さを感じる声の人だった。

おそらく魔力で動いているであろう玄関が開くと同時に、カレアが中に入っていく。

このみが行くよ、と言わんばかりに俺の袖を掴むので、俺とこのみも恐る恐る中へと入っていく。


真っ暗で何も見えない。

カレアには中の様子が見えているらしい。これもスキルのおかげなのだろうか。

このみは暗い家の中が見えないらしく、カレアと手を繋ぎながら歩いている。

俺はこのみに袖を引っ張られながら、刹那という女の部屋に着く。


「刹那さん。明かり、つけてもらってもいいですか?」

「分かった。」


明かりがつくと見えたのは、そこらじゅうに黒く錆びた血がついた部屋だった。

血の付いたベッド、血の付いたテーブルと椅子、血の付いた床。

そして、腕から血を流す一人の小柄な少女が立っていた。


「はじめまして、半蔵です。よろしくお願いします。」


俺は恐怖のあまり、自己紹介の声が震えてしまった。


「僕は刹那せつな。職業はアサシン(暗殺者)。」


冷静な話し方で自己紹介をする、刹那という少女。

雰囲気は大人びているのだが、話し方や声にどこか幼さを感じる。

この部屋の雰囲気と声との相乗効果で、ものすごい恐怖を感じる。

これが暗殺者アサシンというものなのか。


「その血・・・ 刹那さん自身のものですよね?大丈夫なんですか?」


左腕から血が出ているところに注意が向いていたが、体をよく見ると、傷跡だらけである。

そのくせ、傷跡を隠す気など全くないと言わんばかりの、露出の高い忍者の服装をしている。


赤茶色でくせ毛が強いボブの髪と、黒と緑を基調とした、忍者の服装。

露出している腹や脚、腕などには何かに噛まれたような傷がたくさん残っており、左腕に限っては、今も血を流している。

この刹那という子は、昨日の血飢獣けつきじゅうの森で狩りをしているときに見つけた少女だ。

140cmほどしかない小さな体でありながら、一人で沢山の獣たちを相手できるつわものである。

カレアが刹那を紹介してくれた理由は、この少女が「強い」からなのだろう。


「もう、刹那さん!そんな傷があるまま生活しないでください!今私が治しますから!」

「回復薬が効いてるから、大丈夫。」

「大丈夫じゃないです!ライトヒール(初級治癒魔法)!」


どうやら、傷があるくらいが暗殺者らしい・・・ という訳でもなさそうだ。

このみは、刹那に対して本気で怒っている。


「あの、刹那さん。あなたほど強い方でも、狩りによる怪我は避けられないのでしょうか?」

「半蔵。刹那はあたしよりはるかに強いの。獣を一人で狩ってても、傷を負う事なんて無いよ。」


確かに、昨日のカレアは傷を負っていなかった。

となると、考えられるのは・・・


「傷を負うことによるメリットとか、あるんですか?」


ネトゲで、そういうものがあった。

HPが半分を切っている状態だと、攻撃力が倍になる、みたいなものである。

そういうものがあるのかと思った。そうだと願った。

しかし、現実は歪んでいた。



「傷を負うと、生きてる感じがする。」



自傷行為。

刹那の場合は敵からの攻撃だが、彼女自身の意思で傷を負っているのだ。


俺がこの世界に来た理由は、自殺をテーマに書いた小説によって追い詰められ、死んだことだ。

その小説の中にも。そして、その小説を読んでいる人にも。

表に出ないことだけど、何度も見たことがある。

傷を負うことによって、そういう人の欲求は満たされるのだ。

この刹那という少女、これまで相当苦労をしてきた人なのだろう。


「刹那さんは、どうしてそんなに強いんですか?」

「僕も半蔵と同じ、転移者だから。」


俺が転移者であることは、見抜かれているようだ。

それより、刹那が転移者だということ。

異世界転移というものは、幸せな場合もあるが、時に残酷なものでもあるのだ。


「僕がいた世界の人は、効率が全てだった。僕の話し方、変って言われるけど、元の世界ではあまり効率的な話し方じゃなかった。」


元いた世界と、転移後の世界。

その二つが、大きく異なることだってある。


「僕がいた世界の人間は、ここより身体能力が遥かに高かった。だから、僕は簡単に殺された。」


刹那の手は、震えている。

冷静に話す刹那だが、本当は辛いのだろう。


「その後、代償を支払って僕は転移した。ここの世界で4歳相当だった僕は、必死に居場所を探した。」


ここの世界の4歳は、俺の元の世界でいう8歳くらい。

そんな幼い子供が、代償を支払った上、一人でこの世界に堕とされたのだ。


「代償を払って、ですか・・・。なのに、そんなに強いんですね。」

「強さを犠牲にすればよかったと、後悔してる。僕は、それより大事なものを犠牲にしたから。」


「刹那さんみたいに、元の世界で強かった人は代償を支払っても強いんですよ。」

「半蔵みたいに、元の世界で弱かった人は特典を貰っても大体弱いんだよね。」


このみとカレアが、正反対で表裏一体のことを言う。


特典か代償か。それは元の世界の身体能力によるらしい。

小学3年生の年齢でこの世界に堕とされた、刹那。

今は、何歳くらいなのだろうか。


「刹那さんが代償として支払ったのは、体の成長・・・とかですか?」


もう成人しててもおかしくないくらいの落ち着きを感じるのだ。

体の成長が止まるのが代償扱いになるのかどうかは人によるが、俺にはその答えしか思いつかなかった。


「うん。体の成長を代償として払った。」

「刹那さんはまだ7歳半なんだから、まだ成長しますよ!」


カレア、このみ、そして俺が8歳。

刹那は年下らしい。中学3年生くらいの年齢だろうか?


「払った代償は、戻らない。」


そう言って、刹那は下を向く。

このみとカレアは、刹那の胸を注視している。


「あの、もしかして胸の大きさを代償として・・・」

「それは言っちゃダメですよ!半蔵さん!」


そんな軽い代償で済んだ。

そう思っていたのは、俺だけであった。


「僕が産まれた世界では、胸が小さい人しか相手にされなかった。だから、胸が小さいのは特典だと思った。」

「胸が小さいのは可愛いじゃないか!それに、大事なのは心だ!」


「半蔵、言いたいことは分かるよ。でも、女の子にとって胸が絶対大きくならないなんて、最悪なことなの。」

「心より、命よりも大切なことなのか!?」


俺の怒号に、部屋は静まり返る。

そんな中、最悪の事態が起こる。


「カレア!腕がかなり侵食されてるわよ!私じゃ治しきれないから、病院に!」


カレアを一人にさせるわけにはいかない。

それに、この刹那という少女の話をもっと聞きたかった。


「俺は刹那と一緒にいる。このみはカレアを病院に連れて行ってくれ。」

「半蔵さん、大丈夫なんですか!?」

「俺と刹那は大丈夫だ!カレアを早く病院に連れていけ!」


「半蔵、ちょっと行ってくるね。留守番お願い。」

「ああ。お大事にな。」


そう言って、カレアとこのみは病院へ向かった。



沈黙。


「刹那さん。どうしてこんな暗い部屋で、一人で過ごすんですか?」

「半蔵は、僕がこんなことしてても。狩りの時に身勝手な行動をする人でも、仲間にしたいと思う?」

「あなたみたいな人を見ると、放っておけませんね。」

「変わりものだね。」


沈黙。


「刹那さんは、何のために狩りを続けるんですか。一人で勇者になるんですか?」



「狩りをしてるときが、一番生きてる心地がする。」



そんな震えた声で言うんじゃない。

そんな悲しそうな顔をするんじゃない。


「ふざけんなよ・・・。」


俺は、思わず刹那を抱きしめる。

140cm程しかない小さな刹那を、165cmという小さな俺が抱きしめる。

冷たい体、俺に触れる傷跡。

そして、温かい心を感じた。


「いいんですか?僕なんかに関わって。人に迷惑かけてばかりの、この僕に。」

「一番辛いのは、お前だろ・・・!」

「人の温もりとか、よく分からない。」


そりゃあそうだろう。

でも、こうして会えたんだ。


「なら、これから教えてやるよ。俺たちが、人の温もりってやつを。刹那、俺のギルドに入るんだ!」

「約束だよ。言ったからには絶対教えて。」


「ああ、約束するとも!俺はどこまでもついていく。そして刹那、お前を導いてやる。」


導く先なんて、どこか分からない。

でも、きっとあるはずの着地点。

刹那だけじゃない。4人で、そこへたどり着くのだ。

全ては、幸せのために。



『もしもし、刹那、半蔵。聞こえる?』

『聞こえる。』


今刹那が持っているのは、通信機だ。

これもおそらく、魔力で動作しているのだろう。


『あたしはもう大丈夫。ただ侵食は止まらないから、このみに新しいスキルを覚えさせたいの。』

『このみはスキルポイントを使い切ったよな?どうすればいいんだ?』

『明日からレベル上げに行く。このみを8レベル上げなきゃいけないから、やり方を刹那に聞いといて。』

『ああ、分かった。言っとくけど、刹那に無理をさせるつもりはないからな。』

『半蔵いきなりどうしたの?まあ、今からそっち戻るから。じゃあね。』


刹那の知恵を借りれば、このみを8レベル上げるくらい容易いことかもしれない。

でも、刹那の心と体は守らなければいけない。


「半蔵、転移者ならスキルポイントに余裕があるよね。」

「ああ。今は96レベルで、46ポイント残ってる。」

「何を習得済み?」

「ポイズンボムと闇の纏い気だ。刹那が使ってた、剣を降らすスキル。あれがあれば狩りが楽になると思うのだが。」

「僕が使ってるのは、マスター(熟練した)ディフォーメイト(変化術)。半蔵には無理。」

「そうだったのか。変化術なんて、すごい便利そうなものだな。」

「うん、便利。でも、習得が難しい。」


物体の形状を変化させるスキル。

これなら、刹那の体を傷つけずに戦う事が出来る。


「このみが言ってたんだ。似たようなことなら、『ソードレイン』で出来るって。」

「『ソードレイン』でも、オプションを付ければ強くなる。」


そうだ。俺はオプションについて、よく分かっていない。

スキルにおまけ効果を付与できる、オプション。

これをうまく活用できれば、相当有利に戦えるはずである。


「何をオプションで付ければ強くなれるんだ?」

「ソードレインなら、有名なのだとアシッド(酸性)。強い酸を扱った経験はある?」

「硫酸ならあるぞ。」

「それで十分。ソードレインを覚えて、ソードレイン、アドベントアシッド(酸性付与)と言えばいい。」


「何回も叫ぶんだよな・・・。喉が枯れないか心配だ。」

「上級者は、スキル名を叫ぶ必要がない。」


そりゃあそうだよな。

カレアの斬撃だって、無意識のうちに何かしらのスキルを発動しているに違いない。


「ああ、それは練習する。ソードレインはいいとして、守りはどうすればいい?」

「闇の纏い気を使って、アンデッド系モンスターとだけ戦う。」


「闇の纏い気」を使ったら、闇系モンスターが寄ってくるのだ。

何か賢い方法でもあるのだろうか。


「闇の纏い気、ダブルアドベント、パラライズ、ホーリー。パラライズで麻痺させて、ホーリーで闇系を弾く。」

「麻酔を打たれた経験があるから、パラライズは問題ない。このみの魔法を見てるから、ホーリーも問題ないはずだ。」

「分かった。じゃあ、明日は亡霊の洞窟に行く。」


一つのスキルに、複数のオプションを付けることができる。

そして、闇の纏い気に付与された効果は、ギルドメンバー全員に効果がある。

とても良いことを思いついてしまった。

もし実現できるなら、ギルドでものすごく活躍することができる。


「ただいまー!なんかいい案、思いついた?」

「カレア、このみ。おかえり。」

「半蔵さん。カレアが無理を言ってしまって、すいません。」


二人とも元気そうで良かった。

後は、カレアの侵食を抑えるために、このみがヘヴィヒールを覚えれば大丈夫だ。


「明日、亡霊の洞窟に行ってレベル上げをすることになった。」

「亡霊の洞窟に行くんですか!?あそこ、すごく危険ですよ。」

「戦闘は問題ない。それより、これから刹那を俺のギルドに入れたいんだが、カレアとこのみは大丈夫か?」


「大丈夫ですよ。刹那さんは悪い人じゃありませんし。」

「んー・・・ 刹那はちょっと危なっかしいけど、大丈夫だと思う。」


「カレア。今はソロギルドじゃなくなったが、大丈夫なのか?」

「あたしは、まあ・・・。それより、半蔵は大丈夫なの?昨日とか、様子が変だったけど。」


「ああ、俺は大丈夫だ。あと、刹那には物体の形状を変化させるスキルがある。」

「ん?あたしのおもちゃでも作ってくれるの?」

「おもちゃだけじゃない。洞窟の中に、カレアが一人で休むための部屋を作れる。」

「あたしを一人にするなんて、半蔵はいいやつだね。」


「カレアには、一人で居なきゃいけない時間がある。それくらい、ギルドマスターとして配慮できて当然のことだ。」

「半蔵、かっこいいじゃん。惚れたよ。」


俺の視線が、カレアに吸い込まれていく。

駄目だ駄目だ。今は、皆を見なければ。

それが、ギルドマスターとしての役目なのだから。

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