第二話
こうして3人+私で始まった初心者講習会は、予定通り進んでいった。カードの簡単な説明や、講習用デッキを実際に使って対戦形式で教えていくしっかりしたもので、横の中学生達も四宮さんも楽しんでくれてた……ような気がする。
「……と、こんな感じのゲームなんですけど、どうでした?」
1時間ほどの初心者講習会が終わって、店長が四宮さんに話しかけた。
「そうですね、ちょっと難しいですけど……面白いです」
「最初はちょっと難しいかもしれませんけど、慣れですよ。わからないことがあったら」
「すぐ私に聞いてくださいね、何でも教えますよ!」
店長のまとめを遮って、びしっと親指を立てる私。店長がちょっと寂しそうな顔をしてたけど気にしない。
「ふふ、ありがとうございます」
にっこり笑う四宮さん。あぁ、守りたいこの笑顔。
「四宮さん筋が良さそうだし、ちょっとやったらすぐ上手になりますよ。その体験用デッキは差し上げますので、ぜひ遊んでいってください」
「そうですよ、遊びましょう四宮さん」
「えっと……遊里ちゃん仕事……」
「お客さんと遊ぶのも営業の一貫、ですよね?」
「あ、はい。じゃあ在庫の登録してるね……」
多分自分も遊びたかったんだろう店長がトボトボとレジへ歩いて行く。さっきは店長が遊んでたから交代交代。そもそもバイト中に遊んで良いのかっていう疑問は置いといて。
「じゃあやりましょうか!四宮さんどのデッキ使ってみたいとかあります?体験用デッキ、5種類あるんですけど」
言ってケースに入ったデッキをずらっと並べる。それぞれ色がついていて、白、青、緑、赤、黒の5色。
「あ、じゃあ……黒のやつ使ってみたいです」
「はい、どうぞ。じゃあ私は……白を使おうかな」
四宮さんに黒いケースのデッキを渡して、私は白のケースのデッキを取る。いつもは私は大体青いデッキを使うんだけど……青いデッキのカードは相手の邪魔をするカードが多くて、初心者相手に使うのにはちょっと向いてないかなーと思ったのだ。
「なんか四宮さんのイメージだと勝手に白かなーとか思ってたんですけど、黒選んだんですね、何か気になるカードとかありました?」
私が選んだ白いデッキのカードは人間の兵士や騎士が多くて、猫なんかもいたりする明るいイメージのカードが多いけど、黒いデッキはゾンビやデーモンみたいなのが多いのだ。
「えっと……可愛いなって思って……」
……んん?
「可愛いって、このゾンビとかデーモンとか……ですか?」
「そうなんです、ちょっと変だなとはわかってるんですけど、ゾンビとか好きなんです」
このカードゲームは海外産なだけあって、まさに海外のファンタジー絵って感じの絵柄で、国内産のカードゲームみたいに萌え絵やマスコットみたいな可愛いキャラクターは一切出てこない。そんなゲームのゾンビやデーモンを可愛いと思うとは。
「四宮さんって、ちょっと変わってますね」
「あ、すいません。変ですよね……」
「いやいや、そんなことないですよ。好きな物があるのは素敵なことだと思います!」
「そ、そうですか……?」
「ええ、ゾンビのカードたくさんあるんで、ゾンビのデッキ作って遊びましょう!」
「ゾンビデッキ……!それは素敵ですね……!」
「でしょ?せっかくのゲームなんだし、好きなものどんどん出していきましょうよ」
「はい、色々教えて下さいね!」
こうして、私は美少女と一緒にカードゲームで遊ぶという、世の中の男子諸君が大層羨む日曜日を過ごしたのだった。羨ましいだろ、やーいやーい。と心の中でどこかの誰かへ煽りを入れておく。
「あ、そろそろ帰らないと……」
講習会が終わってからさらに1時間ほど遊んで、そろそろ5時になる頃、四宮さんが時計を見てそう言った。
「もう5時なんですね、夢中になっちゃいました」
てへっ、と音がどこからか聞こえてきそうな表情で頭を触る四宮さん。可愛すぎてヤバい。まじヤバい。私がやったらどうなるだろう。てへっ、と言いながら頭を小突く自分をイメージして……あぁ、これはないな。マジヤバいな。
「私、日曜日のお昼は大体バイトしてるんでまた来てくださいね」
「はい、また来ます。一ノ瀬さんありがとうございました。店長さんも、ありがとうございました」
「いえいえ。また来てください。遊里ちゃんはいませんけど平日もやってますから」
「平日は学校があるのでちょっと難しいですけど、また日曜日に来ますね。では失礼します」
ペコリとお辞儀をして帰って行く四宮さん。ゲームしてる時も思ってたけど、お嬢様って感じの丁寧な動作が多い。実は何を隠そう私もお嬢様学校と呼ばれる学校に通ってるんだけど……まあお嬢様学校に通ってる人全員がお嬢様なわけじゃないってこと。それでもうちの学校にいる、いわゆるお嬢様グループに入れても何の違和感も無いだろうなって思う。
そういえば歳とか聞いてなかったけどいくつぐらいなんだろう?見た感じ高校生かな……?
「あの子可愛かったねー、また来ると良いな」
「そうだね、可愛い子がいるとなんかテンション上がるもんな」
なんて言ってる常連さんたち。可愛い子がいると……って私は可愛くないとでも言いたいのだろうか。
「あっ、いや遊里ちゃんも可愛いから!けどこう可愛いのベクトルが違うと言うなんというか……」
「……川崎さん、ちょっと1ゲームやりましょうか」
「あっ……はい」
この後川崎さんをボコボコにして、ちょっと気晴らしをした私だった。
四宮風音のプロフィール
四宮風音 17歳 女性
4月17日生まれ。身長155cm
髪型は肩まである黒のロング。