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出来れば警察の後に聞き込みをすることだ。
そうしないと警察側から不満の声が上がるからだ。
これは大道にもなんとなくわかった。
仮に大道が警察だとしたら、自分たちよりもマスコミが先に根掘り葉掘り聞いたと知ったら、決して快くは思わないだろう。
記者ごときに先を越された、と思うのが人情だ。
なにせ相手は国家権力なのだから。
それでも新聞など鮮度が全てのマスコミなら、ある程度大目に見てもらえる可能性はあるのだが、大道がそうではないことは警察も十分知っている。
だからよけいに先回りは避けなければならない。
大道は、二日ほどは先に取材し始めた事件にまわし、その後ゆっくりと聞き込みをすることにした。
二日開けて三日後、大道は取材を開始した。
まずは近所の人である。
並木のことをある程度知っているし、なによりも殺人現場のそばに住んでいるのだから。
大道はまず、並木の左隣の部屋から始めた。
大道はいつもそうしていた。右からはじめると、なにか良くないことが起こるような気がしていたからだ。
もちろんそこに科学的な根拠など、全くないのだが。
インターホンを押すと、出てきたのはやせた神経質そうな男だった。
「なんでしょう」
大道が取材に来たことを伝えると、男は露骨に嫌な顔をした。
この反応はある意味当然だ。
何か事件があった近くに住む住人は、警察が来れば自分が疑われているのではないかと考え、マスコミが来れば何か良くないことを書かれるのではないかと考える傾向がある。
したがっていい顔で大歓迎してくれるような暇人やお人よしは、あまり多くはない。
ここまでわかりやすい顔をする人も、それはそれで珍しいのだが。
もちろんそんなことで大道が怯むわけがない。
仕事だしそんなのは慣れているし、それに一度取材がすめば、大半は一生関わりあいになることがないままの人間だ。
男は言った。
「今忙しいんですけどね」
「そんなことおっしゃらずに。そんなにお手間はとらせませんから」
聞くのはもちろん並木のとこである。
交友関係を中心にその他もろもろ。
このようすでは二度目はなさそうだから、出来るだけ聞いておく必要がある。
「……そうですか」
最初は嫌がっていた男だったが、いざしゃべりはじめるとせきを切ったように話し始めた。
この手のタイプの人間は、一見にこやかに迎え入れてくれる人よりも扱いやすくて重宝する場合があるのだ。
「並木さんですね。あの人にはほとほと迷惑していたんですよ」
「どんな迷惑ですか?」
「週末になればほとんど毎週のように誰か連れてきて、夜遅くまで騒ぐんです。何度か注意をしたんですが、「わかった。わかった」と言って、そのまま騒ぎ続けるんです。大家さんにも言って注意してもらったんですが、それでもなおらなくて。死んでくれてほんと助かったですよ」