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「ええ。中学生のときに、修学旅行をすごく楽しみにしていたんですが、その直前に自転車で転倒して足の骨を折ってしまい、結局修学旅行に行けませんでした。兄は本当に悔しがっていましたよ。高校、大学とバトミントンをやっていたんですが、大学のとき、大事な大会の前に今度はバイクで転んで骨折して、その大会に出ることが出来ませんでした。このときは修学旅行のときよりも悔しがっていました。卒業後、希望していた工場に就職が決まっていたんですが、入社日前日に、理由は何度聞いても本人が言わないものですからとうとうわかりませんでしたが、両手を複雑骨折して、工場は長期欠勤。結局一日も働かないままに、退社してしまいました。ここまでくると悔しがるのを通り越して、兄はしばらくの間放心状態になっていましたが。といったわけで、兄は骨折を嫌っていた。というよりも憎んでいましたね。骨折した原因が兄本人にあるのは確かなのですが。それでも兄は、骨折がまるでそれが意思をもつものであるかのように、嫌悪していました。その兄があんな死に方をして。絶対に犯人の嫌がらせだと私は思っているんですが。でもそこまで兄を恨む人間がいるのかどうか。兄は基本的に気の弱いところがありまして、誰かを怒らすようなことはほとんどしていないと思うのですが」


「そうですか」


非常識な死に方をした人間が三人いる。


そして三人とも自分が怖がっているもの、嫌がっている方法で殺されている。


三人に共通する人物は一人だ。


正木和子しかいない。


「どうしました」


大道が考えていると、弟が声をかけてきた。


「あ、いえ。そうですか。貴重なお話が聞けて、よかったです」


「そうですか。ところで」


「なんですか?」


「犯人、捕まりますかね」


「それは基本的には警察の仕事ですので。私どもにはなんとも言えませんが。早く捕まるといいですね」


「……そうですか」


弟はいかにも残念そうにそう言った。


兄思いの弟であることは間違いのないようだ。


「ではこれで失礼します」


大道が頭を下げると、弟は小さく言った。


「いえいえ」



夫が殺害されたのなら、妻は無条件で容疑者の一人となるはずだ。


しかし和子はいまだ普通に暮らしている。


ということは犯人ではないということなのか。


大道は近田に聞いてみることにした。



署に行くと近田がいた。


誰に聞いても近田が署にいることはほとんどないと言う。


それなのに大道が行くと、必ずいるのだ。


ここまでくると、超常現象的ななにかがあるのではないかと、大道は半ば本気で考え始めていた。


「近田さん、お聞きしたいことが」


「なんだ。正木正二のことか」


「そうです。よくわかりましたね」


「なにおべっか言ってるんだ。ちょっと前に俺がネタふりしたばかりだろう。確立としてはそれが一番高いに決まっているじゃないか。で、正木正二のなにが知りたいんだ」


「犯人は捕まっていないんでしょう」


「ああ。俺は直接の担当ではないが、そいつからいろいろと聞いている。何人か怪しい名前が浮かんだが、あれやこれや調べてみると、全員白だったという話だ」


「和子もですか」


「ああ。もちろん真っ先に名前があがったが、和子にはどうしようもないほどのアリバイがあったそうだ。和子が直接手を下すのは不可能だ。動機という点では一番あったんだがな」


「動機があったんですか?」


「ああ、正二は和子に対して日常的に暴力を振るっていた。娘の好子ともどもに。それは間違いがない」


「暴力ですか。正二は気の弱い男と聞きましたが」


「誰から聞いたんだ、そんなこと。って、それはいいか。とりあえず、さすが記者さんだ、と言っておこう。そいつの言うことは本当だ。正二は着の弱い男だった。だから逆に暴力がエスカレートしたんだな」

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