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二時間という中途半端な睡眠なら、そのまま徹夜したほうが頭も身体もまだすっきりすることを、大道は過去の経験から知っていた。
――しかたない。
大道は転がり落ちるようにベッドから出た。
急いだものの、指定された場所に着いたのは七時をまわっていた。
遠いのと、途中から朝の通勤時間帯と重なったためだ。
そこにあるのは郊外のどこにでもあるようなマンションだ。
すでに黄色いテープが張り巡らされ、警察関係者がうろうろしている。
見慣れたというか、大道にとっては見飽きた光景だ。
ようすを伺っていると、なじみの刑事の姿が目に入った。
近づき声をかける。
「殺人ですか」
「ああ、そうだ。俺は殺人課だしな。知ってるだろう、そんなこと。白々しい奴だ」
刑事の近田はそれ以上なにも言わなかった。
ただ大道を刑事特有の威圧的な目で見ただけだった。
なにも言わなくてもそれだけでわかる。
よけいなことは聞くなと、近田は言っているのだ。
それでも食い下がると言う手もあることはあるが、あまりしつこくして心象を悪くすれば、教えてもらえることも教えてもらえなくなる場合がある。
そのあたりの兼ね合いが難しいが、大道は今回は引くことにした。
近田の眼光が、いつもよりも鋭いと感じたからだ。
しかしそれはそれで、大道にとっては一つの情報になる。
つまり今回の殺人事件は、いつもの殺人事件となにかが違っているということだ。
――このまま待つか。
待つのは警察の公式発表である。
大道はそれまでの間、そのあたりをぶらついて時間をつぶすことにした。
数時間後に行われた公式発表は、大道の予想通りと言うよりも、予想を超えて異様なものだった。
殺されたのは並木誠という三十一歳のサラリーマン。
被害者の身分はいたって平凡だが、その殺され方は一味もふた味も違っていた。
まず被害者はへそのあたりで上半身と下半身にわかれていた。
そして首も胴体から切り離されていた。
つまり身体が三つに切断されていたのだ。
それだけでも普通ではないのに、切断方法がそれ以上に尋常ではなかった。
会見によるとその切断方法とは、大きな口を持ちホオジロザメのような歯を持った生物に噛み切られた状態によく似ている、とのことだった。
もちろん海から何十キロも離れた場所に建つマンションの四階に、ホオジロザメがいるはずもない。
犯人がそれに似た道具を歩使って、なんだかの方法で切断した、と言うのが警察の見解である。




