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「よお、久しぶりだな。こんなところで会うなんて、奇遇だな。って、奇遇でもなんでもないな。必然ってやつだ。なあ、大道さんよ」
「ご苦労様です」
小峠は近田よりも少しだけ若いが、大道に対する話し方はそっくりだった。
刑事と記者との関係になると、自然とそうなってしまうのだろうと大道は思った。
「まあ、堅苦しいあいさつはなしだ。おまえさんたちは警察の機嫌を損ねるといろいろと困ったことになるんで、そうなってしまうのは仕方がないが。で、これから聞き込みなのかい?」
「ええ、そうです」
「うちはたった今、最初の一人が終わったところだ。遠慮なくやってくれていいぞ。遠慮なくと言ったが、あんまりしつこくするなよ。住人を怒らせたら、こっちもやりにくくなるからな」
「それは心得ていますよ」
「ならいいが。それじゃあこのへんでな。ぼちぼちやれよ。ぼちぼちだぞ」
小峠はそう言って大道の横を通り過ぎようとした。しかしその時、大道だけに聞こえる声で一言つぶやいた」
「ここにはなんかいるぞ」
生田の部屋は記者である大道は、もちろん入れない。
同じ事件を調査していても、ここらあたりが警察と記者との差だ。
とりあえずいつものように左隣の部屋からせめてみる。
返事がない。
どうやら留守のようだ。
つづいて右どなり。
呼び鈴を押すと、誰が見ても一目で水商売を生業としているとわかる雰囲気をその全身にまとった女が出てきた。
「なんですか」
慣れた手つきで名刺を渡し、質問を開始する。
「生田さんね。なんでも悲惨な殺され方をしたって、テレビで言ってたわ。前代未聞の殺人事件だとか。並木さんのときも同じことを言ってたわよね。ほんと大げさだわ。マスコミなんてそんなものよね。ボキャブラリーも少ないし、バカみたい」
大道はテレビではないが、事件を本にしているのだからマスコミ関係者と言って差し支えはない。
それを目の前にして、よくもこんなことが言えたものだと思ったが、ここで腹を立てていたのでは仕事にはならない。
大道は何事もなかったかのように、涼しい顔で話を進めた。
「生田さんは、どんな方でしたか。ご近所の人から見て。たとえば、ご近所の人となにか揉め事を起こしたりしていませんでしたか」
女は、にやりと笑った。