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しかし集合住宅でそれをやるには危険が伴いすぎる。


それではなぜ犯人は、誰かに目撃される危険を冒してまで、そんな手間なことをわざわざしたのか。


まるで生田がそこで墜落したかのように見事なまでに正確に、血や内臓を身体を中心に四方八方に飛び散らせるという細かい芸当までやってのけて。


見た人の印象はみな同じだった。


「どう見ても、このマンションの床に叩きつけられて死んだとしか思えない」とのことだ。


近田が「非常識」と言ったのも当然のことだ。


天井まで3メートルもないマンションの床に、いったいどうやったら数百メートル落下したのと同じ勢いで、成人男子一人を叩きつけることができると言うのだ。


――いったいあそこでなにが起こっているんだ。


大道は軽いめまいすら覚えた。



近田が署内を歩いていると、刑事の小峠が近づいてきた。


「よお、どうした」


小峠が言った。


「あのガイシャがぺちゃんこになったヤマだが、俺が担当することになったんで、一言言っておこうと思ってな。よろしくな」


「ほお、俺ははずされたか」


「なに言ってる。もともと二つのヤマ、それも殺人事件を一人で抱え込む刑事なんて、誰もいないさ。それくらい知っているだろう。とぼけちゃってまあ。たまたま同じマンションだったんで、とりあえずお前が担当みたいになっていたが、そんなの一時的だってことは、おまえもわかっていたはずだが。殺人二つを一人でなんて、無理な話だ。常識的な判断だな」


「それもそうだな」


言いつつ近田は、小峠の言った「たまたま」と言う言葉か引っかかっていた。


――本当にたまたまなんだろうか。


同じマンションで、殺害方法すら解明できてない殺人事件が連続して起こった。


被害者の二人は同じマンションに住んでいるというだけで、階も違うしほとんど面識もなかったようだ。


しかし二つの事件が同一犯によるものならば、二人をよく知っていてその二人になんだかの恨みを持っていた人物と考えることは、なにも不自然なことではない。


ほとんど会ったとこのない並木と生田に同時に恨みを持つ人間は、マンションの住人以外は考えづらい。


そうなると小峠の言った「たまたま」という言葉は、適切な表現とは言えない。


そうであっても一人で二つの事件を追うことは、今のところやはり無理があるようだ。


上層部の人間の判断に間違いはないだろう。


もちろん同一犯による犯行だと断定すれば、状況は大きく変わることだろう。


近田が小峠の肩をたたいてその場を去ろうとしたとき、小峠がなにかを思い出したかのような口ぶりで言った。


「ところで、このヤマに関してだが、お互いなにかの情報をつかんだなら、包み隠さずに相手に伝える、ということにしないか。それでどうだい」


近田は小峠の目をじっと見て言った。


「そうだな。それがいいだろう。そういうことにしようか」


言いながら、近田は自分の脳内で復唱した。それがいいだろう、と。



大道がマンションで聞き込みをしようとしたところ、前から見た顔が歩いてきた。


――ええと、あれは。


大道は思い出した。刑事の小峠だ。


前に二度ほど話をしたことがある。


久しぶりに見る顔だ。


小峠は若い男を連れていた。


おそらく後輩の刑事なのだろう。


小峠が大道を見つけ、親しげに声をかけてきた。

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