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八歳くらいだろうか。
おそらくこの女性の子供だと思われる。
地味で目立たない容姿のその子は、子供には似つかわしくないほどに無表情だった。
知らない男性が尋ねてきているというのに、一応大道のいる方を見てはいるが、そこには誰も存在していないかのような目をしている。
その焦点も大道に合っているわけでもなく、はっきりとしなかった。
――変な子供だな。
大道は一応気にはしたが、それも短い間だった。
ここではこれ以上の情報は得られないと判断し、軽く礼を言うとその場を後にした。
その二日後に、思いもかけない進展があった。
とは言っても、突然犯人につながる有力な情報を得た、という話ではない。
そんなものとはまるでかけ離れた展開。
再び殺人事件があったのだ。並木と同じマンションで。
大道が現場に着くと、例によって近田がいた。
「よお」
近田は顔全体で不機嫌さを表現していたが、気軽に声をかけてくれた。
「どんな状況なんですか。答えられる範囲でいいですから、教えてくれませんか」
近田は自ら声をかけておきながら、すぐに大道から目をそらせた。
そして独り言のようにつぶやいた。
「まあ、非常識な死に方だな」
「非常識な死に方とは、どんな死に方なんですか?」
近田は答えなかった。
大道はもう一度聞いてみた。
「非常識な死に方とは、並木のような死に方という意味ですか」
近田はそれにも答えることはなかった。
大道が非常識の意味を知ったのは、警察の記者会見だった。
被害者の名前は生田元。
近所の雑貨屋の店主である。三十八歳独身。
そして肝心の死因は、死体の状況から見て高いところから墜落死したと思われる、とのことだった。
全身の骨という骨が砕け、内臓も脳みそも飛び散った状態で、自宅の床にへばりついていたと言う。
その死体は、数百メートルもの高さから落下して、硬い地面に叩きつけられたとしか思えない有様、と言う見解だった。
だがマンションの天井が、数百メートルもあるはずがない。
犯人は被害者をどこかで突き落として殺し、その死体をマンションに運び入れた可能性がある、と発表された、
それについてはいくつか疑問が残る。
生田の死体が発見されたのは、生田の会社の人間が訪ねてきたからだ。
数日にもわたる無断欠勤に怒った上司が、押しかけてきたのだ。
呼び鈴を押し、ドアを乱暴に叩いても反応がなかったので、上司は管理人を呼びつけて鍵を開けさせた。
そこに見るも無残な塊と化した生田を見たのだ。
玄関には鍵がかかっており、窓も閉まっていた。つまり密室だった。
考えられることといえば、犯人がなんだかの方法で鍵を手に入れ、死体を部屋に入れた可能性はある。