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その後いろいろと調べてみたが、特にこれといった証言その他はなにも出てこなかった。
――よわったなあ。
大道は情報収集と気分転換をかねて、警察署に顔を出してみた。
すると近田が大道を見つけて近づいて来た。
――この男、いつでも署にいるなあ。
近田も刑事である。
署にいるときよりも、捜査で外に出ていることのほうが多いはずなのだが、大道がたまに署に寄ると必ずいるのだ。
たまたまだとは思うのだが、なんだかちょっとだけ気持ちが悪い。
近田が言った。
「その顔じゃ、なにもないようだな」
「ええ、そうなんですよ」
「山上もはずれだったんだろう」
「えっ?」
「おまえさんのやりそうなことは、だいたいわかるさ。これでも俺は刑事なんだからな。実はうちも山上に最初に目をつけたんだ。殺人事件に一番重要な動機というやつが、はっきりあったんでね。でも奴には完全なアリバイがあった。なにせ奴は殺人のあったとき、仕事で北海道にいたんだからな。少なくとも実行犯ということは、百パーセントありえない」
「なんだあ、そうだったんですか。それならそうと、言ってくれればよかったのに」
「おいおい、なに言ってんだ。捜査の細かいことをいちいち記者に報告する刑事なんて、日本中探してもどこにもいないぜ。どうせ数日無駄にしたんだろう。まあ、これから取り戻せばいいさ」
近田はそう言うと大道の肩をぽんと叩き、その場をあとにした。
――あぁあ。
気分転換にと警察署に寄ったのに、大道の疲労感が増すだけの結果となった。
さらに取材を進めたが、まるで進展がなかった。
――そういえば。
大道は思い出した。
並木の左右と下の住人には話しを聞いたが、上の部屋の人間にはまだ聞き込みをしていないことに。
二度連続で留守だったのだが、その後は自分でもよくわからないままに放置していたのだ。
――訪ねてみるか。
新しい情報が得られるとはあまり思えなかったが、会わないままというのもどうも引っかかる。
大道はいまから行くことにした。
夕方過ぎに訪ねると反応があった。
出てきたのは三十代後半と思える女性だった。
「あの、どちらさまでしょう」
いつものように名刺を渡し、一通りの説明をして聞き込みを開始した。
話してくれた並木の情報に目新しいものはなかった。
騒音に迷惑していたとの話も、大道の予想範囲内のことだ。
そろそろ帰ろうかと大道が思い始めたとき、目の隅になにか映った。
女の子だ。