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1o

「いや、いなかったと思いますよ」


「じゃあ、並木さんを好きな女性とかは」


「詳しくは知りませんが、いなかったようですね」


「では、並木さんが好きな女性はいませんでしたか」


「……」


山上は一瞬言葉に詰まった。


大道がそこをたたみかけた。


「聞いた話では、ともちゃんとかいう女の子に気があったとかなかったとか。それで、ともちゃんは並木さんのことを、どう思っていたんですかね」


「ああ、確かに並木さんはともちゃんに必要以上に近づこうとしてはいましたが。ともちゃんが並木さんのことを嫌っていましたからね」


大道はわざと間をおいた後で言った。


「そうですか。それはおかしいですね。並木さんが「ともちゃんは俺に気がある」と言っていた、という証言もありますが。ともちゃん、並木さんのことが好きだったんじゃないんですか」


山上の顔色が変わった。


釣れた、と大道は思った。


「そんなの嘘に決まっているでしょう。ともちゃん本人が「あの人嫌い」と言っていたんですから。だいたいともちゃんと付き合っているのは、この私なんですから」


口調が荒くなってきた。大道が続ける。


「そうでしたか。これは失礼しました。そうすると山上さんは、並木さんにかなりお怒りなのではないでしょうか」


「当たり前でしょう。怒り狂ってますよ」


「それは並木を殺してやりたいほどに」


「そう、殺してやりたい……」


山上はそこで我にかえった。


口をぽかんと開け、目を見開いて大道を見た。


「ちょっ、まさかあなた、わたしが並木を殺したとでも……」


大道はゆっくりと答えた。


「いいえ。ご心配なさる必要は、これっぽっちもありませんよ。そんなことは決してありませんから」


「……」


なにか言いたくても言葉が出てこない山上に、大道は言った。


「いやー、お手間をとらせてしまいましたね。申し訳ないです。大丈夫ですよ。私はもう二度と、あなたを訪ねたりはしませんから」


「……」


「それではこれにて失礼します」


大道は山上にくるりと背を向けると、もと来た道を引き返した。



「ふう」


事務所に戻り、大道は大息を一つついた。


――怪しいと思ったんだけどなあ。ありゃ白だ。


あのときの山上の態度、顔つき。


どう見ても殺人犯には見えなかった。


本気で怒りをあらわにしてあの程度の人間には、そうおいそれと人殺しなんて出来ない。


そして言った、決定的な一言。


並木を殺してやりたいと言ったあの言葉だ。


人並みの知能を持つ者なら、殺人犯はいくら不意をつかれたからといっても、殺した相手のことを殺してやりたいだなんて言わないものだ。


――また最初からやり直しかあ。


大道は頭をぶるぶると振った。

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