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仕事を終えて帰宅し、疲れた体をごまかすために部屋で横になってテレビを見ていると、隣の部屋でなにか音がした。
隣の部屋と言っても並木のマンションには、居間と寝室の二部屋しかない。
その寝室で聞きなれない音がしたのだ。
――なんだろう?
並木は一人暮らしだ。
寝室に誰かがいるなんてことはありえない。
だとすればいったいなんの音なのか。
並木が聞き耳を立てていると、再び音がした。
巨大な何かがゆっくりと動き回っているような。
そんな音に聞こえた。
――どろぼう?
それも考えにくい。
並木は仕事から帰ってから居間で食事をし、トイレも使って風呂にも入っている。
そして風呂から出た後寝室で寝巻きに着替えて、今ここにいるのだ。
つまり台所を含めて全ての部屋を使っていた。
もちろん誰もいなかった。
もし誰かいたとしたら、無防備にテレビを眺めていられるわけがない。
入口には鍵をかけ、チェーンもしっかりとかかっている。
外部と接する窓は居間に一つあるだけで、それも閉まっていた。
――だとすれば……。
並木が考えていると、再び音がした。
おもわず飛び上がりそうになるほどの大きな音だった。
並木はゆっくりと立ち上がると、足音をたてぬようにとそろそろと寝室に近づき、静かにその戸を開けた。
そこで並木は見た。
そこにはまったくわけのわからないものがいたのだ。
大道が寝ていると携帯の発信音が鳴った。
見ればデスクの番号だ。
反射的に時計を見ると、朝の六時だった。
「もしもし」
出ると編集長の声がした。
「ああ、寝ているところ悪いな。取材に行ってくれ」
「今からですか」
「そうだ」
編集長は場所を告げると、電話を切った。
――まったく。
昨夜、と言うよりも今日なのだが、夜遅くまで仕事をしていてようやく寝たのは、午前四時。
そして今は六時なのだ。