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どうも弟達が婚約破棄をされたのは私のせいらしい

作者: 柊 風水

「姉様のせいだ!!」

「突然何だ。愚弟」


ゆっくりとお茶を楽しんでいた所に弟とその友人達がいきなりやってきて、会った途端これだ。

まったくあれ程教育したのに。大勢で、しかも土産も約束もなく来るなんてそんなマナー違反教えた事がない。いや、教えた事しかやらないのか。貴族として王族として臨機応変に行動しなければならないのに。もう一度躾直した方がいいな。


「愚弟共。今日はお前達の婚約発表パーティじゃなかったのか? 婚約者達を置いて何故私の家に来る」


婚約パーティに私も出席せねばならないのだが、まだ安定期を過ぎていないので、夫や両親、義理の両親までも安静にしろと言われて半端監禁状態でこの別荘に過ごしている。


「その婚約者達に!」

「いきなり婚約破棄されたのです!!」

「姉様のせいで!!」

「だからどうしてなのか説明しろと言っているだろう」


訳も分からない私なのだが、愚弟は大泣きだし、宰相の跡取り息子はめそめそ泣くわ、騎士団長候補は男泣きするわ、国一番の魔術師は静かに泣くわで、にっちもさっちもならない。別に男が泣くなとは言わないが、簡単に男が泣くな、鬱陶しい。女に泣かれるよりめんどくさいぞ。

取りあえず比較的まともな呆然自失している我が国の第一王子の頬を叩いて正気に戻して、直ぐに説明した。



パーティは途中まで順調に進行していたそうだ。で、最後になり婚約指輪を渡す段階に事件が起きた。

最初は第一王子リオウ・ソートゥース・オークの婚約者、メアリー・ローズだった。


『この指輪を受け取れません!!』


そう言って蹲って泣きだしたのだ。突然の事に第一王子は慌てたが、そこから一気に他の婚約者達も婚約指輪の受け取り拒否をし出したのだ。


宰相の息子、オルドー・ウォールナットの婚約者であるシアン・アザミも、騎士団長候補、セイン・ホワイト バーチの婚約者であるアネット・アイリスも、魔術師のグレイ・エルムの婚約者であるシャーリー・オーキッドも、我が弟であるクロード・カミーリアの婚約者であるリジェット・リリーも全員婚約破棄を言い出したのだ。

パーティを中止せざるをえなかったが、幸いな事に身内しか呼んでいない為穏便にすませた。

理由を問いただすと全員一致でこう言いだしたのだ。


『『『『『アレックス様と結婚したいのです!!』』』』』


因みにアレックスは私の愛称だ。つまり弟達が婚約破棄の理由である私の元に文句と抗議をしにやって来たわけだ。


……


冤罪だ!!


「お前達、何か粗相をしたのか?」

「してないもん! 姉様の言うとおり相手の意見を尊重して!」

「相手を思いやり!」

「きちんと主語を省略しないで会話をし!」

「傲慢にならない様にし!」

「「「「「すくすくとデートを重ねて愛を育んだ!(みました!)(もん!)」」」」」

ちゃんと私の言うとおりに行動した様だな。まあ、随時私の周りに情報が来るから愚かな行動をした場合は教育指導をしにいくのだが。


「ならばお前らまた女に現ぬかしたのか?」

「していません!!」

「アレックス様に怒られた後は全然寄りつかれませんでしたし、寄り付きませんでした!」

「てか、僕等はその間シャーリー達の信頼を取り戻すために必死だったし!」

「周りに気にしてはいられなかった!」

弟達の気迫を見るとどうも嘘を言っていないようだ。まあ、中二病モドキの大馬鹿お花畑行動をしたあの時は流石の私もブチ切れたからな。いくら最初から・・・・・・・知っていたとしてもだ・・・・・・・・・・










突然だが、私は前世の記憶がある。

今世の様な剣と魔法がなく、その代わり科学と言う摩訶不思議な術がある世界だ。

私が生まれ育った国は日本と言う比較的平和な国で、私の人生は比較的平凡な人生だった。


私は男五人兄弟の末っ子として生まれた。待望の女の子で父や兄達はそれはもう、目に入れても痛くない様な溺愛していた。欲しい物があれば手に入れたし、お願い事なら何でも叶えてくれた。

そんな訳でまだ五歳ながらとてつもない我が侭な子供に成長しつつあった。


これを危惧したのは私の母だ。

母は私の将来を心配し、父方の母とその妹、つまり母から見て姑と小姑に相談した。父の家は旧家で、父は厳しく躾けられ、兄達も同じ様に躾けられたのだが、待望の女の子に色々吹き飛んだ様だ。

父の家は遠い為、滅多に祖母や叔母と交流はなかったが、二人も母に相談されるまで男共のアホ過ぎる所業を知らなかったのだ。

直ぐに私は祖母達の家に預けられる事になった。そこで小学校に入る前までに暮らしていた。父と兄達は大反対したが、母や叔母や祖母、はては親戚一同に説教された。

預けられた祖母の家で礼儀作法茶道華道等々の習い事を延々とさせられた。我が侭もほとんど聞き届けてはくれなかった。

その結果、我が侭な性格は矯正されたが、その代わりかなりの現実主義者リアリストな性格になってしまった。……まあ、嫌われ者になるよりかはマシだろう。

家に帰る時は父や兄達も母達によって矯正されて幾分かマシになった。これ以降事件らしい事件は起きなかった。


現実主義者な私でいたが、友達はそれなりにいた。

その友達の中にオタクの女の子がいて、その子からあるゲームを進められた。

『恋色ファイブ!』と言う、もうちょっとネーミングセンスのある人に名前をつけて貰えば良いのにと最初に思った。

プレイして感想をとお願いされたのだが、現実主義者で男兄弟に囲まれた私はそういった甘酸っぱい乙女ゲーは大の苦手だ。

そこでプレイしてもらったのは腐男子な5番目の兄。私は横でそれを見るのだが……


終始キレまくった。


「おい、コラこの軟弱者。はあ? 『対等になれる人間』がいない? そりゃあお前がいつも人を見下す発言のせいだろうが!! 注意したくても王国の第一王子だから迂闊に注意されたら死刑される可能性があるかもて一般人は普通思うだろうが!! まずその上から目線な性格を直せ!!」

「『作り笑いしか出来ない?』 お前馬鹿か、社会に出たら嫌でも作り笑いをせざるを得ないわ! 嫌なら一生無表情でいろ!! てか、外堀を埋める前に相手の心を埋めろや!!」

「確かに魔術の暴走で人を傷つけた事には同情する。だがな、だからって監禁はないだろ!? ヤンデレが許されるのは二次元までだ!!」

「いくら騎士団長の息子だからって、女の子に暴力を振るうな!! 騎士の名に恥じる行為だろうが!! てか、男としてもダメだろうが!!」

「我が侭言いまくって馬鹿だろ!? 自分の都合が悪かったら直ぐ癇癪を起こすって餓鬼が!! ……私が言えることではないが……それでもお前16歳だろ!!」


「てか、お前ら全員婚約者持ちのくせに何浮気していんのじゃあーーーーー!!!!!」

「妹よ、落ち着け。これ二次元だから、創作だから。いちいちキレたらきりがないぞ」


友人には正直に上記の感想を伝えたところ。

「やっぱりお嬢らしい感想だわ。それと、このゲームはアタシ等の様なファンですら酷評するクソゲーだから安心して。絵柄と声がアタシ好みだけどストーリーがねー。やっぱ男向けのエロゲーで有名な会社製作だからなー。乙女の心が全然分かってない。寝取りが好きなのはソレ系のエロゲーが好きな人だけだよ。つーか、寝取りゲーの男女を入れ替えただけで全然楽しめないし萌えない」

と、普段はどんなクソゲーでも褒めちぎる友人ですらこの有り様だから普通のファンはもっと辛口レビューだったろう。(そんなクソゲーなら私に貸すなと言いたい)

因みに開発先の会社は寝取りゲーで有名な会社だが、不況のあおりを受け新しい分野のゲームを作成したのが件のゲームなのだが、酷評の酷評で発売して数か月で廃盤にされたある意味伝説を作ったのだが、これが原因が分からないがこの会社は倒産してしまった。


そんなレジェンドモノのクソ乙女ゲーの攻略キャラの一人、クロードが私の弟になるとは人生とは摩訶不思議である。


やはりと言うべきか、クロードはこれまた甘ったれた小僧であった。

今世の両親が年をとってやっと出来た跡取りだから甘いのも分かる。私だって可愛いと思うし、クロードはこの当時可愛がった。(今は美男子に成長)

が、甘やかした結果なのか、クソ憎たらしい我が侭っ子に成長してしまった。癇癪を起こせば何でも思い通りになると思う姿は本当に本当にぶっ(ピー)したろうかと思った事か。私も人の事は言えんが、ここまで性格悪くなかったはず。……前世の母さん達の気持ちがやっと分かった。当時の私は突然の厳しい環境に無理やり置かれて駄々をこねたのだが、もしあのまま大人になったらと思うと、あの時心を鬼にしてくらた母達には感謝している。


このままでは弟はあのクソゲーの様な婚約者がいるのに浮気する様な駄目人間にさせない為にも、今のうちに矯正しなければ! と記憶を思い出した直ぐに決意したのだ。

まず私が取り組んだのは両親の説得。あの人達が主に甘やかしているからクロードが我が侭になる原因なのだ。

私はひたすら甘やかし続けた事による障壁や跡取りとして相応しくない現在の弟の言動、このまま大きくなればとんでもないモンスターになると大袈裟に脅した。

私の策に両親はまんまと嵌ってくれた。クロードの教育の為にも両親には旅行に1年間行って貰った。後使用人にもクロードの命令を極力聞かないで欲しいとお願いした。


それからは愚弟の調教と言う名の教育をし続けた。クソ生意気に反抗したり我が侭をいったら教育的指導でハリセンをぶっ叩いてやった。頭を叩いた回数は千を数えたあたりで止めた。(それ位酷かったのだ)

ただ、厳しいだけではいけない。時に飴をやらないと人間は腐ってしまう。飴と鞭の使い方は難しいが、祖母や叔母の躾の真似をした。

結果、両親が帰って来た時は小生意気な所は残るがまっとうな普通の子供になった。これには両親は大喜び。以前ほどあまやかすことがなくなった。

馬鹿息子を真人間に教育した令嬢が居ると貴族の中で有名になって、自分の家の問題児の矯正を依頼されてしかも全員が件の攻略キャラ達だとこの時はまだ知らなかった。


弟達をゲームの登場人物達の様なダメンズから、ある程度まともな男達に矯正ちょうきょうする事に成功した。

それから色々と大人の事情で弟達に婚約者が出来たのだ。


クロードの婚約者でもあるリジェト嬢は大人びた品行方正な少女だが、話してみたら今時の普通の女の子だった。

だが、ウチの家は建国当初からある由緒ある家柄で、尚且つリリー家の当主は厳しい人で有名な方だった為、自分にも他人にも厳しい、人から見たら冷たい性格の少女になっているのだ。


クロードは『あんなお高く止まった女が婚約者なんて嫌だ!!』と戯言をぬかしたが、ハリセンで頭をぶん殴った後、『ならばお前好みの女性にしてみせろ。お前の好みは可愛らしい女の子らしい少女だろう? あの子はその筋がある。相談には乗るから育ててみせろ』と半分冗談混じりで言ってみたら、長年の教育のせいなのか素直に私の言葉に従ったのだ。

可愛らしいぬいぐるみやらピンクのリボンとフリルが沢山あるドレス、可愛い物好きな少女なら大喜びしそうな物ばかりだ。

リジェト嬢は多少なり文句を言っている様だが、弟がプレゼントしたものを大切にしている様だ。リリー家の使用人に頼んでクロードがプレゼントしてくれたクマのぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめているリジェット嬢の姿を隠し撮りしてもらい、弟に見せたところ見事ハートをキャッチされたようだ。(ギャップ萌の良さに目覚めた様だ)

他の奴らも私に相談して、怒られ、説教されながらも素直に助言を聞き、婚約者達と仲を深めていた。私もこの時は安心しきっていたのだ。……その時は。


ある日、弟の婚約者達が私に相談してきたのだ。

『弟達が他の女に恋をしている』と。


これにはさすがの私も驚いた。愚弟達は婚約者達をとても溺愛していたのに何があったのだ?

と私が疑問に持つ前に、未来の義妹達がとんでもない事を言い出したのだ。

『最近のクロード様は転校してきた女子生徒ばかり見て、私とは目も合わせてくれないのです』

『殿下の態度はいつもより高圧的なのです。私も何度も注意しているのですが聞きもせず、それどころか私にまで怒鳴るしまつなのです』

『グレイ様は最近転校してきた女子生徒にばかり構って、魔術省まで出勤しないのです』

『私は別に愛人を持っても構わないのです。だけど最低限の仕事までしなくなって……父はオルドーとの婚約を破棄する話を最近し出したのです』

『せめて人目を避ける様に進言したのがいけなかったのか、その、セインの逆鱗に触れたみたいで、平手打ちを……』


『『『『『しかもあの人――』』』』』


堪忍袋の緒が切れた音がした。


義妹達によると、東洋に伝わる『般若』そのものの様な顔だったと聞く。



リジェット嬢達に教えられて学園の食堂に出向いた。

勿論、理事長や教師陣の許可を取った。どうも大人達も愚弟共の悪行に頭を悩ましていた様だ。しかも注意したいけど、アイツ等は無駄に権力があるから下手に注意したら自分等の首が飛ぶ(物理的)可能性があるからしたくても出来なかったらしい。

正直今のあの馬鹿達なら本気でやりかねないので私は教師陣達にひたすら謝った。


食堂に来ればやはり、リジェット嬢達の言うとおり、愚弟達は一人の少女に取り囲んである。別に愛人を持つ事は貴族の社会では当たり前と言えば当たり前だ。

だが、それでも人前ではあんな風に正妻を差し置いて愛人とベタベタするなんて常識外れだ。しかも囲んでいる男達は王族だったり筆頭魔術師候補だったりと将来有望な人間達だ。

その為スキャンダルには人一番気にするべきなのに、何をやっているのだ。

女子生徒も女子生徒だ。確かアグネシアと言ったか。

元は平民だった様だが、何でも男爵家の隠し子で母親が亡くなった為引き取ってこの学園に入学したようだが、男爵は娘に貴族の一般的な常識を教えていないのか? 

……そう言えばアグネシアは件の乙女ゲーの主人公の名前だった様な……そう言えば前世のオタクの友達がとある小説サイトでは『ざまあ』となるジャンルがあるとか……私は興味がなかったが良くは知らないけどコレがそうなのか?

まあどうでも良い。今はこの愚か者共が先だ。


「やあ、私の可愛いクロード❤」

なるべく下手に感付かせない様に笑顔で声を掛けたのだが、どう言うわけか弟達は私に気付くと青ざめてしまった。

「ね、姉様……な、何故此処に……」

「思い当たる節がない、とでも思っているのか?」

私の質問に少しでも心当たりがあるのか気まずそうに顔をそらす愚弟達。アグネシア嬢はきょとんとした顔をしているが、取りあえず無視しよう。


「クロード。貴様リジェット嬢とほとんど目も会うこともしない様だな。お前、いくら政略結婚とは言え態度で表すなと教えた筈だが? 「いや、それは、その……」リオウ。か弱い女性に怒鳴る事は王以前に男として失格だと私は口を酸っぱくして言ったつもりだが? 「それには訳が……」グレイ。貴様、魔術省に出勤していない様だな。……貴様の様な男を世間は税金泥棒と言うのだぞ? 「……あの」オルドー。貴様の父とシアン嬢の父は親友同士だと聞く。貴様の行動一つで親の友情を壊すつもりか? 「いえ! そんなつもりは……」セイン。お前の騎士道には弱い存在を殴っても良いと書いてあるのか? 「そんなつもりはありません!!」…………なにより」

愚弟達の言いわけは端から聞く気はない。バッサリと切り捨てて話を進める。

「貴様等何の権利があって勝手に婚約破棄を宣言した? 貴様等は家を、いや、国を滅ぼすつもりか?」


私に言われて初めて事の重大さに気付いたのか、弟達は顔を真っ青にしている。

リジェット嬢達は他国でもその名を知られている才色兼備達だ。他国の王族に正室として迎えられても可笑しくないレベルだ。それに庶民にも貴族にも彼女達のファンが沢山いる。そいつ等が今度の事を知ったら……

今更気づいても遅い。


私は腰に下げていたサーベルを取り出した。

「貴様等がそうなったのは師であった私の教育が未熟だったせいだ。貴様等を殺して私も死ぬ。それで今回の騒動を納めよう」

「ね、姉様!!」

前世の記憶を思い出し、弟達の教育係になったその日から決めていた。弟達とリジェット嬢達の仲を見て安心した私が馬鹿だった。

「せめての情けだ。苦しまず逝かしてやろう」

「せ、先生落ち着いて!!」

「問答無用!!!!」

サーベルを振りおろそうとした時だ。

「待って!」


遮る様に弟達の前に立ったのはアグネシア嬢だ。

「皆は私の為にやった事なのです! だから怒らないでください!!」

何寝言言っているんだ。そもそもお前も同罪だろうが。だか、サーベルの前にその心意気やよし。と言うその時だった。



「……くっっっさ!!!!!!!!!!!」


「「「「「「えっ?」」」」」」



「アグネシア嬢、その香水は何だ!! 臭すぎてとてもじゃないが一緒に居られないぞ!!」

「な、なっ……!!」

「姉様なんて事を!!」

「クロード、貴様は何とも思わないのか!? そこの女子生徒も!? そこの教師もか!? こんな悪臭、遠くにいてもキツ過ぎるぞ!!!」

あまりの匂いに吐き気がする。目に涙が浮かべてきた。正直近くにいるだけでも死にそうだ。

一体何を使えばこんな匂いがするのだ!?

だか、この匂いは私にしか分からない様で、弟達は勿論、他の生徒や教師までもキョトンとした顔だ。


「はい。そこまで」

突如として声がした。見ると食堂の入口に三十代位のススキ色の髪と湖を思わせる水色の瞳の男いた。優男風の美しい男だった。だか、彼の後ろの鎧を全身に纏った兵達があまりにも異様だった。

そして彼は手を軽く振り下げると、兵達は素早く動きだし、そしてアグネシアの両腕を拘束し弟達から距離を開かせた。

「ちょっ、ちょっと! いや、離して!!」

「貴様達、アグネシアに何をする!!」

リオン達はアグネシアを助けようとしたが、鎧の盾がそれを拒む。

「久しぶりだね。リオウ」

「大公殿これはどう言う事ですか!?」

リオウは抗議の声を上げる。


男の名はオルセルス・サンバーグス・メドースイート。

皇太后(つまりリオウの祖母)の甥。三十代で大公の位を貰っている。非常に優秀で、時に王から助言を求むほどであるが、如何せん非常に女にだらしがなく、未だ独身なのが皇太后の悩みの種である。

私はこの男が大っ嫌いだ。軟派な性格とか優男な姿とか何より女にだらしがない所とか大っっっ嫌いだ。


「大公殿。これは私と弟達の問題です。邪魔をしないでいただきたい」

「そう言う訳にもいかないよ、アレクサンドラ。仮にもリオウは王族だし、他の子は国の未来を担う子だ。君一人の問題じゃあないのだよ。それよりも……」

オルセルスはチラリとアグネシアを見る。

「君は何処の間者かい? 隣のスビリア王国かい? それとも大国ミルビーナかい? それともアルヴァナ帝国かい? 大穴のワルジラ神国かな?」

「な……何を言っているのです?」

明らかにアグネシア嬢の様子が変わった。顔を青ざめ、ダラダラと滝の様な汗を流している。

「リオウや将来有望の子息が男爵の、それも妾腹の平民育ちの小娘に誑かされていると聞いて、他国の間者の仕業かと思って調査していた途中、アレクサンドラがブチ切れて弟達を殺して自分も死ぬと言っていた! とリジェットちゃん達が大泣きで王宮に来るもんだから急いで来たら……アレクサンドラ。本当に彼女・・・・・から匂いがするのかい・・・・・・・・・・?」

「?? ……ああ。偶にコレの匂いがするが、彼女のは一番の酷い匂いだ」

「成程」

オルセルスは手を上げると、兵の男が何処から持ってきたのか水の入ったバケツを持ってきて、躊躇いもなくアグネシア嬢の頭上からバケツを逆さまにして水を被らせた。


突然の事に私は勿論、愚弟達や当の本人すらポカンと口を開いたままだ。

それを尻目に兵達はアグネシア嬢をタオルで全身拭き出した。そのお陰が悪臭が薄れてきたと思ったら。

「「「「……誰?」」」」

思わず私含めた全員が呟いた。


アグネシア嬢の容姿はチョコレートの様な茶髪にキャラメルの様に甘そうな黄色の瞳の『女の子は甘い物で出来ている』と言う言葉通りの可愛らしい少女だ。


だが、私達の目の前にいる娘はあまりにも醜い。

私は容姿について言及する気がないが、あまりにも酷い。

年はクロード達と同い年位だが、顔の到る所に吹き出物があるし、髪もぱさぱさ。良く見れば肩辺りに白いのが……

正直オシャレにあまり興味がない私ですら、クロードと同じ年頃の時は身なりには人一倍気を使っていたぞ? てか、これがアグネシア嬢の本当の姿なのか?


「本物のアグネシアちゃんは此方で保護したよ。もし君が任務に失敗しても本物のアグネシアちゃんに罪をなすりつければ良いのだから。因みに人質になっていた男爵夫婦・使用人・婚約者家族達もちゃんと助けたから」

「あの、大公様。今、婚約者と言いましたか?……」

「うん。アグネシアちゃんには婚約者がいるのだよ。平民時代からの幼馴染で、今は男爵家の庭師をしている子。勿論男爵夫婦の公認の婚約者だよ。近々結婚式を開く予定だよ」


ガ――ン!!!!!


そんな効果音がしそうな位愚弟達が落ち込んでいる。まあ、心底惚れていた子が実は婚約者持ちとかショックだったのだろう。

「ちくしょう!! どうして分かった!!??」

偽アグネシア嬢は憎たらしそうに吐き捨てる。……そう言えば前世の漫画か小説に『心が醜いと顔まで醜くなる』と書いてあったが、本当にそうなるのだなーと他人事のように思い出していた。

「調査している時に可能性の一つとして確かに上がっていた。でも証拠がなかった。でも、彼女、アレクサンドラが『悪臭をする』と聞いて確信したよ」

オルセルスは指パッチンを一つ。(何故この男はいつもカッコつけをするのだ。そう言う所も嫌いだ)

鎧の兵が一つの葉っぱを持ってきた。


「……くっさ!!」

葉っぱから悪臭がして思わず鼻を摘む。

「これはシワカと言う葉だよ。魅力の術関係全てこの葉から生まれるんだ」

「それは知っています。でも、シワカは無臭だったはず」

やはり腐っても国一番の魔術師であるグレイはこの事に詳しい。

「そう。そうなのだよ、普通は。でも彼女、アレクサンドラはこのシワカの匂いを感じる。ある種の特異体質だね。だから今回と似たようなケースの場合、まず最初に彼女と関係者を会わせる。魅力の術を使っているか否かを調べる為に」

「そうだったのか!?」

「ええっ!! 知らなかったのですか姉様!?」

「そう言えば、この臭い匂いを嗅ぐ時は父上と一緒に王宮に出かける時で、しかも王宮関係者から紹介される子からだった……しかも、何故か匂いがした子は全員後日、幽閉か処刑か国外追放されていたのだった……」

「何でそこで疑問を持たなかったのですか……」

「師匠って実は天然?」

オルドーとセインの言葉に反論も出来ない。思わず頭を抱えてしまった。


「しかし、ここまでアレクサンドラが取り乱す程の術を掛けていたとは……まあ、その見た目で勝負を掛けようとは思わない所は賢い選択だね。……さて、色々と聞きたい事があるから一緒に来ようか? あっ、リオウ達も色々お話しなきゃあいけない事があるから一緒に来てね」


こうして学園を騒がした婚約破棄未遂事件は幕を閉じた。








後日談として、偽アグネシア嬢はやはり他国の間者だった。詳しい話は聞かされていないが、オルセルスが言っていた国の一つがトップの総入れ替えをしたとか。その首脳陣達は此方側に有利な条件(ただしその国の民が苦しまない程度)を遂げる人材達だったので何も知らなくても分かるだろう。

結局弟達の婚約破棄はなかった事にしてもらった。


かなり強力な術を掛けられていて、リハビリ生活を二ヶ月費やす程酷かった事(これが平民だったら廃人レベルの酷さ)と私と弟達の誠意ある謝罪をリジェット嬢家族が受け取ってくれたのだ。

いや~やはり、土下座は最終手段としては此方側でも有効な様だ。ただし多用すると効果が減るので滅多にやらない様にしている。

その後の事は全て弟達の頑張り次第だ。

そのお陰で婚約者との仲も元に戻り、義理の家族との信頼を勝ち取ってやっと婚約披露式まで開いたのに……頭が痛い。

どうしたものか……




「おや、やっぱり此処にいたのだね」

入室してきたのは私の夫だ。

「やはりアレクシアに泣きつくと思ったよ。君達いい加減アレクシアに頼るのは止めなさい」

「しかし義兄様……」

「リジェットちゃん達の事は安心しなさい。私が説得してアレクシアの事を諦めさせたから」

「ほ、本当ですか!?」

「失恋中だからそこを狙えばきっと愛は一生壊れなくなるよ」

「分かりました!」

「失礼します!!」

「このたびのお詫びは後日に!!」

「お騒がせしました!!」

「義兄様、姉様をどうぞよろしく!!」

愚弟達は嵐の様に立ち去っていった。





「まったく。あいつ等は騒ぐだけ騒いで」

「それだけ恋人の事を愛しているってことだよ」

「何だかどっと疲れたよ」

「ふふっ。お茶を飲むかい? 勿論ノンカフェインの」

「ハハッ。大公殿・・・のお手製のお茶を頂こうか」


私の夫はオルセルスだ。

いや、確かに私はコイツみたいなタイプが嫌いだ。

初対面でいきなり手を握った挙句、歯が浮きそうな言葉を吐いて来たものでつい……殴ってしまって。

本当なら不敬罪ものなのだが、どう言う訳かオルセルスが私に惚れてしまったのだ。

そこから毎日の様に暇さえあれば私に求愛し、その度にぶん殴って追い返したが。毎日毎日来るものだから半分ノイローゼ、半分根負けした形で結婚する羽目になったのだ。

しかも初夜から一週間ベッドから離して貰えなくって……結局この有り様だ。

まあ、ベッドから離れた瞬間に、ボマイェと極楽固めとフライケンシュタイナーを食らわしてやったからそれでチャラにしよう。


「しかし、リジェット嬢達はマリッジ・ブルーでも掛かったのかね?」

「ん~そうかもしれないね。それとアレクシアが男前過ぎるのも問題かもしれないね」

「そうか?」

「そうだよ。君がモデルの劇や小説だってあるんだよ?」

「……初耳だぞ」

「君は世間に疎い面があるからねー。因みにその話は僕と結婚前から有名だったよ」

「色々忙しかったからな。貴族の子供は軟弱者が多過ぎる」

そう言えばこんなにゆっくり出来たのは結婚してからだっけ?


「あっ、今お腹蹴った」

「えっ!?」

オルセルスは急いで私のお腹に耳を傾けた。

「……ホントだ――。僕と、アレクシアの赤ちゃんが生きている――」

最近になってこの男の幸せそうに呆ける顔が気に入っているので、コレと結婚するのも悪くないと思うようになってきた。












「因みにリジェット嬢達にどのように言って説得したのだ」

「あ~それは、アレクシアの夜の蕩けた顔とか夜の生活とかを丁寧に説明したら『私達には出来ない!!』と言って勝手に諦めたよ」








目撃した使用人によると、顔を真っ赤にしたアレクサンドラがそれは見事な右アッパーを決め、オルセルスは「テレ顔のアレクシアを見られたので我が一生に一片の悔いなし」と言って気絶したそうな。


登場人物

アレクサンドラ・サンバーグス・メドースイート(旧姓カミーリア)

この物語の主人公。二十代後半。オレンジのショートカットに赤の瞳の宝塚の男役の様なイケメン系美女。

職業は貴族の問題児達の教育係。厳しいが全員まっとうな子供になるので、頭を悩ましている親達には救世主的扱いを受けている。その為中々休みを取れなかったが、結婚してからは旦那がセーブを掛けるのでゆとりを持てるようになった。

オルセルスの事は最初は嫌いだったけど、今では大分ほだされてその内『愛している』と言う予定。(そしてオルセルスは嬉しさのあまり気絶する)

実は本編の『婚約破棄未遂事件』前から付き合っていた


オルセルス・サンバーグス・メドースイート

大公。アレクサンドラの夫。

実は件の乙女ゲームの隠しキャラだったが、あまりにもクソゲーだった為、誰にもその存在を知る事がなかった可哀想なキャラ。(因みにゲームで唯一の婚約者なし)

軽薄な女にだらしのないのは表の顔。実は王位を狙う狡猾な腹黒ヤンデレ野心家だったが、アレクサンドラに殴られて王位どころか腹黒野心家が死んでアレクサンドラ一筋になった。唯一生き残ったヤンデレも初夜まで頑張ったが、その内ご臨終する。

男前なアレクサンドラを唯一女の子扱いをし、男の様な愛称である『アレックス』ではなく、『アレクシア』と呼んでいた。(そんな所がアレクサンドラは大っ嫌いで愛しているところ)


クロード・カミーリア以下攻略キャラ達

それぞれダメンズ的な問題があったが、アレクサンドラの教育のお陰で治った。

偶に他の貴族が『アレクサンドラが男だったら……』と言う会話を聞く度に一緒になって『ホントにな~』と頷く程アレクサンドラの事を尊敬している。

アレクサンドラの好みとは真逆のタイプであるオルセルスと結婚すると聞いて『ええ~~!!??』となって、しかも婚約破棄未遂事件前から付き合っていると聞いてまた『ええ~~!!??』となって結婚してから数日後に妊娠したと聞いて以下略。

その後は国の発展の為に力を尽くし、愛妻家子煩悩として他国でも有名となった。


リジェット・リリー以下婚約者達(又の名を悪役令嬢)

アレクサンドラに憧れに似た恋心を密かにしていた。その上マリッジ・ブルーにも掛かって騒動を引き起こしてしまった。

その後、オルセルスの惚気話や夜のアレとか聞いて自分達の愛はオルセルスの愛に勝てないと思い知って失恋した。その後はクロード達と仲直りして良き家庭を作った。

実はアレクサンドラがモデルの作品のパトロンとなっている。


アグネシア

ヒロインだったが本編に出る事がなかった。(NOT転生者)

その後は幼馴染と無事結婚して幸せな結婚生活を送った。実はアレクサンドラのモデルの作品のファン、てかアレクサンドラのファン。


偽アグネシア

他国の間者。実はこの人が転生者だったと言う設定があったが、結局没になった。その後洗いざらい吐いて処刑された。

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― 新着の感想 ―
[一言] >『陛下の態度はいつもより高圧的なのです。私も何度も注意しているのですが聞きもせず、それどころか私にまで怒鳴るしまつなのです』 ⇒陛下?殿下では?攻略対象は第一王子でしたよね。
[一言] ところで愚弟という言葉は「愚かな私めの賢い弟」という意味ですよ。 小職や愚生のように自分を謙った言い方なのです。
[気になる点] 前世の話ですが、たとえ母親であっても父親の承諾なく子供を連れ去るのは犯罪です。 多額の慰謝料を請求されての離婚や、下手をすれば実刑もありえます。 また婚約破棄の影響で国が滅びる可能性…
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