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ある男の物語

ここに記すは波乱万丈な男の生き様!

とくとご覧あれ!

・・・まぁ、楽しんで頂ければ幸いです。

 「なぁ、そこのあんた。ちょっと俺の話に付き合わないか?いいじゃねぇか。どうせ暇なんだろう。ここの払いは俺が持つからよ。


恋愛物語の主人公って奴ぁ幸せ者だと思わないか?どんなに苦しい状況に追い込まれても、最後には必ず愛する者と結ばれるんだからよ。

 けどよ、現実はそんなに甘かぁない。そうだろう?

 この世に、恋を実らせられる奴がどれほどいるってんだ?

 愛する者に、心から愛された者がどれほどいるってんだ?

 俺は26年と2ヶ月しか生きちゃいないが、3人の女を好きになった。だが俺の恋は物語のようにはいかなかったんだなぁ。これが。

 今からあんたに俺のくだらねぇ人生を語ってやるよ。まぁ、そんな顔しないで聞いてきなって。しがない一兵士の遺言さ。この先の人生の参考にしな。

 なんたってこの世は、どうしようもなく非情だからな。




 まずは俺が15才の時の話だ。11年も前の話だな。その頃は俺も若かったんだぜ?考える事も、な。

 それまでダチと馬鹿ばっかやってた俺も、一丁前に好いた女ができたんだ。身の程知らずと笑ってくれよ。好いた女は7つも年上の、貴族様の御子女だぜ。

 どこで知り合ったかって?俺も落ち着きがなかったからな。仲間集めて馬鹿なことやってたのさ。貴族の屋敷に侵入して度胸試しとか、な。当然見つかりゃただじゃすまねぇ。そんなことして何が面白いんだか、今じゃわかんねぇけどな。

 で、その時にへまやっちまってよ。見張りに見つかっちまった。闇雲に逃げ回った末に、気が付きゃ女の部屋に飛び込んでてな。隠れ場所を探してたらきれいな声で呼ばれたんだ。誰だってな。そのときは、もう観念して罰を受けようか、それとも女を盾に逃げ延びようか考えてた。今にして思えば物騒なこと考えたもんだ。そしたらそいつは窓を開けて、言ったんだ。この木を降りれば簡単に逃げれるってな。こうも言った。また今度お友達も連れて遊びに来ないか、って。そのときは何も言わずに逃げた。良家様の御子女殿は考えることがわからん、とか思いつつな。

 これが最初の出会いさ。へんてこだろ?

その後、ちょっとしてから行ってみたんだ。何となく、暇つぶしにな。いや、違うか。ホントはちょっと気になってたんだ。あんな綺麗な声で話す女が、どんな顔してんのかな、ってな。あん時は部屋が暗くてよく見えなかったんだ。思えばその時既に魅かれてたのかもしれねぇな。

実際会ってみると、やっぱ綺麗な面してたな。そん時ぁ気づかなかったが、俺は確実に一目惚れしてたね。話してみると、ますます魅かれていった。魅かれていっちまった。

俺は何度も、それこそ毎日会いに行ったよ。庶民のくだらねぇ日常の話を、その女は楽しそうに聞くんだ。その女にとっては退屈しのぎでも、俺にとっては何よりも幸せな時間だった。ダチを連れてきてもいいって言われてたんだが、俺は結局最後まで連れて来なかったな。わかるだろ?連れてきたくなかったのさ。

逢ってから半年経った頃だ。その女は城に行くことになった。ほとんど屋敷に帰ってくることはないらしい。その時は理由なんて全く考えてなかった。愛しの女が手の届かないトコに行っちまうんだ。それどころじゃねぇだろ?俺は、それはもう苦悩したさ。三日三晩悩んで、ようやくこの燃え上がる想いをぶっちゃけようと決心した。あぁ?大袈裟だって?そりゃ他人から見たら滑稽かもしれんが、俺はその時本気で悩んだんだよ!若かったしな。だがな。その時はもう手遅れ。そいつはとっくに城に行っちまってたのさ。間抜けだよなぁ。

諦めきれない俺は考えた末に、兵隊に志願することにした。志願兵としてなら俺みたいな平民でも城に入れるからだ。我ながら浅はかだったなぁ。もう家族にも会えなくなるかもしれねぇのに、あの女に告るためだけに俺の将来決めちまったんだからな。

だが、ただの一兵士がそうそう城ん中をウロチョロできる訳がねぇ。あの女もかなりの身分だったしな。だから俺は頑張った。それなりの身分を手に入れるために。戦場にだって率先して出たし、この手で幾人もの敵兵を手に懸けた。そうして手を血に染めながら功績を挙げて、遂に王子直属の親衛隊にまで昇りつめた。

そして、あの女に再会した。ただ、最悪なことに再び会った女は王子の妻になっていた。笑えるだろ?俺はとんだピエロだったのさ。

その時、俺の世界は崩壊した。狂っちまったのさ。気付けば俺は、その手に携えてた槍で王子を刺してた。躊躇いは、なかった。その場は、それはもう大騒ぎさ。衛兵に取り押さえられる中、俺は極めて冷静に考えてた。急所を外しちまったな、と。ちゃんと殺してやらなきゃ駄目だな、と考えて俺は夜中、牢を脱走した。城のことは知り尽くしてるからな。

王子の寝室に侵入して滅多刺しにしてやろうと思ってた。正気の沙汰じゃねぇよな。その時の俺はどうかしちまってたんだ。だが、都合の悪いことに狂気の元凶もそこにいた。元凶は俺の前に立ち塞がって、どうしてこんなことをするのか、もう止めてくれ、と悲しい表情で訴えてきた。その顔を見たときに、俺はハッと気づいた。自分のしようとしていることに。この顔をこんな悲しみに染めたのは誰だ?俺は目の前の女に、こんな表情を向けて欲しかったのか?そう考えると、俺の狂気は霧散した。と同時に、この女の前から消えようと思った。互いのためにも、そのほうがいいと思ったんだ。ただ最後に、例え傷つけることになるとしても、俺の気持ちは伝えたかった。俺は女にゆっくり近づいて、『俺はあんたが好きだ。』そう囁いて、槍の柄で当身をくれて気絶させた。

そのまま隣国、この国に亡命して来たんだ。王子が憎くないと言えば嘘になるし、そのまま残れば間違いなく処刑されるしな。

亡命は極めて簡単だった。他国の城の構造は熟知してるし、王子に重症を負わせたことで疑われることもなかった。直ぐに一部隊の隊長を任されたよ。18歳の時だ。




これが初恋の結末さ。どうだい?酷いもんだろう?だがな、大半の奴は恋に敗れてるし、そういう奴はいつも辛い思いをするものさ。振った振られたは互いに辛いけどな。あんたも経験あるだろ?まぁ俺のは特に酷いがな。自業自得ってやつだ。




2度目の恋は俺が20の時だ。

その頃には俺も初恋のことは忘れていた。いや、戦場に忙殺されて考える暇もなかっただけか。何しろ俺は率先して前線に立ってたからな。お陰で俺の部隊は名誉と死傷者が絶えなかった。

そんな俺の部隊の副隊長は女だてらに突撃兵でな。ある日そいつに言われたんだよ。俺はまるで、死にたがってるように戦ってるそうだ。何だか心を見透かされたようで面白くなかったし、そこまで思いつめてるつもりはなかったんだが、そいつはしつこく絡んでくるんだよ。正直ウンザリしてたぜ・・・。

何時だったか、俺の母国と戦うことがあった。しかも何の因果か、俺の所属してた部隊とぶつかっちまってな。戦いながら散々罵声を浴びたよ。そいつらからしたら、俺は裏切り者だからな。戦場で死ぬなら、こいつらに殺されるのがいいかもな。そう考え始めた時、あいつが言ってた事もあながち間違いじゃなかったなって思い知った。それに、俺にはそいつらを殺すことなんて出来なかった。だから、槍を捨てて無防備な姿を晒したんだよ。かつての仲間に殺されるために、な。俺に怨みの籠った一撃が振り下ろされた。

その一撃は・・・結局俺には当たらなかった。副隊長が俺を庇ったんだ。きれいな紅い血が俺の視界を覆った瞬間、俺は再び槍を手に取った。その女を、俺が愛する女をこれ以上傷つけない為に。もう、俺のために大切な存在が傷つくのは嫌だったんだ。敵がかつての仲間だろうが、そして俺が裏切り者だろうが関係ない。俺は今を生きている。だから過去は関係ねぇ。そう吹っ切れて槍を振るい、俺は『過去』をすべて殺した。

すべて殺し終えた時には、女はすでに虫の息だった。なんでこんなことをって聞けば、俺に理由のないまま戦場で死なれるのが許せなかったらしい。はっきり言って俺は強い。それほどの奴が腑抜けたまま、戦場で倒れるのは許さない。戦場で死ぬなら志しを持て、と言われた。

女の戦う理由は、婚約者の仇討ちだった。昔、戦争に巻き込まれ死んじまったらしい。だが、女が兵士になった頃には仇の国はすでに滅んでいた。だから、戦争そのものを仇に今まで戦ってきた。一つでも多くの戦場を無くすために。

だったらこんな所で死ぬなって言ったんだが、後は俺が仇を討ってくれるそうだ。まったく、トンだ業を背負っちまったもんだ。その男に会ったこともねぇのによ。でも、悪い気はしなかったな。

そうして俺の想ってる女は、かつての婚約者のことを想いながら、逝っちまった。




そりゃあ悲しいさ。結局俺の想いは伝えられなかったしな。でも、そのことを後悔しちゃいねぇ。何も告げないほうがいい時だってあるんだ。





・・・もう時間がねぇな。俺の最後の恋の相手はこの国のお姫様だ。そんな身分でありながら、国民全員のことを考えていらっしゃる。危険もかえりみず、こんな国境近くの街にまで民を励ましに来てる。

そのことが外に漏れりゃ、敵の大群が押し寄せるだろうなぁ。この街みたいに。あのお方のことだ。そのことに責任感じて、俺たち足止め部隊に混じってここに残ろうとするだろうなぁ。

そうだろう?お姫様。何してんだ?こんなとこで。ここはあんたのいる所じゃない。今は皆最後の宴で盛り上がってるが、ここはもうすぐ5000の敵兵で埋め尽くされる。確かに、こんなことになったのはあんたが原因かもしれねぇ。だがな、ここにいる誰も皆あんたを恨んじゃいねぇよ。

・・・いいことを教えてやろうか。ここにいる誰もが、命令されてここにいるんじゃねぇ。皆それぞれ大事な者のためにここにいるんだ。子供のため、親のため、家族のため、男のため、女のため、そして俺はあんたのために、それぞれ皆守る者のために戦い、散っていくんだ。こんな恋愛物語だって、ありだろ?

だから・・・走れ!まだ最後の船が残ってる!あんたのために出港が遅れるんだ。それで船が逃げ遅れたら、俺達ゃあんたを許さねぇ!守るためにここにいるのに、何も守れねぇままに俺達を死なすつもりか!だから・・・行ってくれ!」

「・・・わかりました。でもひとつだけ、言わせてください。

私は・・・あなたのことが、気になって仕方なくなってしまいました。あなたのことを想うと、きっと夜も眠れない。あなたが死んでしまえば、私はきっと深く傷つくでしょう。

だから、生きて帰ってきなさい。そして、この私の気持ちに・・・責任をとりなさい。

それでは、また後日に」

そうして、姫は去っていく・・・。

「・・・ははっ!こりゃ死ねなくなっちまったな。一国の姫様があんなに顔赤くして・・・。なんか罰があたるかもな!

それじゃ俺たちも、戦闘準備開始だ!」





丘の下は、地も見えない程の兵隊で埋め尽くされている・・・。

「・・・か〜、こりゃ凄いな。5000どころか7000はいるじゃねぇか。対してこちらは・・・150いればいいとこか。上等上等。何せ俺がいるからな。

よし!行くか!俺の物語の終幕、派手に決めるぜ!せいぜい俺の引き立て役になってくれよ!」




そして、長い長い戦いの夜は始まる・・・。


彼の物語はいかがでしたか?

ほとんどが一人の人物の言葉という変わった作品ですが・・・。

読んでくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後に驚きました。意外な結末で良かったと思います。
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