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9.

途中で言葉が消えていた。それをなぞるようにかきけされ、伸びた赤い液体が最後親指と人差し指のような形をしてなぞるその後は消えていく。

 いったいどういうことなのか。

 先に進みたくても進めない。なのに進めという。

 この人の山をかきわけて進めというのか。

 走ってはいけないという忠告は確かに破ってしまった。そのせいで行き止まってしまったのだろう。

 今度はしっかりと忠告は守るべきなのか。少し顔に手を当てて考えてみる。

 

 「ガゴン、ガゴン、ガゴン、ガゴン」


 この音は、まさかと思う。

 顔に手を当てたまままたまた聞えてくるその音が聞こえた後ろにすぐに顔を向けてみた。

 骸たちがこちらへと再び行群を始めきているじゃないか。

 なんということだ、音もしなかったし全然こちらへきていることなんて気づけなかった。

 やばい、そう思う。

 進む道もなければ戻る道もない。いったいどうしろというのか。

 僕を信じるなら、最後は歩いてまっすぐ先に進むんだ。誰かはそういっている。僕とは誰なのか、どこかでこいつはみているのか。

 考えている暇はもうなさそうかな。

 骸らはもう見えるところまで来ているのだから・・・。

 仕方がない、言われた通り前を歩いて先へと進もうとしてみることにする。

 床に掛れた赤文字の忠告を踏み越えて、言われるがままに歩き出す。

 するといきなり骸らは勢い増してこちらへと差し迫ってきた。

 本当に、本当に歩いていていいのか。このままだと奴らに追いつかれてしまう。そんんでもってもうすぐ目の前には肉壁がもう道の終わりを指示している。

 もう忠告に従うしか何も考えれはしなかった。

 歩いて、そのまま歩いて、いよいよと肉壁に手が触れる。

 するとなんと、なにかがこすれる音と共に、肉壁たちはその体を押しのいて道を開いたではないか。

 歩かなければ開かない仕組みになっていたのだろうか。とにかく先への道は開かれた。このまま逃げ切ることができるかもしれない。

 骸はさらに加速してこちらへと向かいだす。

 骸は肉壁まで走りこむと手をこまねくものや骨を投げつけるものもいた。だが肉壁より先へはこちらへとはこようとはしない。

 どうやらこれないのかもしれない。

 ついそれをみて安心した。そのせいか今までのくせで足が駆け足気味に一瞬なんてしまう。


 「チガウ、チガウ?チガウ、チガウ?」


 すぐに駆け足は止まってしまう。それは自発的なものではなかった。

 勢いよく進んだ先の肉壁から一人顔をむくりとあげて勢いよく手を差し延ばしてきた。何かを喋り、じっとこちらを睨みつけてくる。

 もしかするとここでも走るとなにか制裁を受けることになるのかもしれない。

 その手は永遠とこちらへと伸ばされ、睨み付けるその目はこちらから離そうとはしない。

 改めて先ほどの忠告を胸に刻み、その差し延ばされる手を避けて先へと進む。


 「チガアアウ!」


 避けて通ろうとしたその時だ。肉壁のそいつが身を投げ出してこちらへと掴みかかってきた。

 突然の出来事に服を掴まれそのまま肉壁へと引きつけられてしまう。

 あわてて服を引っ張り取り返そうとするが布がちぎれて尻餅をついた。

 ちぎれた布を片手にそいつは肉壁へとうねり戻り、周囲の他の奴らとその布を取り合ってそこらいったいの腕がうじゃうじゃとひしめき合いはじめる。

 この場にいてはいけない。そう感じ取った。

 立ち上がって今度は驚いていても忠告を守って先を進む。

 肉壁は次々を道を開けて道を指示してくれていた。

 どうしても後ろの骸やひしめき布を奪い合う肉壁が気になり何度も振り返ってしまう。

 そして何度目かの振り返りの時だ。体が急に落下していく感覚に襲われたのだ。

 何が、どうしたのか。平行線に見えていた骸と肉壁が視線と同じ高さになったかと思うと黒い壁に遮られまったく見えなくなってしまう。

 急な出来事に体のバランスを失い手足をバタつかせた。だがどれだけ手足を動かそうとも何にも触れれるものはなく、ただ目に映るのは暗闇の世界と今落ちているのだという感覚だけだ。

 いったいどこまで落ちていくのか。顔をおちる方へと向けてみるが地面も何も見えやしない。すべての終わりを察したその時だ。


 「ザザザザザザザザ・・・・」


 何の雑音だろうか。何かが聞こえてくる。

 そしてその音が段々と近くなりその音に耳を澄まして正体を探った。

 

 「ズザアアアアアアン!」


 だがそれもつかの間、音が近くなったかと思えば体が今度は何かに包まれるような感覚に襲われる。

 手足をまたばたつかせるが何にも触れることはできない。だが何かに包まれている感覚は確かだ。

 あれ、息ができない。口や鼻から別の何かが流れ込んでくる。

 苦しい。苦しい。息が、呼吸ができない。

 あれ、手足が段々としびれてきた。あれ、段々頭がボーっとしてくる。

 あれ、あれ、あれ・・・。


 


 「もし、もし・・・・大丈夫ですか。目をあけてくださいませ。どうか、どうか」


 苦しく悶えた感覚の後、気付けば目の前には髪を後ろで結んだ女の子がいた。その子はしきりこちらへと話しかけてとても懸命な表情でこちらをみている。だがこちらが目をあけて視線を合わせるとその子の顔は和らいだ。


 「あぁ、良かった。良かった。ここの川に流されて生きていらっしゃるなぞ運がよろしいですよ・・・あぁ・・・よかった。」


  川、いったいなんのことだろうか、流されてきたとこの子は言う。水にぬれて重たくなったからだをお越しあたりを見渡す。

 ここはいったどこなのだ。

 あたり一面の草原とそれはかき隔てる大きな川が目の前を流れていた。

 目の前の川はそこで二股にわかれており、ここで合流して一本の河川となっている。ここから川を越えた向こう岸にはあちらこちらで群れて咲く彼岸花が草原から浮き出て生えてみえた。

 遠くの景色には大きな山が雲を越えてそり立っていた。すぐ後ろにも小高い山がそびえたつ。

 いや、まて、先ほどまでずっと下に下り落ちてきたかと思えば雲がある。

 どういうことだろうか、それになんだかこの雲、いつも見ているものよりもとても低い位置に浮いているような気もする。

 あたりの様子に困惑していると女の子が不安げに話しかけてきた。


 「あの、大丈夫ですか。私、結と申します。あなた様は・・・いえ、なんでもないです。」


 ゆいというこの女性、歳は15,6といったところだろう。たまに京都でみかけるような浴衣がとても似合う黒髪の綺麗な子だ。

 ここはどこかと尋ねてみる。


 「ここは、そうですねぇ。あなた様にとってはまだ歓楽ノ途中ノ場。でも過ぎれば終わりを迎える。そんな場所だと思います。」

 

 要領を得ない回答に困惑した顔で彼女を見つめる。彼女はそれに気づいてあぁあぁと手を大きく振りながら会話を続けた。


 「すいませんすいません。その、ようはここはあなた様からすれば帰り道の途中といったところでございましょう。」


 いきなり歓楽だの終末だのよくわからない言葉に戸惑ったが帰り道の途中と聞いて少し安心することができる。

 だがこの広い平地のどこにその帰り道があるというのか。


 「うーん、それはですねぇ・・・私も帰ろうと何度かしたのですが・・・あ、ここに詳しい告徒さんが戻ってきましたのでそちらの方にお伺いするといいと思います。」

 

 後ろにそびえたつ山のふもとから一人の人影がこちらへと向かってくる。

 それはゆっくりと近づきながら手を振っていた。


 「おや、見ない顔だなぁどちらさんで?」

 「本筋の川から流れてここへたどり着かれたみたいです。」

 「ほぅ・・・そうかい、でもまた・・・流され続けずここへたどり着いた事はまた運がいい。ということは君はここに来る途中何かに追われてここへ来たのだろう?」


 こちらへと向かって来たのは20代後半くらいの男性だ。メガネをかけていてこちらも青色の浴衣と灰色の布を肩に着ていた。

 彼の言う何かとは骸の行群のことだろうか、その骸に追われて肉壁の中を進み、気づけばここへきてしまったのだと彼に伝える。

 

 「そうかい、じゃあ赤文字の案内は読んだのではないのかい?走ってしまったのかい?」


 返す言葉もない、素直にその通りだと答える。


 「そうかい、本来ならもっと早い段階で安全な帰路につけるんだが・・・本当、まぁ最後の最後で切り抜けたらしい。良かった良かった。」

  

 告徒はにこりと笑って肩を叩く。だがすぐに顔色を悪くして考え込むそぶりをみせた。


 「だがここから帰るとなるとまた難しいよなぁ・・・」

 「告徒さん、告徒さんは本来ここの案内役なのではないのですか」

 「あぁ・・・そういやぁそんなことも任されていたかもしれない・・・」

 

 どういうことなのか告徒に尋ねる。


 「いやいや、まぁあれですよ。ゴホン。えぇー、改めまして、この部屋の案内役を務めさせていただきます告徒と申します。久方ぶりゆえ至らぬ点はご容赦くださいませ。」


 告徒は急に改まり自己紹介をすると深々と頭を下げはじめた。

 ここの部屋の案内役というがここは部屋といった様子ではまったくない。

 どこか違う世界に出てきたような、そんな気がする。その点についても告徒に尋ねた。


 「うーん、それを説明するのは・・・。それよりもここからどう帰るのか。それを考えなればいけません。」

 「告徒さん説明しなくていいんですか。」

 「知らないほうがまだ良いでしょう結さん。それにこの方はまた、結さんたちとは違うようですし」

 「あ、それもそうでしたね」


 告徒と結は何かを確かめ合うように会話を進める。そしてお互い合点がいったところで再びこちらへと話しかけてきた。


 「この部屋はですね、あの遠くに雲を突き抜けそびえ立つ山が見えますでしょう。その頂上をめざし、元いた最初の場所へと帰りましょうというそういった趣旨の部屋となっています。」


 告徒はその山を指差してそれを説明し始める。だがその山といってもここからどれぐらい離れている場所にあるのか。それは数十キロ、下手をすれば百数キロは離れているようにも見えた。

 告徒にすぐに帰る方法はないのかそれを尋ねる。


 「もしこの前の段階で歩いて進んでいただけたらあの山のふもとで案内役に合えるところなのですが・・・。もう過ぎた話、帰り道はあの山の頂上にしかありませぬ。」


 こちらとしては帰り道があの山の頂上しかないだなんて考えたくもない事実だ。ただここへ遊びに来ただけなのに何故このような仕打ちを受けなければいけない。今までに溜まっていた恐怖と怒りのすべてを尖らせてつい彼に掴みかかってしまう。


 「申し訳ない。ここへ来てしまってはもう私としても案内役の務めとでしか今はお手伝いさせていただけないのです。」


 告徒は掴みかかられた手を持って謝る。そして謝るのも束の間だ。続けてこの部屋について説明を始める。


 「よろしいですか、この先この部屋では何人たりとも誰とも会話はしてはござらぬ。よろしいですか、ここを過ぎた先ではどんなものを見ても、誰に話しかけられようとも返事をしてはなりませぬ。」


 告徒はただならぬ形相で襟をつかんだその手を強く握りこちらに訴えかけてきた。


 「よろしいですか、ここを越えて、もし最後しかと元の場所へと戻れたあとでも、ここから離れる迄は誰とも口はきいてはなりませぬ。二度は言えませぬ。どうか、どうかこればかりはしかと覚えておいてください。」

 

 告徒のただならぬ気迫に押されて掴んでいた手を自然と離していた。

 告徒は襟を正すとこちらへと後ろについてくるようにと言って歩きはじめる。


 「本当に、申し訳ありませぬ。私としてももっと何かできればよいのですが・・・・役目の中でしかあなたにお力添えすることができませんので」


 告徒は前を向いて歩きながら話しかけてくる。その役目たは何なのか彼に尋ねてみた。


 「それもあまりお答えできないのです。ただもし、あなたがこのまま帰れなかったその時には、はたまたもう一度お会いすることになるやもしれませんね」


 彼は言葉を選びながら話しているように感じ取れた。何かを隠すように、何かを守るように。

 彼は川沿いを歩いて砂利道を進んでいく。結はそのまま先ほどの場所で立ち止まり、こちらを見送っていた。

 どこかへと向かうその道中、これ以上の会話を彼とすることはない。

 そして岩と岩を白い綱で結んだ何かが置かれる手前で彼は立ち止まり振り向いて再び話しかけてきた。


 「ここまでしか私はお送りさせていただくことはできません。この綱を越えると戻ってくることはできず、次の案内役に出会うまでは一人で山へと向かうしかないのです。」


 彼は視線を地面に落としながらこちらへと話しかけていた。次の案内役にはどこで会えるのか、この先はどうなっているのかを彼に確認する。


 「この先がどうなってるかは言えませぬ。次の案内役は山のふもとでしか会う事は出来ないでしょう。」


 彼は懐から一枚、紙を取り出すと手渡した。


 「それは簡単な地図のようなものにございます。よいですか、先ほどの私の言葉お忘れなく。ここでは決まり事は絶体なのです。どうか、良い旅路を・・・お祈りしております。」


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