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17.

我は、すぐさま我が子の行方を追う。

 その地一帯は焼けた野原となり、わが子の行方もその書かれていた村も土地も跡形もなく燃え尽きてしまっていた。

 我が子よ・・・どこへいったのだ。そなた、死んだと申すのか。

 まだ残る母を残して何処へ行ったのか・・・・。

 子は、それを境に手紙も、行方もわからなくなってしまった。

 この出来事は深い喪心に我を引きづり、幾年の年月かわからぬほど我は城の中で閉じこもりこの世を愁いて嘆いていた。

 あぁ、送り出した事は間違っていたのか、出会うその人が悪かっただけなのか。いや、人などたいして変わったものではない。みな欲に駆られ、自己のために行動し、利のないところには顔を出さぬ。そうだ。

 人のためなどと思うたばかりに我が子は死んでしまったのだ。我が子は人によって殺されてしまったのだ。そうだ。人だ、人が悪い。人が憎い。人を喰らいたい。我は間違っていた。

 人はやはり、喰うものだ。

 それからまた、あたり一帯の人という人を喰らって悪名をとどろかせる。

 泣き叫べ、慈悲を仰げ、それを救済する我が子を殺したのはお前らだ。

 お前らは助ける価値などない家畜以下の生き物だ、互いをむさぼり、互いを殺し合い、お前らは醜い生き物だ。

 気づけばあんなにも愛していた子供達ですら喰ろうていた。それほど我が子の死というものは我に突き刺さる。

 そんな鬼と恐れられる生き方に明け暮れていた時。

 一人の老婆が黄泉の国より我の元をたずねてやってきた。

 その老婆は一人の赤子を抱いてやってくる。

 この時の我は誰かれ構わず喰ろうていたこともあってその老婆も尋ねてきたその場で喰ろうてやろうとした。

 だが、その腕に抱えられる赤子を見てその牙を収めてしまう。

 どういうことか。どういうことなのか、その老婆の腕に抱えられるその赤子は姿形が変わってしまってもわかる。

 死んだと思っていた我が子ではないのか。

 老婆に尋ねる。いったいこの子はどうしたのかと。いったいどこからこの子を連れてきたのかと。

 老婆は答える。黄泉の国の入口で寝ていたのさと。

 なんということだ・・・。

 黄泉の入口と聞いて我は愕然とした。あぁ、やはり我が子は死んでしまっていたのかと。再び会えたかと思ったのに赤子の姿になってしまったそなたは死んでしまっているのかと。

 

 我は・・・・・悲しいぞよ。

 そなたを明るい未来へと送り出したつもりがこのような、このような再開になってしまうなど・・・。我は信じたくはないぞ・・・。あの元気な笑顔をもう一度みせておくれよ・・・。

 

 老婆はしばらく黙って泣きわめく我を見ている。

 我は老婆の存在など気にせず泣き続けた。それは力尽きる迄、喉の奥が擦り切れ血を吐くほどに泣き続ける。

 老婆は、私の荒くうなる肩が静まったのを見計らって我に話しかけてきた。


 「もし・・・もし・・・この赤子、やはり鬼子母神様のお子でありましたか。いやはや、お気持ちお察しいたします・・・。」

 「うるさいわ、お前に何がわかるというのか、我のかわいい、かわいい・・・かわいい・・・わが子が・・・」

 「えぇ、そうかもしれません、口がすぎました。ですが鬼子母神様。まだお気を落とされるのはまだ早いかもしれませぬぞ。」

 「・・・・・・・・・・」

 「よろしいですか、鬼子母神様の寵愛されたそのお子はまだ死んではおりませぬ。」

 「どういうことか・・・。」

 「お子はまだ力強く生きております。ただ、心を閉ざしただけなのです。」

 「どういう、どういうことなのだ。」

 

 その老婆は赤子を少し浮かび上がらせて抱き直すと赤子を見て話し始める。

 

 お子は鬼でありながら、善良な美しき心を持ってお生まれになられました。それゆえ自分の鬼たる血命とその正しき心の葛藤に悩まされていたようです。それゆえ人の醜態を垣間見て自分の正しさとは不必要ではないのか。

 正しさがあろうが悪があろうが人というものは同じことを繰り返し、手を差し伸べても、改心の兆しがみえたとしても時がたてばまた同じことを繰り返すのが人間なのではないのか。そう結論にいたられてしまったようです。

 それはとても投げやりで、自分がもう考えるのをやめるがために、もうこれ以上人を嫌いにならないために無理やりこじつけたような、そんな結論。

 お子はそのような思考を繰り返し、なんとか負の思考から逃げ出そうとされていました。ですが結局、人と深く関わり人の深層心理に触れ続けた結果。負の連鎖は止まることなく。

 お子は自分のせき止めていた荒波を決壊させてしまいました。

 その姿は見るも無残、やった本人もすべてが虚無と化すがごとく空っぽの鬼となってしまいます。それは正しき心も、鬼たる血命も。

 

 お子は、最後解き放ってしまったその波を抑えるがために、心を捨ててしまわれたのです。それはもうこれ以上自分の正しき心に嘘をつき続けぬがために。それはもう鬼に染まる自分がゆるせなかったがために。

 お子は最後、残り余ったわずかな意識の中で自らの心臓をえぐり空へと掲げます。

 鬼へと染まりきるその前に、自分が自分を嫌いになるその前に。

 お子は、自分の正しき心も醜悪なる鬼たる心もまとめて現生の空へと解き放ったのです。

 解き放たれたお子の魂は人々の心へと沈み入り込み人を染め上げていきました。

 それは正しき心もあったはず。ですが鬼の血命たるその心、人を見て黒く染まりきってしまった正しかったその心は、人々を殺戮と強奪に、自己の欲求のみを駆り立て、世の人々を混乱に貶めてしまいます。

 結論ともいうべき惨状は母上様も直に拝見されたかと。

 そして人々は、結局はお互いを喰らいつくし、人一人残ることはありませんでした。

 「そのような話などもうよい・・よいのだ・・・もうききとうない・・・それよりも・・・我が子は・・・わが子は生きて帰ると申すのか・・・。」


 老婆はうなづいて話を続ける。


 お子の魂は今、現生の人の中にあるのです。それは何度も移り渡り、どこにあるとはわかりません。

 ですがその魂は、咎人の心に残っていることでしょう。

 お子の魂に触れてしまったものは常軌を保ってはいられぬはずです。

 この眠り続けたお子を呼び起こし再び会いまみえたいのでしたら咎人の魂をお集めになられることが近道かと。

 鬼子母神様。我は、この眠るお子との対話の中で母を愛され、母への強い思いが溢れて聞こえてきました。

 お子は鬼子母神様にも劣らぬすばらしき人であります。

 私はもう年を取り老衰を待つばかりの老いぼれです。ですが、愛溢れたお二人の家族を、このお子を、鬼子母神様をお助けしたい。そう強くこのお子を見て思いこの場に参上つかまつりました。

 力及ばずながら、鬼子母神様、この徳あるお子のために私めに協力をさせてはいただけませんでしょうか。


 「願ってもなきことよ・・・あぁ・・・我が子は帰ってくるのか・・・本当に、真に返ってくるのか。」

 「真にございます」

 「あぁ・・・なんということか・・・頼む・・・。この通りだ。共に、わが子を呼び戻しておくれ。なんと感謝を述べていいのかがわからぬよ。」

 「鬼子母神様。感謝の言葉などいりませぬ。このお子の溢れる優しさに私は魅かれて動いたのです。ですがこれから長い道のりになるでしょう。共にこの優しき子のためにがんばりましょうぞ。」

 「ありがとう。ありがとう・・・・。」

 「いえ・・・礼などいいのです。これからなのです鬼子母神様。お互いこのお子を呼び起こすまであきらめぬとここに誓いを立てましょうぞ。この、誓紙にお互いの名を刻みましょうぞ。共に、お子のために。」

 「おぉ・・・もちろんだ。もちろんであるとも。」

  



 はっとして気がついた。黒いモヤがこちらからすぎさり洞窟の暗闇へと消えて行ったのに気付いてようやく自分がもどってくる。

 何か、夢を見ていたような。なにかぼやけた世界で何かを見ていたような気がする。

 それでも、はっとして気づいた目の前にはまだあの大きな鬼子母神を名乗る鬼も、それにひざまずく手洗鬼も他の鬼もいた。

 なにかの幻想、夢が続いていたのかと目の前の光景を虚偽にしたかった。だがそれは叶わない。

 やはり自分は、わけのわからない鬼のいる洞窟の中で隠れている。

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