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16.

 「いってらっしゃい」

 

 見送る我が子は拳を空に突出し叫んで言った。


 「必ず、必ず立派になって帰ってきます。必ず母をも驚かせる者になって帰ってくる事楽しみにしてくだされ。必ず。必ずですぞ。」


 あぁ、楽しみだったとも。我と久方ぶりにあったかと思えば城にある本という本を読みつくし、読み終えたかと思えば自分の仕事場を構えた我が子。

 もうすでに我など越えている。もうすでに立派な大人さ。それよりさらに自分を育もうと前進する我が子。いったい、どんな立派な者になって帰ってくるのだろうか楽しみだったさ。

 なのに・・・。なのに・・・。なのに・・・・。なのに・・・・・。



 「母様、母様。おちついてくだされ、お体に触ります・・・後ろで眠るその子にも響きます。今は・・・今は怒りは抑えてくださいませ・・・。」

 鬼子母神の体が赤黒く染まり、体の節々から角が生えはじめる。

 鬼子母神はその自分から生える角を掴むとへし折り始めた。

 「わかっておる・・・わかっておる・・・・・」


 末子が我の元を離れてからというもの、末子は律儀に手紙を毎月送ってきてくれた。

 それは常々吉報をしらせるもの、そこで見つけた不思議な物や親しくなれた友人を紹介するもの、それはそれは見ていて楽しくも愉快で、わが子と離れた寂しさをうめてくれる、我にとってはかけがえのない宝だ。

 だがそれは唐突に、仕事場とその仲間ができたという知らせの後に子から送られるその手紙は様子を変えた。

 人とは何なのでしょうか。それが最初の異変を教える文面だ。

 一時仲睦まじく会話をしていたかと思えばお互い離れたところでお互いの陰口を言い合います。お互い陰口をいいあっていた事を知った彼らは何をするわけでもありません。謝るわけでもなければ、そのままただ距離を置きます。

 人とは何なのでしょうか。

 同じ人であっても自分の気持ち一つで、気に入らない事一つで人一人を自分の視界に入らなくなるまで追い詰め阻害し心を閉ざします。

 人とは・・・こういうものなのですか。

 子は、はじめて深く関わる人に対して困惑しているようだった。初めて子が弱気に手紙を送ってくる姿を見て我はすぐさま返しの文を帰してやる。

 その人がすべての人に当てはまるわけではありません。それでも今あなたの目の前にいるその人はあなたの大切な仲間なのでしょう。

 二人がまた同じように仲良く話ができるように努めてみてみてはどうですか。それは私にも他の人間にもできることではなく、仲間たるあなたにしかできないことなのだと思います。

 人とは言わずも節々で予想をはるかに超えた思考を繰り広げているもの。その二人にもお互いが言わずとも、あなたにはわからずとも思う事あっての事なのでしょう。

 これは他人であるあなたがわかりえる事ではないのかもしれません。ですがわかろうとする努力が、その答えを教えてくれる。私はそう思いますよ。

 そう書いて送ってやった。

 末子はその後の経過も送ってくれる。

 子はその手紙を見て二人に直接話をきいて見たそうだ。それはまっすぐすぎる答えで、考えても二人の意図というのはわからなかったらしい。

 二人は子に答えた。気に食わないのだと。

 一方は言う。実力もないのにそれ以上の力があるように見せつけ慢心して高ぶり話す奴がきにくわないのだと。

 一方は言う。少し自分より世間に認められているからと慢心して自分が絶対に正しいという奴が気に食わないのだと。

 子は言っていた。なんとも人間は不思議だと。

 一方に言ってやりたい。何故完全とは言えぬ人の知識であるのに自分の知識が正しいと言いきれてしまうのか。何故今見えているそれがすべてだと言い切れるのか。他にも知りえない何かがあるのではないのか。

 一方に言ってやりたい。自分より優れたものを素直に認めれぬそれは自分がそれに負けたくないという向上心にもなる。だがそれは度がすぎればその伸び城ある仲間の成長を止めてしまうものだときづけないものか。

 子は二人の仲裁に入り、なんとかその場はお互いの腹の中を曝け出すことで解決したという。

 子は言っていた。人と人との関わりはこんなにも繊細で気づかぬうちに壊れかけているものなのだなと。

 これも子の成長だろうか。一時悩みの文を見て不安になったがいい経験になったかと思う。だが今回かぎりの事ではなかった。

 次々と送られる人と関わる上での悩みの文。

 我が子はとても、感受性が高く、人の顔色が手に取るようにわかりすぎることからいつも悩んでいるようだ。

 しばらく足ってまた悩みの文。今度は、自分の今いる村が貧困で苛まされているというもの。

 

 その年は天候が悪く、どの畑も作物があまり実らなかった。

 こればかりはどうしようもないと我が子は今ある金であちらこちらから村人が冬を越せるだけの食物を探し回っているようだ。

 これを見て我はすぐさま物資を送ってやろうかと部下に声をかける。だがそのまま手紙を読むと子はその支援をやめると書いてあった。

 いったいなにがあったというのか。その手紙をもう一度読み返す。

 村にある食料の備蓄は底を尽きかけ、人々は不安に駆られていた。これをみて私は彼らにどうにかしてみせると言い残すと村を飛び出す。

 なんとか周辺の村を歩き回り、ひと月ほどの食料をかき集めて一度村へと戻ってきました。二週間ほどたってからだったと思います。

 するとどうでしょう。村人がずらずらと出迎えてくれるなか、一つの家族だけ体が目に見えて痩せこけ、他の村人とは異彩を放っていました。

 私はその場では何も言えず、食料を均等に分け与えてやった後その家族の家へと向かいます。するとその家族は驚くべきことを口にします。

 ありがとうと、一週間ぶりのまともな飯にありつけたと。

 いったいどういう事なのか、そんなにもこの村の食料は足りぬのかと、私はその家族に問いました。

 家族は言います。売ってもらえなかったのだと。雇われの作人は数少ない作物には取り分もなく、他の村人から飯を買うしかないのだがこの不作をうけて、他の村人は食料を売ってはくれなかったのだと。

 なんという事か。私が見た時にはうまく全員調節して暮らしをすればまだ一月は持つであろうと思うていたそれを自分たちで一人占めすることによって長らえようよしていたとは。

 こういう時こそ団結して冬を明し、また春からみなで必死に生きようと猛進するべきではないのか。私はがっかりしました。

 こんなにも命危機迫る同じ村人を見てこんなにも、衰弱するほど見て見ぬふりをしていたのかと。

 先ほども優しい笑顔でありがとうと平然と食料を持って行った他の村人だが彼らにはまだまだ食料があったのではないのか。

 こんな家族がいると知っているのに平気な顔をして均等の量を持って行ったというのか。

 あぁ・・・。わからぬ。人は何故ここ一番に手をとって生きてはいけないのか。母様。私は、もう一度、食料を探しには行ってまいります。

 ですが、彼らに気持ち良くその食料を分け与えてやれる事ができるかはわかりません。私は彼らになんと言ってやればいいのでしょうか。

 これを最後に、この村からは離れようかと思います。ですがこの残された家族も心残りであることも事実。彼らに、最後食料を多く渡していこうかと思います。それで、去ることで、気を晴らすことことは正しいことなのでしょうか。

 

 子は、本当に悩みにあけくれているようだった。

 自分の良心との折り合い。そして、その良心があっているのかどうか、それが正しいのかという葛藤もあるのだろう。この時の文は・・・3つ繋げて送られてきていた。


 もう一度村をでてから3週間。やはりどこの地でも食糧難の影響は大きく。思うように食料が集まりません。

 あるところの地主様は蓄えていた米を農民に分け与え冬を過ごすのだと言います。この話はあちらこちらの旅人が口ぐちに話しており、それが話題となって、次々他の地主様が米を農民に分け与えていっているそうです。これはとてもいい傾向。おかげ様でこれからの食料集めは順調に運びそうです。

 そろそろ食料に困っていたあの家族の食料が尽きるのではないかと心配になってきました。一度戻り、様子を見てこようかと思います。


 二つ目の文は短く、墨が擦れて書かれていた。たぶんこれは外で書いたのだろう。紙の端に小さな石ころが挟まっていた。

 三つ目の手紙を開けてみる。我は、言葉を飲んで、何とも言えぬ感情が沸いてきた。とにかくと我が子の文字を読み始める。

 その文字は、いままでになく走るように書かれた文字だった。


 母様。帰ってきた村にはあの家族はいませんでした。あの家族はすでに息絶え一家そろって山に埋められたのだと言います。

 母様。そのいなくなった家族の家屋にはなにやら争った跡がありました。

 私は、信じたくはありません。いえ、これはただの私の憶測であって間違いである。そう思いました。

 ですが私は口先止めれずに村人へと問いかけます。本当は殺したのではないのかと、この家族から食料を奪っていったのではないかと。

 村人はそんな訳ないではないかと笑って返事をします。

 私は、思わず村人の首元へ掴みかかり爪を突き立てもう一度問いました。すると村人は言います。

 足手まといなのだと。ろくに仕事もできずによそから来た作人が村の食い物を分けてもらおうなどと虫がよすぎるのだと。

 だから、元いる村人が生きるためにも食料の出所を断ったのだと。

 私は、茫然として立ちつくし、気づけば体が動いてその人を、すべての村人を殺して回っていました。

 その衝動は村に残る最後の子供の首を跳ねてやっとおさまります。

 ずっと、ずっと人のため、世のために働いてきました。

 なのに、人の愚かな部分を一時垣間見て殺してしまいました。

 私はこれで罪人なのですね。私はやはり、鬼なのですね。私がしてきた今までの労力というのはただの自己満足だったのですね。人とは助けようが助けまいが変わらず、すべては自分のために生きているのですね。

 今、これを書いているこの時、この地では残った食料を巡って戦争が起きています。

 今までの自分の愚行、自己満足、罪を償うためにも私は行ってまいります。すべては人の愚かさと、無駄な争いを終わらせるために。

 母様。罪深き先立つわが子をお許しください。


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