15.
子は車主に怯えて積荷の奥へと逃げようと必死にもがく。
我は車主を睨み付けた。
車主は血を垂れ流すその口で愛想笑いを浮かべながらその子に大丈夫、大丈夫だよと近づく。
だが子は足をさすり隅に立てかけられた鉄の棒を見ながら「もう殴らないで」そう叫んで顔を隠して屈みこむ。
我は無意識で車主の背後へと詰め寄っていた。そして問うた。
お前はこの子に何をしたのかと。お前はこの子を殴ったのかと。
男は言う。そんなわけないではないかと。笑いながら。
我はもう車主の言葉はいらぬと思うた。その場で切り捨て、頭蓋をこの足で踏み潰してやった。
子はそれを見て、さらに震える。
あぁ、もっと、もっと早くに見つけ出すことができていたのなら。
今の彼女を見ていると自分の無力さが本当に悲しくなった。
足は両足ともスネが青黒く腫れあがり、耳はちぎれ、背中にはおびただしい数の鞭うちの跡が破れた衣服から見えている。
いったいどんな苦痛を耐えてきたのだろう。どんな恥辱を受けたのだろう。
我は黙って、彼女を抱きしめてやろうとした。だがそれも、彼女は拒んで我を蹴り上げる。
もういっそ殺せと、もう生きるのが辛いと、もう生きることなどできないんだと。彼女は泣き叫ぶ。
我は、その子から立ち去った。あとの事は部下に任せて。
その場にはいれなかった。この子に抱き寄せる事を拒まれ気づいたのだ。
この子はずっと一人だったのだと。一番信頼する親に裏切られ、その後は自分の欲望だけを押し付ける悪人に媚びへつらい我慢をして、我慢をして、自分しか味方がいなかったのだと。
それは、もう誰も信用できなくなるだろう。もう誰にも頼ることなどできないだろう。欲望のままに葬られたその体は誰も人を近づけることができなくさせてしまっただろう。
それに私は、この子を抱く資格などなかった。
結局は助けることなどできなかったのだから。
さらには他の子を助けただけで満足さえしていたのだから。
あぁ、我は醜い。あぁ、この子を救ってやりたい。
でももう、この子の傷は、一生癒えることはないのだろう。
せめてもの、せめてもの償いだ。
その領主この我が断罪してくれようぞ。
我は数人の部下だけを引き連れてその領主の屋敷へとむかう。
怒りだけをその胸に。
領主の館へとつくと領主の使いのものが出た。
今は領主は留守にしていると。今は会うことがかなわないのだと。
見え透いた嘘を申す。かすかにだがなにか騒がしい物音が聞こえてくるではないか。
我は問答無用で、その使いを頭から喰ろうてやった。
もう何にも我を止めることはできやしない。
一目散に走り抜けその音が鳴るほうへと駆け急ぐ。
着いて、すぐのことだ。我はその扉を開けた後の記憶が曖昧になっている。それは激しい怒りと、激しい憎しみであふれていたような気がする。
気が付いた時には領主の頭蓋をかみ砕き吐き捨てていた。
そこには、助けたはずの子供たちが手足を四方に縛られ徐々に引きちぎられるように引き締められている様子や、逆さにつられたまま顔を赤く染めて白目をむく見覚えのある子供がいた。
また違う。一緒に遊んでいた男の子。
すぐさま鎖を下ろして彼に呼びかけた。彼は薄らぐ意識の中で教えてくれる。
売られた子供が帰ってきて大人たちは喜んだ。だがその喜びはもう一度その子供が売れるからであった。
一度売れなかったその大量の子供らのおかげであたりの奴隷の相場が跳ね上がる。それを受けて、本来売られていなかった子供も、売られていた子供もまとめて売りつけられてしまったのだ。
彼は言う。生まれてこなければよかったのにと。それを最後に彼は返事をしなくなった。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
何故あんなにまっすぐに生きていたそなたが生まれてこなければなどと申すのか。何故罪人たる我はふたたび生を持ちそなたは苦しみ死に絶えるのか。この理はなんなのか。我か我のせいなのか。
あぁ、どうすればいい。どうしたらいい。我にはこの世を変える力など持ってはおらぬ。
あぁ、罪なき子よ、我はどうすればいい。どうすれば我はお前たちを救ってやれるのか。
あぁ、我には壊すことしかできぬというのに、我には人に仇なす力しか持っていないというのに。
・・・そうか。・・・そうなのだ。喰ろうてしまえばいいのだ。
喰ろうてしまえばそれ以上苦しまずともこの世を去れる。
できるだけ痛みなく、一口でくろうてやれば、気づかづに行けるであろう。
そうだ。喰ろうてしまえばいい。どれだけ助けようとも。どれだけ支えようとも結局は汚されてしまうのだ。ららば汚れる前に終わらせよう。幸せなまま遺かせてやろう。
あぁそうだ。ようやくわかった。我にできる子らを守る方法が。
その場で囚われていたその子らは全員その場でたいらげた。もうこれ以上、このまま帰っても、帰る場所などないのだから。いっそこのまま、楽に殺してやるほうがいいだろう。
我は全ての子供に喰らいつき、終わったら城へと戻る。
そしてすぐさまあの子のもとへと向かった。
問いかける。母が憎いかと。問いかける。父が憎いかと。そなたを売りつけ、そなたが傷つきそれにて至福を肥やす親が憎くはないかと。
少女は言う。憎いと、殺してやりたいと。
あいつらを殺して私も死んでやると。
我は少しの沈黙の後、この傷ついた少女を蹴り飛ばす。
我は言う。頭の悪い餓鬼であると。我は言う。その奴隷商をさしむけたのは誰であるかと。
普段ともに遊ぶお前が気に食わないから親からお前を無理やり奪い去ったのだと。
なのにお前が恨むのは親なのだなとあざ笑う。本当に頭の悪い餓鬼だと罵ってやる。続けて言ってやる。お前の母は言っていたと、申しわけないと、父は抗ったと、手に武器を取り歯向かったと。
お前の両親はお前を愛していた。だがそれが憎い私が壊してやったのだ。どうだ。無実の母を恨み、無実の父を恨み、嘆いた自分の無知たる無力さは。
我はもう一度言う。お前の父母はそなたを愛していたのだと。
我はそれを吐き捨て、泣き叫ぶその少女を喰ろうた。
それから我の感情は何かがふつふつと沸きあがり、子供を喰らい続ける衝動に駆られる。 それはただの自分の欲望なのか。なんなのかそれはわからず。それはしばらく続いた。
この一件以来我は父の制止も聞かぬほどすさみ暴れる。
見つけた子供は有無を言わさず喰らいつき、気に入る男がおったらその場で連れ去った。男は飽きれば燃やして森に捨ててやった。
もう自分の欲がままに。本能のままに生きていた。
我自身もうわけがわからずに。永遠に燃える業火の混乱に陶酔して。
気が付いた時には千を超える幼子を喰らい、百の子共をこさえておった。
あぁ、我の愛しき子供達。我は決してそなたら達を裏切りはせぬ。
あぁ、我の愛しき幼子達。我が深淵の淵より救い出してやろうぞ。
我は百の子を産み落としてさらに子を喰らう衝動に駆られていく。
それは愛ゆえに。それは慈愛であり恵愛でありそれはすべては愛ゆえに。そう思った。
だがしかし、その愛は否定されてしまうことになる。
かれこれ、一万ほどの子を喰らった頃だっただろうか、黄泉の国より釈迦が我の元へとおいでなさった。
何の用かと冷たく接していたが、釈迦は我の顔を見るとすぐに黄泉へと帰っていく。いったいなんだったのか。我は釈迦の意図が読めずに困惑し狼狽した。
だが釈迦が帰ってから事の重大さに我はきづく。
百人目の、百人目の末子がどこにも見当たらないのだ。
釈迦がくる前には元気に庭を駆け回り兄らと駆けっこを楽しんでいたはずなのに。夕暮れになれば腹を空かせて帰ってくるはずであるのに。
我は釈迦を疑った。だがまさか釈迦が子攫いなどするものなのだろうか。
我は城下へと繰り出しわが子を探す。だがどこにも見当たらない。
わが子よ、いったいいずこへ、何処へと彷徨ってしまったのか。
我は何里もある大地を駆け抜け、何千もの山を越えて我は子を探して回ったのだ。なのに、なのに見つからぬ。
必死になって探していれば寝ずにまるひと月も探していた。
何故だ、何故ここまで探して見当たらぬのか。
我はついに疲れ果てて城からかけ離れた山で倒れてしまった。
あぁ、まだ倒れてはいかぬ。あぁ、まだ子を見つけてはおらぬ。あぁ、早く見つけてやらねば。もう繰り返しはいらぬのだ。
そう思いもう一度立とうとする。だが気持ちとは裏腹に体は限界だった。
我はそこで一度気を失う。
我は気づけば人に助けられていた。泥にまみれ汚れた衣服も取り替えられ、そばで火を焚いて体を温めてくれている。
それをしてくれていたのは十五歳は越えているであろう女性であった。
女は目をさました我に言う。大丈夫であるのかと。何故女が一人で山で倒れていたのかと問うてくる。
用心しなければ危ないじゃないか女が一人ならなおさらだと彼女は我にしかりつけた。
我は笑ってしまう。まさか鬼たる我が、二十ほどの年月しか生きておらぬ人間に叱られてしまうとはな。
だがそんなこどをしている場合ではない。末子の行方を探す目的をすぐさま思い出して家屋を抜け出してやろうとする。それを見て女は我を引っ張り布団に押し付け無理やりにでも寝かしつけようとした。
我は何をするのかと思わずその女の肩へとかじりついた。
女は小さく悲鳴をあげたがそれを抑えて我に問いかける。
「あなたが、子を探しているという鬼なのですか・・・?」
驚いた。女の肩に食い込んだ牙をゆっくりと抜いてなぜ知っているのかと女に問いかえす。
女は言う。我は知らず知らずに人の目に多く触れていたのだと。女は言う。あなたのような鬼も泣くことがるのですねと。
女はゆっくり我を布団に倒しこむと掛布団をかけて教えてくれる。
我は知らず知らずのうちに国中に名を轟かせるほどの悪鬼として恐れられていたらしい。
女もその悪鬼の話を道行く旅人達から聞いており、我に対しての心象はそれほどよくはないものだった。
我は黙って聞く。女は部屋の片隅にある戸棚から二枚の布を手に取りこちらへと持ってきた。
女は言う。これは死した自分の赤子に使っていた布端であると。
女は言う。子を失う事はとてもつらいのだと。
女は自分の肌が赤く色づくほどに腕を握りしめながら話し続けた。
我が子を探して万里を駆ける話を旅人から聞いて女は自分が歯がゆかったと女はいう。
自分は赤子が病に伏して血を吐き熱を出して泣き叫ぶ様を見ているだけしかできなかったというのに、悪鬼と恐れられるその母は自分の子供がために命を削って世を駆け回っているという事実に。
女は言う。私は申し訳ないとは思っていたと。
女は言う。でもしかたがないのかと愁いていただけだと。
なのに悪鬼たる母はあきらめることを知らず探し続ける愛深き人であったと。
女は言う。自分が情けなかったと。女は言う。私も赤子のために万里を駆けて救ってやりたかったと。
金もなく、知恵もなく、ただ嘆くだけであきらめていた自分が恥かしい。
女は顔を真っ赤にして泣いていた。
我は、世を疑ってしまう。
今まで思うとった人の親とはまったく違うではないか。
子ですら他人ごとのように売り買いをし、手足のように働かせていたその親とはまた違うではないか。
女は黙って寝て聞く我に言う。私を喰えと、腹が減っているのだろうと。
寝ずに駆け回る勇敢な母でも腹が減ってはもう駆け回れわしないだろうと。
女は言う。私は無力な母であったと。
女は言う。産んでしまったがゆえに苦しませて死なせてしまった愚かな母であったと。
女は言う。こんな母でも、そなたの血となり肉となり子を探す手助けができるだろうかと。
我はその母を抱き寄せてやる。食えるものか。同じく子を愛し、愛故に苦しむ今のそなたを喰ろうてやることなどできるものか。
まだ若いそなただ。右も左もわからなかただろう。頼れる人間も少なかっただろう。必死だっただろう。
しかたがなかったのだ。そう思うしかないのだ。それでも我は今嘆き子を愁うそなたを咎人などとは思ったりはせぬ。
誠実な、心優しき母である。我はそう思う。
女を抱きしめ、女が心落ち着くその時までそばにいてやった。
そして泣き止んで我はそこを立ち去る。
人を誤って見ていたと、そなたのおかげで気づく我がいたのだと。それを女に言って立ち去った。子の分まで生きてやらねばなるまいよと言い残して。
結局末子は十月程探しても見つからない。
しかたがなしに、城に戻ると配下の鬼たちも他の息子たちも我がまた暴れださぬものかとびくついておった。
だが我は自然と、人を喰らう衝動には駆られない。むしろあの女の泣き顔ばかりが目に浮かんで人の行く末というものが気になり始めた。
我は城にもどってからというもの子供の学びの場を設けたり子の流行病を治すがために遠方の医者を招いたりと無意識に子への愛し方が変わってしまった。
終わらせてしまえばいいと思っていた。綺麗なままでいて欲しかった。
だがあの女に会って、何かが変わる。
汚れながらも、後悔しながらも人は美しく生きていけるのだと知った。
罪を犯し、戻れなくなる人もいる。だがそればかりではないようだ。
子もそうなのだろう。無邪気に駆け回りそれを横から泥をかけられても振り払ってまた走り出せる。転んでなかなか立てなくてもだれかが手を伸ばして立ち上がれる。今はそう信じたい。
そのために我は子が育つ手伝いをさせてもらおう。我は間違っていた。償えぬ罪だがそなたらのためになにかしてやろう。
いらぬと言われるかもしれぬが押し付けよう。
我はもう、人は喰わぬ。我はもう、人を信じる。そう思っていた。
「母様。その頃の母様は人から子を愛する子の神としてあがめられる程慈愛に溢れ、私めも憧れるまぶしいお方でした・・・。」
「うるさい・・・・。うるさい・・・・。」
「ですが・・・ですが・・・あの老婆に会ってからというもの、弟に再びであってからというもの・・・やはり母様のお姿は見ていられませぬ。」
「すべては、すべては結局人間のせいであろうが。そうであろうが。」
人を信じ、人を愛し、子供を助けるがために精を尽くした何世紀。
それは我も不思議なほど献身的に世に尽くした。
そのかいあってか人喰らいの鬼という名はなくなり、人々は子を愛す鬼子母神として信仰崇めはじめる。
子が泣けば駆けつけ、子が倒れれば病を治して回った。
不思議と我が世に尽くせば尽くすほど世が明るく、平和な世界に見えていた気がする。
そんな月日もたったある時だ。
釈迦が、釈迦がまた突然と現れた。それを受けて末子のことをすぐさま思い出す。
釈迦は何故だか笑って我の元へと歩み寄ってきた。
我は釈迦へと血相を変えて手にもつ刀で殺すつもりで切りつけてやる。
だが釈迦はそれをいとも簡単に避けていなすと我の頭に手を置いて言葉を置いていった。
罪を知りましたかと。間違いを知りましたかと。あなたのするべきことがわかりましたかと。
釈迦はそう言うとまた忽然と姿を消してどこかへと行ってしまった。
末子のことはどうなったのか、まだ聞きたいことも聞けずに姿を消した釈迦に憎悪の念ですぐさま城中をさがして後を追った。
だが城の中には見当たらない。
もういっそ黄泉の国迄追いかけてやろう。我は部下を引き連れ城を飛び出してやった。
するとだ。城門をすぎたところで、末子がおった。
背丈も変わって、整った衣を着飾り、髪を結ったその子を一目みて末子であると気づいた。
我が子よ・・・。見ないうちに大きく育ったものだ。
もう黙って我が子を抱きしめる。おかえりと言ってやる。
我が子は腕を回してただいまと言ってくれた。
あぁ、あの時は今でも覚えている。うれしかった。救われた気がした。幸せであった。
末子に聞けば釈迦の元で世の理を学んでいたと言う。
子を奪っていった釈迦をやはり許せはしない。だが今こうして子が立派に育った姿を見れて我は、我は良かった。
末子も戻り、我は、末子に見られても恥じぬようにより一層世に尽くす。やはり、子はかわいいものだ。成長というものは良いものだ。
微笑ましくも無邪気に走り回り、落ち着きのなかった我が子が気づけば書物を読み漁り、自分が信じる道を自分で模索し行動していく。
あぁ、うれしきかな。その成長する姿を垣間見ることができぬかったことがとても惜しい。
末子はついには医学も修め、城下に学屋と診療所を設けてはじめよった。
末子は言うてくれる。私も母様のように人に尊敬していただけるよう励みたいと。私も人の役に立ちたいのだと。
我はうれしかった。かわいらしいわが子に尊敬されているなどと言われて喜んでしまった。
過去の事など言えずに、ただただ末子の行く末を見守っていく。
末子は立派になる迄は母の名は使えぬとすべて自力ではじめよった。
そして末子の名が城下に知れ渡った頃だろうか、末子はようやく帰ってきたかと思うたのに我に言いよる。旅にでると。
いったい何事かと思うた。ようやく、ようやく長き時を越えて会えたというのに束の間で末子は我の元をはなれていこうとする。
あぁ、子の成長とは早いものよ、釈迦に奪われた時間は子を立派な、我の手などいらぬ、届かぬ大人へと育んでしまった。
喜ばしい。喜ぶべきことなのだ。だけれどもだけれどももう少しばかり、子と再び会えた喜びを噛みしめたかった。
だが末子は言う。釈迦のもとで働き、自分の目で世界を見てみたくなったのだと。釈迦が言ったのだと。文献や絵で得る知識は創造の幅を広めても、その幅を埋めれるものは得られないのだと。
その知識を実際に行使し、その絵の実物を見てはじめてその幅は埋まり自分のものとすることができるのだと。
末子の目はもう未知なるものへの純粋な探求心で埋め尽くされていた。
あぁ、またしても釈迦なのか。釈迦は我に何をしたいのか。
釈迦は我の邪魔ばかりをしてきおる。
あぁ、止めることなどできぬだろうが。いずれは親の元を離れ旅立つ。それが世の理なのだろう。止めぬが親の愛なのだろう。素直にこれは応援してやるべきなのだろう。
あぁ、でも不安なのだ。また行方が分からなくなってしまってはどうしようか。釈迦はまだしも、わけのわからぬ奴に騙されたりはしないだろうか。
あぁ、不安だ。手元から離れていく我が子をつなぎとめておかねば。不安なのだ。自分の手元であればなんとかしてやれる。どうにかしてやれる。
あぁ、でもそれはいけないのだろう我が子よ。
いずれはそなたは我をも越えるのだろう。いいずれは我も経験しえぬような体験をして世に羽ばたくのだろう。それは我の手元では経験しえないことなのだろう。
我が抑制して子の伸び幅を縮めては元も子もないじゃないか。自分に言い聞かせる。
いっておいでといってやる。前を向かせて背中を押してやる。
なんかあったらいつでも戻ってくればいいさと強がってみる。
罪深き事もした親であったが伝えてやりたいことはまだまだあった。飯の炊き方から布の干し方から。なにから色々だ。でも押してやる。
我が教えずともこれから自分で悩み学んで生きていくのだろう。なんならしばらくあえずともわが子は立派に物を学んで帰ってきた。
大丈夫。きっと大丈夫。自分の子供を信じてやる。我がこの子に必要な事はたった一言。そうだと思う。




