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14.

この世に生をなし、我は父君に愛された。

 静かに、不自由のない暮らしを送ることができた。

 けれども父君は愛ゆえに、我を思うあまりに、城の外へは出してはくれない。

 我はこの世のつまらなさに嘆いた。

 何故何もなく、なにもすることがないのに生まれてきたのか。

 それでも、我にも好きなものくらいはあった。それは子供だ。

 私が産んだ子だけではない。何も知らず、無垢に、世の理をジタバタと泳いで必死になる子供らはかわいいもんだ。今もそう思う。

 城の上からいつも城下の子供らを眺めていた。それで、やはり子供らとともに遊んでみたい。そう思う。だから親の目を盗み内緒で城下へと下り城下の子供たちを探した。

 城下の子供たちはわんぱくで、よそものだった私でもすぐに仲間に入れてくれる。やれ鬼ごっこ、やれかくれんぼ。鬼が鬼の真似事をするとはばかげていたが面白かった。楽しかった。

 ただ素直に楽しみ、素直に真剣に遊んでいる子供らを見ているのが好きだった。

 だが何度目かの城下に遊びにきたときの話だ。一人の女の子。いつも一緒に遊んでいた子供がいなくなっていた。その仲間たちは暗い顔をして集まっている。

 どうしたのかと尋ねると彼らはすぐには答えてはくれなかった。そこでしばらく一緒に黙って地面に腰かけている。すると一番大人しく、そのいない子と一番仲の良かった子供が涙ながらに教えてくれたるのだ。

 売られてしまったのだと。親の借金のかたに親に売られて奴隷にされてしまったのだと。

 我は世界を疑った。そして前世の記憶がよみがえった。そうだ。人とは傲慢で、身勝手で、自分のためならいざとなったら子供をも他人に売り渡せてしまう程酷な生き物であったと。

 あぁ、その子は親を恨んでいるのだろうか。あぁ、その子はこれからどう生きていくのだろうか。

 もうあの子には会えないのだろうか。

 泣きじゃくるその子を抱きしめ鬼が一緒に泣いた。鬼に生まれる前は我も人だった。人であったが故に人の愚かさが胸を締め付けるようにわかる。無垢な子供もこうして知らぬまま傷つけられ汚れていくのだと。

 この子らはどうにかその友を助け出すことはできないかとなけなしの金と出せる知恵を振り絞って必死になった。

 あぁ、美しい。子供のまっすぐな心意気には感動を覚える。

 だがその子供らが出せた案というのは武器を調達して奴隷車を襲撃しようという安直なもの。とても助けるどころか、逆につかまり奴隷にされてしまうだろうと不安になる策略だ。

 これが子供の限界ということなのだろう。けれどもその心意気はとても美しい。私は彼らに言った。少しまってくれないかと。私が話をつけてくると。

 我は城に戻り父には黙りながら直属の配下に命じて奴隷車の規制をさせることにした。もうすでにこの地からはなれているのではないかと少し焦りぎみに。もし離れていれば何も手出しができなくなってしまうからだ。

 その方法は少し力技で、すべての奴隷車をすべて回って確認をするというもの。我もまだ若かった。

 部下と共にはじめて城外を縦横無尽に飛び出す。それも人のために。ばかげているかとも思った。だがそれでも、一緒に遊んでくれたあの子が奴隷になってしまう姿など想像したくもない。

 部下と共に一台一台調べ上げていく。だがどこにも見当たらない。それよりも、奴隷として売られていく子供たちがまだ小さく幼いことに驚いたよなぁ。

 奴隷商いわく、7歳から15歳の間が女は一番高く売れるらしい。

 まだ右も左もわからず。世界を見定めるそのまなこが色づきはじめる大事な時期だ。

 10を過ぎれば恋い焦がれ憧れる男もできる年月であろう。

 未来の自分に憧れ猛進する日々であっただろう。

 なのに産みの親たる大人がその大切な人生の紬目をこんなにも多く切り落とし金を得ているのだ。

 許すまじ、許すまじよ人の剛というものは。

 我は探す子もそうであった。だが目の前の子も捨て去りきれぬ。怒りにまかせて奴隷商どもからとりあげてやった。

 奴隷商どもも生活がかかっていたからなぁ、その時はえらい形相で我らに刃向い武器を構えて襲ってきおったんよ。

 その時が初めてだった。人を喰らい、怒りに自分を陶酔させて暴れつくしたのは。

 それ以降、見ていたり話を聞いた他の奴隷商はそれ以降、歯向かうことはなかった。

 暴れつくす姿を見ていた部下の何人かは逃げ出してしまう程大暴れをしていたらしい。我もよう覚えておらん。

 だんまりを決め込んだ奴隷商どもにいう事を聞かせることは簡単だ。

 近くまで近寄り、鋭いまなざしで見せろといえばもう彼らは操り人形。

 無駄に死にたくないからだろうなぁ。

 見つけた奴隷商の奴隷はすべて掻っ攫ってやった。

 何も知らぬ子供を力と狂言で洗脳しこれから芽吹くその才気を、享楽を奪うこいつらに容赦などする気はおこらん。

 やつらは借金があるだの幼い家族がいるだのほざいておった。

 だがその家族を、幼い子供を商売の道具にし悪道へと貶めていた元凶のお前らだろうが。

 嘆き許しをこう罪人には容赦なく我にかしげるその首を食いちぎり吐き捨ててやる。

 許すわけがなかろう。許すわけがなかろう。何故お前らは謝るだけで許されるのか。何故子供は謝るだけでは許されないのか。何故子供たちは知らぬままに外れた道へと歩まされねばならぬというのか。

 貴様らが子供らを有無も言わさず痛めつけ飼いならし至福を肥やしていたことなど見え透いているわ。

 どのような理由を述べようが今お前らのしている事実はどのような綺麗ごとも大した妄言もすべてかき消し大罪と化す。

 殺して、殺して、攫って、攫って、気づけばあたり一帯の人売りに携わっていた大人はすべて殺してしまった。

 あぁ、脆いよ人よ。あぁ、醜きかな人よ。

 子供らの前ではいきがっていたのだろう。手に奮うその鞭で多くの子供をおもうがままにしてきたのであろう。

 だのに、だのに、逆に襲われたお前らは友人を助けるべく立ち向かおうとした子供らよりも脆弱に逃げ惑い死に行った。

 はぁ、こんなやつらに子は売りつけられその行く末を携えるしか生きる道がないというのか。

 あの子はどこか、あの子はどこなのか。

 いくら奴隷商を殺し回っても一向に見当たらない。

 もうすでに売られてしまったのか、この地を去ってしまったというのか。

 3日3晩寝ずに領地を探しつくしたが結局はみつからない。

 残ったのは、帰らぬ友を待つ友人たちと、布きれ一枚を羽織る子供たち。

 我は帰る道で彼らになんと言ってわびればいいのかわからなかった。

 見つからなかった。でも他の子供たちはたすけてきた。

 そういうことではないだろう。

 力及ばず申し訳ない。ただそれだけ。それしか言えそうにない。

 帰ってからはすぐに子供たちのもとへと向かった。

 今までの現状、みけることができなかったその旨。

 嫌われてしまうだろうな。大見得を切って何もできなかった私など。

 もう嫌いになってしまだろうな。そう思う。

 だが彼らは私にこう言った。

 あいつなら大丈夫だと、俺がいつが一発儲けてあいつを取り戻してやるんだと。彼らは言う。ありがとうと。

 何もできなかった我に礼を言ってくれた。

 悲しかった、虚しかった。無力だった。

 彼らの述べる礼が胸の奥に深々とつきささる。

 我はもう何もしゃべらず、城の中へと帰った。

 この世で唯一我を満たし、愛注ぐ子一人すら守ってやれない。

 あぁ、無力とは悲しい。あぁ、力が欲しい。

 子供らを、穢れなきその子供らをはびこる悪から救ってやりたい。

 でも我にはそんな力はなさそうだ。悲しい。悲しいぞ。

 城に戻ってからは攫ってきた子供らの世話に明け暮れる。

 泥に汚れた子供を一人一人洗ってやっては新しい服を着せて容姿を整えてやる。

 それもこれも、元の親のもとへと帰してやるためだ。

 親に売られてしまったとはいえ、やはり親とともに子はいるべきなのだろう。そう思う。子供らも売られたというのに親を信じて会いたいとせがんでくる。

 話せばわかる。彼らはまだやり直せる。そう思った。

 身なりを整え終わったあくる日攫って来た子供を引き連れ一件一件子供らの家を探してやった。

 それは意外なほど早く見つかっていき、一人、二人ともとの生活へと帰っていく。親も過ちであったと気づいたであろう。もうこんなことをすることはないだろう。そう信じた。

 すべての子供を送り届けて帰路につく。

 部下達も人の子なのかと少し嫌悪はしていたが幸せそうに元の家庭へと戻ることができた子供達の笑顔を見れて嬉しそうだった。

 あぁ、無力であった。それでも少しは愛する子供らの役に立てたのだろうか。

 正直、見つけることができなかった彼女を置き去りに攫った子供を救った事に誇らしげになってしまっていた。

 それは今になって思えばとても自己満足な、勝ってな慢心だ。

 その事に気づいてしまったのはこの城へと帰る帰路の途中。

 一台の馬車が通る。

 我は気にせず一度はその馬車を通り過ぎた。だがその時かすかに聞こえてきた。子供の泣く声が、「シニタイ」というその悲痛が。

 すぐさま振り返りその馬車を追う。部下達もそれに気づいてすぐに馬車を包囲した。荷台を見せろと槍を突き刺し首元へとおどしてやる。

 すると車の主は手を上げて降伏し、荷台を大人しくみせた。

 一人の少女。

 それはよく知っている。一緒に遊んだその子だった。

 彼女の名前を呼びかける。だが彼女は返事を返さない。

 体を奮わせ。手足に鉛の錠を引きづりながら永遠同じ言葉をつぶやいた。「シニタイ」と。

 我は怒りを通り越して無表情のまま車主に掴みかかった。

 何があったのかと何をしたのかと。この子は何故泣いているのかと。

 我はその時怒っているのか悲しいのかよくわからない感情に支配されてどう車主に映っていたのかはわからん。だがそいつは小便垂れ流しながら口を震わせて喋りよる。

 彼女は売られたのだと。一度買ったこの女。その買った主が飽きたのだと車主はいう。

 あきたとはどういうことなのか。それも問い詰めた。

 車主は言う。


 「それはわかりかねます。ですが女の奴隷を使う男の考えなどしれているかと思います。」 


 あぁ、人とは醜きかな。一時の自分の欲望を満たすがために無垢なる子供の一生を汚して満たすというのか。

 許せぬ、許せぬ、許せぬぞ。

 その男はどこか、この少女を追い詰め涙流させたその男はどこのどいつなのか。

 車主に何度も拳をぶつけて仇を問う。

 喋ろうとこいつはしていた。だがそれでも、どれでも気が済まずに殴り続けた。

 前歯のほとんどが抜け落ちてやっとこいつはしゃべることができる。 

 城下の大きな土地を管理する地主だと、他にも奴隷を多く買い取り地下に幽閉しているのだと。

 ほかにもこの子のように心を閉ざすまで追い込められてしまっている子供がいるという。

 掴みかかった手をゆっくりとはなす。そしてなきじゃくるその子を見て慢心していた自分を後悔した。

 結局。救いたいものが、救えなかったのだから。

 我は車主にその子の手錠をはずすように蹴り飛ばす。

 車主はおどおどとしながら急いでその子に駆け寄り鍵を錠へと差し延ばいした。だが子の様子がおかしくなる。

 

 「やめてください、許してください、何でもしますから。もう痛めつけないでください。お願いします。」

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