13.
「何故ナノカ、何故ナノカ、何故無イノカ。何処ダ、何処ダ。
何処ナンダ。」
ひっそりとその場に座り、小さくなっていく彼らを眺めているとぼやけるようなその声は聞こえてきた。
「アッタ。アッタ。アッタ。アッタ。アッタ。アッタ。アッタ・・・・。」
その声が聞こえてきたであろう森の奥に顔を向ける。
森の奥は果てしなく暗く。薄暗くも見えていた景色はその先へとは映し出してはくれなかった。
声は一度止む。
「ミツケタアアアアアアアアアアア」
大声と共に暗闇の中から人の顔が飛び出した。
その顔は本当に顔だけ、頭だけだった。
首から下はなにもなく、宙を浮いて、口を大きく開けてこちらに飛びかかってきたのだ。
その口はこちらの喉元めがけて勢いよく牙をむけてくる。
咄嗟に手を振り上げてそれを振り払ってしまった。
拳がその頭に当たって頭は地面に転がる。
「ミツケタ。ミツケタ。ミツケタ。ミツケタ・・・。」
頭は地面にたたきつけられて転がりながらも目をずっとこちらに向けたまましゃべり続ける。
頭はゆっくりとまた這い上がり、宙に浮いて頭をぐるりと回すと再びこちらに飛びかかってくる。また振り払うが今度はうまくいかず腕に噛みつかれてしまった。
痛い。痛い。肉がちぎれる。二の腕が磨り潰されるようにブチブチと音を鳴らして痛覚に訴えてきた。
腕を振り回し、そのまま近くに生える木に腕ごと頭を叩きつけてやった。
すると頭は白目をむいて、紫色の光になって頭上高くに消えてしまった。
なんだ、なんだよ、もう。
腕は赤く腫れ、歯型のついた箇所においてはタラリと血が滴をこぼす。
その滴は乾いた灰色に見える地面を赤く染めた。
血の出た腕を手で押さえて、もうこんなの、娯楽施設もくそもないじゃないかと嘆く。
「アッタ、アッタ、アッタ、アッタアッタアッタアッタ」
「キタ、キタ、キタ、キタ、キタキタキタキタキタ」
「ボクノ」「アタシノ」「オレノ」「ワタシノ」
「ソレハ渡サナイ」
まさかと思う。嘆いている場合じゃなかった。
先ほど聞こえたばやけた声が無数に、それぞれ違う言葉でこちらへと差し迫る。まだ見えない。それはまだ森の暗闇の中。
思わず後ずさりをする。そして2歩下がった暗闇は、視界すべてを生首で覆い尽くしてそれらはこちらへと襲い掛かってきたのだ。
ふざけるな。いったい何をしたというのか。
そう思うも意味などない。襲いくる頭は躊躇することなく勢い増して迫るのだから。
急いで背中を向けていた森の外へと逃げだした。
「マッテ、マッテ、マッテ、マッテ」
その頭は呼び止め必死に追いかける。だが止まってなるものか。
血の滴るこの腕の痛み。二度と味わいたいなど思わない。
森の外へと出て必死に前を向いて走り抜き、声がしなくなったかと思った時に振り返る。
頭は追いかけてきてはいなかった。その頭らは森の影を境目にそこから先へはでてこようとしない。それよりも、目を疑う。
頭が、見渡す限りの森の隙間隙間からこちらの姿をじっと見つめてきているではないか。こんなにこの森にこいつらがいたのかと鳥肌が立つ。
よく今までその場にいれたなと。
だがどういうわけか森からでてこないそいつらに安心する。もしこの大群がこちらに向かい一斉に襲ってきたらと思うとこの腕のような傷だけでは済まないだろう。
はぁ。なんでこんなところへときたのだろうか。
先ほど迄追っていた行列は岩の洞窟へとすでに入っていったのか姿は見えなくなっている。
いまだ睨み付ける頭達を置き去りに、進んでいった彼らを追いかけ洞窟へと向かうことにした。
洞窟へと向かうその道中、ふと疑問に思う。
「見つかるべからず。」
これは、見つかったという事なのだろうか。
洞窟へと入ると。空気が震える。
波のようにゆっくりと、だがそれは圧があり体を外へと押し戻そうとした。
構わず一本道を進でいく。砂の地面にごつごつとした岩壁。
ごわつき、違和感を感じるほどにここのものすべてが存在感を強く打ちかけてるように感じた。
「 」
何かが聞こえる。だがぞの音は聞き取れるほどはっきりは聞こえてこない。先に入っていたあれだろうか。
さらに進むとそれは先ほどよりも鮮明に、はっきりと聞こえてくる。
怒鳴り声だった。
「足りぬ。足りぬよ手洗鬼よ!。」
年月を感じさせる重くかすれた女の声。それに続いて少し小さく低い男の声が聞こえてくる。
「母様・・・。母様・・・。恐れ多い事承知の上で申し上げてもよろしいでしょうか・・・。」
「与えられた役職もままならずに意見を申すというのか。心して物申すがいい!」
「・・・はい。母様、実のところ、生贄として運んできている人間の数というのは以前から変わってはいないのです。子を日に50。罪人を日に50あわせて100・・・。」
「何が言いたい?」
「母様は・・・。母様は人の毒に侵されているかと・・一度ひかえ・・・・」
ここで会話は途切れた。
代わりに洞窟全体が震えるほどの爆音が奥から響いてくる。
その声の正体が気になりその音を聞いて少し駆け足で詰め寄った。
すると洞窟の天井がみるみると広がり、とてもおおきな、球体のように構築された部屋が目の前に現れる。
床もさらに下へと広がっていく。その大きな広間の壁にはそこかしらに穴が開いており、今たどり着きその部屋を見るこの場所も数ある広間へとつながる穴の一つのようだ。
視線のはるか先、球体状の空間において自分とは逆の位置にさきほどの鬼達はひざまずいている。
ひざまずいた先にはそのひざまずく鬼よりもはるかに大きく、ひざまずく鬼が親指ほどしかないかと思うほどのおにがいた。首には、人の首だけが紐につながれいくつも連なる。
「このあたしが人に侵されていると愚弄するかこのうつけがぁ!日に日に軟弱な魂ばかりを集めよってからに故であろう! 侵されているわけがなかろうが。我を誰と思っておる。人喰らいの鬼子母神であるぞ。」
天井より瓦礫がポロポロと落ちてくる。
遅れて先ほど、横目に通り過ぎていったあの巨大な鬼が鬼子母神を名乗る鬼の頭上より落下した。
落ちた鬼を見て驚く。
自分よりもはるかに大きかったあの鬼が鬼子母神のまえでは膝の高さをもこえれずにいるのだ。
「母様・・・一向に子息の意識は、戻ってはきませぬ。もうこれ以上続けても意味が・・・」
鬼子母神の手のひらが手洗鬼の横から振り下ろされる。手洗鬼はそのまま壁へと打ち付けられた。
「言うな!それ以上申すな!。ではほかに、ほかにどのような方法があるというのか。」
鬼子母神は背中を横へとずらすと後ろへと振り向く。
そこには赤く染まる池に浮かぶ赤子の姿がみえた。
「あぁ、わが子よ、旅へ出ると、人を知りに行くと申して帰ってきたかと思えば・・・このような・・・このような・・・」
「母様・・・母様・・・わたくしにはその寵愛されるわが弟を快方へと向かわせる手立てなどつたない頭では思い浮かびませぬ。ですが・・・ですが・・・今の母様を見ていては、これが正しいとはけして思えないのです。」
「まだそなたは我を否定するのか!」
「否定ではござりませぬ!、今の母様は憎悪と憎しみに狩られ日々邪の力を蓄えらてしまう一方。日に日に濃くなる邪悪に染まる母様は見ていられませぬ!」
鬼子母神は手洗鬼をわしずかむと顔の近くまで持ち上げ口を大きく開けた。
「これが染まらずにいられるものかぁあぁぁぁ!」
鬼子母神は涙を流して叫びつけ拳を地面に静かに置く。
鬼子母神の体から黒いモヤがわいてそこらにまきちらし始めた。
そしてそのモヤがこちらに近づきこちらの体に触れた途端のこと。頭の中にぼやけた風景と、なにやら人のような姿が浮かび上がってくる。




