7話 ネオンの過去
作者さんである黒川先生から枠をいただいたので、私の過去の話を綴らせていただきましょう。
この話は私が13歳の頃の話である。
私は7歳から13歳までの7年間、とある魔法学校に通っていた。
家族は父と母と私の3人とペットのイヌが2匹。
その名前はメスはアンとオスはアロンである。
「お母様、ただいま帰りました」
「ネオン、お帰りなさい」
「お母様、アンとアロンのお散歩へ出かけてもよろしいですか?」
「ええ、行ってらっしゃい。きっと喜ぶわよ」
「ハイ、行ってきます。アン、アロン、お散歩へ行くわよ」
私は学校から家に帰ったら、お母様の許可を得て、アンとアロンの散歩へ出かけることが日課だった。
その時だけは辛いことを忘れることができる唯一の時間――。
*
私は2匹のイヌの散歩を終え、家の中に入った時、運が悪くお父様が帰ってきていた。
「どこへ行ってたんだ?」
「す、すみません……」
そうなると、もう少し早くイヌの散歩を切り上げて戻ってきていればよかったと密かに思う。
「ついてこい」
「……ハイ……」
お父様は私の腕を強く握り、そのまま彼の書斎まで強引に引っ張るように誘導。
私はいつもそこから逃げ出したいと思っているが、それはスムーズに避けられない。
これから、私が望まない嫌な虐待を受けるしか――。
「嫌! 放してください!」
私がそう言うが、彼は全く応じない。
学校とかでは物事を冷静に判断できる少女を演じ、家にいる時は虐待を受けざるをえない哀れな少女となる。
*
お父様は私をフローリングの床に突き放した。
彼は書斎のクローゼットからガサガサと何かを探し始める。
彼の手には1丁の拳銃が握られ、銃弾を入れていた。
そして、拳銃の銃口が私に向けられ、じりじりと近づいてくる。
「お父様、何をするのですか?」
私は1歩ずつ後ろに下がりながら彼に問いかける。
しかし、部屋の隅にたどり着いてしまったので、これ以上動けなくなってしまった。
「これでも食らってろ!」と言い、彼の拳銃から、パンッと音を立てて発砲された。
「キャーッ!」
私は悲鳴を上げる。
その時、私の純白のワンピースに流れ出る血によって染められていく――。
「貴方、娘に虐待をすることをいい加減に止めなさい!」
私が悲鳴を上げると、偶然そこを通り過ぎようとしたお母様が駆けつける。
「大丈夫?」
「左目が……」
「見えないの?」
「……ハイ……」
「急いで病院に行きましょう!」
お母様は私を近所の病院に連れて行き、先生に見てもらったところ……。
「左目は残念ながら、失明です。一方の右目は辛うじて見えている状態ですね……」
と言われ、私達はショックを受けた。
それから、私はしばらくの間、左目に眼帯をして日常生活を送るようになった。
なぜなら、本当のことを言うことが嫌だったからということもあるが、左目が失明していることを告げることが1番辛かったから――。
学校では、先生や心優しき人だけに失明したことを告げ、それ以外の人は流行り病と伝えていた。
*
ある日の放課後……。
私は友人と別れ、自転車に跨ぎ、漕ぎ始めようとした。
左目が失明しているのだから、自転車に乗ることを止めようと思っていたが、学校から家まで歩いて約2時間くらいかかるため、乗らざるをえない。
どこかで「オーイ」と呼ぶ男性の声が耳に入った。
その時、私じゃなくて他の誰かだろうと思い、再び自転車を漕ぎ始める。
「君だよ」と言われ、私は周りを見回した。
そこにいたのは、中等部にはいない人だったので、高等部の生徒かなと思う。
「ネオン・フィリーナさんかな?」
「え、えぇ。噂のロレンスさんでよろしかったでしょうか?」
ロレンス・フォードさん。
私より上の当時16歳。
魔法学校高等部1年生で、容姿端麗で成績優秀な先輩である。
魔法学校に女子はもちろんのこと、女性講師からも人気が高い。
噂では彼のファンクラブが存在したらしい。
「そうだよ」
「な、なぜ、私のことを……?」
知っていたのですか? と言いたかったが、なかなかその言葉が出てこなかった。
「知っていても当然だよ。だって、君のことが気になってる奴はたくさんいるし……」
彼は私が言いたいことが分かったかのように言われたので、私は驚いた。
しかも、あまり接点がないに等しい高等部の生徒に気になっている人がいるなんて……。
「ところで、君は中等部の何年生?」
「えっ、私ですか? 中等部の1年ですが……」
「中等部の1年か……。俺は高等部の1年だけど、中等部にも噂になっていたか……」
「ハイ」
「今、気づいたんだけど……なぜ君は眼帯をしてるの?」
「じ、実は……」
1番訊かれたくなかったその質問。
私はその理由を話した。
「そうだったんだ……。俺は学生寮だけど、見に行くかい?」
「いいのですか?」
「うん。自転車、借りてもいい?」
「そうこないと。俺にしっかり捕まって!」
彼が私の自転車に跨ると、私は後ろの荷台に乗り、学生寮へ向かった。
*
自転車で15分くらい走らせたところに魔法学校の学生寮が見えてきた。
私はそこに入ることははじめてである。
そこは1人につき1部屋割り振られ、部屋の表札は中等部と高等部問わず、男女交互に貼られている。
他には図書館や訓練所があり、学習の設備が整っていた。
学生寮を一通り回って着いたところは彼の部屋。
「さあ、どうぞ」
「失礼します。わぁー……」
そこはきれいに整理整頓されており、本棚の上にはいくつか写真立てが置いてあった。
「君も学生寮で暮らせばいいのに」
「なんでもあって便利ですよね。最初は憧れていたのですが、お父様が厳格な性格ですので……」
「君の父親は厳しそうだもんな。あっ、適当に座って?」
「えぇ」
私はコクリと頷くと、小さいテーブルの近くに腰を下ろす。
彼は私に部屋の冷蔵庫から冷たいお茶を差し出した。
そして、私の隣に座る。
「眼帯を外してごらん?」
「えっ!?」
私は少しドギマギしてしまい、変な声を出してしまった。
彼の雪のように白い髪が徐々に近づいてくる。
私は眼帯を外すと、彼から左目が失明していることをからかうために部屋まで連れてきたのかと思ったらそうでもなかった。
すると、次の瞬間……。
彼は私の長くなってセンター分けにしていた前髪を左目にフワッとかけた。
それが今の私の髪型である。
「眼帯よりこの方がとても似合うと思う。辛うじて見えている右目はコンタクトをつけるといい」
「ロレンスさん。あ、ありがとうございます」
「いやいや、いいんだよ。君のことは俺が守るから」
「…………」
私は彼から言われた言葉で顔が熱くなる。
彼は何も接点がないのに、優しくしてくれるところが人気の秘密なのかなとつくづく思った。
「あっ、そろそろ帰らなきゃ……」
「ん? 俺が家まで送ろうか?」
「いいのですか?」
「あぁ」
「お願いします」
帰る時は彼も自分の自転車に乗っている。
私の家の近くまで案内しなければならないから、周りをよく見なければならない。
*
そして、私の家の近くに着いた。
「ロレンスさん、今日はありがとうございました」
「いいえ」
「道中お気をつけて」
「ありがとう。でも、心配だから数分くらいいるけどね」
私は彼から言われた「数分くらいいる」という言葉が気になったが、その通りになってしまう――。
「お母様、すみませんでした。一旦、家に戻らなくて」
「いいのよ。あなたのことは分かっているから」
「……お母様……」
「オイ! 今までどこで何をしていたんだ? お前をそんな風に育てた覚えはない!」
お父様が家から出てきて、私にこう言い放つ。
私は鞄から拳銃を取り出した。
「私がどこで何をしていたかは勝手でしょう。今まで、私はお父様の指示はすべて従ってきた。しかし、私は13歳になるのよ? 反抗したくなることもありますわ」
「よくも口答えしやがって……。お前はでき損ないだから、もう死ぬしか方法がないだろう?」
「「死ぬしか方法がない」? その言葉、そのままお返ししますわ」
私は冷酷な笑みを浮かべながらお父様に言った。
「何っ!?」
「どうやら、終わりのようね……。あなたの運命は!」
その時、私は表の人格を隠し、裏の人格を現してしまったのだ。
「ネオンさん?」
突然、ロレンスさんが姿を現した。
彼はこのことが起こるだろうと見越して待っていたようだ。
「おそらく、君はこの調子で行くと退学だぞ!」
「分かっています。こちらから一方的に殺るしかないのです……。」
その当時はやっていいことと悪いことがあるのは分かっていた。
しかし、私はお父様が憎かった。
憎くて憎くて仕方なかった。
そして、私は拳銃の引き金を抜き、「ごめんなさい、お父様」と言い、私は彼にそれを向けた。
たーんっ! と銃声が響き渡る。
私はお父様を撃ってしまったのだ。
「……うっ……」
「あなた!」
「……お母様、すみません……」
ロレンスさんは静かにその現場を見ている。
「ネオン、私はあなたを見損なったわ……」
お母様が落胆したように言うと、私は涙声で拳銃の銃口を向け、同様に撃った。
*
先ほども出てたように退学の覚悟がついているからできたことであり、それがなかったら、またお父様からの虐待を受ける日々が続くよりはいいと思った。
そして、次の日。
私は学校に退学届を提出し、魔法学校で過ごした7年間に終止符を打つのであった。
そのあとの私の人生は別の話――。
2016/05/21 本投稿