5話 冬井戸先生の報告書
【作者より】
この話を更新するのを忘れていました。
しおりの位置がおかしくなりますので、ブックマークをしていらっしゃる方がいらしたら大変申し訳ありません。
コレは何かのパロディだと思ってくださいね。
12月某日――。
ここはとある県の教育委員会。
あまり長くはない廊下を田中 篤義氏がツカツカと歩いていた。
本日の田中氏の服装は黒の背広に淡い色使いのチェックのネクタイという一般的な服装だ。
「何時に終わるか分からないから、念のためにトイレに行っておこう」
彼はトイレに寄り、用を済ませた。
そして、ネクタイが曲がっていないか髪は乱れていないかを確認する。
「これでよし」
彼はトイレから出、どこかに向かって歩き始めた。
*
数分後……。
田中氏はある部屋のドアの前に立ち止まった。
しかし、その部屋の名前はなく、「会議室」の「か」という文字も存在しない。
彼はその部屋の中に入った。
その数秒後に部屋のドアが閉まる……。
その部屋は電気が自動センサーによって点灯されており、明るい。
その部屋に入った先には長机が2つと大きなモニター画面があり、空調の音すら聞こえないとても静かな空間である。
*
あれから10分くらい経ったくらいに、1人の男性がその部屋に入ってきた。
「失礼します。遅くなってしまって申し訳ありません」
彼は黒の背広とネクタイ姿で黒ぶち眼鏡をかけており、年齢はおそらく20代後半くらいだと思われる。
田中氏は静かに口を開いた。
「フム……。冬井戸君、早速ではありますが、始めてください」
「田中氏、我々が監視している者について説明いたします」
冬井戸はそう切り出し、田中氏に一礼した。
「これから映像を流しますので、電気を消してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
彼は部屋の入口まで行く。
スクリーンがある前方だけを残し、あとはすべて消された。
パソコンの接続などはすでに準備を終えていたらしく、映像が流れ始める。
*
最初の映像は制服を着た1人の女子生徒が金管楽器の中で難しいとされるホルンを演奏しているものが流れている。
彼女は細身の身体でホルンを吹いているので、楽器が大きく見え、その隣には金色のクラリネットのようなものがスタンドに立てかけてあった。
黒髪を肩まで伸ばしており、額からうっすらと汗が噴き出している。
また、前後左右に他の生徒達が映っているため、モザイクがかかっていたり、音声を変えているようだった。
「ほう……」
田中氏の口からは感心しているような声が漏れた。
彼は決してスクリーンに映った女子生徒のことが気に入ったわけではない。
彼女の譜面台に置いてある譜面入れの厚さに驚いたのだろう。
「まずは1人目。彼女は夏川 紫苑さん。とある学校に通っている高校3年生です」
冬井戸が説明をし始める。
「これは今月の学校祭の前に撮られた音楽室の映像です。現在演奏している曲は田中氏も存じ上げていると思われる『展覧会の絵』を含む何曲か」
「その曲は知っていますよ」
「そうでしたか。では、次をご覧ください」
冬井戸がパソコンに近づき、マウスをクリックする音が聞こえてくる。
先ほどの画面は閉じられ、新しい画面に切り替わった。
その画面は静止画で女子生徒の位置はもちろんのこと譜面台や他の楽器の位置も変わらない。
変わったところは彼女の唇にはマウスピースの跡がくっきりとついており、膝の上ホルンが置かれいただけだ。
「約40分後に撮られたものです」
「……全曲演奏したのです……?」
「ハイ。単純計算しますと約6分で1曲を演奏したことになります。実際には各曲の紹介も入りましたので、それ以上になりますね」
「ほう……なるほど……」
再び画面が切り変わり、とても画像が粗く、なんだかよく分からない動画だ。
スクリーンに映っていたのはどこかの教室からだろうか?
身長や顔つきは先ほどの女子生徒によく似ており、白髪を低い位置で束ね、白いラフな感じの服を着ていることが分かる。
その人物の手には手榴弾を持ち、何かに目がけて投げようとしているところだ。
「では、こちらをご覧ください。この映像は怪盗ベルモンド騒動の時に机の上に放置されたとある生徒の携帯電話で捕らえたものです。ちなみに持ち主に返す前にデータは消去しました」
「彼(?)は何者ですか?」
「田中氏、その人物の名前は''ニャンニャン刑事''です」
「その人物は先ほどの女子生徒と同一人物ですか?」
「ハイ、その可能性は高いと思われます」
「……フム……」
「さて、ニャンニャン刑事についてはひとまず終わりまして、次に参ります」
冬井戸が画面を変えるため、パソコンのところに行った。
*
画面が切り変わり、2人目は静止画がスクリーンに映し出された。
そこに映っている写真は黒髪のセミロングヘアで白いスーツのようなものを着た女性が素敵な笑顔で田中氏を見つめているように見える。
「冬井戸君、なぜ、彼女は証明写真なのに笑顔を見せているのか気になるんですが?」
田中氏は冬井戸に問いかける。
「こちらに映っている写真は証明写真ではありません。この写真は平成27年度の3年生に渡される卒業アルバムに載せられる写真の1枚です」
彼は表情を変えずに答えた。
「彼女も重要人物の1人です」と付け加える。
「最初に見た時から思っていたが、素敵な笑顔の女性ですね」
「ありがとうございます。彼女は春原 美沙教諭。担当教科は理科で、夏川さんのクラスの担任を務めています」
「彼女の勤続年数はどのくらいですか?」
「彼女はこの学校に赴任して7年目で、生徒から人気がある教師です」
「ほう。生徒から人気があるということはいいことだと思いますよ」
「ハイ。では、次です。こちらもとある生徒の携帯電話で捕らえたものです。こちらも持ち主に返す前にデータを削除しています」
冬井戸は画面を変えに行く。
スクリーンに流れている映像は埃と煙などが画面のほとんどを占める中、無駄に長い長袖の白衣とロングワンピースを着た女性がいた。
彼女は拳銃を持ち、何かを言ったあとらしく、少し口を動かしている。
「彼女が例の洗脳された人間を元に戻す正義のヒロイン……''謎の白衣の美女パースエイダープレイヤー・ミサ''なんですね?」
「作用です。この動画では拳銃を持っていますが、彼女は唯一、洗脳された人間をいとも簡単に戻すことができる謎の水溶液を持つ者です。ちなみに''謎の白衣の美女''は自称だという噂がありますが、長いので我々は''謎の中略ミサ''と呼ぶことにしましょう」
冬井戸がそう言うと、田中氏も「そうですね。分かりました」と頷きながら答えた。
「ところで、彼女が現れる時である怪盗ベルモンドの出没時に一般人には写真を撮っている余裕がないのです。奇跡的に残っていたのはこの1枚だけです」
「……。彼女の変身するところを目撃した人物はいるのでしょうか?」
「残念ながら、映像記録も写真記録も残っていません。今まで謎の中略ミサの目撃情報があったところに必ず彼女がいたとはいえ、それだけでは同一人物であると断言できませんしね」
「そうでしたか……」
「確認されている最後の1人です」
冬井戸は画面を変えに行った。
*
3人目は彼らと同じく背広姿で短めの黒髪の男性が車から降りようとしているところだった。
この映像はビデオ撮影であり、画面の乱れなどからして古いタイプのホームビデオで隠し撮りされたものである。
「彼は秋山 和也教諭です。担当教科は国語科で、夏川さんのクラスの副担任を務めています。女子生徒からの人気がある先生の1人です」
「彼が主役の漫画や小説を書きたいものですね」
「えっ!? そ、そうですか!?」
田中氏が突然そのようなことを言い出したので、冬井戸は驚いている。
「あははは……! 冬井戸君は面白いな!」
「田中氏の言葉が意外すぎて動揺してます。僕でも驚いているのですから! 映像はまだ続いてますよ!」
「すみません。続けてください」
彼らがふとスクリーンを見た時には録画時間が終えたのか、秋山が画面手前にきたところで映像が止まった。
「改めまして、この教師を念頭に次の「大変衝撃的な映像」をご覧いただくことになります」
「「大変衝撃的な映像」? それはどんなものでしょう?」
「次の映像は我々が''ニャンニャン仮面''と呼んでいる人物です。その映像をとくと……」
冬井戸が次の映像を準備すると、やってしまったという表情を浮かべた。
その映像はハイビジョン撮影の動画で音声がついているものでネコ耳と仮面をつけ、腰の位置に刀を鞘にしまっている謎の男が……。
『おお、目に光る輝きを持つ~♪』
彼は落ち着いた声でとても上手に何かを歌っている。
その歌声は高性能マイクで拾われているようだ。
「むぅ……」
田中氏が難しい表情を浮かべながら唸り声を上げている。
「冬井戸君、噂で聞いていたが、実に残念な人物だなぁ……」
「ええ。そして、問題はその先です。ニャンニャン仮面が1枚の紙に何やらまとめています」
「フム。これは詩、ですか?」
「そうかもしれません」
『もう少しだよ~♪ もうできるよ~♪ もうできちゃうよ~♪』
映像の中で彼が歌いながらその紙を埋めていく。
そして、その紙がすべて埋まり、シャープペンシルを投げ捨て、『ワーイ! できたぁ!』と大声で二言言った。
その紙に書いてあるものは何かの歌詞が一瞬だけ映り、動画は終了。
「なるほど……。彼もただ者ではないことはよく分かった」
「先ほどの映像の件で、急に止まったのは機材の故障かと思われましたが修理に出したところカメラの奥に、シャープペンシルの芯が刺さっていたみたいで……」
「そうでしたか。先ほど映っていた彼も……」
「ハイ。彼も謎の中略ミサやニャンニャン刑事と同様に、怪盗ベルモンドが現れる時に必ず現れる重要人物の1人です」
「慎重なのはいいことです。しかしこれ万が一、間違いがあってはいけませんのでね……」
「ハイ」
「もし、彼らが''例の3人''だと分かれば何らかの措置から取られると思うんですよね」
「そうですね……。僕からの報告は以上となります。本日はお忙しい中時間を割いていただきありがとうございました」
冬井戸がそう言うと、深く一礼する。
「いやいやとんでもないですよ。そちらこそ、お忙しいのに、こちらまで足を運んでいただきありがとうございました」
田中氏も彼と同様に深く一礼した。
「電気をつけますね」
「すみません、ありがとうございます」
冬井戸は部屋の電気をつけ機材の電源を消したり、片づけたりする。
数分後には彼は片付けを終え、「失礼します」と言い、その部屋から出て行った。
*
その部屋には椅子に座った田中氏以外誰もいない。
「ふぅ……。緊張したな……」
そんな一言を漏らす。
彼は椅子から立ち上がり、今は誰もいない部屋の中で、「冬井戸君、お疲れ様」と言い、その部屋をあとにした。
2016/05/05 本投稿