表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

3話 ベルモンドの誕生秘話

 3月のある日のことである。

 1人の男性が歩いていた。

 彼は普通の男性より身長が低く、黒ぶちの眼鏡をかけ、背広を着ている。そして、手には指し棒と数学1の教科書を持っている。

 よって、上記通り彼は数学の教師である。


「あれ? なんか落ちてる」

 彼はあるものを見つけた。

「懐中時計? 誰か持ってたっけ?」


 彼が見つけたものは首からさげるタイプの懐中時計だった。


「一応、職員室に持ち帰って持ち主を見つけようと……」


と言い、しゃがもうとした。



 *



 次の瞬間……。


「あっ、先生。ちょうどいいところにいた!」


 1人の女子生徒が彼に近づいてきた。

 彼女は背中を少し超えた黒髪のセミロングヘアーである。


「先生、何してるんですか?」


と訊かれたため、


「えっ? 何って、懐中時計という名の落とし物が落ちてたから拾ってるんだよ。夏川は誰が持ってたか心当たりある?」


と彼女に訊き返した。

 彼女はこの高校の2年生(注・現在3年生)である。

 周囲を見回すが、何もものが落ちている気配がない。


「懐中時計って……。先生、ここには何も落ちてないですよ?」

「えっ!?」

「もう一度言いますが、ここには何も落ちてないですよ」

「その懐中時計は僕しか見えてないっていうこと?」

「そうなんじゃないんですか? 私の目には何も見えてないんですから。たとえ、見えたとしても、小さなホコリとかしか見えませんよ?」


と女子生徒はしれっとしたような表情と口調で言った。


「あっ、そういえば、僕に用があるって言ってたね」

「あはは……。忘れてました。先生、今日の放課後は少しでも時間が空いてますか?」

「あぁ、空いてるけど」

「ならば、教科書の120ページの例題が少し分かりづらかったので、もう1度教えてくれませんか?」

「いいよ。僕は夏川みたいに授業で分からないことがあると積極的に質問してくれる人は好きだな。他の女子はどうでもいいことを話しかけてくるけど」

「冬井戸先生は校内でトップクラスのイケメン教師ですから、話したいんじゃないでしょうか?」

「そうだな。じゃあ、また放課後に職員室にこいよ!」

「ハーイ!」


 女子生徒は元気に返事をし、足早に教室へ戻った。



 *



 一方の彼は彼しか見えない謎の懐中時計をそっと右手で拾い上げ、職員室に戻ろうとした瞬間……。


「うふふ……。あなたが今、持っているその懐中時計はあなたに差し上げますよ」


 どこからか分からないが、よく通る女性の声が彼の耳に入ってきた。

 しかし、職員室付近の廊下には誰もおらず、階段の昇降している微かな音や生徒の声が響いているだけである。


「誰だ!?」


 彼は誰もいない廊下で周囲を見回しながら叫ぶ。


「私はロザリー。突然ですが、あなたは最近、誰かに恋したりしていませんか?」

「いや。残念ながら、それはないと思う」

「そうですか? 先ほどの女子生徒さんはどうですか?」

「彼女は僕の教え子で生徒と教師の関係!」

「つまらない人ですね……。もし、恋だと感じたらその懐中時計を使って」

「……。くだらない話ですね。ロザリーさん、そういう子供が信じそうなことを言うのやめた方がいいと思うけど」

「そうかしら? ところで、先ほど1人の女子生徒さんがここには何も落ちてないと言っていましたね?」

「ハイ」

「それはあなた以外の人間には誰も見えてないのです」

「僕は信じない……」

「あなたはそう言いますが、現実ですよ? ほっぺをつねってみてください」


 ロザリーは彼に頬をつねってみるよう促す。

 彼は左手で自分の頬をつねってみるが、


「痛い。本当なんですね……」


と頬を撫でながら答えた。



 *



「でも、これで勇者になれたら凄いだろうな……」


 彼は懐中時計を見ながらそう呟く。


「残念ながら、あなたが持っているその懐中時計では勇者になり、ピンチを救うことができません。それによって、あなただけにしか分からない次元に行ってしまうかも知れません……」

「ハイハイ、僕はやっぱり、あなたを信じませんよ」

「勝手に遮らないでください! あなたは今はこの高校の教師として勤務していますが、来月くらいからの1年間、怪盗として戦わなければなりません」

「ハァ!? なんで僕が怪盗? よって魔王的なポジションで戦わなきゃならないのですか!?」

「魔王……。あなたは面白いですね」

「面白くない! 懐中時計(それ)は返しますので、お引き取りください!」

「それでいいのですか? あなたの大切な生徒さんがいなくなるかもしれないんですよ?」

「本当はそういうのは嫌だが、仕方ない……」


と言った瞬間に会話は途切れ、彼は1人佇んでいた。

 その間に何人かの生徒や教師が彼の近くを通ったり、職員室に入ったりしていたため、非常に怪しい目で彼のことを見ていただろう。

 そして、彼は職員室に戻ったのであった。



 *



 そして、時が流れるのは早いもので4月に入った。

 彼はいつも通りに出勤時間に合わせて起きた。

 いつも通りの朝の生活を終え、家の戸締まりをし、車で出勤した。

 無事に何事もなく学校に到着し、自分の机に鞄を置く。

 その時、彼の机に置いてある彼しか見えない懐中時計から異常反応が生じた。



 *



 パリーン。

 突然、彼の黒ぶち眼鏡のレンズが割れた。

 それと同時に身体もふらつき、彼は倒れてしまった。

 彼の近くにいた教師がそれに気づき、


「冬井戸くん、大丈夫?」

「あっ、秋山先生、大丈夫です」

「そうかな……。ならいいんだけど……。眼鏡のレンズが割れちゃってるから見えるかどうか心配で」

「大丈夫です。一応、念のためにコンタクトを持ち歩いているので」

「なら大丈夫だな」


 2人で話しながら、彼は背広の内ポケットから小さな鏡とおそらく、コンタクトが入っているであろう小さなケースを取り出した。

 そして、眼鏡は眼鏡ケースに入れ、鞄の中にしまった。



 *



 あれから2時間が経ち、あっという間に3限目になった。

 彼は3年5組の教室に向かい、そのドアを開けて入った途端に、


「あれ? 冬井戸先生、今日は裸眼? それともコンタクト?」

「先生、眼鏡は?」

「眼鏡がないと、違和感があるよ。冬井戸先生!」


などと女子生徒達からの質問責めにあった。

 中には彼の眼鏡を外した顔は珍しいと言って、スマートフォンや携帯電話を制服のポケットやカバンから取り出して写真を取り始めた。

 彼は注文が多いなぁと思いながら、呆れた表情を浮かべ、彼女らの質問に答えた。


「眼鏡のレンズが割れたから今日はコンタクトにした」

「それだけ?」

「それだけ。携帯電話やスマホはしまって!」

「待って、もう1枚!」

「待たない。授業を始めるぞ! 教科書14ページを開いてー」

「ハーイ」



 *



 授業が順調に進み、ようやく3限目の授業を終えた彼は、


「ふーっ、やっと授業が終わった」


と言った。

 次の瞬間、彼は微笑を浮かべ、


「さっき、授業をした教室に敵が1人いた……。あと2人は生徒か? それとも教師か……?」


 彼はついに、1人の敵を見つけてしまったようだ。

 あと2人の敵を彼は見つけることができるのだろうか?


 最初の戦いまで、あとわずか……。



2015/06/20 本投稿

2016/05/05 空行挿入

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

その他の作品はこちらから(シリーズ一覧に飛びます。)

cont_access.php?citi_cont_id=183034392&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ