雨の中にいた少女
雨の中で倒れていた少女の事情とは…?
暖かくて柔らかいものに包まれてる感覚が意識が戻ってきたときに最初に感じた感覚だった。
耳に聞こえてくるのは
台所で水を流す音
食器が当たる音
雨が窓を叩く音
部屋時計の音…
静かでありきたりで、それでいて聞こえるはずのない音だった。
「……?」
少女が目を開いて目の前に広がった世界は、全く知らない部屋だった。
机の上には封筒や書類が綺麗に重ねられていた。奥の棚に並ぶたくさんの本は分厚く、読めない外国の字で書かれているものもあった。
水の音がやみ、奥の扉から誰かが歩いてくる音がした。
扉を開いて現れたのは、雪夜だった。初めて見た若い男に少女は少し緊張し、体を硬直させた。
それを見た雪夜は、脅かさないよう慎重に近づきゆっくりとした口調で少女に話しかけた。
「…目が覚めたか。道に倒れていたから、連れて帰った。濡れた服は洗っている。洗い終わるまで、悪いが俺の服で我慢してくれ。」
申し訳なさそうに言う男の声に少女はゆっくりと頷いた。
頷く少女を見て少しホッとした雪夜は、倒れていた事情を聞き始めた。
「どこから来た?どうしてあんな所で倒れていた?」
だが、少女は何も答えない。
もう一度聞きなおしてみたが、やはり何も答えなかった。
どうしたものかと悩んでいると、少女がゆっくりと上体を起こして手で首をそっと抑えた。何かを表現しようとしているようだった。
雪夜は静かに見守り、何が言いたいのか見取ろうとした。
すると、少女は首を抑えたまま顔を横に振った。その動作をみて、雪夜は思った答えを思わずつぶやいた。
「…声、がでないのか…?」
不意に出た発言に、少女はうつむいてしまった。
雪夜は無神経に言ってしまったことを反省して悪い、と言った。
だが、何もわからなければ進まない、と
「お前の名前はなんだ?言葉はわかるだろう。口を開いて言ってみろ」
と問いただした。少女は恐る恐る顔を上げて雪夜の目を見てゆっくり口を開いた。
とても小さく見にくいが、雪夜は読み取ろうとしっかり見た。
(あ、え、お…?あ、えお……あけ…あけ、の?違う…あ、け… …!)
「あけ、よ…?」
雪夜は、どこかでこの様な響きの言葉を聞いたことがある気がしてならなかった。
ぼーっとしていたのか、はっと我に返り少女の顔を見ると、少女は泣いていた。
声を出さずに、ただ雪夜の目を見て大きな瞳から涙をこぼしていた。
いつのまにか、固まってすくんでいた少女の肩が降りていて、安心したように楽な体勢で座っていた。
少し安心した雪夜も、泣いている少女をなだめるように言った。
「…あけよ、家があるなら送ろう。疲れたなら、何もないが良ければここでゆっくり休め。…あ、あと、これ…」
そう言って渡したのは、少女が倒れていた時に大事に抱えていた巾着袋だった。
少女はそれを受け取ると、強く抱きしめて大粒の涙をこぼした。
雪夜は少女の隣に座り、大きな手で少女の頭を撫でながら思った。
(…きっと、先生なら…こうしたかな…)
そう思う雪夜の隣で、少女はゆったりと眠りについた…
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