はじまりは 姉の場合
白い。
白い。
すべてが、白い。白に侵食される。
ねじれる白に、わたしが巻き込まれてゆく。
ムンクの叫びのようにねじれてゆくわたしが、白い渦に吸い込まれてゆく。相対性理論によれば、ブラックホールに近づくように見えるときにはすでにその中に入ってしまっているのだというが、わたしの状態はそれに近いのだろうか。
白いねじれた空間の先には真っ暗な世界が見えた。何もない、深遠の闇だ。
消えるのだろうか、わたしは。
ブラックホールに巻き込まれた場合、天文学的確率で別の空間にぺいっと吐き出されることがあるらしいが、自慢ではないが、わたしは運が悪いほうだ。
わたしは死ぬのだろうか。
この場合、死ぬとしても、魂は消滅するのだろうか。死とは肉体と精神の乖離であり現世に肉体を捨てて精神だけが高次的次元に移るのだというが、生きている人間にとって死後の世界など想像の世界だ。
つまり、わからない。
でも、まあ、いっかと思う冷めた自分がいる。
死ぬなら死ぬで、別にまあ、それなりに生きたしな、親より先に死ぬというのだけはちょっと、申し訳ないんだけど。
ただ、心残りはないとはいえない。
一番心配なのは、わたしの「お宝」な、薄くて濃い本と、PCに残した趣味に走ったネットサイトのブックマーク先ッッ! アレだけは、アレだけはァァァァ! 死ぬならアレの処分だけはしとかないとヤバイのよ!
ごめんなさい、お母さん、弟! 腐っててヤッバイものを沢山残していくわたしを許して!…ってわたし、死ぬのが前提になってる!? やばい、病は気から、ネガティブはネガティブしか生まない! ポジティブなこと考えなきゃ! 手始めに今はまってるキャラのカップリングについてでも…って思考が腐ったものしか思い浮かばないわたしって終わってるー! 終わってても別に困ってないところが悲しいけど! あぎゃ、真っ暗が近いよ、飲まれるよ、わたし! どうする、わたし!
そしてわたしは星になった………わけではなかった。
気づいたら、部屋の中にいたのだ。
あの有名なお約束なせりふをいうべきなのだろうか、ここは。
言ってもいいけど、わたしが言ってもなー。似合わないことはするべきではないだろう、うん。
この台詞はぜひとも弟に言ってもらいたいものだ。そしてわたしは、そんな弟を白い目で見るのだ。それが正しいのだ。オタクな姉として! 様式美というヤツだ!
ひとりで勝手に納得していたわたしだが。
「知らない天井だ…」
例のお約束な言葉が聞こえた。高くて澄んだ声だった。アニメの萌キャラのような声、つまりはカワイイ系声ではあったけど、わたしはこんな声をしていない。わたしの声はもっと鼻にかかった甘いぶりっこ系のちょっと痛い声なのだ。耳に聞いて楽しいこんな声をしていない。
つまりは、わたし以外の人間がいるということだ。
声が聞こえたほうに顔を向けたわたしは。
ぽかんと天井を見上げてつぶやく美少女がそこにいるのに気づいた。
ていうか、誰よ?