プロローグ0 弟の場合
どうもこんにちは。
俺はふつうの、きわめて普通の、自宅警備員してます。
いや、こうなる前はちゃんとそれなりに働いていたんです。
高校中退して、家でごろごろしてたら親が「働けー!」て土木工事のバイトに顔つないでくれて。そのあと、おばちゃんパートが沢山働く会社に就職して、バレンタインには義理チョコ沢山もらいました。お返しするのがすんごい大変だったけど。それをしないと会社での俺の立場が余計に悪くなるからほんと、大変だったけど。
会社にはまあ、女性が多かったけど、男性社員も当然いるわけで。毎日のように怒られて怒鳴られて過ごしてたら、まあ、ストレスたまっちゃって、いわゆる現代ストレス病にかかっちゃって退職しました。
親には本当、迷惑かけましたが、なんとか今は社会保険のおかげもあって立派にひきこもっています。
そりゃまあ、世間的にみたら俺はきっと、社会不適合者っていうんだろうって自覚はある。
でも、他人がどうしても怖いのはもう、どうしようもない。なんというか、3つ上の姉がなんのかんのと転職繰り返して職場の愚痴をこぼしながらも仕事に毎日向かうのを見ると俺ってなんて弱いんだ、と自嘲しないでもない。姉に言わせれば俺は甘ったれてるだけだそうだが、精神的ストレス障害というのは姉が思うよりやっかいで、俺はどうしても一歩踏み出す勇気がもてない。
勇気が持てないから、今日もパソゲーで現実逃避する。
俺は結構ゲームが好きである。RPGにTRRPG、シミュレーションに格闘ゲーにギャルゲもエロゲも。乙ゲとBLゲはしたことはないが存在は知っている。まあ、普通だな。姉はまあ、隠れてはいるけど腐女子やってて夏と冬に例の祭典に行って戦利品を山のように手に入れてくるけど、俺はそこまでいってない。ネトオクがせいぜいのライトなオタクだ。そりゃまあ18禁的なアレコレが嫌いかと言われたら口ごもるけど。仕方ないだろ、男なんだから!
ハーレムは男の夢だ! ギャルゲ制覇しまくった時期だってあったさ! 姉には「どこが面白いの。むしろネタ的な宝塚女子エンドとか空手部後輩エンドとかならやってもいいけど」なんて言われたが、姉にはギャルゲの良さが解らなかったらしい。残念だ。まあ、姉はな、戦国武将になって全国統一とかいうゲームでクリアどころか隣の領地とることすらできずに終わったからな。そのわりに市長ゲーム好きだったな。よくわからん。
まあ、リアルの女の子より、平面の中の女の子のほうが可愛い。胸だって大きいし、声だって可愛い。そこらのアイドルより遠い分、変に期待してがっかりするということがない。性格だって理想的。まさに俺の嫁。ハーレムするぜおらぁ!と鼻息荒くなるってもんだ。エロゲだとさらに…ごにょごにょ。ごほん。
まあともかく!
なまじっか姉をもつと、現実の女性とゲーム世界の女性があまりに違いすぎて涙が止まらなさすぎる。いや、俺の姉が腐ってるからなのかもしれないが、ちょっと、そのあまりの壁の高さにはへこむ。
とはいうものの、俺は姉と違ってリアルの異性に興味がないわけじゃない。手をつなぐ程度の可愛らしいお付合いをしたことだってないわけじゃない。まあ、振られて終わったけど。
今の自宅警備員な俺に付き合おうなんて女性いるわけないから、結婚とかありえないけど、昔は普通に思ってたな、いつか結婚して子供持って、家を建てて、っていう夢。まさに夢。ドリーム。
現実とは厳しいのだ。
パソコンの中でゲームをして、チャットをして、夜も遅いし寝るか、と思ってベッドに横になる。
眠った先の世界で、俺は――――夢の選択をした。
後悔しかしない、夢の選択だった。