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……砂。 ……砂。
辺りは砂しかない一面の砂漠。
仮に日中、車輌が通過しようものなら、その車体はものの数分で灼けた鉄板にと化してしまう。
だが、現在空には太陽の代わりに月と、星たちが輝いていた。
日中の灼熱地獄とはうって変わって、夜の砂漠はあらゆる熱を奪う極寒。
生命の気配が感じられない中に、動きがあった。
砂漠に生息する生物ではない。
動く影は人型であった。
影が纏っている甲冑は漆黒で、頭頂部から両手の指先、両足の爪先までを覆うフルプレート。 露出している場所はない。 月明かりがなければ、闇夜に紛れていたであろう。
しかし、甲冑の造りは異様なものであった。
なかでも郡を抜いていたのは、左右の肩当てから巨大な角が周囲を威圧するように生えていた。
兜も同じで、耳に位置する辺りの上には僅かに小振りの角が二本、やはり、天に向かって伸びていた。
肩から足下まで伸びる、純白のマント。
両目、鼻、口の部分まで滑らかな面甲に覆われている。
彼ーーあるいは彼女はどこを見ているのか。
呼吸しているのか、どうかさえ分からない。
「ーーつまらん」
黒い甲冑から、野太い声が響く。
「これでは退屈しのぎにすらならん、だが、予備部隊接近中……。 戦車、二。 歩兵、六〇。 車輌型GVS “ナムジン”、一」
不意に、甲冑の横で何かが動いた。
甲冑の主は反射的に『何か』に向けて腕を振るう。
「おいおい、まだ、敵と味方の判断もつかないのか?」
甲冑の手刀が割った気配は消え、別の場所に、つばつき帽子を被った細身の男が現れた。
「その声……ジェプスか?」
「あったり~っと、てか、今の一撃ヘタしたら死んでたよな、な!」
「……悪かった」
ジェプスは甲冑と同じ視線を見る。
「んで、今日のノルマ終わるまでにどれくらいかかった?」
「……三八分」
ジェプスが、口笛を吹く。
「それはたいしたもんだ」
「歯ごたえを感じない。 もっと強いやつと戦いたい」
「焦んな。 これから、二人でも飽きるくらい現れるさ」
ジェプスと甲冑を着た誰かは、周囲を見回した。
風が砂たちを巻き上げていく茫漠の地。
そこに、兵士たちの死体が転がっていた。
ヘルメットを砕かれ、上半身が原形を止めていないもの。
巨大な獣の爪に切り裂かれたように、三等分されたもの。
身体中にいくつもの穴を開けられ、流れた血が砂を赤く染めているもの。
かつて、人間と呼ばれたものたちの残骸、数百人分。
彼らの周りには、かつて兵器と呼ばれたものたちの残骸も転がっている。
砲身がへし折れ、全面の装甲板がひしゃげた戦車。
潰れて、平面になってしまった装甲車。
穴だらけで沈黙している人型のGVS。
有機物と、無機物が入り交じった骸たちが、ジェプスと甲冑を中心に、ドーナツ状に散らばっていた。
「ああ、そうだ」
無言を破ったのは、ジェプスだった。
「今度の仕事について話、今しとくわ」
「……難しそうだな」
「多少の手段は問わない、だそうだ。 やるか?」
甲冑は無言で頷いてみせた。
兵士と兵器の死骸の向こうから砂塵が上がる。
それを見た甲冑は、マントをなびかせ走り出す。
辺りを砲撃によって生まれた暴風が襲う。
それに紛れ、角を生やした甲冑は消えていた。
ジェプスが緊張感のない欠伸をかく。
時間が深夜だけに仕方ない整理現象だと本人は割りきっていた。 暇をもて余すかのように目標の地点を旧式の紙製の地図で確認。
「えーっと、場所は――」
古いせいか、破れていたり、所々虫に食われてわいたがなんとか、問題はなかった。
さ迷っていた指が、地図を滑る。
遠くで爆発音……。
兵士たちの悲鳴が続いたが気にも止まる様子はない。
指の動きが止まる。 指が重なったのは、荒野に存在する町を示していた。
「鉱山町――ヤマラ!」
上機嫌なジェプスの声だけが砂漠に響いた。