日常
燦々と照りつける太陽。
その広大な大地に佇む岩山の鉱山から重機音が響きわたる。
鉱石を掘り当てる為に作業を続けるのは、首がなく胸部に半透明のカプセルを埋め込んだ巨大な人影。
機内で黙々と巨人の操作に明け暮れるのは、まだ幼さが抜けきれない少年だった。
泥で汚れた作業の袖で額の汗を拭った時、懐から電子音が響きわたり、今日の作業の終わりを知らせる。
作業用の機装器“アッシ”の動力を落とす。
徐々に消えていく駆動音を確認しながら、シートに身を沈ませる。 若干ベタつく汗は、ほぐれたの緊張感の前には不思議と気にならなかった。 疲労した身体を起き上がらせながら、カプセルの開閉装置を作動させる。
最初に吹き込んできた生ぬるい風は何度体験しても好きにはなれない。
“アッシ”から降り、歩みを進める内に徐々に視界が明るくなっていく。
坑道から出ると、照りつける日差しにうんざりしながら前に進み出る。
険しい崖のように削り取られた斜面の下には町があった。
もうじき、夕暮れを迎える市場や、通りは人々で溢れかえっている。
その活気に比例してか、それなりに盛んな町であった。
目が明るさに慣れだした頃、後ろから近づく駆動音に気が付く。
振り返れば、一台の自動四輪車が停車していた。
「黄昏ってとこ悪いけどよ、乗ってくか、少年?」
サングラスを掛けた一人の男が問いかけた。
「……ああ、頼むよBJ」
少年は、自動四輪車に近づきながら応えた。
鉱山の登山道を下りながら、他愛のない会話が続いた。
特に異性の話にはBJは食いついていた。
「なあ、BJ?」
っん?、とハンドルを傾けながら斜面を下るBJは声だけ返す。
「……また、なのか?」
「それは、いうな。 こう見えて女には弱いと自負している!」
「……BJ、それを自慢気に言えるのもどうかと思うぞ」
「うるせぇやい、失恋の1つつや2つがなんだっ!」
「通算、20越えそうなくせにな」
「あーあー、やだやだ、数字に細かい男は……。 それより今年19にもなるお前がまだ、初恋すらねぇってのが異常だぞ、アオ?」
「……」
BJは右手の甲を左頬に添えた。
「そういうお前が、こっち系じゃないかと俺は心配で、心配で-ー」
「……ねぇよ、バカ」
親友の言葉に突っ込む気力もなくなった少年、アオイは自動四輪車に揺られながら、近づく町を見つめていた。
鉱石と、機装器と、日光と蒸気、埃と煙の町。
それが、アオイが初めて見たヤマラ鉱山町の印象だった。
遠目でもわかったようにヤマラ鉱山町は、活気づいている。
自動四輪車が道を進む中、家を出て、鉱山へ向かう男たちの群れ。
ツルハシや手回しドリルを肩に背負い、連れたって町を歩く彼らの身体には、土埃と機械油と、汗の匂いが染みついている。
これから彼らは鉱山に潜り、土と石をかき分けて鉱石を探すのだろう。
首尾よく大物を掘り出せば、冷たい麦酒と、豚の燻製でも食べられる。
見つからなければ豆のスープを啜ることになるだろう。
町を歩くのは、ほとんどがそういう人間だ。
ふと、アオイの目に映ったのはサングラスを掛けた集団。
隣で自動四輪車を運転するBJより黒いサングラスだった。
「うひょ~、最近は地中層の連中も駆り出されてきたのか?」
「……地中層?」
隣のBJがアオイの視線に気づいたのか、話しを続けた。
「ああ、前にも話したことあったろ?、俺たち地下人〈アンダー=ヒュー〉は大きく三つに分類されるって」
ああ、とアオイは曖昧な記憶を探る。
左手でハンドルを握りながら、残った右手を握り拳でこちら掲げた。
「1つ」
人差し指を上げる。
「これは俺たち地表に近いところで生活する地下人、〈亜・地表〉」
「2つ」中指を上げる。
「んで、これが〈亜・地表〉より深ーいところに住む、〈地中層〉」
「そんで、もって最後な」薬指を伸ばす。
「ん~、実際これ俺もあんまり詳しく知らねえけど、一番深いとこに住んでのが、〈最下層〉って連中らしい」
「……〈最下層〉、ねえ」
町に敷きつめられたら路線を横切る時には、町は橙色に染まっていた。
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