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見回した部屋に覚える
微かな違和感
足元には幾何学模様の絨毯
視線を上げると
シンプルな真っ白のカーテンが掛かった出窓
黒い革張りの応接セット
低いテーブルには
アルファベットのタイトルが付いた雑誌が
雑多に積み上げてある
カップボードの上にはオーディオセット
その隣の扉はキッチンへ続いているらしい
何やら良い匂いがする
レースも花も写真も
絵さえ飾っていない
違和感を抱えながら
良い香りを湛えたコーヒーを味わう
おいしい
暖かい液体が喉を通っていく
それだけで
息が
深く吸えるような気がした
カップをテーブルに戻した瞬間
突然ドアの開く音がして
誰かが早足でこちらへ向かってくる
耳を澄ませる暇もなく
部屋の扉が勢いよく開く
あのひとが立っている
呼吸を忘れ
世界が止まる
目を奪われるどころか
全ての動きを奪われたような心地
いつの間にか
自分が立ち上がっていたことにも
気付かなかった
覚えているより背が高い
覚えているより男っぽい
覚えているより
……スーツが似合う大人になった
久しぶり
と
彼が突然言った
ひとつ追加
覚えているより声も低い
この声は
覚えているより身を震わせる
久しぶり
妙に上ずった声で答える
元気か?
うん
元気
……貴方は?
元気
ぎこちなく
ぎこちない言葉を交わす
私の中の運転席では
プライドはブレーキを握りしめ
助手席の恋心は状況を掴めず
ただ
これ以上傷つきたくないと訴えている
理性は後ろの席に
無言で座していた
目を離せないまま問う
結婚したの?
絞り出すような声が出た
その言葉が聞こえなかったかのように
問い返される
帰ってきたのか?
この街に?貴方のところに?
恋心が問い返そうとするが
プライドは運転席に座り続けている
うん
少し間をおいて彼が続ける
夢は
叶ったのか?
恋心とプライドがケンカを始める
恋心が勝利を収めるまで
少し時間を要した
ひとつは
ようやく答える
もうひとつは何かと問うてくれという
恋心の願いは叶わず
彼は黙り込んだ
私も何も言えずに黙り込む
沈黙に絶えかねて
とうとう恋心がプライドを押しのけて
ブレーキを解いた
結婚したの?
真っ直ぐに彼を見る
助手席に移動させられたプライドが
彼がイエスと言ったら
祝いの言葉を置いて
直ぐに帰ろうと主張する
その問いを
量りかねるように
時間をおいて彼は言った
お前は?
……してない
また彼が質問に答えなかったことに
心が落胆する
プライドが
ハンドルを奪い返そうとしているが
恋心は
覚悟を決めた
……約束を覚えてる?
心が車扱いです……
他に表現が思いつかなくて…… T口T
あと2話分残ってます!




