イベント戦
本日最後のシステム(小説)更新。
1
次の日、僕は村の近くの遺跡に来ていた。理由は簡単、回避不可イベントだ。村を出ようとした時、村長らしき人に話しかけられこのイベントが発生した。何でも、この遺跡にでる黒い影の正体を暴く事と、モンスターだった場合の討伐のイベントらしい。黒い影と言っても、この遺跡自身がコケや蔦やらで濃い緑色をしているので、黒い影を見つけるのはかなり至難の技がいるだろう。
「………そう思っていた自分が間違えでした」
僕は突然そう呟いた。何故なら、入ってすぐ黒い影が出現したからだ。ウワァ、ヤッパリ最初のイベントだから簡単にしてあるんだ。
「汝……魔皇の剣を持つ者…。闇に…魅入られし………我等の…同類……それ即ち………剣」
?? どう言う意味なのだろう? 何かの伏線か? まぁとりあえず、この場合はこのモンスターを倒すことでイベントは終了なのだろう。僕はそう思い、ロングソードを構えた。硝子の割れるような音と共に、BGMが変わった。
~魔の影~ Lv3
このモンスターの名前とLvが頭に浮かぶ。成程、僕よりLv2高いと言う訳か。まぁ苦戦はするが、何とかなるだろう。
「狂人化発動!」
その瞬間、僕の影から黒い渦が発生し僕を包み込んだ。そして黒いオーラが僕あふれ出る。
「成程、これが狂人化の効果か。これで攻撃力が2.5倍。ならもう少し上げるとしよう。
魔剣召喚!」
今度は剣を黒い渦が包み込む。そして剣の色が黒く染まる。
「行くぞ!」
僕は魔の影に斬りかかった。影と言っても斬った手ごたえはあるし、斬った場所からは黒いオーラが溢れている。ダメージはあるようだ。
「グゥ………まだ……!」
ズォッと言う効果音と共に、魔の影から無数の黒い影が伸びてくる。職業の特性上、速度は高いので難なく避ける事が出来たが、攻撃の当たった木や土がかなり抉れている所を見て、当たったら危険だと分かった。しかし、倒さない事にはどうしようもないので、僕は再び攻撃を仕掛ける。
ゲームの補正なのかは知らないが、何故か恐怖心が薄い。普通なら逃げ出す様な化物だが、僕の中で逃げると言う選択肢は薄かった。恐らくゲームの補正なのだろう。
僕は距離を置き、スキルを発動する。
「山斬り一閃!」
僕がそう言い剣を振ると、斬撃が地面を軽く抉りながら、魔の影に当たった。
「グガァ! ………テネブラエランス!」
相手もスキルを発動したようで、さっきとは倍以上の影が僕を襲う。僕はかろうじて回避をし、再び距離を取った。ここで魔剣召喚の効果が切れた様で、剣から黒いオーラが消えた。
「えっと……マジックリーフ」
僕がアイテムを取り出し、その名前を言うと、アイテムは消えMPが回復した。HPやMPのメーターも懐中時計に備わっているようで、すぐに分かった。僕は再び魔剣召喚を発動し、一瞬で近づいて攻撃を行った。
「狂剣乱舞!」
上段から下段に斬りおろし、そのまま上段に斬り上げ左に斬り裂き、切り返しで右に斬り裂く。そして止めに胸元を一突き。攻撃力が上がっている僕の攻撃は、かなり聞いた様で大きく相手はのけぞった。
「ルガァ! まだ………まだ…まだまだまだまだまだ!」
魔の影はそう叫びながら、再び体制を整える。しかし僕はそのままスキルを発動した。
「死刑執行…!」
スキルを発動した瞬間黒い影が剣から飛び出て、相手を襲った。しかし、頭の中にmissと浮かぶ。失敗したようだ。しかし相手の体制はまだ整っていなかったので、僕はそのまま斬り付けた。
「ハァ…!」
「!?!?!?」
今度はcriticalと浮かぶ。成程、大ダメージを与えられたんだと言う訳か。あれ? 攻撃ができない。どう言う事だ?
「成程、そなたの力…………見せてもらったぞ。……なら………次は此方の番だ!」
これは、相手の強制発動スキルのようだ。
「力の大きさゆえ理から外されし我等傍観者
無限の時を垣間見て
永遠の時を生き続ける
汝それに耐える事が出来るか
それが無理ならここで死を
行くと言うなら地獄を味わえ
見よ、これが無限の地獄だ!
大罪崩壊『クレイジー・インフィニティ』!!」
その瞬間、相手の影が僕の体の中に入り込んでくる。
死にたい……死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい! ただただ頭の中にその言葉が浮かぶ。
また自分だけが生き残った。もういい加減に………死にたい…。
「!? 不老不死不死身と言うやつか…」
「そうだ。………我等……傍観者は………持つ力が大罪。…………死を許されず……悠久の時を生き逝く存在。……………貴様に耐えられるか? 親しき者が死んで逝くのに………自分だけが生きていくこの苦しみが………」
親しきものね。残念な事にゲームの世界に入ってからはそんな人達はいないんだし別に、不老不死不死身だろうがどうとも思わないね。
「引き返すなら………剣を納め…………無限の地獄に落ちるのであれば………我を斬れ!」
魔の影はハッキリとそう言った。だから僕は迷うことなく斬り裂いた。その瞬間、自分の身体が斬れていた。
「!? な…何が!?」
痛みはない。あるのは驚きだけ。何故僕が斬れた。何故僕の身体から、ブロンズソードが付き出てきているんだ!
斬られた部分から黒いオーラが溢れだし、僕が現れる。
「!?」
「……僕は選んだ………無限の地獄を。…終わる事のない……悠久の苦しみを」
それだけ言うと、僕は消え去った。気付けば、魔の影も消えていた。どう言う事なのだろう? 傍観者、無限の地獄、不老不死不死身………恐らく、これは職種別の強制イベントなのだろう。
「傍観者……エグゼキューショナー……一体どう言う職業なんだ?」
獲得経験値…00211
ボーナス経験値…00050
獲得金額…01521
最大Hit数…00005
戦闘時間…645.9
獲得ポイント…00003
Lv3に上がった
アイテム"魔王の欠片"を拾った
アイテム"紅い剣"を拾った
アイテム"開かない懐中時計"を拾った
スキル"無限煉獄"を習得した
三つもアイテムを拾ったな。何々――
魔王の欠片
太古の昔存在していたと言われる魔王の心臓だった物らしい。
紅い剣
刃が血の様に真っ赤な剣。少し細い両刃剣だが、耐久力はかなり高い。
開かない懐中時計
錆び付いているわけでもないが、ただ単に明かない懐中時計。Diabolus XII Swordと彫ってある。
――成程、どうやら紅い剣は装備できないらしい。少し残念だ。でも、新しいスキルを習得した事は嬉しい。
僕は早速ポイントを使いスキルを習得した。ポイントが147に上がっていた。恐らくレベルアップ等が原因だろう。これは嬉しい。僕は早速15ポイント消費し無限煉獄をLv3に上げた。
その後、僕は報告の為に村に戻った。
2
村に戻り僕は村長に魔の影を盗伐した事を報告すると、お礼と言う事で1000ギルと100経験値を貰った。僕はその後、ローブなどの衣類品を一着ずつ買い、村を出た。そして暫く行ったところで一人の男と遭遇した。
「どうも~、こんにちは~」
「…こんにちは」
ニコニコと笑顔を振りまきながら近づいて来る男。何者なのだろうか?
「ゲームをお楽しみいただけていますか? このReal Playing Gameを」
なんだと!? この男、今ゲームを楽しんでいると言わなかったか?!
「おや? 私が何者かって顔をしていますね?」
僕は男の問いに静かに頷く。
「では自己紹介と参りましょう。私はこのゲームの創造者、リードハイデルト・ヴァンウィンクル・クルセイダー・オーディアン。長いのでリーデルトと親しい人達には呼ばれていたね。あ、ちなみに私はあなたの名前を知っているので言わなくて良いよ」
「は、はぁ…」
何なんだこの人は? それに創造者? このゲームを作ったと言う事か?
「あなたの考えている事は私がこのゲームを作ったと言う事かどうかだね? その答えはYES。このゲームは私が作りました」
「!? ヤッパリ。しかし、これは本当にゲームなのか? 僕にはこれが現実にしか見えない」
僕がそう言うと、男…リーデルトは少し黙った。そして口を開き一言言った。
「君は、異世界…もしくは別宇宙と言う存在を信じるかい?」
「?? いきなり何――」
「良いから答えて!」
「………あると言われればある、無いと言われればない。そんな感じだな」
僕がそう言うと、男は成程と一言言い腕を組んだ。
「じゃあ、質問を変えよう。君は、いや、君が元居た世界は本当に君が思っている現実の世界なのかい?」
「? 何が言いたいんですか?」
意味が分からない。僕はそんな哲学? 的な事は全く分からない。
「だから、君のいた世界はゲームの中の世界じゃなかったのかって話!」
「……ハァ? そんな事は――」
「――あり得ない?」
空気が凍りつくような不気味は雰囲気が男から発せられる。僕はそれに気付き、萎縮してしまった。
「誰がそれを証明したんだい? 君が言うように、この世界の様にゲームの中の世界だったかもしれないのに」
そう言われればそうかもしれない。だがそれこそ証明ができない。誰にも確かめることはできないからだ。ゲームの中の登場人物が、いくらこれはゲームの世界で、現実世界は別にあるんだと言ったところで、現実の世界に来れる訳ではない。
「生き物の想像は、それが全て独自の世界を作って行く」
「独自の…世界…」
「そう。例えば漫画。これは漫画家が想像し人物を作り、世界観を作り出したモノ。その漫画が生まれる瞬間、世界が生まれるんだ」
仮想世界と言うやつか? いや、もっと難しい物なのだろう。僕には到底理解できない様な、とてつもなく難しい。
「漫画はその世界の存在する証明。そして、その世界を創造するキッカケの様なものさ。後は、独自の成長を遂げていく。漫画は、その中の可能性の一つを現した物なのさ」
「………じゃあ、ある漫画の二次創作が出来たとする。それも――」
「その世界の可能性さ。世界には無限の可能性の分岐世界が存在するのさ。可能性の数だけ、その世界が生まれる。そして、その可能性を作り出したモノが死んだ時、そのモノが作り出した可能性の世界は全て消える。まぁ、漫画は別だけどね。あれは後世まで残るし」
記してない日記は、どこにも記録が残らないでしょうと男は言い笑う。
「じゃあ、あなたの理論から行くと、この世界も誰かが作り出した世界の可能性の一つ…」
「うん、その通りさ。いやぁ、君は賢いね」
「話を聞いていれば理解はできるさ」
此処まで聞いて分からない方が逆におかしいと思う。
「まぁ良いけどね。そして君が選んだ職業。全く、君は生前から貧乏くじを引くのが上手いみたいだね(笑)」
「!? やはり僕は死んでいるのか!?」
「おや? 今まで気づいていなかったのかい? まぁそれも無理はないと思うけど」
そんな、やっぱりあの時僕は死んだんだ…。なら、何故僕は生きている? なぜ今この地に立ち、呼吸をして、自分の意思を持っている?
「クスクスクス、随分と困惑の表情を浮かべているね。まぁ別にいいけれど。でも一つ忠告、今此処で考え込んだって、生き還れるわけではないし、元の世界に戻れるわけでもない。割り切った方が身のためだよ」
確かにそうかもしれない。しかしそれは客観的に見た場合の意見だ。主観的、つまり体験している僕から言わせてみれば、これ以上に衝撃的な事実は余りないだろう。
「……わ、割り切るのは無理だ。でも、話しは続けよう。エグゼキューショナーが何故、貧乏くじなのかを聞いていいかい?」
此処まで教えてくれるかどうかは謎。だが、聞けるときに聞いとかなければ後悔する事が多い。僕の場合は、それで大きな後悔をしている。
「う~ん、まぁ良いでしょ。とりあえず言っておけば、君の職業は初期から大きな力が得れる。と言うより、他の職業と比べた場合、君の職業は無双出来るレベルだ」
「無双ですか…」
余りにもバランスがおかしくないかそれ?
「でもね、君の職業の場合………一匹狼って感じなのさ。まぁ大切な職業なんだけど、他の職業から見たら敵の幹部レベルだから」
………ハァ?
「クス、君の今の顔凄い面白いよ! えっとね、君の職業の職種である傍観者はね、他の職業の言わばストッパーとか、サポーターみたいな存在なんだ」
「ストッパー? サポーター?」
「うん。ゲームとかで良くある、最初は味方として出てきたけど、暫く行くと敵として出てきて、また暫く行くと味方か敵のどちらかで出てくるキャラみたいなやつ?」
……本当に貧乏くじだなおい。僕の一番嫌いなキャラじゃないか。味方として出て来た時に圧倒的な力を見せ、その後再登場で完膚なきまでに此方を叩き潰すキャラ…。はぁ…、鬱だ…。
「クスクス、そう落ち込むなって! まだ一時スキルの段階だから、他の職業と絡む事も無いし、無双状態になる事も無い」
良し、ならばこのままLvを上げずにいよう。
「でも、ある程度時間が経つと、強制イベントで転職になるから気を付けてね」
「僕の考えを速攻で否定するな!」
僕がそう言うとリーデルトはまたクスクスと笑い、此方を見た。
「ちなみに、これも一種のイベントなんだよね」
「……ヱ?」
「おっ! 言い表情だ! まぁそれはさておき…、君のアイテムの中の魔王の欠片と紅い剣と開かない懐中時計を出して」
「嫌だ!」
このコマンドは選択できません
僕の頭の中にその言葉が流れてくる。
そんな馬鹿な!
僕はリーデルトの方を見る。すると、ニヤニヤしながら此方を見ている。ウゼェ! かなりムカつく!
「クスクスクスス、コレも強制イベントなんだよね」
スが一つ多い! しかしムカつく!
僕は渋々リーデルトにアイテムを渡す。
「………ちょっと待ってて」
リーデルトはそう言うと、その三つを掲げた。するとその三つが勝手に交わり、懐中時計だけになった。
「うん、これでOK! じゃあ、これを受け取って!」
僕はそう言いわれ、懐中時計を受け取る。
アイテム"12本の魔皇剣"を手に入れた
……ハァ? 魔皇剣? しかも12本? いやいや、どう見ても懐中時計だろ!
「うん、良い感じに困惑しているね。まぁ良いんだけど。ちなみに、それは転職してから強制装備だから。基本的には魔皇剣として装備が出来るんだけど、転職してからスキルを習得するから気を付けてね。ちなみに、そのスキルにはLvは無いよ」
リーデルトはそう言うと、近くにあった木の上にジャンプして飛び乗る。
「さてと………君はこの世界で紅月蒼月の名を捨て、シェオル・アイン・ソフと名乗ってもらうよ」
「?? 何故だ? 何か理由でもあるのか?」
「理由はあるよ。でも、それは言えない。まぁ、早く転職する事だ。いずれ強制的に転職する事になるんだから」
リーデルトはそれだけ言うと、僕の方を見て笑う。
「じゃあまた会おうね。まぁ今度会う時は初めましてになるだろうけど」
「ちょっと待て! それはどう言う――」
僕の言葉を聞かずして、リーデルは消え去った。なんだったんだ? まぁ深く考えても無駄だろう。この短時間で、あいつがわけのわからない電波野郎だと言う事は何と無くだが分かったし。
僕はそんな事を思いながら再び歩き出した。職業の事を聞いたせいか、少し足が重く感じていた。