楽園(エーリュシオン)と地獄(シェオル)
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1
「何故だ! 何故貴様に攻撃が当たらない!!」
コシュマールは息を切らし、槍を杖代わりにして立っている。
「僕はこの空間の支配者だ。言ったはずだ。この空間は冥王を現したものだと。そして冥王は僕の手元にある。つまり、僕は今、冥府の王!」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ!! どのような空間だろうが! どのような場所で有ろうが! 全ては我が主のモノ! 断じて貴様などが支配者であるものかぁあああ!!」
コシュマールはボロボロの体に鞭を打ち、再び攻撃を開始する。
凄いな。本来ならばもう限界なハズなのに。この男の気力はそこを知らないのか。でも、もう終わらせよう。
「コシュマール。我が好敵手よ。もう終わりにしよう」
僕はそう言うと、コシュマールの持つ槍に貫かれた。
「グ……アァ……」
「ハッ……ハハハッ……フハハハハハハ!! ハァッハハハハハハハハ!! 勝った! 勝ったぞ!! 我が! この我がぁあああ!! ヒャァッハッハッハッハ!!」
狂ったように笑うコシュマール。その瞬間、コシュマールの周りに翼を持った子供が現れる。一般的に天使と呼ばれるようなモノだ。
「ようこそ! 楽園へ!」
「ここは誰もが楽しいの!」「ここは誰もが泣かないの!」「ここは誰もが苦しまないの!」「ここは誰もが笑っているの!」「ここは誰もが幸せなの!」
天使はコシュマールの周りを囲み一斉に口を開いて喋る。それに困惑するコシュマール。
「な!? 何だこれは!? 一体、どうなっていやがる!?」
困惑しながらも周りを見まわし、一つの変化に気付く。
「奴が腐っている!?」
そう、貫いたはずの僕の体が腐りだしているのだ。
「ようこそここは楽園」
「誰も泣かない、誰も苦しまない」
「誰もが幸せ、誰もが楽しい」
「誰もが笑っていられるの」
「何故なら此処は――」
『楽園だから』
天使達は口をそろえてそう言った。
「楽園だと……? 馬鹿も休み休み言え! ならばあの空は何故淀んでいる! あの海は何故濁っている! あの森は何故枯れている!」
コシュマールはそう言って青い空、澄んだ青い海、木漏れ日でキラキラと光る緑の森を指差す。
「あの鳥は何故翼が折れて地に落ちている! あの鳥のさえずりは何故叫び声に聞こえる!」
そう言って周りを見回すコシュマール。すると今までニコニコと笑っていた天使達に表情が消えた。辺りの雰囲気が変わる。
「ここは楽園」
「空は青く美しい」
「海は青く澄んでいる」
「森は緑に光っている」
「鳥は自由に駆け回り」
「鳥はさえずり歌を歌う」
『ここは楽園。断じて地獄なんかじゃない』
「!? シェオルだと!!」
その時、コシュマールは再び槍に貫かれているはずの僕を見た。其処には――
「……誰もいないだと……」
ただ槍のみが残っていた。
2
風景が一変する。黒く淀んだ空。暗く濁った海。枯れた細い木々の森。鳥たちの死骸が転がる辺り。太陽はなく、ただ死者が燃やされ赤い炎が辺りを照らし、叫び声がこだまする。正に地獄。
「ここには喜びもなく、笑いもなく、幸せもない。ただあるのは苦痛と後悔と悲鳴のみ。誰もが苦しみ、誰もが悔いて、誰もが叫ぶ」
僕はそういいながらコシュマールの後ろに現れた。
「な!? 貴様、何時の間に……」
コシュマールはそういい、槍を僕に向ける。しかし――
「アァアアア!!」
突然現れた亡者に槍を掴まれる。
「は、離せ!!」
必死に亡者を振りはらうも、また新たな亡者が槍を掴み、ついにはコシュマールの腕を掴む。
「ここは地獄。此処に救いは現れない。此処は君の主も見放した地の底の監獄」
「黙れ! 主は見放す事はない!!」
コシュマールは亡者を振りはらいながらそう怒鳴る。
全く、いい加減に受け入れろよ。この世に神なんていない。例えいたとしても、神は何も救わないということを。
「残念だよ。君のその狂った信仰心は、ここで潰えるんだ」
僕はそう言って、鎌を取り出した。そして――
「もう死ね。君は哀れだ。誰も救ってはくれないのに、その思いだけを強くする。ただ悲しくて、哀しいだけ」
「黙れ黙れ黙れ! 例え全てが主を否定しても我は! 我だけは! 主を肯定する! そして主を否定する全てを殺す! 例外はない!! だから我はぁああああ!!」
「さようならだ、コシュマール。僕の最高で最低な好敵手よ」
僕はそう言って亡者に囲まれたコシュマールの首を刈り取った。
3
「……ッ、ここは」
僕の隣でコシュマールが目を覚ます。そして僕の存在に気付いた。
「? 貴方は?」
コシュマールは僕を初対面の人間のように見る。
「僕かい? 僕はただの傍観者。それ以外の何物でもない」
「?? ハァ……、そうですか」
コシュマールはそう呟くと、空を見上げた。辺りは瓦礫や死体の山。僕とコシュマールはそんな中に佇んでいた。暫くするとコシュマールが再び口を開く。
「何やら、大切なことを忘れている気がするんです」
そう言って僕の方を見る。
「でも、それでも良いのかと思ってしまうんです。私は、生きているのですから」
「……そうかい。ならば、死ぬまで生きるんだ。そして自らの生を楽しむんだ。何にもとらわれることなく、自分の意志で自分の生を謳歌するんだ」
「……はい。では私は失礼します。此処に居ると"主"の事を思い出しそうなんで。ってあれ? 主ってなんだ?」
「さぁね。でも、忘れているという事は、大したことではないんだろう」
僕はそう言うと、魔法煙草に火を付けた。そして再びコシュマールを見る。
「さぁ行きなさい。とらわれる事もなく、ただ自由に生きていくが良い。僕も自由気ままに生きるているから」
コシュマールは一度僕に頭を下げて、この場から歩き出した。
僕はコシュマールの記憶を刈り取った。あの世界で殺したのはコシュマール本人ではなく、コシュマールの狂信的なまでの信仰心と記憶。それを刈り取った。それ故に今のコシュマールは何もない虚空の存在。何時消えても可笑しくない、幽霊の様な存在。でも、彼は生きて逝くだろう。
「僕の好敵手は、そんなに柔じゃないないからね」
僕はそう呟くと、リーデルトの元へと飛んだ。
メンテナンス(小説筆記)を開始します。