なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
わたしは婚約破棄されているらしい。 ~どうでもいいですが、多分、あなたたち終わりですよ~
夜会に参加するのは、学園の卒業パーティ以来です。
本当は、テーブルに並んだ料理の数々を全部記録して、ゆっくりと味わいたいところですが。
まずは、目的であるザザメン――
「貴様とは今日限り婚約破棄する! 貴様にも、貴様の実家の権力を笠に着た横暴もたくさんだ」
突然、目の前に現れた青年が、叫びました。
わたしに向かって指を突きつけています。
これはどうも、婚約破棄されているらしいです。
かつて、わたしは伯爵令嬢でした。
今は、図書館司書の資格を得た途端、実家から除籍されてしまったので平民です。
実家としては『貴族の令嬢のくせに手に職などつけて卑しい!』ということで反省させるためだった……らしいですが。
すでに、王立図書館の司書の職を得ていたわたしには、どうでもいいことでした。
最近、元実家から何通か釣り書きが送り付けられてきて『こいつと婚約しろ。そうすれば籍を戻してやる』とか言ってきました。
彼らの脳内では、貴族籍から抜かれて、わたしが悲嘆にくれて反省していることになっているらしいです。
もう関係がないんで、と門前払いしてます。
実に快適です。除籍ありがとうございます!
あ。でも、もしかしたら、勝手に婚約させられてるとか?
「だめですよぉ。カシアスさまぁ。突然のことでボルテさまは呆然としていらっしゃるじゃないですかぁ」
「キルアはやさしいなぁ。それにひきかえボルテお前は!」
侯爵令嬢でボルテさん。
あ。名前も違う。
少なくともわたしが勝手に婚約させられていたわけではないらしいです。
つまり他人事ですね。
「だが、キルアが許してもオレはオマエを許さない!」
「はぁ」
きっと今、青年は『惚れてる女の前で、格好いいオレ! 最高だぜ!』とか思っているんでしょう。
若いってステキでピエロですね。
「オマエはキルアの教科書を破った」
「かなしかったですぅ」
教科書というと、この人ら学生ですか。
やらかす年頃ですね。
だけど、侯爵令嬢がそんなことをするでしょうか?
でも、指摘する気にはなりません。
「はぁ」
早く済ませてくれませんかね。
「キルアを噴水に突き落とした!」
「つめたかったですぅ」
侯爵令嬢が自分で?
「はぁ」
でもまぁ、高位の貴族の考えることはわからないですから。
もしかしたらそういうゲームがはやっているのかもしれません。
「取り巻きをつかって、いやがらせを繰り返した」
「こわかったですぅ」
「はぁ」
あ。それはちょっとやりそう。
でも、ずいぶんと露骨で優雅さにかけますけど。
それにしても、この娘っこすごいですね。
あんなに自由自在に涙って流せるものなんですね。
この歳にしてはおそるべしです。
「キルアの涙がなによりの証拠だ!」
「はぁ」
証拠はないんですね。
なのに、こんな場所でやらかしてたら、すでに若気のいたりではすまないんじゃないでしょうか。
「なんだその態度は」
「はぁ」
「この場でボルテさまが謝ってくださりさえすれば、あたしボルテさまを許します」
まぁ、謝って気が済むなら。
どうせわたしじゃないですし。
「ごめんなさい」
「「……」」
ぽかんとされてしまいました。
謝って欲しいって言ったのはそっちなんですが。
「では、わたしはこれで」
「せ、誠意がたりない!」
「土下座してください!」
「はぁ」
ほんと、面倒だなぁ。
わたしはかつらをとりました。
「「え」」
わたしの地毛は黒の直毛。
かつらは金髪ドリル。
しかも、服装だって貴族の御令嬢が着そうな華麗なドレスです。
彼らはわたしの扮装を見て、目的の人物だと人違いしたのでしょう。
「ザザメンギョのポロポロ煮が食べたいんで、もういいですか?」
「な、なんだそれは!?」
「この夜会で出ると小耳に挟みまして、一度食してみたいと。そうしたら知り合いが一式貸してくれたので。もういいですか?」
すっかり勢いをなくしたふたりは。
「は、はい」
わたしは食事に戻りました。
目の端で、あのふたり組が警備の人に連行されていくのを見ましたが、どうでもいいです。
事情はよくしらんけど。あのふたり終わったでしょう。
あの男、自分より立場が上らしき侯爵令嬢を人前で婚約破棄。
しかも相手の実家の侯爵家も罵倒。
いじめ行為を糾弾したけど、証拠も証人もいない。
謝罪しても「誠意が足りない」と追い打ち。
そのうえ人違い。
きっと夜会の主催者から、お相手の侯爵令嬢の実家に連絡がいって、ふたりは社会的に抹殺される……。
ま、他人事ですね。
※ ※ ※
夜会も終わって。
とはいってもわたしは食べてただけだけですが。
はぁ……久しぶりにおなかいっぱい。
今日、食べたメニューは忘れないうちに、日記に書いておきましょう。
官舎まで歩いて帰れば、いい食後の運動になりますね……と思っていたら。
夜会の会場から出ると大型の箱馬車が止まっていました。
「その恰好でお帰りになるつもりですか?」
馬車の扉が開くと、可憐な少女が姿を見せます。
わたしにドレスを貸してくれた知り合いです。
馬車に乗り込むと、官舎まで送ってくれるそうです。
ありがたく好意に甘えさせてもらいましょう。
「ザザメンギョのポロポロ煮はどうでした?」
「本に書いてあるのから想像してたのとはちがいますね。ほんとうに聖女様の好物だったんですか、アレ?」
「さぁ……? もともとこの国ではあまり出てこない料理ですから」
彼女とは、わたしが主催している読書会で知り合いました。
読む本の傾向が似ていたので、それなりに親しくなったのです。
読書会では、身分は関係ないという建前になっているので、全員、読書ネームで呼び合います。
ですから彼女の名前も、どういうおうちの御令嬢かも知りません。
一カ月ばかり前。
読書会が終わってからの雑談タイムの時。
この夜会で、うちの国では滅多にでないザザメンギョポロポロ煮が出て来ると聞いたので。
『いいなぁ一度食べてみたいですねアレ。読んでもどういう料理か想像つかないんですよ』と何気なくこぼしたら。
『では、お食べになれば?』軽く言われて。
扮装と潜り込める伝手を紹介してくれたのです。
箱馬車に同乗していた彼女の侍女に、見事な手際で扮装を脱がされながら。
わたしは尋ねました。
「いつもは金髪ドリルなんですか?」
知り合いは澄ました顔で、
「学園では大抵。似合ってると言われていますのよ」
今のさらさらストレート金髪の方が似合ってると思います。
「あのせこいいじめ、やったんですか?」
「全部やりましたわ」
「趣味ですか?」
「ええ。本に書いてあったので一度やってみたかったんですの。ですが証拠は残しておりませんわ」
高位の貴族の人脈や情報収集力を使えば簡単に実現できるでしょうね。
とはいうものの、高位の令嬢の考えることはわかりませんね。
「あなたがザザメンギョのポロポロ煮を食べたがったのと同じですわ」
ああ、なるほど。
「それならわかります」
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




