表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生転移銀歯独占 〜銀河を独占するはずが、神さまの誤変換で世界中の銀歯を独占しました〜  作者: 雨灯ひひ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

第1話:銀歯の所有者、盗賊を倒す

 目を覚ますと、俺は草原に倒れていた。


「俺、ほんとに異世界に来たのか。」


 青い空。

 遠くに見える城壁。

 腰には剣もない。

 魔法の杖もない。

 あるのは、神さまから押しつけられた謎スキルだけ。


「……ステータス」


 恐る恐るつぶやくと、半透明の板が目の前に浮かんだ。


 名前:アヤト

 種族:人間

 スキル:《転生転移()()独占》《歯磨き上手》


「見間違いじゃなかった……」


 俺は草原に倒れたまま、空を見上げた。


「終わった。完全に終わった。異世界で銀歯を独占してどうしろっていうんだよ……」


 その時だった。


 頭の中に、突然、妙な感覚が流れ込んできた。


 点。

 点。

 点。


 遠くに、小さな反応がいくつもある。


「……なんだこれ」


 目を閉じると、地図のようなものが頭の中に広がった。

 そこには、光る点がいくつも浮かんでいる。


 スキルが告げる。


 ――所有銀歯を検出しました。

 ――最寄りの所有銀歯まで、北東に三百二十メートル。


「所有銀歯ってなんだよ」


 行きたくない。

 できれば一生関わりたくない。

 だが、他に手がかりはなかった。


 俺は重い足取りで、光る点の方へ歩き出した。


 しばらく進むと、道端に馬車が倒れていた。

 車輪は壊れ、荷物は散乱し、護衛らしき男たちが倒れている。


 そして、馬車のそばで、ひとりの少女が盗賊に囲まれていた。


「へへっ、金目のものを全部置いていきな」


「や、やめてください……!」


 まずい。

 完全に異世界イベントだ。


 でも俺にできることはない。

 戦闘スキルはない。

 魔法も使えない。

 あるのは銀歯だけ。


 俺は頭の中の地図を見た。

 光る点は、盗賊のひとりの口元にあるようだ。


「……まさか」


 助けたい。

 そう思った。

 正義感というには弱い。

 でも、目の前で泣きそうになっている少女を見捨てられるほど、俺は器用じゃなかった。


「何ができるかは自分でも分からないが、とにかくやってみるしかない」

 

 俺は小声でつぶやいた。


「所有権、主張」


 その瞬間。


「ぎゃあああああああああああああああ!」


 盗賊が、いきなり頬を押さえて転げ回った。


「親分!?」


「どうしたんですか親分!」


「お、奥歯が! 奥歯が急に自己主張してきやがった!」


「奥歯が自己主張!? ちょっと意味がわからんです親分!」


 盗賊は、突然の奥歯の痛みに悶ながら、こう言い放った。

 

「てめえ、俺の奥歯に何しやがった!!」


 俺も聞きたい。

 いったい何が起きているんだ。


 その時、スキル表示が出た。


 ――所有銀歯に対する所有権主張に成功しました。

 ――対象の噛み合わせに干渉しました。


「噛み合わせに干渉ってなに!?」


 盗賊の親分は地面を転がりながら叫んでいる。


「噛み合わせが! 噛み合わせが急に俺の人生を否定してくる!」


「いや、人生否定ってどんな痛みだよ!」


 だが、効果は抜群だった。

 親分が倒れたことで、残りの盗賊たちが一斉に動揺する。


「な、なんだ今の魔法は!」


「こいつ、口の中を攻撃してきやがる!」


「嫌すぎる!」


 少女が、怯えた目で俺を見る。


「あ、あなたは……?」


 俺は言葉に詰まった。

 勇者でもない。

 魔法使いでもない。

 冒険者ですらない。


 そもそも、今の俺が何者なのかは俺にもわからない。


「俺は……」


 言いかけたところで、盗賊のひとりが口を開けた。


「な、なんだ今の魔法は!」


 その口の中に、もうひとつ銀色の光が見えた。


 ――所有銀歯を検出しました。


「……お前もか」


 俺は、静かに手を上げた。


「所有権、主張」


 少女を傷つけようとする盗賊への怒り。

 その感情を乗せた瞬間、銀色の光が揺れた。


「ぎゃああああああああ!」


 二人目の盗賊が、頬を押さえて転がった。


 結局、盗賊たちは全員逃げた。

 正確には、逃げたというより、奥歯を押さえながら転がるように去っていった。


「俺の歯が……俺の歯が爆発しそうだ……」


「この歯、もう俺のものじゃねえ……」


「……歯医者って、どこにいるんですか……」


 知らんがな。

 銀歯専門の歯医者は俺が聞きたい。


 助けた少女は、馬車のそばで震えながらも、俺に向かって深く頭を下げた。


「あ、ありがとうございます。助かりました」


「ああ、いや……無事でよかった」


「あなたは、高名な魔法使い様なのですか?」


「違います」


「では、聖騎士様?」


「違います」


「まさか、勇者様……?」


「違います」


 少女は、不思議そうに首をかしげた。


「では、あなたは……?」


 俺は少し迷った。

 この世界で最初に名乗る肩書き。

 できれば、かっこいいものがよかった。


 銀河を独占する男。

 世界を渡る者。

 神に選ばれし転生者。


 そのどれかだったはずなのに。


「……銀歯の所有者です」


「ぎんばの、しょゆうしゃ」


 少女は丁寧に復唱した。


 やめてほしい。

 異世界の第一村人みたいな子に、そんな肩書きを覚えられたくない。


 その時、俺はふと自分の奥歯に意識を向けた。


 そういえば、俺にも銀歯がある。

 小学生の頃に虫歯をやって、泣きながら治療されたやつだ。


「……これ、自分にも効くのか?」


 考えた瞬間、背筋がぞわっとした。


 効いたら嫌だ。

 ものすごく嫌だ。


 だが、気になる。

 気になってしまった。


「一回だけ。ほんのちょっとだけな」


 俺は覚悟を決め、自分の奥歯に意識を集中した。


「所有権、主張」


 何も起きなかった。


「……あれ?」


 痛みもない。

 違和感もない。

 奥歯が人生を否定してくる気配もない。

(てか奥歯が人生を否定するってなんだよ)


 もう一度、同じように試す。


「所有権、主張」


 やはり何も起きない。


「なんでだ?」


 答えは出なかった。

 ただ、盗賊に使ったときとは何かが違った。


 自分に使うとどうなるんだろうという好奇心で試しただけだ。


「……もしかして、スキルを発動するには対象への感情がないとダメなのか?」


 銀歯に感情を乗せる。

 嫌すぎる発想だった。


 その時、頭の中に、またあの感覚が走った。


 点。

 点。

 点。


 さっきまでとは比べものにならないほど、強い反応。


 北の空。

 鮮明ではないが、遠くの方にかすかに見える黒い城。

 その中心に、巨大な反応があった。


 ――高密度所有銀歯を検出しました

 ――推定対象:魔王レベル


「…………」


 俺は、ゆっくりと北の空を見上げた。


「魔王にも銀歯あんのかよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
控えめに言っておもしろいんだが、
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ