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機能不全家族の子供  作者: 桐生正恭


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6話目 三者面談

俺は先日の出来事で親父の事を諦めた。

誰のせいでもない、自分のせいだ。そう思い込むことにした。

そうでなければ生きる事に耐え切れない。

「母さん、ただいま。」

「ああ、太陽……お帰り……」

母さんは前のような成れの果ての姿に戻った、

また浴びるように酒を飲む母さんを、心配の目で見ている。

流石に親父に頼めないから、母さんに声をかけた。

「母さん、今度の三者面談来てほしいんだけど。」

「私でよければいいわよ。でも役には立たないわよ……こんなんだし。」

「まあ、当日は頼むから酒飲まないでくれ。日程はいつでもいい?」

「ええ。進学先はどこにするの?」

「……俺、やっぱり高校には行かないことにした。」

母親が拍子抜けな顔をした。

そして遅れて言われたことを受け止めて立ち上がった。

「何で……何であなたがそんな辛い道をあえて選ばないとなのよ!」

「俺だって……俺だってみんなみたいに普通に進学したかったよ!」

周りを見ると当たり前のように自分の生きたい進路を志望している。

それが許されない環境にいるのが、俺にとって耐えられない状況まで来ていた。

この環境から早く脱却したい。そのためには自分で稼ぐしかない。

悔しい、泣きたい。でも不思議と涙も出ない。

俺はもう壊れているんだ。これ以上この家族のもとで暮らすと、俺の核の部分まで蝕まれて今度こそ未遂では済まなくなる。

これは俺にとって前向きな結論なのだ。

でも、もし叶うならもっと二人に甘えたかった。

何かあれば絶対的な味方であって欲しかった。それはもう言えない。

俺はもう自分を押し殺すって決めたのだから。

「あなたは未成年だからまだ家にいてほしい。」

「こんな家に?今度こそ警察沙汰になってもおかしくないよ。」

「私がなんとかするから。」

「元に戻って酒ばっかり飲んでんじゃん。何も変わる気がないのに期待させないでよ。」

「……ごめん。」

母さんは申し訳なさそうに酒を取りに行った。

俺は呆れて部屋に戻った。


三者面談の日が来た。

思春期の俺らにとって親を同級生に見られるのは何とも恥ずかしい事である。

ましてやあのアル中の母親ときたもんだ。

流石に今日飲んでこないだろうな。不安がよぎる。

「太陽、今日はどっちが来るの?」

美咲が声をかけてきた。

「母さんだよ。親父とは喧嘩中だから……」

「その顔の傷、そうだと思った。でもお母さん来てくれてよかったね。」

美咲にはまだ進路の事を言っていない。

「美咲はどうなんだ?」

「まあ……うん……親のいう志望校に中々偏差値届かなくて期限悪いから憂鬱かな。」

そうだった、美咲の所も厳しい家庭だった。

自分の事に精一杯で美咲の事まで頭が回ってなかった。

美咲にこのまま黙っているのも忍びない。

「美咲、実は進学しない事にした。」

「そっか……太陽が決めたならいいんじゃないかな。」

返答は意外なものだった。

「絶対反対されると思った。」

「正直な気持ちを言えば夢もあるんだから行った方がいいとは思う。でもあの家族じゃ難しいからその選択をしたんでしょ?」

「そうだな。俺も普通がよかったよ。」

「どうしても親は選べない。私も含め、親である程度人生決まってくる。でも運命を動かすのは自分自身だと思う。だから太陽の意志を尊重する。」

こんなにも自分を肯定してくれる存在がいるのは大きな財産だ。

「美咲、いつも本当にありがとう。」

「な、なによ急に……照れるわね……」

美咲の顔が赤くなっていた。


寒い廊下で椅子に座って順番を待っていた。

母さんがやってきて、二人で待っていると先生に呼ばれた。

「それで新田はどうするんだ。進学するのか?」

「いいえ、家を出て就職します。」

「あのな、前にちゃんとご両親と話し合えって言っただろ。お母様はどうお考えですか?」

「え……あの……」

母さんは酒を飲んでいなかったからか、やけに緊張しているようだ。

「本人がよければ……それでいいと思います。」

死んだ目で言った。どうやら諦めたらしい。

「正気ですか!?15歳のお子さんが進学しないだけじゃなく家を出るって言ってるんですよ!私は教師として賛同できません。」

「じゃあ教師として親父の事変えることできますか?できないですよね。」

「そういう事を言ってるんじゃない。もっと冷静に。真剣に考えろ。」

「考えた結果がこれなんですよ。母も父も好きにしていいと言ってます。先生の出る幕じゃないんですよ。」

「新田、将来どうしたいんだ。」

「俺みたいな子供をこれ以上出さないようにしたいです。そして僕が僕であるように生きていきたいです。」

母さんは俯いていた。自分の無力さを実感しているのだろう。

「分かった……就職先当たってみる事にしよう。」

「ありがとうございます。」

俺と母さんは教室を出た。

母さんは重い足取りだった。

「太陽の事、産むんじゃなかった……」

いきなり放たれたその一言は俺にはあまりにも刺さった。

そんなこと俺も思ってる。でも言い返さなかった。

もう疲れたから。戦うことも生きることも。


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