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機能不全家族の子供  作者: 桐生正恭


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5/9

5話目 母

診察が終わり、俺は母親と合流した。

「太陽、どうだった?」

「うん、いい先生だったよ。また通院続けてだってさ。」

「そう、あまり無理しちゃダメよ。」

「ありがとう。にしてもいい先生だったな。」

「でしょ?私、先生が合わなくて色々な病院転々とぢてたけど、やっといい先生に巡り会えてこうやって長年通院してるの」

「ごめん。親父の事、結構悪く話しちゃった。」

「いいのよ、事実なんだから。私ももっとしっかりしなくちゃ。」

母の姿が前に比べて少し逞しく見えた。

息子としてもなんだか誇らしい。

俺達は病院を後にした。


家に帰って玄関に入ったら、リビングからテレビの音が聞こえてきた。

ゲッ。親父今日休みかよ。

親父は休みがバラバラだからいつ休みなのか分からない

やっべー、土曜休みとかほとんどないから気を抜いてた。

親父が休みだと、家の中は地獄と化する。

休みがいつなのか分からないから、いつも玄関を開ける時はドキドキする。

今日は浮かれていて、そんな事頭になかった。

先生との出会いでの高揚感から一転、翼をもがれ地に落ちた気分だ。

俺はそそくさと部屋に戻ろうとすると、親父に声をかけられた。

「珍しいな、お前ら二人で出掛けるなんて。」

めんどくせー。普段無視のくせにこういう時だけ話しかけてくんなよ。

親父は俺の事はどうでもいいが、母に対しては過干渉だ。

ちょっとした束縛気質な部分がある。

支配欲が強く、家族で自分の知らない事があるのをあまり良しとしない。

「別になんでもいいだろ。」

「どこに行ってきたんだ?」

「………病院よ。」

「お前、風邪ひいたのか。」

「ちげーよ、ったく思春期外来だよ。」

すると親父の顔がみるみる紅潮していった。

ああ、始まった。暴力スイッチだ。

案の定、俺は殴られ吹っ飛ばされた。

「あなた、やめて!」

母が俺の前に立って制止してくれた。

それをどかし、親父は俺の胸ぐらを掴んだ。

「何が思春期外来だ?俺はお前をそんな軟弱者に育てた覚えはない。」

「ああ、俺もてめえに育てられた覚えはねえよ、クソ親父。」

「なにい!?男ならもっとしっかりしろ。」

出たよ、昭和思考。

昔か親父は男ならとよく言う。

今の時代、男女平等だっていうのにな。

「あなた、まだ断定されたわけじゃないけど、心の病気に性別は関係ないのよ。」

「うるせえ。もっとしっかりしつけをしないとなんだ。」

「親父のやってる事はしつけじゃなくて虐待だけどな。」

「俺に向かって偉そうな口きくじゃねえか。こいつはしつけが必要だな。」

段々と意識がなくなる。

なんとなく、あ、俺今暴力をふるわれているんだということは分かる。

遠くで母さんが泣いているのが見えた。

昔は俺に無関心だったのに。

母さん、今は俺の為に泣いてくれるんだ。

それだけで何だか嬉しくて殴られてもいいと思えてきた。

母さんが俺に興味を持ってくれるだけで嬉しかった。

そんな歪んだ感情が芽生えた。

暴力をふるわれるのが怖かったのに今は少し喜んでいる・

そんないかれた思考がグルグルと回っていた。

「もうやめて!」

母さんが大きな声を出してくれたおかげで思考が正常に戻った。

何だ今の思考、自分にゾッとした。

母さんが親父の事を止めてくれるなんて夢みたいだ。

かつての母さんなら見て見ぬふりだった。

俺は思わず母さんをじっと見つめる。

母さんは涙目になって震えていた。怖いんだな。

そりゃそうだよな、何年も経って急に向き合うっていう方が難しいだろう。

ましてやあの親父と久しぶりに面と向かって対峙してるんだ。

小さな頃はよく夫婦喧嘩する所を目にしていた。

おそらくあの頃の母さんは母さんなりに親父を変えようとしてくれていたのだろう。

でも親父は変わらなかった。

今思えば母さんは俺に無関心になったわけじゃないのだと思う。

親父が変わらないから諦めたんだ。

そんな母さんが今、俺の事を助けようとしてくれている。

「あなたおかしいわよ。この子がどんなに苦しんでいるか分かる?」

「黙れ!お前も殴られたいのか!」

母さんは一瞬ひるんだ。でも前とは違った。

「いいわよ……殴るなら私を殴りなさいよ。」

親父が母さんの胸ぐらを掴んだ。

母さんを助けないと……

その一心で立ち上がり親父を殴った。

親父にやり返したのは生まれて初めてだった。

親父は倒れこんだ。親父も母さんもあっけにとられていた。

「親父、いくら何でも最低すぎるだろ……」

親父は我に返ったのかまた怒り顔になった。

「お前、誰に向かって手を出してるんだ。」

「それはこっちのセリフだよ。親父が惚れた女だろ!?そんな人に手を出そうとするなんてどうかしてるよ!」

「うるせえ!俺の言う事が聞けない奴は出てけ!」

「そんなに俺が病院行くのが悪い事なのかよ。」

「ああ、悪いね。ただでさえ母さんが精神疾患だというのにお前までそんな病院通ったら俺が白い目で見られるんだ。」

「またそれかよ……そんなに世間の目が大事かよ。」

「お前らよく聞け。この家があるのも飯を食えているのも俺がいるおかげなんだ。そんな俺がお前らのせいで迫害されてみろ。仕事にも影響が出て、お前らにも影響が出る。」

「そんなに精神疾患が悪いことなのかよ。そんなに世間って冷たいのかよ。全部親父の偏見じゃねえのかよ。」

「お前は何も分かっていない。この社会が、この国がどんなに異常なものに敏感でそういったものを弾圧し、抹殺するか。分からないだろ。」

親父はどうやら俺達家族より、社会的地位の方が大事みたいだ。

この固執した考えは長年生きてきて培ったものなのだろう。

だから親父は変わらない。なぜなら自分が悪いなんて思ってもいないからだ。

そんな人間には何を言っても無駄だろう。

「親父、分かった。もういいよ。母さんごめん。」

「太陽……」

母さんは肩を落としてリビングを出ていった。

母さんが折角変わろうとしたのに裏切ってしまった。

俺は母さんに申し訳ないと思いながら感情を押し殺した。


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