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機能不全家族の子供  作者: 桐生正恭


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4/9

4話目 大人

俺は母さんに連れられ、病院に来た。

思春期外来に行くのは正直気が重い。

緊張して不安感も強い。というかほんとに俺が来る所なのか?

待合室で母さんと呼ばれるのを待つ。

「こういう精神的な事ってどんな事はなせばいいの?」

「うーん、体調とか状況とかかな。」

「自分の思いの丈とか吐いていいのかな。」

「まあそういうプロフェッショナルだし、先生優しいから大丈夫だよ。私なんかよく号泣してるし。」

母さんが笑いながら言った。

そういえば母さんの笑顔見たの久しぶりだな。

何だか嬉しくなった。

母さんと病院来るなんていつぶりだろう。少し照れるな。

そんな事を考えていたら俺の名前が呼ばれた。

「新田太陽さん、診察室にお入りください。」

緊張感が増してきた。

診察室に入ると白髪の眼鏡をかけた男性が座っていた。

こんな爺さんに精神とか思春期の事とか分かるのだろうか。

先生に促されて俺は椅子に座った。

「君が新田さんの息子さんだね。話は聞いてるよ。」

「はい、よろしくお願いします。」

「車道に飛び出そうとしたんだって?危険な状態だね。」

「そうなんですかね。無意識だったんですけどね。」

「それが怖いんだよ。無意識って事は自覚がないんだから。気づいてくれた周りの人に感謝するんだよ。」

「そうですね。」

美咲にはとても感謝している。

どん底の俺を救ってくれたのだから。

「体調はどう?」

「悩みすぎなのか、寝れないですね。」

「寝れないのは辛いね。どんな事で悩んでるの?」

「親父と進路で揉めてて、それで悩んでます。」

「そっかあ……正直僕は医者だから親子の事には介入できない。」

やっぱり大人なんてそんなものだ。

「でも君のこれからの道の手助けならできる。」

目から鱗だった。そんなことを言ってくれる大人は初めてだ。

「君は子供なりに頑張ってきた。まずは自分を褒めてあげてほしい。」

俺は自分が嫌いだ。何者にもなれていない。

そんな自分をどう褒めればいいのだろうか。

「君は思春期外来という正直敷居の高い場所に一歩踏み出せたんだ。これは凄い事だよ。」

確かに精神的な事に関して偏見を持ってたし、実際来た時は気が重かった。

「思春期っていうのは大人になるための自己形成をする大事な時期なんだ。何かやりたい事とかあるの?」

「俺、教師になりたいんです。」

「何でなりたいの?」

「俺みたいな子供たちを助けたいんです。」

大人に対抗するには大人と同じ位置にいないと闘えない。

「今の君じゃ無理かもね。」

やっぱり大人は否定してくる。

俺達子供は夢を持つなってことか。

「今の君は死にたくなるくらい追い込まれている。まずは自分を助けないと。自分を助けられない人間に他人は助けられないよ。」

心がズキズキした。

「俺は一体どうすればいいんですかね……」

「まずは自分の事を認めてあげること。君は悪くない。周りの大人、環境が悪いんだ。」

こんな言葉を言ってくれる大人は初めてだ。

少しずつだが、不信感が拭えてきた。

「お父さんとはどうしたい?」

「正直、仲良くなるのはもう無理だと思います。」

「そっか、まあ親子といっても人と人だから完全に理解し合うのは不可能だよ。どんなに仲良くてもね。」

「まあ、波風立てずに暴力をかいくぐれればいいかなって。格闘技やってたから強いんですよあの人。」

「君は虐待を受けてるんだ。異常な環境で育ったんだね。」

よく分からない感情が芽生えた。

そうか、やっぱり俺は虐待を受けていたんだな。

改めて明確に言語化されると少し複雑な気持ちになった。

「本当はお父さんに来てほしいんだけどね。やっぱ一番の原因はお父さんにあるとおもうから。」

「あの人は絶対来ないですよ。」

「虐待に関しては児相とかに相談かな。」

「昔来たけど何もしてくれなかったです。」

そう、子供の俺には為す術がないのだ。

どんなに反抗してもどんなに言葉を選んでも親父は変わらない。

この環境から抜け出すのは今の俺には到底無理な話なのだ。

「この異常な環境を普通だと思い込まないように。自分を押し殺すという行為は自分を追い詰める事になるからね。」

普通ってなんなんだろう。

社会には当たり前のように常識やルールというものが存在する。

それから逸れた事をしようものなら悪と認識され場合によっては罰せられる。

今の俺はきっと善悪の判別がつかないだろう。

「俺、良くない事なんだろうけど親父に殺意を持ったことがあるんです。」

先生はびっくりした表情をした。

そりゃ急に殺人予告みたいな事すりゃびっくりするよな。

「それは一時的なもの?」

「そうですね、ボコボコにされて死を覚悟した時にこいつに殺されるなら俺が殺してやろうって思ったんです。」

「君はもしかしたら衝動性があるかもね。それだけで判断はできないけど発達障害もあるかもしれないからうまく付き合っていこうね。」

発達障害と言われてもあまりピンとこなかった。

まあでもあまりショックではなかった。心当たりもある。

授業中は落ち着きないし、思ったことはすぐに行動に移してしまう。

何か答え合わせができたみたいだ。

「君の死生観も考え物だね。」

「どういう事ですか?」

「君は自分の死についてどう思ってる?」

「別にどうも思わないです。死のうが生きようがどうだっていいってのが本音ですね。生まれたから生きてるって感じですかね。」

「本来人間っていうのは死を拒み、生に執着する生き物なんだ。でも今の君にそれがない。一歩間違えれば死に飛びつきそうな気がするよ。」

否定はできなかった。

現に無意識に車道に飛び込もうとしたわけだし。

「どっかで死にたいって思ってるんでしょうね。」

「希死念慮からまず抜け出さないとだね。まあ抜け出すのは困難でなくなったと思ったらやってくる、非常に厄介なものなんだよ。」

「何か薬とか飲むんですか?」

「確かに薬物療法という手はあるけど、君はまだ中学生だから僕的には出さない方針だよ。」

少しホッとした自分がいる。

色々な情報が一気に入ってきてまだ受け入れられないからだ。

だけど自分が何となく見えてきた気がする。

だんだん興味が湧いてきてもっと深入りしたくなった。

「先生、俺は精神疾患なんですかね。」

「さすがに初診では断定できないよ。僕も人間だから対話を通じて君を知らないと診断は下せない。」

そういうものなのか。

精神的な事って心を開くようなものだもんな。

俺は今日この人に心の扉を優しく開かれたのだ。

こんな爺さんに最初は何がわかるんだと思ってた。

でも久しぶりに大人とこんな清々しく話せた気がする。

話の通じる大人っているんだな、新たな発見だ。。

「これからも継続的に通院してね。何か些細な事でもいいから色々な事を話そう。」

「はい、分かりました。」

俺が立ち上がって診察室を出ようとすると、先生がボソッと言った。

「安心してね、君は一人じゃないから。」

簡潔な言葉だけど、すごい嬉しかった。

ずっと孤独感を抱きながら生きてきた俺にとって救いの言葉だ。

そっか、俺は一人じゃないんだな。

まだこれからどう生きればいいか分からないけど、先生とのこの出会いは俺の運命を大きく変える。

そんな気がした。


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