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『ほぼ女子校のご意見箱』〜生徒会長・俺。初公務で試しにご意見箱を設置するも匿名性を担保した結果、女子生徒たちからの相談内容が色恋に激しすぎる件について〜  作者: 懸垂(まな板)
プロローグ 投書1 最初のご相談

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投書1 第二話

投書1完結話です。


 相談内容『えっちなこと』に似つかわしくない同じクラスの彼女――遠山玲(とおやま れい)が、恐る恐る入室してきた。


 「遠山さんっ!!??」

 「失礼します。今日はお世話になります。生徒会長」


 我が目を疑った。


 最早、幻想の類が見えている錯乱状態なのか?と疑うほどの清楚美人な彼女だ。

 生徒の悩みを聞くというとんでもない家業を安易に始めてしまったと思った。


 そして、あんなに可愛らしい文字を書くのも納得できる。

 彼女なら。


「とりあえず、ソファにどうぞ」


 俺は丁寧に彼女を応接用のソファへ案内した。


「どうぞ、座ってください」

「ありがとうございます」


 スカートの裾を気にしながら、落ち着き払った所作で着席した彼女。

 遠山玲(とおやま れい)と俺は対面する。


「まず、投書を頂きましてありがとうございます」

「いえいえ。あと、いつものように話しませんか?たかちゃん」

「わかった」


 たかちゃんというのは俺のクラス内での愛称だ。


 秘密の花園である女子比率約97%クラスに男子生徒がただ一人、異質に混じっているのだ。

 だが、コミュニケーション能力に余程の欠陥がなく、女子たちに対して反抗的な態度を取らなければ、ただ一人の男子生徒は女社会に好意的に受け入れられていける。

 

 いわばマスコット的な立ち位置だ。


「遠山さん。まず確認するけど、ご意見箱に入れてくれた相談内容の管理番号は?」

「えーっと。多分、初めての依頼じゃないかな?Aの001番です。連番の一番最初でしょ?」


 ふふっと笑う彼女はどこか楽し気にしているが、今から的確な回答を与える立場の俺としては気が気じゃなかった。あんな『えっち』な相談を投書されたのだ。動揺は無理もない。


「うん。間違いじゃなさそうだね。ありがとう。早速だけど、投書について確認させてもらっていいかな?」

「はい。なんでもお答えします。どうぞ!」

 今から、とても下世話な雰囲気になるとは思えない清々しさで彼女は返事をしてくれた。


「まず。これがA001番の投書です」

 俺は、机の上に投函されたご意見書を広げて彼女に見せた。


◇◆


 ご意見・相談内容を『』の中に記載ください。(管理番号:A001番)

 ※匿名で投函・開票されます。

 ※回答を希望の方は後日、生徒会連絡掲示板で管理番号を連絡ください。


 『男の子とえっちなことができません。』


 面談:『〇』希望する 

    『 』希望しない


◇◆


「この相談内容に間違いはない?」


 彼女がじっと意見書を確かめている。

 大きな手違いによって、相談者の相談内容が第三者に流出しようものなら、生徒会の管理体制を非難されてしまう。ここは慎重に詰めて話を進めていくべきだと思っていた。


「はい。間違いはありません。男の子とえっちなことができません!」

「!?」


 俺は改めて、脳内に余計な雑念を生み混乱した。

 堂々と高らかに宣言されひるむしかなかった。


 とても、直接的な言葉を普段使わないようなご令嬢が「えっち」と言ってくる身にもなってほしい。

 そして俺は今から真剣に彼女の相談を解決へと導かなければいけない立場だ。


「はい。ありがとう……まず確認したいのだけれども……」

「なんでしょう?」


 遠山玲は不思議そうな顔をして、頬に手を当てている。


 今はそんな可愛い子の象徴みたいな仕草を見せつけられたところで、相談内容の文言の威力が高すぎて、情報処理できない。


 そんなこと、教室で吹聴して回る彼女ではないので、普段の彼女と、目の前の相談者様第一号な彼女とのイメージの間に、乖離が大きい。


 俺は、既にパンク寸前だった。


「えっちできません。っていうのは具体的にどういう状態かな?」


 うら若き乙女にこのような質問をして、セクハラとかで訴えられないか心配だ。

 せっかく当選を果たした生徒会長の役位がものの一週間程度であっさり退陣に追い込まれてしまうなんてまっぴら御免だ。


 彼女の言葉を待った。


「読んで字のごとく。そのままの意味です」

 何一つ解決になっていない返答が彼女とのやり取りの始まりだった。


「そのままの意味。について、ニュアンスを聞きたいんだ。これはどういう意味でできない?なの?」

 俺は意を決して本題に進んだ。


「えーーっと……ね。その状況にないってことかな?」

「つまり?」

「機会に恵まれないです。どうしたらいいですか?という意味……?かな?」

 彼女の口から出てきた言葉に、俺は絶句を通り越し、戦慄した。


 まさか、自分が用意していた想定の「後者」

 遠山玲さんは「えっちしたいけどどうしたらいいですか?」と悩み、投書してくれたようだった。


 これは困った。


 ひどく、嘆きそうだ。


「つまり、男の子とえっちなことがしたいけど機会に恵まれず行うことができない。どうすればいいですか?という相談内容で正しい……と?」

「そう!それです!!」

 やはり、女子生徒の生態には不可解な点が多い。


 仮にも、俺もその「男の子」に該当する立場なのだが、彼女は満面の笑みで意訳を肯定した。

 

 ここは丁寧に返答を心掛けていく。

 大事な相談者様第一号だ。

 馬鹿馬鹿しいと無下にはできなかった。


「それほどまでに、えっちなことを経験してみたい理由は何かあるの?」

 彼女に「致したい」と言わしめる原因の特定が必要だ。


「だって、皆。クラスの皆、経験してるじゃない?私も乗り遅れないようにしなければ、話題についていけないというか……」


 こういう時「皆は本当に皆なの?」と聞いてはいけない。

 聞き流しておく。


「だからって、安売りするものじゃないと思うんだけど、それはどう捉えてる?」

「確かに、嫌いな人とは嫌。でも、嫌いじゃなかったら、経験してみたいのは事実。だって、経験した子は皆、綺麗になってるんだもん」

「綺麗にっていうのは、何が?」


 思わず息を飲む。


「外見が。そうね、女として格が上がったというか、女らしくなったというか、本当に色気が出るの」

「つまり、遠山さんも、早く経験を済ませて女として色気を出したいと思っているってこと?」

「そう。つまりはそういうことかなっ?」


 「てへっ」っと彼女は笑って見せるが、こちらは誘いに乗って笑っていいものなのか困る。


「たかちゃんはどうしたらいいと思う?」

 遠山玲から意見を求められる。


「焦らなくても、ゆっくりでいいんじゃないかなって思うけど……」

「どうしてそう思うの?」

「命に係わる大変な行為だから、しっかり責任を果たせる年齢になってからでも遅くないと思ったかな」

「じゃあ、高校卒業するまでお預けってこと?」

 真剣な表情で彼女に詰められる。


 まさか、気軽にご意見箱を設置した時にこのような未来になるとは思ってもみなかった。


「そういうことだね。心揺れるような異性との出会いの場がなければ、今の自分には関係がないし、経験が遅れても仕方のないことだと割り切って、今や身体を大切にするべきだと思うかな」

「あーあ……なるほどね」

「不服そうだけど、少しは回答になってる?」


 顔を渋くした彼女。続く言葉に我が耳を疑った。


「じゃあ、たかちゃんでいいから経験させてくださいって言ったら?」

「へっ!!!!????」

「いや。言葉が違うね。たかちゃんがいいの。わたしと、えっちなことしよう?」

「なんてっ!?」

「えっちなことしよう!かーいちょっ!」

 こんな時に「生徒会長」の役柄を持ってこられたとて、答えはノーだ。


「駄目だって。仮にも俺は生徒会長。生徒の模範であるべきの立場なの。どういわれても、誘いに乗ることはできない」

「じゃあ、たかちゃんが生徒会長でなかったら、いつでもしてくれるってこと?」

「へ!?」

「生徒会長って立場が私とえっちできない理由というのであれば、私は全力でたかちゃんを生徒会長の立場から引きずりおろせばいいってわけだ?」

「ちょっと、何言ってるの!?遠山さん??落ち着いて???」

「たかちゃんは、私が学年で数えるほどしかいない他の男子と、えっちなことしてたらどう思う?」

 悪戯な顔が聞いてくる。普段の彼女はこんなこと言わないはずなのだが。


「そりゃ……嫌だけども、個人の自由じゃん?」

「じゃあやっぱり、私も自由を突き通して、今日から、たかちゃんを狙うことにしました!」

「!?」

「覚悟してね?たーかちゃんっ」


 満面の笑みを向けてくる彼女は、どうやら標的を俺にしたらしい。


 そして、なんとなく本人が腑に落ちてしまったということで、記念すべき一つ目の投書は、半ば強引に解決されたのである。

 

 それからというものの、女子生徒から続々と届く、過激なお悩み相談は、生徒会長在任中に永遠と頭を悩ませるのでした。

お読みいただきありがとうございました。

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