投書1 第一話
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俺は初めての相談が「ご意見箱」に投函され、舞い上がっていたのかもしれない。
施錠されたご意見箱の南京錠を逸る気持ちでこじ開け、綺麗に二つ折りされた紙を掬い取る。
ぺらりと開いた瞬間。
俺はそこに書いてある相談内容に絶句した。
◇◆
ご意見・相談内容を『』の中に記載ください。(管理番号:A001番)
※匿名で投函・開票されます。
※回答を希望の方は後日、生徒会連絡掲示板で管理番号を確認ください。
『男の子とえっちなことができません。』
面談:『〇』希望する
『 』希望しない
◇◆
丸みを帯びた、可愛らしい文字。
筆跡から判断して、この投書を行った生徒は、天と地がひっくり返ろうが女子生徒だ。
それも、文字の形から、もう惚れてしまいそうなほど、可愛らしい女の子だ。
そもそも、この高校に男子生徒は多くて各クラスに二名程度。その男子生徒の誰かがした悪戯にしては、出来が良すぎる。
俺の学年から、将来的に男女共学を推進したい学校側が、男子生徒の受け入れを許可したが、生徒の大半が女子生徒である為、男子生徒の線は消していい。
相談内容の文字列をもう一度冷静に確認した俺。
目を凝らして、何度も何度も……見ても「そこに書かれていそうな文字」で「そこに書かれていなさそうな相談」がしっかり記載されている。
どういうことだろうか?
主語はこの投書をした「ご本人」ということでいいのだろうか?
まず前提として「ご本人」が悩み、相談した結果が目の前にあるご意見書だと仮定した。
だが、ここまではいい。
続く文字。
「えっちなことができません。」についてだ。
この際「えっちなこと」の内容についてはこの場で想像しても不毛に終わるだろうし、今の俺は読み解くのを一旦、諦める。
ただ一つ、問題がある。
「えっちなこと」を目的として考えた場合に「できません。」が指し示す意味について……だ。
まさか……とは自分でも疑ったが、ここは二通りで相談内容を読み解くことにした。
一つ目は、否定的な悩み。
つまり、「できません」が持つ意味は、拒否。
校内外問わず、とある男の子と「致すこと」について、相談者様が「快く思っていない」ということだ。
筆跡の特徴から考えると、一番現実的で、本人が思い悩むのも無理はない。
年頃の男子は大なり小なり夢に見る「行い」であるし、うら若き乙女たちにもまた、悩みの種を生むに不思議のない出来事だろう。
二つ目は、肯定的かつ積極的な悩み。
つまり、「できません」が持つ意味は、叶わぬ願望。
とある男の子と「致すこと」について、相談者様が「情事に積極的だが機会などがなく惜しい」ということだ。
まさか「後者になるはずないよな?」と思いながら、俺は相談者が生徒会室に足を運ぶのを、じっと待っていた。
◇◆◇◆
俺は一年次から、クラスの97%を女子に囲まれ過ごしてきた。
30人ひとクラスのただ一人の男子生徒だ。
クラス内でハーレム状態である日々を過ごし、冷静に自我を保てるようになり始めたある時。
ふと思ったのだ。
女子社会は意外と男子社会よりも、大人びていて、過激だ……と。
明け透けなく隠語や放送禁止用語が飛び交うような世界ではない。
もっと具体的で濃密で言葉にすることも憚られるような実体験談。
聞き耳を立てると怪しからん行為の数々。
そう。
俺が恋愛ドラマやラブコメディーで勉強してきた試験対策は、いとも簡単にはじき返されるような現実に起こる年相応の色恋話に愛の情事。
そして、思った。
この学校の風紀、公序良俗を維持するためにも、俺が生徒会長に立候補して立て直しを行おうと。
二年次に生徒会長選挙に出馬し、見事に当選。
そして今、生徒会室で生徒会長の席に座っている。
普通の男子高校生だ。
しかしながら、会長の座に当選したは良いものの、どこからテコ入れを行うべきか悩んだ俺は、生徒の意見を集める「ご意見箱」を新設した。
女子生徒たちの日頃の悩みや相談を手っ取り早く集めるための効率的な方法だと当時の俺には自負があった。
まずは、ある日の放課後。
ご意見箱の使用方法について定めた。
ご意見箱は、当校の生徒であれば誰でも利用することができること。
利用は匿名で行われ、相談や悩み事を記載して、投書すること。
投書には管理番号が付与されており、相談者は自己票を番号として認識する事。
生徒会室にて、開票が行われ、相談内容について、生徒会長以外の生徒には開示されない事。
何か、対面で相談したい場合については、記入欄に対面希望の旨に印をつける事。
後日、生徒会室前の掲示板にて管理番号をもとに面談日が調整され、面談を開始する事。
その際、相談主と生徒会長以外の入室を一切禁じる事……。
そして今日。
相談主の素性が明らかにならないまま、後三分程度で、面談の予定時刻だ。
俺は副会長、書記と予め連絡を取り、相談者が入室しやすい環境を整備するために東奔西走した。
彼女たちには今日の放課後の生徒会活動については休止とし、下校をお願いした。
相談内容に対しては真摯に応じて、的確な相談が出来れば良いと考えている。
人間だれしも、悩みは抱えるもの。
まずは生徒会長権限において、全面的に我が校の生徒と向き合うのだ……と。
生徒会室にノックの音が響き渡る。
「どうぞ!」
俺は記念すべき最初の相談者に不安を与えないように、できるだけ明るく軽快な発声をした。
「し、しつれいします!」
「ん?」
俺の脳がまだ見ぬ依頼者の顔を捉える前。
聞きなじみのある声が我が鼓膜を震わせた。
いつも、いつでも、この声には覚えがある。
そう、それは……。
俺と同じクラス。
クラス委員長をしている清楚を絵に描いた大和撫子なご令嬢。
頭脳明晰。容姿端麗。
誰が見ても美少女。
とても、相談内容『えっちなこと』に似つかわしくない。
彼女――遠山玲が、恐る恐る入室してきたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
「投書1」については次話で完結します。本日19:00更新です。
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