#2 元ダンジョン、戦う
魔城。
それは、世界最難関の四つのダンジョンにつけられた異名だ。
そう、四つ。
世界最凶のダンジョンが、消えてからは。
【悪夢の魔城】
そう名付けられたダンジョンは、まさしく攻略不可能の魔城だった。
悪夢のダンジョンに入った者は、例外なく眠りに落ちる。
そして、永遠に目を覚ますことはない。
攻略法は、あるにはある。
光魔法や解除魔法、状態異常耐性の道具などを使えば、中層までは攻略できる。
だが、常に魔物に襲われる危険があるダンジョンを、眠気の中で攻略するという大きなハードルがある。
そして深層ともなれば、どのような魔法を使っても数秒も耐えられない。
そんな魔城は、ある日突然消滅した。
ダンジョンが消滅する原因は一つ。
最下層にあるダンジョンコアの破壊。
つまり、ダンジョンの攻略だった。
そんな中崩壊するダンジョンから現れたのは、一人の平凡な少年だった。
彼は探索者ではなく、本当に一人の平凡な少年だった。
だが彼は、魔城の攻略者として世界中で注目されることになる。
誰も知らないその少年の正体。
それは、世間の求める無名の最強探索者でも、学者の提唱する光特化の魔法使いでもなかった。
俺は、ダンジョンそのものだった。
◆◆◆
「〝悪夢の腕〟」
俺の周囲に赤黒い触手が現れる。
「なっ・・・!?」
驚くクロウに、その触手が迫った。
クロウはその黒い翼で上空へ舞い上がる。
「貴様は一体・・・!?」
「言ったろ? 【魔城】だよ」
そう言って俺は地面を蹴り、空中へ跳ぶ。
「〝影槍〟」
クロウはいきなり俺に黒い槍を突き出す。
それを俺は容易く回避する。
そんな中、俺は考え事をしていた。
魔城の攻略者が、実は魔城そのものだった。
そう考える人が、この世にいるだろうか。
人に還ったダンジョンがこれほどの力を残しているということを、予想できる人はいるだろうか。
答えは否。
だからこそ、俺の理解者は一人もいない。
「〝悪夢霧〟」
その瞬間、クロウの目が細められる。
眠気に襲われているのだろう。
だが、危機感を感じたのかすぐ霧の外へ出る。
二人は空中から地面に舞い降りた。
そして。
「〝悪夢弾〟」
「〝影斬〟」
影と悪夢。
二つの闇が激突する。
クロウの険しい顔から、これが全力の一撃だと分かる。
一方の俺は涼しい顔をしていた。
激しい激突に空気が揺れ、黒い光が放たれる。
「なぜ・・・!?」
激しい衝突は、徐々に俺が押していく。
「俺は、【悪夢の魔城】・・・それが人間となった姿だ」
なぜ俺が人間となったのか。
そんなことはもう憶えていない。
だが、一つだけ分かることがあった。
俺は、誰よりも強かった。
影の斬撃は、砕け散る。
そして悪夢の赤黒い弾丸は、クロウに直撃した。
クロウはそうして、悪夢へと誘われた。