#1 元ダンジョン、正体を明かす
170年前、世界に数百のダンジョンが発生した。
当時、世間は混乱したが、10年も経てばそれが当たり前になっていった。
そんな中で、ダンジョン探索を専門にして活動する人々が現れる。
彼らは探索者と呼ばれ、やがて国家は探索者を支援するようになる。
そうして、剣士学校や魔法学校が次々と開校した。
そんな魔法学校の中でも日本一と謳われる山桜魔法高校に、俺は通っていた。
俺は三宮希夢、17歳。
山桜魔法高校の、一番の落ちこぼれだ。
理由は一つ。
魔法が、ほとんど使えないから。
そんな俺がこの学校に入れた理由は一つ。
魔力量が、トップクラスに多いからだ。
だが、魔力が多くても魔法が使えなくては元も子もない。
結果、こんな落ちこぼれになってしまったのだ。
そんな今日も、山桜魔法高校に通う。
理由は、俺にも分からない。
◆◆◆
教室で座っていると、向こうから人が近づいてきた。
「よう希夢、今日は射撃魔法のテストだな!」
クラスメイトの高部が俺に肩を組んでそう言う。
俺は「ああ」と言うことしかできない。
魔法学校二年生で習う魔法。
当然、俺が使えるレベルじゃない。
しかも今回のテストは、それを1キロも先の的に当てるという高度なものだった。
「黒田はどうだ?」
高部は隣のクラスメイトにそう言った。
「ちょっと命中精度に不安は残るけど、上手くいきそうだ」
「だってよ、希夢」
いじめっていうのは100年経ってもあるものなんだな。
まあこの程度のいじめなんて、あの悪夢と比べたら大したものじゃない。
俺は「すごいな」と素っ気なく返した。
◆◆◆
校内の広大な魔法訓練用の広場。
そこで、射撃魔法のテストは行われた。
狙いを正確に射貫いて拍手を浴びる人もいれば、惜しくも外してしまう人もいる。
そんな中で俺の番がやって来た。
「魔法準備、放て!」
担任がそう言っても、俺は魔法を発動しない。
担任は戸惑うこともなく『試験終了、0点』と機械的に言って成績を記した。
それを見たクラスメイトから、笑いを浴びる。
もう慣れたものだ。
しばらくして全てのテストが終わり、担任は一足先に校舎へ戻る。
俺も教室に帰ろう、と歩き始めた時。
不意に気配を感じ、俺は振り返る。
ダンジョン外でこんな魔力反応が普通あるのか・・・?
その魔力が一点に集中する。
攻撃の予備動作だ。
つまり、敵襲。
「・・・っ!」
速い・・・!
「えっ・・・?」
クラスメイトの一人が驚きの声を上げると同時に、俺は飛び出していた。
刹那、爆音が響く。
俺の腕は、なんとか敵の黒い刃を止めていた。
「ほぅ・・・私の刃を素手で止めるとは」
そう言って襲撃者は上空へ飛び上がり、地面へ降り立つ。
その真っ黒な服と翼はその不気味さを際立てていた。
「私はクロウ・・・この中に一人、主の探し物がいます。その方を差し出してくだされば、私は貴方方に危害を加えません」
その言葉に、状況を飲み込めていなかったクラスメイトたちは我を取り戻した。
「そ、それは誰だ!?」
高部がそう叫ぶ。
相手の魔力量に恐怖を抱いたらしい。
「その方ですよ」
クロウが手で示したのは、影の薄いクラスメイト・丸山陽樹だった。
「えっ!?」
陽樹は驚いたように言う。
だがそれに、高部はにやりと笑った。
「おい丸山、お前クラスメイトの役に立ちてぇよな?」
「え・・・」
陽樹の顔は絶望に染まった。
「やめろ、高部」
俺がそう言うと、空気が凍った。
高部は、血管を浮き立たせて言う。
「あ”? お前、俺に口答え_」
めんどくさい。
俺はそう思って全ての魔力を解放した。
「・・・っ!?」
その威圧感に、クロウと高部は圧倒される。
「二人とも見ておけ・・・俺の」
俺は一度口を閉じ、再び開く。
「元【魔城】の力をな」