1章 8話:わくわく!初心者工作!!
幼女と森へ向かう。絵面は完全に誘拐犯とその被害者だ。しかし、実際は逆で、ウツキは脅されていた。
「太陽の民かもしれない奴を、自由にさせるわけにはいかない。」
と、言う事でツタかなにかで縛られている。太陽の民がどれだけ警戒されているのか、ルナティアの件で知っていたはずだ。しかし、関係のない事で警戒されるのはまだ慣れない。
ヴィオラに連れられて、木の開けた場所まで来た。
「こ…ここら辺に、魔物除けをして欲しいんですけど…」
ツタのような物から解放される。
「今から、木に術式を刻んでいく。術式の埋め込まれた木には魔物は近づけない。」
開けた場所を囲うように木に術式を刻んでいく。刻まれた木は、ほのかに青白い光を放っている。
「ありがとう。助かったよ。」
「…小娘を、」
ヴィオラは何かを言おうとして、言葉を飲み込んだ。
「ヴィオラは帰る。小娘にフラれて泣きついてきても何もしないから。」
「なんで告白してフラれる前提ッ⁈」
言葉の通りヴィオラは自室へと帰り、ウツキは倉庫へと向かった。
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倉庫にはたくさんのものがあった。ソルティアから、「倉庫のものは基本的に使わないから、漁って好きな物を持ってくといいわ。」と、言われている。
以前、ルナティアの持っていた懐中電灯の様な物をたくさん、それに加えて大きな布を倉庫から持ち出す。
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「お願いしますっ!ルナティア様っ!!」
「これは、『友人』のウツキ殿ではないですか。どうしたんですか?」
やたらと『友人』を強調してくる。
「このナタで、木材を作るのを手伝ってください!!」
「ナタの扱いには慣れてないんですが…わかりました。『友人』の頼み事です。手伝わせていただきます。」
こうして、ウツキとルナティアは森で作業を開始した。
余談だが、ナタはウツキの部屋の壁に掛けられていた物である。
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「はぁっ!!」
目にも止まらぬ速さで、縦に置かれたウツキより少し大きいぐらいの丸太が、5等分に切り裂かれていく。薄く切られた木材同士を、ウツキがロープで繋ぎ合わせていく。
「手先、とても器用なんですね。羨ましいです。」
「家庭科によって開花した俺の才能が、こんなところで役に立つとは…というか、ルナティアのパワーの方がすごくない⁈」
「他の女の子にそんなこと言ったら、捻られますよ。」
「捻る⁈」
地道に木を切り、編み込み、柵を作る。柵で丸く囲いたいのだが、ロープの締める加減が難しい。実物は動物の皮を使うらしいが、そんな物は無く、調達もウツキにはできない。
かれこれ、同じ作業を3日ほど続けた。
柵ができれば、そこに目地材とやらを塗っていく。どうやら、セメントやモルタルのような物のことらしい。
たまに、カタカナなどが伝わらないため、元の世界の物を伝える事に苦戦する。
「ウニ」と呼ばれるパーツを作る。中心に支柱を建て、その支柱と柵をつなぐパーツの事だ。本当は、天窓の窓枠となるパーツも必要らしいのだが、ガラスなんて取り付けるのには、専門的な技術が必要だろう。
「サリユの先端みたいな形ですね。」
「なにそれ、異世界カルチャーショックッ!!」
「かるちゃ…?」
とにかく、21本の木材の棒を組み、ロープで固定して、ウニを作る。特殊な枠組みのドアも付けてあげれば、骨組みは完成だ。
「ブルーシートとかあるか?」
『ブルーシート』という聞き馴染みのない単語に首を傾げるルナティア。
ここは異世界だと言うことを思い出す。魔物は出なければ、話の通じる美少女と工作。数日で、ルナティアの怪力には慣れてしまっていた。
「いや、気にしないでくれ。耐水性のある布が欲しいんだ。」
「耐水性…たしか東に、とても発展している国があります。その国の『水蚕』から取れる絹から作った布なら、最近出回るようになりました。どれぐらい残っているか見てきます。」
ルナティアが走って屋敷まで見に行く。しかし、遠くまで走り、こちらを振り返る。
「あんまり遠くまで行かないでくださいね!」
「俺はガキかよッ!」
それだけ叫び伝えて、再び屋敷へと走っていった。
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ウツキは1人歩いていた。木々の音に耳を傾けながら、新鮮な空気を吸う。日本では引きこもっていてできなかった『自然を楽しむ』をする。
何処まで広がっているかもわからない森にたった1人。孤独感というよりも、誰からも縛られていない開放感がある。
そう感じるほどに広く豊かな森よりも、空はさらに広がっている。木々の中から差し込む光。木の影によってさらに魅力的に見えた。
一際明るい場所がある。そこには大樹があった。それは御神木の様な、圧倒される様な。
ウツキは引き寄せられるかの様に、その木に近づいて行く。まるでそれが自然の摂理の様に。足が無意識に動き、ウツキと大樹を近づけていく。
手を伸ばし、指で触れ
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「やぁ、少年。歓迎するよ、ツクモウツキ君。」
そこには、黒い髪を靡かせ、吸い込まれる様な漆黒の瞳でこちらを見つめる12歳ほどの身長の少女がいた。
周りは森の中とは打って変わって、建物の一室のような場所になっている。机を挟んで、その少女は微笑みかけている。
背筋が凍る様な悪寒。見た目とは裏腹に、達観している様な態度。黒髪、黒い目。噂に聞く、嫌悪感の対象。なによりも
「なんで…俺の名前を、知ってるんだよ。」
「君のことはよく知っている、ツクモウツキ。僕の名前は…君とこの世界の尺度に合わせれば、セレーネ・クロノス。そう名乗っておくよ。」
くどい言い回し。何もかも見透かす様な態度。とても
「気味が悪い…そんな顔をしているね。ただ僕は君の役に立ちたいだけなのに。」
何処までが本心なのだかわからない。この世界の事もわからない。するべき事もわからない。こんな時に問題が増えてしまった。
「…道を与えようじゃないか。目標があった方が君も少し楽になるんじゃないかい?僕は、不本意ではあるが太陽の民。放置しておけば、世界を滅ぼすかもしれない。僕を殺してくれないかい?君の手で。」
理解できない。何故あったばかりの少女に、殺してくれと頼まれなくてはいけないのか。不本意とは何故なのか。世界を滅ぼすのは何故なのか。ウツキには何も理解できない。
「道は与えた。進むかどうかは君次第だよ。」
「…君は」
「セレーネ」
呼び名を訂正される。何故こだわるのか。
「…セレーネは俺をどうしたいんだ。」
セレーネは驚いたような表情を見せる。ここにきて初めて、どんな感情なのかがわかる仕草を見た。
「僕は君の事が好きだ。これは恋愛感情としてなのか、興味を引くという意味なのかは、僕自身もわからない。だから、僕を頼って欲しい。」
わからない。何故セレーネがウツキのことが好きなのか。真剣な眼差しでこちらを見つめる彼女。太陽の民とやらだからといって、彼女の気持ちを蔑ろにしたくはない。しかし、恋愛経験もなければ、良いところも無いウツキにはどうすれば良いのかわからなかった。
「何かに困った時、どうしようもなくなった時に手を差し伸べてあげられる。それが僕さ。さて、君はもう行かなくてはならないんじゃないかい?」
「…ルナティアが待ってるかもしれない。」
「モテる男の子は、大変だね」
セレーネが指を弾くと、視界が歪み始めた。
気づくと、大樹の前に立っていた。
「なんだったんだ…今のは?」
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急いで作業していたところへと戻る。
「あ、ウツキ殿!何処に行っていたんですか?」
「いや、ちょっと散歩してて」
ルナティアは少し怒っているようで、頬を膨らませている。先ほどのことをルナティアに話せば、単身で乗り込んでいくだろう。それだけは避けたい。
「はい、水を弾く素材の布です。屋敷にあった分、全て持ってきました。」
人の胴体ほどある、巻かれた布を渡されるが、勿論のことウツキには重すぎて持てない。
引きこもりのウツキには屋根に登ることすらできないので、ルナティアに骨組みの上から布を被せてもらう。
「よい、しょっ!!!」
ルナティアが被せた布をロープで縛り、二重になったドアの枠に固定すれば
「『ゲル』の完成だーー!!!」
『ゲル』、遊牧民が移動しながら生活をしていたため、持ち運びやすく作られた物。慣れている人なら1時間もかからずに設置ができるらしい。
といっても、持ち運ぶ予定はないので目地材でガチガチに固定したため、強度はあるはずだ。
歴史の授業で聞いた知識が、ウツキにしては珍しく利用できた瞬間であった。
はい。短いです。
現在投稿日の0:48分。やばい!
イベントとか、諸々ありましてね…
しかし、駆け出しなので、ここで定期投稿を止めることはできないのです…
質と量を両立できるようにならなきゃ…