1章 6話:6番の少女
私は落ちこぼれだった。一人前になろうとみんなの真似をしていた。けれど、私の周りは優秀な子が多くて、一人前じゃ足りなかった。
そんな時だった。先生が来たのは。
先生はみんなに優しく、丁寧に教えてくれた。でも私には、その人がいい人には見えなかった。毎日、学舎の裏に通う先生が私には歪に見えたのだ。
「誰かに相談してみようかな」
私は仲の良い子に、先生が危ない人なのではないかと相談した。
「6番ちゃんさぁ…そんな訳なくない?あの先生だよ?まじ疑いすぎでしょ。失礼じゃんか」
「ご、ごめんね…やっぱり、私の考えすぎだよね」
話した子の中には、先生が好きな子もいた。好きな人が疑われて嫌がるのは、当然だろう。
「6番、ちょっと来なさい」
その中の1人について行くと、外の人気のないところに着いた。
「あなたが嘘をつくとは思えない。私は6番を信じてるから。着いて行って、勘付かれてない?」
「7番ちゃん…うん。たぶん…私、魔力ないから。」
そう、私には魔力が無かった。周りのみんなはいっぱい魔力があるらしい。魔力が無い私には、魔力を感じ取ることすらできなかった。
「嫌ッ、やめてっ!せんせぇ!」
私たちがいた所の壁の中から悲鳴が聞こえた。
そして私たちは好奇心で、窓から中を見てしまった。
そこには、声の主であろう、校内で見かけたことのある生徒がいた。しかしその生徒の踵には後ろの指があり、つま先の指には三本の巨大な足。その生徒の足は、巨大な鳥の足となっていた。
思わず声が出そうになる。7番ちゃんが私の口を塞いだ———塞いでくれた。
「一旦戻ろう。あの先生に気づかれたら…」
何をされるかわからない。言わなくてもわかる。だから私は無言で7番ちゃんに着いて行った。
□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇
「どうしよう7番ちゃん…」
私は優柔不断で、彼女の助けがないと何もできなかった。
「6番、私、先生の事が好き。」
あんな叫び声を聞いて、あんなところを見て、7番は好きだと言った。
「きっと、魔力のない6番だけが気づけた。何か魔法…呪いがかかってる。」
「でも魔力が無いと、魔法が効かないのはなんでっ」
「魔法学基礎。魔法の対象を少しでも減らし、魔力の節約をする。今回はおそらく、この学舎の魔力を持つ者。魔力が無い子がどうにかできるとは、思わなかったんでしょうね。」
知らなかった。魔力が無いから、魔法学の先生に授業を受けさせてもらえなかった。正直に話すと7番ちゃんは怒ってくれた。
「こんなクソみたいな所、さっさと出るわよ。寮の荷物をまとめて」
「でも、他の子はっ…」
7番ちゃんは、私を信じなかった奴らを助ける義理はないと言って、荷造りを始めた。しかし、その顔はどこか寂しそうで、苦しそうだった。
「明日の7時に出るわよ。」
「う、うん。」
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主に私たちは夜に活動する、いわゆる夜行性だ。7番ちゃんは、生徒に合わせて授業をする先生も日中は寝ていると考えたのだろう。
外は明るく、目が眩む。太陽の光は辺りを照らし、夜とは違う景色が広がる。私たちは仲間に後ろめたさを覚えつつも、自由の一歩を踏み出した。
その時だった。悲鳴を轟音がかき消したのは。
「…ぁ」
「なに…これ…」
寮の方に、先生がいた。先生の下半身は蜘蛛のような足が生えている。再び轟音が鳴る。太く、黒い腕が生えた。そのままの勢いで、鋭い爪が寮にめり込み、少し崩れる。
「6番っ!こっちに来て!」
7番ちゃんに手を引かれ、走った。しかし、私はまだ寮が気がかりで、振り返った。
うしろからは、友人だった434番ちゃんが走って来ていた。434番ちゃんが手を伸ばす。それに応えるように手を伸ばそうとした。
434番ちゃんは先生—異形に捕まった。
低木の後ろにしゃがみ、身を潜める。
「7番ちゃん…今、434番ちゃんがっ」
繋いだままの手は、私も7番ちゃんも震えていた。低木の葉の隙間から、連れ去られる434番ちゃんを見ることしかできなかった。
胴を掴まれ、手足をジタバタさせながらもがく友達。内臓が潰れたのか血を吐きながらも、目線はこちらへと向いていた。
「あいつも…離れていったし、行くわよ。」
「434番ちゃんを見捨てるの?」なんて、感情的にはなれない。なる気分も削がれ、なによりも7番ちゃんの声が震えていたから。
だから、言えなかった。「死にたくない、助けてって言ってるように見えた」なんて。
私達は、ここではないどこかを目指し、遠くへと走り出した。
いつか、助けに行く。既に、誰もいなくなっていても。
待ってくれよ。5000文字から前回3000文字。ついに2000文字じゃないですか。どうする…2連続投稿するか…?
でも今回余裕がない…
2連続投稿にします!!前回と2話投下だ!!
てか、今気づいたけど6話が6番ちゃんメインの話ですね。