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望月と少年の非日常譚  作者: 義春みちを
3章 鍛冶屋を求めて。
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3章 1話:黒い世界。黒い者。

あれから5日が経った。ルナティアの疲労も少しは回復している。

今日は鍛冶屋に会いに行く予定の日だ。馬車が手配されているとのことで、前回とは違い徒歩では無い所は救いである。


「ルナティア、本当に荷物はこれだけで良いのか?」


「ええ。今回はお嬢様がいるという訳ではありませんし。必要最低限の荷物で済ませましょう。」


鞄の中には、魔除けのノマケヨモ草の芳香薬、備蓄用の食事、通貨、着替えとタオル、歯ブラシのみである。


「湯浴みは向こうでもできるでしょうし、

最悪石鹸が無くとも、浴巾があればどうとでもなりますから。それと、浴巾と浴布は別にしておくので安心してください。」


それぞれが小さな巾着を持ち、外へ出る。晴れているが、風が心地良く、過ごしやすい気温である。


「こんなに涼しい事あるか?」


「こんなものよ。」


思えば、元いた世界は技術が発展していた。ここは、それほど発展している訳でも無い為涼しいのだろう。


いつも通り、カルデラを満たす水に浮いた石の上を跳んで渡る。水面がキラキラと光り、心を落ち着かせる。

カルデラを抜けた先の森。その木々の葉が擦れる音もまた、心落ち着く。


低木がガサガサと音を立てて揺れる。メイド2人は少し身構えている。

しかし、姿を見せたのはもふもふの毛玉だった。


「犬神様じゃん…!」


「えっ…?犬神様って、あの?噂ではもっと巨大な狼のような見た目をしているって…」


今、ウツキの腕の中にいるのは長毛種の小型犬のケルベロスである。


「姿を変える事ができる…とか聞いた事があるわ。別の姿をした犬神様を見かけた話を、姉様は聞いたんじゃないかしら。」


「はえー…そんな事ができるのか」


犬神の頭を撫でる。すると、猫のように喉をゴロゴロと鳴らした。犬のようで、犬とはまた別の生き物なのかもしれない。


「…ウツキ殿、そろそろ行かなければ、着いた頃には夜になってしまいます。」


「おっといけねぇ。犬神様、また今度な?」


犬神を地面に下ろす。「わん」と、一言鳴いた後その場を去っていった。


「凄いですね…犬神様に無礼な口を聞きつつ、なかなか親しげに交流するなんて…!」


「褒められてるのか貶されてるのかどっちよそれ…」


驚き固まっていたルナティアは、今の状況を思い出し、歩き始める。


しばらく歩くと、開けた所———レームルの街に出た。そこには馬車が停められており


「馬車…か?」


それを引くのは図体の大きい2匹の狼であった。その狼の見た目に、ウツキは見覚えがあった。


「ここら辺に住んでいるのと同じ…?」


「昔、タルカーニャの森に飼えなくなった狼達が捨てられたんです。」


「裕福な時代から、貧困の時代に大暴落した事があったのよ。貴族達が、移動用に飼っていた狼達が大量に捨てられた所為で、人間嫌いの狼の群れが出来上がりという訳。」


ウツキにとっては、恨みこそ無いものの負の記憶として刻まれていた狼。しかし、無数の狼が居たのには理由があった。しかも、あまり良い理由とは言えないものだった。


「その狼達は子供の頃に拾われ、馬車を引く狼として使われているのよ。だから、人間に恨みも無いし友好的。」


森の狼について聞いた後の為、少し可哀想と思ったが、それで生計を立てている人もいる。

強い意志と財産が無ければ何も変える事は出来ない。そう思い知らされる。


何も出来ないながら、ウツキは狼の頭を撫でた。

狼達は、尻尾を左右に揺らし、頭をぐりぐりと押し付けてきた。


「そろそろ行きましょう。流石にもう出ないと、本当に夜になってしまいます。」


ルナティアは少し焦りつつ、ウツキを急かした。

3人は馬車に乗り込んだ。ルナティアとソルティアは手綱を握り、ウツキだけは何もせず「座っている。

確かに、手綱というものはお互いの意思疎通のために必要なものであり、素人が触っていいものでは無い。


「だとしても…申し訳無さがな…」


「ウツキ殿は寝てて大丈夫ですよ。英気を養ってください」


「いや、俺も男なんですけど。女の子に全任せというのは気乗りしないんですけど…」


プライドとソルティアのウツキへの評価が、どんどん削れていっている気がする。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


窓の外の景色が移ろい、いくつもの街を通り過ぎ、平野を駆け、1つの小さな村に着いた。案の定、着いた頃には空は暗くなり、月が出ていた。

木造の家が多く、今まで見てきた街よりも発展はしていなさそうである。


「着いたわよ。…未知の土地だからってうろちょろしない事ね。」


「しないよ⁈てか、そんな子供だと思われてる?」


ルナティアとソルティアは顔を見合わせて、『明らかに子供だ』と言いたげな顔で頷く。心外である。


ため息を吐きながら馬車から降りる。


どこかから、荒い呼吸音のようなものが聞こえる。ふと、音の方向を見ると熊のような生き物がこちらえと走ってきていた。

闇に溶け込む黒い体表、猪のように鋭い牙、地面に食い込む爪。4mはありそうなその巨体が、目を血走らせ、こちらへ突っ込んでくる。


即座にルナティアが状況を把握し、踏み込む。


「握りつぶs」


瞬きをした瞬間、目の前から黒い影は消えた。

少し目線を下げると、足元に敷かれた巨体。それを踏みつけにしているのは、尻尾を揺らめかせ、月と同じ色をした目を持つ少女だった。

おはこんばちゃ〜みちをです。

今回は添削をしてもらったので、内容がいつもより伝わりやすいかと思います。(きっと)

添削してくれた方の理解力がカンストしてるだけの可溶性も無きにしもあらずですが。


いやぁ…3章入っちゃいましたね。

とある事をしているんですが、それがキリ良くなればと思ってましたが無理でした。

わかりやすい事ですけど、作者から「それ」が何か言うのは面白く無いんで黙っておきます。


それではこの辺で。また来週〜

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